天才と星の子   作:もう何も辛くない

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投稿ペース落ちる宣言してから投稿する矛盾野郎。
いやまあ、問題は来週からなんですけどね…。
それでも週に二回くらいのペースは守りたいと思っています。確約は出来ませんが。


天才の野望

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天童寺さりな。それが、ルビーの前世の名前だという。

 生まれつき病弱で、判明した病気が悪性脳腫瘍の一種である退()()()()()()()()

 

 脳の神経細胞の働きを助ける星型の細胞、星膠細胞から発生する腫瘍、星細胞腫によって退形成─────細胞の機能、特徴が胎生期の状態へと戻っていくという病気だ。

 発症からの中央値が二年半と言われており、五年生存する確率が二十パーセントという極めて凶悪な病気の一種だ。

 

 ルビーの前世、天童寺さりなは、アクアの前世、雨宮吾郎が研修医時代にアイが通っていた宮崎の病院に入院しており、二人は知り合ったという。

 雨宮吾郎がルビーを認識した頃には、すでにルビーはアイの大ファンだったようで、雨宮吾郎はルビーからアイの布教を受けたとの事。

 

 雨宮吾郎は天童寺さりなを気に掛け、天童寺さりなは雨宮吾郎を慕っていた。

 アイを通じて二人は気軽に、友人にも近い感覚で話せるまでに親しくなっていった。

 

 しかし、天童寺さりなを蝕む病魔は止まってくれない。

 先程も言ったが、退()()()()()()()()発症後の生存年数は、かなり短い。

 

 十二年。これが、天童寺さりながこの世に生を受けてから生き永らえた期間である。

 病気によって天童寺さりなは亡くなった。その筈だった。

 

 気付けば天童寺さりなは()()()という名を与えられ、天国(アイの腕の中)に居たという。

 

「まあ、天国から地獄にも落とされたけどね。…推しに男が居たって分かった時は、ホントに心の中でアンタを呪ってたわ。夜、私とアクアが寝てるって思っておっ始めようとするママとアンタを見た時の私の気持ち、分かる?」

 

「それに関しては弁明させろ。俺は止めた。アイが無理やりしようとしてきたんだ」

 

「抵抗するな!ママに襲われたんなら素直に受け入れるのが常識でしょ!?」

 

「お前、今自分が無茶苦茶言ってる事を自覚した方が良いぞ」

 

 推し─────生きる意味すら見つけたと思える程の存在に、男が居たとなればそれは複雑だろう。正直、俺にとってはあずかり知らない所ではあるが。

 しかし、後者に関しては別だ。俺の意思が介在していないとはいえ、母に襲われる父の図なんて、子供の教育に悪いに決まっている。

 前世の享年と今世の年数を合わせても、ルビーはまだまだ子供だ。あんなものを見せられれば、そりゃ混乱する。

 

「…ママがアンタを本気で愛して、アンタもママを愛してる事だけは認めてあげるけど」

 

「それは良かった。そこに疑い持たれたら、どうやって証明するか悩み所だったからな」

 

「…証明できない、とは言わないのね」

 

「?俺はアイを愛してるからな。最悪、お前の目の前でアイとヤッてる所を見せれば証明出来る」

 

「「やめろぉっ!!!?」」

 

 ルビーだけでなく、アクアも声を揃えて叫びを上げた。

 そんな、傍から見れば息の合った兄妹の姿に、俺は思わず笑みを零しながら、「冗談だ」と一言。

 

 なるほど、この方向からの口撃はかなり効きそうだ。覚えておくとしよう。

 

「聞きたかったんだが、親父とアイはどうやって出会ったんだ?」

 

「…親父、ね」

 

「─────いや、その、すまん。総司って名前で呼ぶのも変な感じだし、今の僕はアンタの子供だから、こう呼ぶのが自分的にしっくり来たんだ。…不快だったら、呼び方を変えるよ」

 

「いや、別に不快とは思っていない。好きに呼ぶといいさ」

 

 アクアに親父と呼ばれ、驚きはしたが先程の言葉に嘘はない。

 これっぽっちも()()には思わなかった。

 

 中身は三十路のおっさんでも、見た目は目に入れても痛くないとすら思える可愛い赤ん坊だ。

 …そんな可愛い赤ん坊が、親父なんて粗暴な言葉遣いをするのは違和感が凄いが、しかし不快には思わなかった。

 自分でも驚きだが、俺が思っているよりも、アクアとルビーを好きになっているのかもしれない。少なくとも、これからも()と呼ばれても良いと、思えるくらいには。

 

 この感情が他者からどう思われようと、これが俺の本心だ。誰にも文句は言わせない。

 俺はこれからも、アクアとルビーを一人の親として、守っていこう。

 

「あー、俺とアイの出会い、だっけ?別に面白いものじゃないぞ?」

 

「いいじゃん、聞かせてよ。どうやったら四宮の御曹司とアイドルが知り合って、子供を作るまでに至るのか、ルビーだって興味あるだろ?」

 

「…まあ、なくはないけど」

 

 アクアもルビーも─────ルビーは興味なさげな風を装ってはいるが、微かに瞳を輝かせている所を見ると、かなり興味を持っているらしい。

 

「アイと会ってから今までの話ってなったら、長くなるぞ?それでもいいのか?」

 

 念のために釘を刺すが、二人の意思は変わらない。

 それなら別に、語ってもいいか。

 こうやって両親の出会いについて子供に話すというのも、親子の会話らしくて良い。

 

 アイとの出会いから、再会して連絡先を交換した話。

 連絡先を交換してからは、アイにあっちこっちへ振り回され、財布扱いをされた話。

 いつの間にか、アイとどこかへ出掛けるのが当たり前のように感じるようになった事とか、いつかこいつとは絶対に縁を切ってやると思わなくなっていった事とか。

 …アイにラブホに連れ込まれた云々の話は飛ばそうとしたのだが、ルビーに突かれて話さざるを得なかった。十二歳─────今世と合わせれば十三歳になったと思われる子供に話す内容ではないが、話を引き出されてしまった。

 そうしてアクアとルビーがアイに宿り、それを知って大混乱した事とか、産むと決めて親父に話に行った事とか。

 アイが、親父に向かって『総司を私にください』と直訴した事も話した。その話を聞いて、アクアとルビーが「「普通は逆じゃね(ない)?」」と言ったのはスルーさせて貰う。

 

「僕達のおじいさんって、あれだよな。産まれて少ししてから病院に来た、あの人」

 

「あっ、あの怖いおじいちゃん!何となく逆らっちゃいけない気がして、素直に抱っこされたんだよねー」

 

「…」

 

 親父、ルビーに怖がられていた。

 俺よりも先にルビーを抱っこしやがって、と思っていたが、実際はただ逆らえなかっただけだという。

 ほんの少しだけ、溜飲が下がったのはここだけの話だ。

 

「…やっぱり、あの人が四宮の当主だったんだ。よくあの人からアイとの結婚の許しを貰ったな」

 

「いや、貰ってないぞ?これをクリアすれば許すっていう条件は貰えたが」

 

「…は?」

 

 そういえば、俺とアイがまだ結婚していないという話をしていなかったな。

 いや、こいつらが転生者だなんて分からなかった訳だし、ただの赤ん坊だと思っていたこいつらに話さないなんて当然ではあるが。

 

「流石にないとは思うが一応言っとくぞ。お前らの存在が世間にバレたら、俺もアイも、お前らも終わりだ。覚えておけ」

 

「…四宮に言われると物凄く怖いんだが」

 

「その恐怖をよく刻みつけておけ。俺もその方が安心できる」

 

 アクアが小声で「僕って実は勝ち組ではないのでは…?」なんて呟いているのが聞こえてくる。

 

「ねぇねぇ。さっきから思ってたんだけどさ─────」

 

 すると、先程からずっと黙っていたルビーが口を開いた。

 俺とアクアの会話に割り込む形で声を発したルビーは、振り向いた俺とアクアの視線を受けながら続ける。

 

「しのみやしのみや、ってせんせが言ってるけど、しのみやって何?」

 

「は!?…い、いや、さりなちゃん─────ルビーが知らないのは仕方ないのか」

 

 そんな事を口にするルビーにアクアは一瞬驚きを露にするが、すぐに思い直し、取り直す。

 

 そりゃ、普通に生きてても小学生そこらでは四宮という一族について詳しく知っている者は一握りだろう。

 ましてや子供の頃から病弱で、入退院を繰り返していたとなれば、更に話は変わってくる。

 

「えっと、四宮っていうのはだな─────」

 

 アクアがルビーに四宮という一族について、一人の一般人からの観点で説明をする。

 

 総資産二百兆円。鉄道、銀行、自動車、IT等、優に千を超える子会社を抱える、四大財閥に数えられる。

 それが、アクアとルビーが産まれた四宮家。四宮グループ。

 

「…つまり、物凄いお金持ちの家なんだ?」

 

「ま、まあ、そういう事だ」

 

 そんなアクアの説明を聞いたルビーの感想はあっさりしていた。

 まあ、ルビーの精神年齢を考えれば、今の話を聞いてもそのくらいの感想しか出てこないのも仕方ないだろう。

 いずれ、その認識が改まるのはほぼ確定事項といっていいだろうが、今はそれでいい。何も知らない、純粋な子供のままで居てもいい。

 

「(…今は、か)」

 

 アクアと話をするルビーを見て、胸に微かな陰りが差す。

 

 この子もいずれ、俺と同じになる。

 一族の妄執が生み出した、()()()()()()()()()とやらになるために、徹底的な教育を受ける事となる。

 

 アクアはまだいい。前世では医者にまで登り詰めた、優秀な頭脳と強靭な精神力があれば、あの教育も乗り越える事が出来るだろう。

 だが、ルビーはどうだ。

 

 ルビーが優秀ではないとか、そういう事を言っている訳ではない。

 この()()()()()が、あの教育に耐えられるのか。

 …かつて、俺やかぐやと一緒に教育を受け、壊れていった人達と同じにならないという保証はない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 何故ならそうしなければ、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「(…いや、そうじゃないだろ)」

 

 脳裏に過る多くの可能性を打ち消す。

 

 違う、そうじゃない。

 俺は誓った筈じゃないか。

 

 ()()()()()()()()()()()

 その理由は、誓った当初よりも()()()()()()いるが、友と交わした誓いと決意は曲がっていない。

 

 ならば、守ればいい。

 自分の子供達を守る。そして、その上でもし、この子達が四宮という家を守りたいと考えた、その時こそ─────

 

「(あぁ、ダメだな。未来をどうするかは、こいつらが決める事だ)」

 

 思考に打算が混じるのは俺の悪い癖だ。

 直そうとは思っているが、隅々まで染み込んだ四宮の教育がそれを許してはくれない。

 

 …俺は、こいつらにはこんな風になってほしくない。

 

「四宮が物凄くお金持ちの家なのは分かった。けど、もう一つ聞いてもいい?」

 

「っ…、どうした?」

 

 深く沈み掛けた思考が、ルビーの声で引き上げられる。

 

 ルビーは不思議そうな顔をしながら俺を見上げ、そしてこう尋ねて来た。

 

「何でママと貴方が結婚するのに、お爺ちゃんの言う事を聞かなくちゃならないの?」

 

「────────」

 

 それは、余りに子供らしく、純粋で、同時に鋭く残酷な質問だった。

 

「何で二人が結婚する事に、お爺ちゃんが駄目だとか口を出してくるの?」

 

 まだ何も知らない、故にこそ浮かぶ無敵とすら言える思考。

 俺も、そんな風に思えたのなら、親父と真っ向からぶつかり合ったあの時のアイの様になれたのだろうか。

 

「…俺もアイも、まだ未成年だしな。それに、お金持ちの家だからこそ、結婚とかそういうのには色々あるんだよ」

 

「色々ってなに?好き合ってるんなら、結婚するべきなんじゃないの?」

 

「好き合ってるから結婚して良い、とはならないのが難しい所なんだよ。…多分、ルビーもいつか分かるようになると思う」

 

 続けざまに問い掛けてくるルビーへ答えを返しながら、そんな時は来ないで欲しいという矛盾した思いを抱く。

 

 人を人と思わない教育を叩き込まれた俺には、今のルビーは眩しかった。

 だからこそ、その輝きを汚したくない。

 未来のルビーには、何の柵もなく、本気で好き合った人と一緒になって貰いたい。

 

「それと、ルビーは一つだけ勘違いしてるぞ。俺とアイは、親父から出された条件を邪魔に思ってる訳じゃない。…俺とアイは、親父をぐうの音も出ない程に認めさせてから結婚する事を選んだんだからな」

 

 ソファから腰を上げ、ルビーへと歩み寄り、彼女の目の前でしゃがんで視線を合わせながら、柔らかな黒髪に掌を乗せる。

 

「アイを認めさせる。アクアとルビーを認めさせる。全ての柵を失くした上で、心置きなく結婚する。それが、今の俺の野望だ」

 

「──────」

 

 俺の言葉を聞いて、ルビーは、そしてアクアは何を感じたのだろうか。

 ルビーもアクアも目を見開き、俺の言葉に聞き入っていた。ルビーに至っては、いつもの調子なら俺に触れられようものなら即振り払っていただろうに、今は素直に俺の手を受け入れていた。

 

 ─────もしかしたら、このまま抱っこもいけるのではないか?

 と考えるも、残念ながらそれは上手くいかなかった。

 ルビーに拒絶された訳じゃない。だが、俺のケータイの着信が鳴り響き、アクアとルビーとの会話を一旦打ち切る事となる。

 

「もしもし」

 

 通話の相手は赤木だった。

 何か、急な仕事でも入ったのだろうか。

 もしそうなら、内容によっては赤木にここへ来てもらい、俺の代わりにアクアとルビーを見て貰うとしよう。

 

 そう考えていた俺の耳に直後、とある報せが届けられる──────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 四宮総司─────それが今世の私の父親の名前であり、前世の私が人生を賭けて推していたアイドルに子供を産ませた男の名前だ。

 

 私は四歳の頃から病気に罹り、それによって十二歳の時に死んだ。

 だけど気付けば、私は天国(推しの腕の中)に居た。

 

 死んだ筈なのに─────だけど、意識はハッキリしているし、至近距離には推しのアイドルが私に笑顔を向けているし、病気の進行によって重かった体が、痛かった頭が、定まらなくなった思考が全て正常に戻っていた。

 転生したのだと現実を受け入れられたのは、アイ─────ママと双子の兄のアクアと一緒に退院したあの日だ。

 

 前世の私は、物心ついた頃からほぼずっと入院生活で、普通の同い年の子が普通にしてきた事の殆どを経験しないまま、どうして私がこんな目に遭うんだろうという悔恨を抱いたまま、死んだ。

 だから今世では、やりたい事を全てやりたい。ママにたくさん愛されて、ついでにアクアの事も気に掛けながら、いずれは─────ママと同じようにアイドルにもなったりして。

 そんな人生を歩みたい、と思った。

 

 だけど、私は忘れていた。

 母親がいるのなら、父親だっているという極々自然、当然の事を、私は忘れていた。

 

 今世の私の父親は、ママと同年代の男。

 見た目は…悔しいけど整っていた。俗に言うイケメンというやつだ。

 それに性格も優しくて、ママとのやり取りを見ていれば、二人が愛し合っているのだという事は嫌でも伝わって来た。

 私とアクアの事も気に掛けて、愛そうとしている事も分かった。どうしても、その気持ちを私は受け入れる事が出来なかったけど…。

 

 だってそうでしょ?

 どういう事情があるかは知らないけど、私達に会いに来るのは週に一回。しかも、たまに変なスーツのおじさんも連れてくるし…、物凄く怪しく見えた!

 

 あの人が帰る時、ママは必ず笑顔で見送っていたけど、あの人の姿が見えなくなってからはいつも、悲しくて、寂しくて、泣きそうな顔をしてた。

 ママにそんな顔をさせる男を、父親だなんて認めたくなかった。

 

 …だけどあの人は、必ず週に一回、私達に会いに来た。その日の天気がどんなに悪くても、欠かさず私達に会いに来た。

 その度に、ママと私達の事を心配していて、ママもあの人が来たら物凄く嬉しそうな顔をしていた。

 

 あの人が来る度に、ママはあの人の事が大好きなんだなと思い知らされる。

 あの人が来る度に、あの人はママの事が大好きなんだなと思い知らされる。

 あの人が来る度に、あの人は私達の事を愛そうとしているんだと思い知らされる。

 

『行方不明だった、雨宮吾郎の遺体が発見された』

 

 少しだけ、ほんの少しだけ、この人が父親で良かったのかもしれない。

 私が大好きなゴローせんせが死んだ、とあの人が口にしたのは、そう思い始めた矢先の事だった。

 

 ゴローせんせは、病気だった前世の私を気に掛けてくれた人だった。

 優しくて、面白くて、カッコ良くて─────私の初恋の人。

 そんなゴローせんせが、死んだ。

 

 転生して、またゴローせんせに会えるかもしれない。そう思った。

 アイドルになれば、もしかしたらゴローせんせが見つけてくれるかもしれない。そう思った。

 

 だけど、それは叶わぬ夢となって散った。

 

『お前らは一体、何だ』

 

 突然、あの人が私達について勘付き、問い掛けて来た。

 何でも、私達の行動や仕草を見て、違和感を覚えたって言ってたけど─────ママも、あの人よりも私達に会いに来る回数が多い社長さんやミヤコさんも、全く気付いた様子がなかったのに。

 

 それだけじゃなく、私達がゴローせんせの名前に反応していた事も気付かれていて、ゴローせんせとの関係についても聞いて来た。

 …アクアもゴローせんせと知り合いだったんだ、ってこの時はそう驚いていたんだけど─────

 

『か、関係も何も、本人です』

 

 まさかの、ゴローせんせ本人だった。

 ゴローせんせも、私と同じように転生していたのだ。

 

 心を覆い尽くしていた絶望の闇が、一瞬にして払われる。

 代わりに湧き上がった喜びを隠さないまま、私はゴローせんせ─────今世のお兄ちゃんに抱き着いた。

 

 思わぬ形で初恋の人との再会を果たしてからは、あの人との会話のターンだ。

 私達に何が起こったのか、前世の私がどういう人間だったのか。

 多分、あの人がもっと知りたいのは、ゴローせんせの事についてなんだろうけど、それよりもまず私の事についての話をした。

 

 それと、あの人についても少し聞かせて貰った。

 お兄ちゃんとあの人が色々教えてくれたけど、難しくてよく分からなかった。

 だけど、四宮っていう物凄いお金持ちの家の人で、結婚相手も自由に選べないという、可哀想な人という事だけは分かった。

 

「アイを認めさせる。アクアとルビーを認めさせる。全ての柵を失くした上で、心置きなく結婚する。それが、今の俺の野望だ」

 

 …訂正。可哀想な人、というのは間違いだ。

 この人は、強い人だ。多分、ママを、お兄ちゃんを、そして私を、この人は本気で守ろうとしている。

 何から守ろうとしていて、この人が何と戦っているのかは分からないけど─────改めて思う。

 

 この人が今世のお父さんで、良かったかもしれない、と。

 

「…喜びなさい。次からはアンタの事を、お父さんって呼んであげる」

 

 掛かって来た通話の応対をするあの人─────()()()()の背中を見ながら、小さく呟いた。

 

「フッ─────」

 

 私のすぐ隣に、もう一人いる事を忘れて。

 その小さな呟きを、しっかりと聞かれていた事に気付いたのは、微かに笑い声が聞こえてからだった。

 

「ちょっ…、聞いてたの…!?」

 

「まぁな。…次からはもう、親父を噛んでやるなよ?」

 

「し、しないよ、もう…!」

 

 お父さんに聞こえないよう、声を潜めながらお兄ちゃんと話す。

 

 そうやって、声を潜めていたから、私とお兄ちゃんの耳にはハッキリと、届いた。

 

「親父が、倒れた?」

 

 呆然と、そう口にするお父さんの声が、嫌にハッキリと耳に届いたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ルビーちゃん、パパを認めるの回。
そして────────
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