天才と星の子   作:もう何も辛くない

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パパと双子の初対面。

なお───────


天才と双子

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 斉藤からアイが産気づいたと連絡が来てから約十二時間。

 眠りもせず、時に部屋中を歩き回り、時にベッドの上で転がり、時に仕事をしようとして結局集中出来ず、立ち上がってまた部屋中を歩き回るというサイクルを繰り返している内に、カーテンの隙間から日差しが入り込むようになった頃。

 

 再び斉藤から連絡が入り、無事に産まれたという報告を受けた俺は一気に張り詰めていた気が緩み、電話と切った直後にバッテリーが切れたかの如くベッドに倒れ込み、一瞬にして眠りに着いた。

 

 徹夜なんて今までそれなりにしてきたというのに、気を張り過ぎていたのか、俺が意識しない内に疲労が溜まっていたらしい。

 

 結局、その日は事情を悟ったかぐやが気を利かせ、俺をそのまま寝かせてくれた。

 学校への連絡はかぐやの方でしてくれたというのは、昼前に目を覚まして血の気が引いた俺に赤木が教えてくれた。

 

 まあ学校の方はかぐやのお陰で問題なかったが、どんな事情があろうとも今日やる仕事の予定は何の変わりもなく、俺はそのままキーボードを叩く作業へと移ったのだが。

 

 出産は自然分娩でいけたらしく、アイも双子の健康状態も問題なく、早ければ五日で退院出来るという。

 退院後はそのまま東京へ戻り、しばらくは斉藤夫妻と共にアイ達は暮らす事となる。

 出産後は、疲労しているであろう身体を休める期間を設けてから、すぐにアイには復帰してもらう事となる。

 

 親父に定められていた四年という期間。俺が成人を迎えるまで、時間があるようでない微妙な期間。

 アイには死に物狂いで頑張って貰わなければならない。当然俺もサポートをするし、斉藤も協力の手を惜しまない姿勢だ。

 ただそうなると、気がかりなのは子供の存在。アイが仕事に出ている間、誰が双子の世話をするのか。

 

 当然、俺は除外。俺の周りの関係者も論外。

 そこで、斉藤の妻であるミヤコさんが世話を買って出てくれた。

 

 初め、斉藤が頼んだ時は渋っていたのだが、俺が頭を下げたら「頑張ります」と何の心境の変化なのか、引き受けてくれたのだ。

 …引っ掛かりはするが、とりあえず本人はやる気だったみたいだし、それ以外に良い方法もないし、任せる事とした。

 

 これらは予め決めていた事で、アイは『やだぁー!総司と一緒に暮らしたいぃ~!」と駄々をこねていたが、週に一度は会いに行く事。一緒に暮らすのは、親父にちゃんと許可を貰い、正式に家族となってからの楽しみにとっておこう、と懸命に説得した結果、渋々だが納得してくれた。

 

 そうして、アイは予定通りに五日で退院する事ができ、東京へ戻って来た。

 俺もアイと子供達の顔が見たかったし、一旦仕事を中断し、アイの元へと向かった。

 

「アゥゥゥゥゥウウウウウ…!」

 

「イィィィィイイイイイイイ!」

 

「…」

 

 何か、すっごく威嚇されている。

 

「どうしたの、愛久愛海(あくあまりん)ー?瑠美衣(るびい)ー?」

 

「…」

 

 そんで、子供がすげぇ名前になった。

 因みに、もうこの名前で出生届を提出しているという。

 

 まだ愛久愛海と瑠美衣の出生から一週間。出生届の提出期限まで、まだ一週間あった。

 二人の名前は東京に戻ってきてから、俺とアイでゆっくり考えようという話だった筈なのだが──────

 

『お義父さんがね、病院に来たのー。私が考えてた二人の名前を凄く褒めてくれて、それで出生届も出してくれるってー』

 

 なんとそこに乱入してきたのが、我らが親父だった。

 

 本当は斉藤が、俺達の代わりに役所へ出生届を出しに行く予定だったのだが、突然宮崎の病院に親父が現れたという。

 

 親父の事だから、兄貴達にバレないようにしているのだろうが、とにかく仕事のついでに寄ってみたという親父は、子供の名前についてどうするのか、アイに問い掛けたという。

 するとアイは、これから俺と二人で考えていくという返答を返した後、自分なりに候補は考えていると答えた。

 親父はその候補について再び尋ね、アイは愛久愛海、瑠美衣と答え、結果─────

 

『兄貴は人からたくさん愛を受けて育ちそうだし、妹は美しく育ちそうだし、良い名前じゃねぇかって笑ってたよー』

 

 それを聞いた俺は、()()()()ではなく、()()()()の間違いじゃないのかと直感した。

 

 多分、これは親父からの仕返しだ。

 俺が子供を作ったせいで親父はいらない苦労を掛けられる事となり、何より一瞬とはいえアイに魅せられたのはかなり悔しかったと思われる。

 

 小さい男だ。こんな奴が四宮の当主とは、先が思いやられる。

 

 だが、俺が親父を他の何よりも許せないのは──────

 

『アクアとルビーを抱いてくれたよ。あんまり表情変わらなかったけど、多分あれは喜んでたね、きっと』

 

 俺よりも先に子供を抱きやがった事だ、あの糞親父。

 

 アイからそれらの事を知らされてすぐ、俺は親父に電話を掛けた。

 俺から電話が来るのは織り込み済みだったらしく、その時に空き時間を作っていた親父はすぐに出た。

 

『別にいいだろ、面白ぇ名前じゃねぇか』

 

 というのは、子供達の名前についての話。

 

『お前ぇが悪ぃだろ、それは。自分(てめぇ)の要領の悪さを恨みな』

 

 というのが、俺よりも先に子供達を抱きやがった事についての話。

 

 前者はともかく、後者はぐうの音も出なかった。

 

 とにかく、すでに親父によって、()()()()()()()()()()()の戸籍は秘密裏に作られていた。

 しばらくはアイの姓を借りて()()()()()()()()()()()と名乗る事となるが、正真正銘、二人は四宮の子として現段階では認められている。

 二人の存在を知る者は、ほんの一握りではあるが。

 

『アイドル娘が東京に戻ってから、精々たくさん子供を抱かせて貰うんだな』

 

 ついでにいうと、親父と電話を切る直前、奴はこんな捨て台詞を残していった。

 

 言われなくともそのつもりだ。

 親父が二人を抱いた時間を塗り潰してやる。

 

 そう意気込んで、俺は子供達に会いに来たのだが─────

 

「「ガルルルルルルルルルル…!」」

 

「…」

 

 何でだよ。

 

 怖がられるかもしれないとは思ったが、この反応は全く予想していなかった。

 可笑しいだろ、何で赤ん坊が威嚇なんてするんだ?

 

「ハムハムハムハムハム…」

 

「ふ、服が…」

 

 アイに勧められ、まずはルビーを抱こうとするも、俺の腕に噛みつく始末。

 

 …まだ歯が生えてないから全く痛くないが、服が涎塗れになった。

 替えの服とか持ってきてないんだが、どうしよう。

 

 そんでアイ、お前は笑ってないで俺を助けろ。

 父親が子供から烈火の如く嫌われてるんだぞ?流石の俺でも傷ついてるんだが?

 

「可笑しいなー。佐藤社長もマヤコさんも、お義父さんに抱かれた時も素直だったのに」

 

「─────」

 

「斉藤だ。ミヤコだ。後アイ、最後の一人は総司さんに相当ダメージいったと思うぞ」

 

 泣きたい。

 

 斉藤は我慢出来た。ミヤコさんも我慢出来た。

 親父は駄目だった。俺の中にいるアホの方の俺が号泣していた。

 

 何故だ。あんな怪物に素直に抱かれて、何故俺にはこの反応なんだ?俺が一体何をしたっていうんだ…?

 

「…そうだ、アイ。雨宮先生の事だが─────」

 

 俺は話題を逸らした。

 父親失格かもしれないが、これ以上現実と向き合うのを俺の心が拒否した。

 とりあえず、少し時間を置いてからでないと駄目だという警告を、これ以上は精神に異常を来すと心の裁判官が発していた。

 

 だから、俺はアイが気にしていた、今現在()()()()となっているアイの担当医の名前を口にした。

 

「─────」

 

 その時、()()()()()()()()()()()()()()()()のを視界の端で捉えた。

 

「病院側に言って、宮崎県警の方に捜索願は出してもらった。…ただ、事件性がないからな。すぐに捜索開始、とはならないだろうな」

 

「…そっか。せんせ、どこ行ったんだろ。電話したらすぐに来てくれるって約束したのに」

 

 まだ、雨宮先生が姿を見せなくなってから一週間というのも大きい。

 捜索願を出した以上、行方不明者として警察のデータベースに登録された為、何もしないよりはマシだとは思うが─────アイの担当医が行方不明、か…。

 

「…俺の方でも秘密裏に調べてはみる。少し、気になる事もあるしな」

 

「せんせの行方に心当たりがあるの?」

 

「そうじゃない。そうじゃないが…、すまん。確証が持てるまで言わない、で、いいか?」

 

「…本当、うちの旦那の秘密主義には困ったものだねぇ。でも、それでも信じるのが妻の役目ってものだし、許してしんぜよう」

 

「助かる」

 

 こういう時、引き下がってくれるアイには本当に助かる。

 アイの性格上─────いや、誰だって心のどこかで納得しきれない部分は生まれるんだろうが、それでも引き下がってくれるアイには感謝しかない。

 

「許してあげるからさ、総司。…今日は、ここに居て欲しいな」

 

「…アイ」

 

「泊まって、なんて言わないからさ。せめて、夜ご飯は一緒に食べたいなー、なんて」

 

 アイは、まだ俺には残ってる仕事があるって分かっている。

 だからこそ、弱々しい笑みを浮かべて、一緒に居て欲しいとしか言えない。

 いつものように、輝く様な笑顔で強制的な言葉を使わず、それでも──────

 

「二週間も総司に会えなかったからさ。だから─────」

 

 一緒に居たいと言うアイに、愛おしさが止まらない。

 

 まだアイが何かを言おうとしていたが、我慢出来ず俺はアイの肩を抱いていた。

 

「いいよ。今日はここに居る」

 

「…いいの?仕事は大丈夫なの?」

 

「いいって。ある程度は部下に任せて、俺にしか出来ないものは明日に回す。…ま、明日の俺が頑張ってくれるさ」

 

「…そっか。なら、頑張れ。明日の総司!」

 

 目と鼻の先にアイの顔がある。

 

 そういえば、こうしてアイと寄り添うのも久しぶりなんだよな。

 アイに会えなかった二週間よりも、もっと長い。こんな風に体を寄せ合うのは、いつ以来だろう。

 

「「──────」」

 

 アイの瞳に吸い寄せられる。

 

 アイも恐らく同じ。

 

 どちらからともなく、俺達は顔を近づけようとして──────

 

「んぎゃああああああぁぁ!!はんぎゃああああああぁぁ!!!」

 

 俺達の間から突然響き渡った泣き声に動きを止めた。

 

 二人同時に視線を下ろせば、そこにはアイの腕の中で暴れるルビーが。

 

「どうしたの()()()?おっぱいかな?」

 

 盛大に泣き叫ぶルビーをあやしながら、授乳を試みるアイ。

 ルビーはすぐさま泣き止み、アイの胸に吸い付いた。

 

 物凄い勢いで飲んでいる。

 何というか、全身からこの胸は私のものだ、という意思が伝わってくるようだった。

 

「総司さん。一応俺もいるので、ああいうのは止めて欲しいです」

 

「すまん」

 

 ついでに、斉藤が居る事をすっかり忘れていた。

 斉藤から苦言を呈され、一言謝るしかなかったが─────その斉藤の顔が嬉しそうに笑っていたのが、

どうも印象的だった。

 

 何となく子供扱いされてるみたいで腹が立ったから、斉藤の背中を軽く拳で突いた。

 

「いった!え、なんで?」

 

「うるせぇ。自分(てめぇ)に聞いてみろ」

 

 殴られた理由が分からず戸惑う斉藤。

 その腕の中には素直に抱かれているアクアが居て、またも腹が立った俺はもう一発、斉藤の背中を殴った。

 

 再び戸惑い、ひたすら疑問符を浮かべる斉藤に、ほんの少しだけ溜飲が下がった俺は、アクアを抱いてみようと試みた。

 

「…(プイッ)」

 

「…」

 

 ルビーの様に噛みつかれはしなかったが、そっぽを向かれた。

 

 本当に何故だ。訳が分からない。

 

 何をどう考えても、子供達に嫌われる理由に思い至らず、思考が混乱する俺の視界に、アイに背中を優しく叩かれるルビーの姿が入った。

 

「ケプッ…?フッ─────」

 

 乳を飲み終えたルビーがげっぷを出した直後、俺と目が合う。

 

 何か、嘲笑われた気がした。

 

「頑張ってください、総司さん」

 

「…」

 

 この上なく同情が籠もった声と共に、斉藤に肩を叩かれた。

 

 俺は三度斉藤の背中を殴る。

 

 くそっ、せめて今日中に一度は─────一度はアクアとルビーを抱いてやる…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果は、ご想像にお任せする。

 

 とりあえず、家へ帰る足取りはこの上なく重かった事だけは伝えておくとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




総司パパ嫌われるの巻

仕方ないね、二人からすれば仇敵にも等しい男だし。
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