やったー、一日二話投稿出来たよ!褒めて!
あのファンを信じて任せる事にしてから、アイは二週間に一度宮崎まで赴き、受診を続けていた。お腹の子供に特に異変はなく、順調に成長しているという。
お腹の中で動きが活発になってきている、というのはアイの話だ。子供が動く度、幸せを感じるという。
…一度俺も、アイのお腹に触らせて貰ったが、あれだな。アイの気持ちの十分の一も共感する事は出来ないんだろうが、ちゃんとこの子達も生きているのだと。早く顔を見たいと、幸せな気持ちになれた。
それとこれは斉藤から聞いた話だが、あの医者の見解として、アイの場合は帝王切開の可能性が高いという。
赤ん坊の頭蓋骨が大きかった場合、アイの体型では骨盤の開きが足りない事が多いのだという。
そんな医者の見解に対し、アイは「私と総司の子なんだから、小顔で美人に決まってる!」と地味に遺伝的には根拠のある自信を披露していたという。
あの医者は献身的にアイのサポートを続け、誰かに情報を漏らしている様子もないらしい。
ただこれは斉藤からの報告であり、部下を使って周囲を探らせた訳ではないのが少し歯痒いが。
俺が直接動く訳にもいかないし、斉藤とあの医者を信じるしかあるまい。
そうして時は一週間、一か月、三か月とあっという間に過ぎていった。
お腹の子達には何事もなく、勿論アイの体にも異変は起こる事はなく経過していく。
俺の方でも兄貴達の動きを注視しながらの生活が続いているが、アイの存在を気取られた様子はなかった。
その間に年越しを迎え、俺とかぐやは赤木と早坂と共に京都の本邸に行ったが、当然アイは連れて行っていない。
俺とかぐやの誕生日が一月一日という事もあり、かなり不貞腐れていたが、流石に無理だと説得して何とか納得して貰えた。
年越しを迎えた瞬間、誕生日おめでとうやら愛してるやら、大量のメールが送られてきたのは御愛嬌としておこう。
それからも学校を通いながら仕事を熟し、時にかぐやからアイの様子を聞かれるという生活を続け、気付けばあっという間に時は流れ、アイの出産予定を迎えていた。
「戯けが動いてる?」
赤木からそんな報告が入ったのは、アイの出産予定日当日の事だった。
戯けというのは、俺の兄貴。四宮家次男の青龍。
女性トラブルなどスキャンダルを頻繁に御こし、その度に金で解決して遊び続けた、黄光兄貴に着く天性の腰巾着。
俺が
どうせまた気に入った女が出来たんだろうが─────このタイミングで?
ただの偶然か、それとも─────。
「如何致しますか?」
「…ここで動けば黄光の兄貴に違和感を持たれる。だが、探りは入れ続けろ」
「承知致しました」
気にはなるが、ここで確かめる為に大きく動けば、向こうに
引っ掛かりはする。
だが、ここでリスクを承知で動き、実際はいつもの女漁りだった場合悔もうにも悔やみきれない。
そんな事でアイの存在がバレれば、これまでの苦労が全て水の泡。
俺は、踏み込む勇気が持てなかった。
「──────」
そんな時、俺のケータイの着信音が鳴り響く。
嫌な予感がした。
「もしもしっ、どうした!」
『うおっ!?』
スピーカーから、斉藤の間抜けな大声がする。
『ど、どうしたはこっちの台詞ですよ。そんな大声出して』
「…」
嫌な予感がした。
…さっきとはまた別の意味で、嫌な予感がした。
もしかして俺は今、早合点した、のか?
『まあ、気持ちは分かりますが。予定は今日ですもんね』
「は?」
『は?って。アイの心配をしていたんじゃないんですか?予定日は今日だから』
斉藤の言う通り、アイの心配は確かにしていた。ついでに、斉藤からの通話だと気付いた時には一応こいつの心配もした。
それらの心配は杞憂─────一部そうではないらしいが、とにかく俺が懸念した事が起こった訳ではないらしい。
「産気づいたか?」
『はい。なので一応報告をと思いまして』
「そうか。…俺の代わりにアイの傍に居てやってくれ。産まれたら─────また報告を頼む」
『分かりました』
斉藤との通話はそこで切り、画面を閉じて大きく息を吐く。
「産まれるのですか」
「そうらしい。…いよいよ、俺も父親か」
赤木と言葉を交わしながら、ベッドに腰掛け天井を仰ぐ。
父親、か。
アイと話し合い、結論を出したあの日から覚悟はしていたつもりだったが、出産予定日が近付く程に大きくなるアイのお腹を見て実感が湧いてきて、そして今日。或いは明日か、俺は父親となる。
「あぁ…。かぐやには言うなよ。ポンコツになられたら困る」
「かしこまりました」
かぐやには申し訳ないが、この事をあいつに伝えるつもりはない。
伝えれば多分、産まれたって教えるまであたふたあたふたして使い物にならなくなりそうだからだ。
アイが妊娠したかもしれないと知っただけで早坂、白銀、ましてや藤原に心配されるくらいになるんだから、アイが産気づいたなんて知ればどうなるか。
…恐らく、アホになる。
「…」
なんて他人の事を考えている俺が今、一番緊張しているのだが。
手汗なんてかいて、どうして俺は今こんな所にいるしかないんだ、なんてどうしようもない悔恨を抱いたりして。
アイは今頃、気を失いそうになるくらいの痛みと戦って、命を生み出そうとしているというのに。
俺は──────
「お言葉ですが、総司様。たとえ総司様がアイ様の傍に居ようとも、何も出来ない事は変わりありませんよ」
「赤木」
「こういう時、男は無力なのです。結局、どこに居ても待つ事しか出来ません」
微かな苛立ちを感じたその直後、涼やかな赤木の言葉が俺の全身に染み渡る。
男は無力─────か。
この四宮家で、そんな言葉が聞く事になろうとは、思いもしなかった。
「良い事を言うじゃないか」
「いえ。出過ぎた事を申しました」
「いや、お陰で落ち着いたよ。助かった」
事情が事情とはいえ、父親になる男が、こんな時に母親になる女の傍にいられないというジレンマに食い潰されそうになっていた。
しかし、アイにしか出来ない事があるように、俺にだって俺にしか出来ない事がある。
今はそれでいいのだと、赤木のお陰で思い直す事が出来た。
「…今日は寝ないで待つかぁ」
明日は普通に学校があるし、仕事だってあるが、今日は寝ないで斉藤からの続報を待つ事にする。
その末に明日どうなるかなんて分かり切っているが─────せめてそれくらいは、というより、俺自身がこのままじゃ寝られそうにない。
そんな事を考えながら、俺は呑気に双子の誕生を待っていた。
その裏で、誰にも知られず、アイに魔の手が近付きつつある事なんて露ほども思わずに─────
「せんせ、お疲れ様。でも、呼んだらすぐ来てよ?」
「おう。家はすぐ近くだしな。まあ、仮に来れなくても代わりの先生が来てくれる」
「やだ。せんせが良い」
頬を膨らませながらぶんぶんと頭を振るアイの姿に苦笑を浮かべながら、僕はアイの病室を出る。
アイがこの病院を初めて訪れてから五か月。あっという間に時は流れ、遂にアイの出産予定日が来た。
アイが所属する事務所の社長はすでに宮崎に来ていて、アイの傍に居られる様に待機している。
仕事の方は部下と経営責任者の人に任せたと言っていた。
ただ、アイのお相手であるあの総司とかいうガキは来なかった。
その事にアイと社長さんに尋ねると、あいつにはここに来られない事情があると声を揃えて言っていた。
あまり詳しい話は聞けなかったが、とりあえず学生の身でありながら何らかの仕事を熟しているというらしい。
…あの偉そうな態度からして只者ではなさそうとは思っていたが、マジであのガキ一体何者だ。
アイとは同年代というが、人を見下したあの態度とあの雰囲気。どんな生き方をすればあんな風に育つんだか…。
親の顔を見てみたいものだ。
「あなた、星野アイの担当医ね」
「──────」
裏口から病院を出て、帰路に着いたその時だった。
少ない街灯に照らされながら不意に現れた、フードを被った、声からして恐らく女。
そいつから、
「…彼女が受診する際は偽名を使っているんだがな」
アイが受診をする際は偽名を使っている。これは、僕以外の病院関係者や患者から彼女の存在を隠すためだ。
アイやあの社長さんにも言っていないが、僕は病院でアイの布教活動を行っている。故に、アイの名前を知っている人は少なからずいる。
そして何より、アイの本名は
「病院で見かけたにしても、公表されていない彼女の苗字をどうして知っている?」
そう、今、この女はアイを
それは本来、あり得ない事なのだ。何しろ、公表されていないのだから。
「っ、待て!」
アイの関係者なのか?こいつの名前は?
頭に浮かぶ疑問をぶつけようとした瞬間、女は突然踵を返して駆け出した。
前触れもなく移された逃走に、反応が遅れつつ僕も慌てて走り出す。
─────もしかしてストーカーか?出産も控えたこのタイミングで…!
胸の奥から滲み出す焦燥。
アイはもういつ陣痛が始まっても可笑しくない状態だ。そんな中、彼女に余計な心労を掛けたくはなかった。
だから僕は一人で追い掛けた。
その決断が、どんな結果を招くか知る由もないまま─────
「くそっ…、どこ行った?」
女を追い掛けている内に山道へ入り込み、立ち止まる。
あの女、いくら僕が運動不足とはいえ追いかけっこで男を振り切るなんて、結構体力あるぞ…。
周囲を見回すが、辺りは真っ暗で何も見えない。当然、人の姿なんて見えやしない。
田舎故に少ない街灯も、当然山の中に入ればある筈もない。
引き返すべきだろうか?
当然、山の中には野生の動物がいる。長居はすべきではない。
しかし、あの女をここで逃せばアイに対して何をするか分からない。
「…もう少し探してみ─────」
やっぱり、もう少し探してみよう。
そう決め、歩き出そうとした直後だった。
背後から足音が聞こえ、振り返る。
さっきの女─────
さっきの女と同じようにフードを被ってはいるが、
あの肩幅の広さは、恐らく
─────何が起きて…っ!?
全身を包む浮遊感。
直後、背中から感じる強烈な衝撃と、間髪おかず続けざまに僕の全身に痛みが奔る。
「っ、ぁっ…!?」
何が起きてるのか、さっぱり分からない。
思考は尚も続けざまに襲う痛みに定まらず、それどころか痛みによって僕の意識が黒く塗り潰されていって─────
─────ぴりりりりりりり
「ぁ─────?」
どうやら僕は、それから眠っていたらしい。
近くで鳴っているケータイの着信音で、僕は意識を取り戻した。
だけど、どうも意識がハッキリとしない。というより、全身の感覚がない。
目を開けてるつもりなんだけど─────暗くて何も見えない。
音がする方に手を伸ばそうとしても、体が動かない。
─────もしかして、アイが産気づいたか?
だとしたら、早く電話に出なければ。
アイと、約束をしたんだ。元気な子供を産ませてやるって。
その子供が、あのいけ好かないガキとの間に出来たっていうのが気に入らないけど…それでも、アイの幸せの為なら、やり遂げてみせるって決めたんだ。
だから…はやく、いかなきゃ…。
あのこの、ところ、に─────
「ァ、ィ………──────」
結局殺されるゴロー先生。
い、一体誰がやったというんだ?