ちょっと本筋から外れて番外編を。
本編が今、かぐや様の中でどの時期を進んでいるのかも載せています。
初めからそうですが、原作の設定からはズレているので、ご容赦を。
授業、掃除当番も終わり、全校生徒各々が帰宅、或いは部活、或いは学校に残って自習など、それぞれが思う活動に身を投じる夕方。
私こと
「そうだ。かぐやさん、総司君は最近元気にしていますか?」
「総司、ですか。えぇ、元気にしていますよ」
10月の選挙にて当選した会長の下、新たに一年生の伊井野さんを加えた新生徒会の活動は恙なく進んでいる。
11月の体育祭も無事に終え、今は12月に行われる文化祭に向けて準備を進めている所だ。
ただ一つだけ─────以前までの生徒会と違う事がある。
それが経った今、藤原さんの口から出た名前、総司だ。
総司は新生徒会に籍を置いていない。
新生徒会を結成するべく、会長は総司を前回と同じく庶務に誘ったのだが、総司はその誘いを断った。
『最近…というより、これからも、生徒会に顔を出す時間がなかなか取れなくなると思う。なのに生徒会に籍があるというのは、他の生徒にも示しがつかないだろう?』
総司が生徒会室に滅多に来なくなったのは、五月に入った頃だった。
仕事が忙しくなるから、殆ど来れなくなると言って、総司は本当に殆ど生徒会に顔を見せなくなった。
そしてその状況はこれからも続くから、生徒会に籍を置けないのだと、総司は言った。
それでも、と会長だけではなく、藤原さんや、高等部への入学と同時に会計に就任した石上君、そして伊井野さんも一緒に総司を誘い続けたけど、総司の意思は固かった。
『これで関係が終わる訳じゃないんだ。時間が空いたら生徒会室に顔を出すからさ』
総司がそう言ってから約一月、生徒会室に総司が現れた事は一度もない。
体育祭も、総司は忙しさを理由に欠席した。
先程の藤原さんもそうだけれど、会長や石上君にも、総司が元気かどうかを尋ねられる事がある。
その度に私は、同じ答えを返している。
元気なのは本当だ。体調を崩したりもしていないし、今もきっと急いで下校して、これから仕事に取り組むのだろう。
ただ、見ていて心配になるくらい、今の総司は忙しい。
生徒会メンバーだけじゃない。私ですら、今総司と話す事が難しくなっているくらい、総司はあちこちを駆け回っている。
…本人から直接聞いた訳ではないが、学園を辞めて仕事に専念するという話が回ってさえいる。
─────あの別邸の中で住んでいる者に限れば、私と赤木以外は誰も知らない。知る由もない。
─────総司が未成年のアイドルと恋に落ち、挙句双子の子供を作り、お父様に結婚を許して貰う為に、そして子供達の為に今まで以上に忙しくしているなんて。
「(言える訳がない…!)」
会長にだって、石上君や伊井野さんにだって、ましてや総司の事が好きな早坂や藤原さんになんて、言える筈がない。
第一、私だってこれを知ったのは単なる偶然。総司とアイさんのメールのやり取りをたまたま見れたから知れただけで、もしその経緯がなければ、私も何も知らない側だった。
「総司君が来ないなら、私達で直接会いに行っちゃいましょうか…」
「それは…、止めておいた方が良いでしょうね。本当に忙しそうなので」
「むぅ…。かぐやさんが言うなら、止めておきます」
藤原さんが、割と本気でそうしてしまいかねない雰囲気で呟くから、やんわりと止めに入る。
実際総司は本当に忙しいから、このタイミングで訪問すれば邪魔になりかねない。
しかしそれ以上に、超巨大爆弾を抱えているこの時期に家に誰かを招くのは控えた方が良い。
…流石にアイさんと子供達を家に連れてくる事はないでしょうけど。
「こんにちはー!」
藤原さんと話している内に、生徒会室の扉の前まで来ていた。
扉を開け、すでに中にいた会長と石上君と伊井野さんに、元気に挨拶をしながら入っていく藤原さんに続き、私も生徒会室へ足を踏み入れる。
「「ぎゃいぎゃいぎゃいぎゃいぎゃいぎゃいぎゃい!!!」」
「昭和の喧嘩!?」
室内では石上君と伊井野さんが盛大に取っ組み合いの喧嘩をしていた。
会長が何とか二人を落ち着かせようとしていたけど、二人の耳には全く届いていなかった。
「(本…、あれは漫画?でも、表紙に写ってる女の人、どこかで見覚えが…)」
取っ組み合いをしている二人だけど、私の目にはハッキリと、石上君が手に持っている何かの本を捉えていた。
そして、伊井野さんはどうやらその本を取り上げようとしているように見える。
石上君が持っているという事は恐らく漫画。微かに漫画タッチな絵も見えたし、間違いないと思う。
だけど、表紙にはアイドルらしい女の人が数人写っていた。そしてその内の一人に、私は何故か既視感を覚えたのだ。
「二人共、喧嘩は止めなよー」
「藤原先輩!でも、石上が学校に漫画を持ち込んでいたんです!これは立派な校則違反です!」
藤原さんが声を掛けるとまず伊井野さんの動きが止まり、藤原さんへ反応する。
それから石上君も動きを止めた事で、彼が持っている本の表紙がハッキリと見えるようになった。
「──────」
私はその表紙に写る一人の女の人を見て、驚きのあまり息を呑んだ。
「(あ、アイさん!!!?)」
よく、叫び出すのを堪えられたと自分でも思う。
それくらい、今の私の頭の中はぐちゃぐちゃに混乱していた。
後輩が持っていた本の表紙に知り合いが、それも兄の奥さん(予定)が写っていて、現在の二人の状況も鑑みたらこんな反応にもなる。
「石上も!今度ミドジャン持ってきたら没収するって言ったわよね!?」
「それは悪いと思ってる。だけど、今週のミドジャンは会長の推しのアイドルが表紙を飾ってたから、つい」
「…白銀会長の推し?アイドルの?」
大声で詰め寄る伊井野さんが、石上君の台詞を聞いて勢いを弱めた。
私も、石上君のその言葉を聞いて更に驚く。
会長の推しのアイドル?…B小町が?
私の中で、微かに嫌な予感がした。
「白銀会長はB小町が好きなんですか?」
「す、好きっていうか…。まあ、圭ちゃんの影響で曲をよく聞くようになったというか…」
会長の口から、妹である圭の名前まで出てきて、私の思考が止まりかける。
しかもこの感じ、伊井野さんもB小町の事を知っていると思われる。
…嫌な予感が少しずつ膨れ上がっていく。
「石上君、見せてください。…へぇ~、会長はこういう子達が好きなんですねぇ?」
「違ぇから!普通に曲が好きなだけだから!」
「でも、アイ可愛いって言ってたじゃないですか」
「石上ぃっ!?」
「─────」
もう駄目だと思った。
何が駄目なのか分からないけど、もう駄目だと直感した。
思考が停止し、声を出せない私を他所に、会長達の会話は更に盛り上がっていく。
「アイですか…。最近、体調不良から復帰したんですよね?」
「あぁ。復帰してすぐミドジャンの表紙を飾るんだから、やっぱ凄ぇよな」
「会長、やっぱりアイの事を追い掛けてるんじゃないですか」
「違う!ネットニュース見て偶然知っただけだから!」
「そっかぁ~。会長って、ドルオタさんなんですねぇ~」
盛り上がる会話の中で、ふと気になる単語が耳に入り、私は我に返る。
「藤原さん、
ドルオタ。
何故か一瞬、聞くなと何かしらの警鐘が鳴った気がしたが、構わず藤原さんに尋ねる。
すると、藤原さんは私の方へ振り返り、いつもの明るい笑顔を浮かべながら教えてくれた。
「ドルオタっていうのはですね、アイドルを応援したり、ガチ恋したりする人達で、中にはファンという枠を超えて結婚したいと思ってる人もいるんですよ」
「け、結婚っ!!?」
「ふ、藤原先輩。確かにその通りではありますが…」
「説明の仕方が酷過ぎる。ほら、四宮先輩が勘違いしちゃったじゃないですか」
伊井野さんと石上君が何か言っているけど、全く耳に入ってこない。
会長が…結婚したいと思っている?
アイドルと─────アイさんと!?
何かもう、色々なものが衝撃的すぎて、さっき以上に思考がぐちゃぐちゃになる。
「か、会長…?アイさ─────このアイドルの子と、結婚したいんですか…?」
「いやそんな事思ってねぇーって!!」
意識が遠くなる感覚を必死に堪え、声を絞り出して会長に尋ねる。
会長は勢いよく私の問い掛けに対して否定の返答をした。
「そもそも俺、まともにアイドル推した事ないから!アイの事だって、B小町の中でなら一番可愛いなって思ったくらいだし、ドルオタもクソもねーだろ!!」
その言葉を聞き、ほんの少しだけ思考が冷静に戻る。
アイさんの事を可愛いと思うくらいなら、私だって同じように思っている。
それでドルオタになるのなら、私もドルオタ。つまり、私もアイさんと結婚したいと思っている事になる。
だけど実際はそうではないし─────良かった。会長はドルオタではないらしい。
本当に、良かった…。
会長に好きな人がいなかった事もそうだけど、総司と血を血で洗う争いに発展しなさそうで、本当に良かった。
「アイドルが好きなら、それはドルオタじゃないですか?」
「じゃあ藤原には好きなアイドルはいないのか?」
「可愛いなって思う子なら…。B小町もそうですし…」
「はいはいはい!オタクぅー!」
「えー…」
ただ、藤原さんによって濡れ衣を着せられた会長はヒートアップして、藤原さんに、石上君にも伊井野さんにも、そして私にも怒りの矛先を向けて来た。
その結果──────
「「「「アイ、がんばれー」」」」
「声が小さい!もっと大きく、アイに届くように!」
「「「「アイ、がんばれー!!!」」」」
生徒会室にて、アイさんの応援合戦が始まるのだった。
…待って、本当にどうしてこうなったの?
アイ、がんばれー