天才と星の子   作:もう何も辛くない

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アクアがめちゃんこ叩かれてて悲しい。
原作読む限り、生後一週間はまだアクアが現実を受け入れる前だろうし、総司のこれまでの人生だって知る由もないんだし許したげて。

なお、今回のお話はそんなアクアが総司について色々と考えるお話と、─────。


藍玉と四宮

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『もし、芸能人の子供に生まれていたらと考えた事はある?』

 

 昔、担当していた患者にそう問われた事がある。

 

『容姿やコネクションを、産まれていた時から持ち合わせていたら』

 

 僕は真面目に考えた事はなかった。

 

 だって、そうだろう?

 転生なんて非科学的なもの、起こり得る筈がない。

 そう思うのが人として、自然の事なんだから。

 

 まして、それが()()()()()()だなんて、思う筈がないだろう?

 

 死んだと思って、気付いた時には前世の自分が盛大に推していたアイドルの子供になっていた、なんて、想像すらしないだろう?

 

 両手を見れば、皴一つない小さなぷにぷにとした柔らかそうな手。

 視線を下ろせばムチッ、としたこちらも柔らかそうな足。

 そして鏡で自分の姿を見れば、綺麗な()()()と碧色の瞳。

 小さく整った顔立ちは、正に両親譲りといっていい。

 

 一度人生を体験したからこそ分かる。

 この見た目に産まれた今生の僕は、この時点で勝ち組といっても過言ではない。

 

 なお─────名前は愛久愛海(あくあまりん)である。

 

 全て夢物語に等しい話。

 しかし、これは現実。現実なのだ。

 腕を抓れば痛いし、頭を床に叩きつければこれもまた痛いし、夢ではなく現実として受け入れるしかない。

 

 ─────正直、申し訳なくは思っている。アイにも、あの総司という少年にも。

 本当は、アイにはもっと普通の子供を産ませてやりたかった。だがこれは不可抗力で、超常現象には敵いやしない。

 それにあの総司…には、他に申し訳なく思っていたりする。

 

 僕が初めて父親─────総司と対面した時、ついつい僕は彼に八つ当たりをしてしまった。

 

 だって─────愛久愛海だぞ?あくあまりんだぞ?

 片割れが瑠美衣というダメージの少ない名前をしているからこそ、思ってしまう。

 

 もっと何とかならなかったのか、お父様よ!?

 分かる、分かるんだよ!この名前をあいつがつけた訳じゃない事くらい!明らかな常識人だったからな!

 だけど…だけども!…愛久愛海は止めて欲しかったぁ。

 この怒りが理不尽だと分かってはいても、こればっかりはどうしても止められなかった。

 

 ルビーはルビーで強烈に総司を拒絶しているし、僕も僕で湧き上がる複雑な感情を抑え切れず拒絶してしまい、対面初日、とぼとぼと去っていく彼の背中を見て、流石に心が痛んだ。

 

 え?推しの子が恋愛していた相手に対する怒りはないのか?

 …まあ、無くはなかったさ。だけど、ねぇ。幸せそうに見つめ合うあの二人の姿を見てたら、逆に微笑ましさが勝ったね。

 それはそれとして、名前の方だけは未だ割り切れてはないけど。

 

 せめて─────現在あだ名として呼ばれている、アクアだったなら…。

 例え漢字が()()()だったとしても、そっちの方が万倍良かったよ…。

 アイが付けてくれた名前をこき下ろしたくなんてないけど…、これからその名を名乗っていく身としては、正直嫌だ…、絶対に小中学校に入ったら名前の事でからかわれると思うと頭ではわかっていても総司に本当に申し訳ないが鬱憤をぶつけざるを得なかった。

 

 因みに、総司は初対面の日に言っていた通り、あれから週に一度は必ずこの家を訪れている。

 その度にアイとイチャイチャしてるし、総司と一緒に居るアイはとても幸せそうで、こっちも幸せな気持ちになれる。

 

 それと…まあ、あれだ。

 名前の件のわだかまりに加え精神年齢が大人である僕としては物すっっっっっっごく複雑ではあったが、抱っこされてやった。

 その時の総司の表情は、今でも覚えている。

 

 笑った訳じゃない。泣いた訳でもない。殆ど表情は動かなかった。

 だけど、瞳が揺れ、唇が震え、何かを叫び出しそうになっていたあの時の彼の顔を見て、抱っこされた甲斐はあったなと。

 ここまで喜んでくれるなら、たまになら抱っこされても良いかな、と思えた。

 

 それはそれとして、長時間抱っこされるのは流石に嫌だったから、泣く振りをして解放を求めた。悪いとは思うけど男の抱っこが好きな趣味はないからね。

 …僕を抱っこした時もそうだけど、僕が嫌がった時も総司はあまり表情を変えなかった。

 それなのに、さっきとは逆の意味で何かを叫び出しそうになっていた彼の顔も、今でも僕は覚えている。

 

 別に嫌ってないから。

 だからその顔を止めてくれ、また抱っこしてもいいから。

 

 と、赤ん坊の身ではそうやって言葉を掛けられないのがじれったくて仕方がなかった。

 

「…四宮総司、か」

 

 ふと、一度だけ耳にした、今生の僕の父親のフルネームを口にする。

 

  僕が産まれてから三日後くらいだったか、まさに怪物と評するに相応しい威厳を纏った老人─────アイ曰く()()()()()を見た時から、ずっと、とんでもない家に産まれたのではないかという予感はあった。

 明らかに年上である、それも一会社の社長である斉藤さんへの不遜な態度。

 大して斉藤さんは、明らかに年下である総司へ畏敬の態度をとっていた。

 

 どう見ても違和感しか感じない二人の関係。

 怪物と見紛う程の傑物である、アイの()()()()()

 そして、()()

 

 国内随一の財閥の一つで、確か総資産は二百兆円、子会社の数は千を超える超々々巨大グループだ。

 

 総司がその四宮の御曹司というのであれば、年上の大人に対してのあの態度も頷ける。

 というかあの感じ、苺プロの経営をしているのは恐らく総司の方だ。

 斉藤さんに対して仕事の指示をしていたのを見た事があるし、十代半ば、恐らく高校生であろう少年が腕を振るうとは、恐れ入る。

 

 つまり今生の僕は両親譲りの優れた顔立ちに、父親の家は国の命運を左右する程の超絶金持ちという、権力と富と名声を確約されたこれ以上にない勝ち組という訳だ。あははははははははは───────

 

 …じゃないって。大事なのはそこじゃないって。

 

 一番大事─────というかヤバいのは、そんな四宮の御曹司が地下アイドルと恋愛関係、それも子供を作ったという事だ。

 

 僕はごく普通─────ではないかもしれないが、一般家庭に生まれたからそこら辺の事情に詳しくはない。

 だが、僕が考えてた以上に総司とアイの関係がまずい事だけは分かる。

 

 四宮の御曹司、それも恐らく重大にして四宮の重要なポストに座っていると思われる人物が、未成年の地下アイドルと子供を作る。

 普通に不味くないか?しかもアイと同じく総司も未成年という。

 

 何というか、これだけ見たら物凄く闇が深いよな。多分、死ぬ前の僕がこれを知ったら号泣してたと思う。

 

 だけど、今は─────会う度に幸せそうな二人を見ているからか、ダメージがないと言えば嘘になるが、それで相手の男憎し!とはならない。

 だって凄いぞ?先週なんて、僕とルビーが寝てる傍でアイがおっ始めようとしてたからな。

 

 これはいくらなんでも拙いと思って、夜泣きの振りをしようとした。

 まあ、総司がアイを宥めて事なきを得たけど…。

 

 そんな様子を見ていたら、二人は真っ当に愛を育んで、関係を深めていったんだろうなって思う。その結果…僕達を産んだ事に関しては、真っ当ではないとは思うけれども─────。

 だから、これ以上は、()()総司を─────父親を疎んだりするつもりは一切ない。

 

 そう。()()、だ。

 

「アムアムアムアム…」

 

「ルビー?パパを噛んじゃめーっ、でしょ?」

 

「…ハムムムムムムム」

 

「嚙む力が強くなったんだが…」

 

 一瞬、恍惚とした表情になった我が妹は、すぐに我に返り総司…我らが親父を再び嚙み始める。

 

 ルビーのこの反応を見て頂ければ察しがつくだろう。

 彼女もまた、僕と同じ()()()である。

 

 その事に気付いたのは、僕が転生したという現実を受け入れつつあったとある日の夜中─────。

 アイが出演していた番組を録画したビデオを見ながら、狂喜乱舞するルビーの姿を見た時だった。

 

 普通、赤ん坊が一人でテレビを操作なんて出来る筈もないし、第一誰にも見られていないと思っていたのだろうが、メチャクチャ喋ってた。

 

 『赤ん坊が喋った!?きもーっ!!』とは、僕が話し掛けた時のルビーの反応である。

 お前もだろ、と即答してやったわ。

 

 さて、そんなルビーだが、初対面の日もこれでもかと親父を嫌悪していたが、未だにその様子に変わりはない。

 どころか、さっき言った、アイによる()()()()辺りから親父嫌いに拍車が掛かった気がする。

 

 …まさか、ルビーもあれを見ていたんだろうか?

 

「アクアは懐いてるのにねー」

 

「…アイに比べれば雲泥の差だがな」

 

「そうかな?私は総司の方が懐かれてると思うけど。おっぱい飲ませようとしたらすっごく嫌がって総司の方に行こうとするし」

 

 …それを言わないで欲しい。

 

 基本、僕はアイに甘やかされて生活している。

 だって前世の推しの子がこれ以上なく甘やかしてくれるんだぞ?普通に天国だろ。

 だからそこの君、気持ち悪いなんて言わないでくれ。

 

 しかし、そんな僕でも一線(授乳)を越える事だけは不可能だった。

 今はその時は必ず親父、或いは斉藤さんやミヤコさんに哺乳瓶を使って飲ませて貰っている。

 

 流石にそれを受容するのは無理だ。大人の男としてのプライドがそれを断じて許さなかった。

 

「ほぉらルビー。これで遊ばないかー?」

 

「(プイッ)」

 

「…」

 

 どこからか取り出したマラカスを見せながらルビーに話し掛けるも、ソッポを向かれる親父。

 こうして、親父はここに来る度に僕とルビーに歩み寄る努力をしていた。

 

 ルビーに対しては、見てるこっちまで悲しくなるくらい効果が見られないが…。

 

「そのマラカスどこで買ったの?」

 

「赤木に買わせた」

 

「赤木…、あぁ、青木さん!総司が名前を間違えるから分からなかったよ」

 

「赤木で合ってんだよ」

 

 今、会話に出て来た赤木さんとは、親父の側近で、一度だけこの家にも来た事がある。

 その時、赤木さんはアイから言われて僕とルビーを抱っこした事がある。

 

 …素直に抱っこされるルビーを見た親父が、赤木さんを人を殺しそうな目で睨んでいた事は秘密である。

 

「青木さんって忙しいんでしょ?早坂さん、だっけ?あの人なら気軽に頼めたんじゃない?」

 

「赤木な。早坂にこんなおもちゃ買いに行かせたらバレるだろうが。アクアとルビーの事は四宮家の中で、本当に一部しか知らないんだぞ。…後、何で早坂の名前は間違えないんだ?」

 

 早坂さん、という名前は初めて聞いた。その人も親父の使用人か何かなんだろうか?

 アイが名前を知っているんだし、もしかしたらいつか会う機会があるかもしれない。

 

 …今の親父の台詞を聞く限り、ない可能性の方が高そうだが。

 

 やっぱり、僕とルビーの事は内密にされているらしい。それも、世間に対してだけじゃなく、四宮家の中でも相当慎重に扱われているようだ。

 今の会話から、その早坂さんという人も親父とはかなり近い距離にいる人物に思えるが、そんな早坂さんにも僕とルビーの事は知らせていないという。

 

 …本当に、とんでもない境遇に産まれたんだな。

 アイの立場もそうだけど、これは親父も相当─────というより、親父の方がかなり危うい綱の上に立っているんじゃなかろうか?

 

 それなのに、毎週毎週アイと僕達の様子を見に来てくれる…うわぁ、メチャクチャいい人じゃん…。

 四宮って、前世の僕としては立場の弱い会社の乗っ取りやほとんど地上げに等しい強引な利権の買収等のニュースをよく目にしたせいであまり良いイメージなかったけど、この人は全然そんな事ないじゃん…。

 今になってまた初日のあの親父の悲しい背中が、僕の胸を痛める。あ、謝れるなら今すぐにでも謝りたい…。

 いつか、ちゃんと親孝行をしてあげよう。そうだ、そうしよう。

 

「ルビー?」

 

「いぃ~」

 

「…」

 

 後、あれだな。

 

 多分、ルビーの精神年齢はそこまで高くないな。もしかしたら、年端もいかない内に…なのかもしれない。

 

「子供、か」

 

 ルビーを抱っこしようとして腕を伸ばす親父と、体を捩らせながら嫌がるルビーを横目で見ながら、前世の思い出を思い浮かべる。

 

 僕が研修医をしていた頃にいた、女の子の患者。

 あの子も年端もいかない内に─────十二歳で亡くなった子供だった。

 ルビーも、あの子─────さりなちゃんと同じように、小さな内から病気に罹り、亡くなった子なのかもしれない。

 

 ─────前世といえば、親父と初めて会ったその日、言っていた雨宮吾郎()の遺体探しはどうなったんだろうか。

 あの話を聞いてからもうすぐ半年になる。いくら事件性がないと警察は動かないとはいえ、そろそろ何かあっても可笑しくはないと思うけど…。

 

 そこまで思った時、親父のケータイが鳴った。

 親父はルビーに伸ばしていた腕を引き、ケータイを手に取って電話に出る。

 

「俺だ。…ほぉ、それで?」

 

 僕達に背中を向ける親父に、僕、アイ、ルビー三人の視線が注がれる。

 

 そんな中、親父は少しの間、一分と経たずに話を終えて通話を切った。

 

「どうしたの?」

 

「…アイ、残念な報せだ」

 

 アイに話し掛けられた親父は、いつもよりも低い声を発しながら振り返る。

 

 不思議なもので。

 ずっと見つからなかった失くし物を、偶然思い出したその時に何故か見つかる事がある。

 

「行方不明だった、雨宮吾郎の遺体が発見された」

 

「──────え?」

 

 今の僕は、それと似た感覚を味わっていた。

 

 驚き、哀しみ、何とも形容し難いごちゃごちゃと色んな感情が混ざり合っていたけど、一番大きかったのは()()()()()という諦観に似た感情だった。

 

 だからだろうか、今の僕はショックを受けつつも周りが良く見えていた。

 僕はふとアイに抱かれていたルビーが目に入った。

 

 さっきまで親父に騒がしく反発していた筈のルビーが、色を映さない瞳で親父を見上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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