天才と星の子   作:もう何も辛くない

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ちょっと、アイ書くの難しいっす。
でもまあね、『45510』読んだらこれもアイの一面だろうと思っています。
という事で、どうぞ。


天才とトラウマ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうした。いつもなら無遠慮に食いまくる癖に」

 

「総司の中の私は一体どうなっているのかな?」

 

「言わなきゃ分からないのか?」

 

「…」

 

 今をときめくアイドルに対して、あまりにあんまりなその物言いに、つい睨みつけるも総司はどこ吹く風で先程運ばれてきたステーキに手を付ける。

 

「…お前、本当にどうした?今日は肉じゃなくて、魚の気分だったのか?」

 

「いや、そうじゃなくて」

 

 総司が料理に手を付けてからも一向に動かない私を心配したのか、手を止めて再度私に総司が声を掛ける。

 

 別に今日食べたいものが肉じゃなかったとか、そんな気分の問題じゃない。

 …本当に。前に()()()が言ってたお寿司屋さんに連れてって欲しかったな~、なんて少ししか思ってないから。

 

「総司から私を誘うなんて、初めてだなって思って」

 

 お寿司屋さんに関しては、本当に少ししか思ってない。それよりも、このお店に誘ったのが()()()()だという事に、私は未だに驚き続けていた。

 

 だって、そうでしょ?

 今まで食事に行く時は全部私から誘って─────というか、私が総司を引っ張り回していたのに。

 今日は一体どういう風の吹き回しなのか、ちょっと知りたかったりする。

 

 そんな気持ちが籠った言葉を口にしながら、私はつい数十分前の事を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日、私はB小町のメンバーの内二人と一緒にミニライブを行った。

 少し前までは、歌のパートの殆どが私担当だったのが、ここ最近はかなり減っている。

 それでも私が多めに担当しているのは変わらないけど、ファンの人達も多くが気付く程に、最近のB小町は変わっていた。

 

 私を中心─────というより、私に依存していた活動が、少しずつ変わっていく。

 総司が苺プロダクションの経営に関わるようになってから、その変化は起き始めていた。

 

 ファンの反応は様々だった。でもその中でも目立っていたのは、B()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という意見だった。

 B小町の活動の変化に気付き、その上でこれから私達がどうなっていくのかを見たい。応援していきたい。そんな声が多かったのだ。

 

 決して、前の方が良かったという意見がなかった訳じゃないし、現にこれまで私を応援し続けてきてくれたファンの人達はそうした意見も少なくはなかったけれど。

 ファン達の反応に何かの手応えを得たらしい総司は、少しずつ私ばかり浴びていたスポットライトを、他の子達に向け出した。

 

 B小町が行うライブには、必ず私が出ていたけど、今はそんな事はなくなった。

 一週間前に行ったライブでは、私は不参加だったけれど、B小町目当てでライブに来たファンも多くいたらしい。

 

 元々、()()社長の方針で私の引き立て役をやってくれてたけど、皆可愛いし、歌もダンスも上手だし、こうなるのも当然だって私は思ってる。

 皆はファン達の反応を見て、少しびっくりしてるみたいだけど。

 

 話を元に戻すけど、今日のライブを終えた私は、社長に呼ばれて事務所まで連れて来られた。

 そこで待っていたのが、たった今、私の目の前にいる総司だった。

 

 総司は私が事務所に入って来たのを見るとすぐに、「奢ってやるから、飯食いに行くぞ」と、私が質問を挟む間もなく外へ連れ出された。

 

 事務所に連れて来られたと思ったらすぐに外へ連れ出され、更には黒塗りのリムジンに乗せられて、今に至る。

 …リムジンの中、凄かったな。帰りもあれで送ってくれないかな?

 

「ねぇ。どうして今日は私を誘ったの?」

 

 という思考は一旦切って、総司に連れ出されてからずっと口に出来なかった疑問をぶつける。

 

 お家で作法を叩き込まれてるんだろう、総司は器用にナイフとフォークを使って、綺麗にステーキを食べながら私の方を見る。

 私が質問をした時はまだ、口の中にステーキは入っていなかったのに、総司は私の方を見ながら口にステーキを入れて咀嚼を始める。

 

 …私との会話よりも、ステーキを食べる方が大事ですかそうですか。

 

「いきなりどうした」

 

 内心から湧き上がる、複雑な怒りに表情が変わりそうになるのを堪えていると、しっかりよく噛んでからステーキを飲み込んだ総司が返してくる。

 

「だって、総司凄く忙しそうだから。私なんかを誘ってる時間あるのかな、って思って」

 

「…マジでどうしたんだ、お前」

 

 総司に会ってからずっと、私は休みの日の総司としか会って来なかった。総司はずっと、俺は忙しいのにって言ってて、でも私は何だかんだ付き合ってくれる総司に甘え続けた。

 

 総司が苺プロダクションの経営責任者になってから、私は総司の言った言葉の意味を思い知らされた。それと同時に、総司がどれだけ凄い人なのかも思い知らされた。

 

 事務所内でテキパキと、年上の大人に対して指示を出して、自分の仕事だってあるのに、私達グループの為に時間を割いて話をしたり。

 ヒカルを苺プロダクションに引っ張り込んだのは本当にビックリした。それが、B小町の為だと知った時も、他の子達と一緒に驚いて、それと同時に嬉しくもあって。

 

 仕事をする総司の姿を見て、私は初めて、私の為に総司がどれだけ自分の時間を割いてくれていたのかを思い知ったのだ。

 

 そう思っていたんだけど─────総司が物すっっっっっっごく驚いた顔をしてる。

 今まで見た事がない、目と口をまん丸くして、間抜けな顔をした総司がそこにいた。

 

「熱でもあるのか?ライブで疲れたか?それなら、無理しないで帰って休んでいいぞ」

 

「総司の中の私は一体どうなっているのかなぁ?」

 

 総司のその失礼な物言いに、思わずさっきと全く同じ質問をしてしまった。

 でも総司はさっきと違って、その質問にすぐに答える事はなく、今度はスープを口に含んだ。

 

「─────他のメンバーとは結構時間をとって話をしてきたが、お前とは初日から話をしていなかったからな」

 

「え?」

 

 総司から返って来たのは、思ってもみないものだった。

 

「ここらでお前の腹の中を探らせてもらう。言っとくが、俺に嘘が通用するとは思うなよ」

 

「…話って、どんな話をするのかな?」

 

 総司がよく、他のメンバーと面談をしているのは知っていた。

 どんな話をしていたのかは知らないけど、総司と話をする度に、その子の表情というか感じというか、そういうのが良くなっていってるように、私は感じていた。

 

 けど、たった今総司が言ったように、私との面談は、総司が苺プロダクションに初めて来たあの日以外からやっていない。

 あの面談だって、他のメンバーと比べたら短い時間で終わった。話した内容も、B小町のこれからの事というよりは、総司が来るまでのB小町はどうだったのか、という過去の話が中心だった。

 

 それ以降、こうして総司と二人で話す時間というのはなかった。

 面談という形は勿論、前みたいに私から積極的に総司を誘うというのもしなくなったし。

 

 だからなのかな?

 総司と久し振りにこうして二人で向かい合って、食事をしながら話す。

 内容は事務的だけど─────何か、嬉しい。

 総司が私と話をしようって思ってくれていた事が嬉しい。私は総司に遠慮して遠ざけようとしていたのに、総司は私に歩み寄ろうとしてくれた事が嬉しい。

 

「とりあえず、単刀直入に聞かせて貰うぞ。今のB小町の活動について、どう思ってる?」

 

 前置きがあったから心の準備が出来たけど、本当に単刀直入に聞いて来た。

 

「どうも何も、今の活動も受け入れられてるし、グループの空気も良くなってるし、このままで良いと思うよ」

 

「…俺が言った事を覚えてるか」

 

「?」

 

()()()()()()()()()()()()

 

 咄嗟に何かを言い返そうとして、詰まる。

 結局何も言い返せず、総司の鋭い視線をただ受けるだけになる。

 

「…このままで良いっていうのは、本当だよ」

 

「嘘だな」

 

「総司のお陰でグループの空気は良くなったから」

 

「その代わり、お前が浴びてきたライトは奪われたな」

 

「…」

 

 ピシリ、と何かに罅が入ったような音がしたのは、ただの幻聴だ。

 

「いや、奪われたっていうのは違うか。…優しいな、お前は。他のメンバーに向けられたライトをそのまま譲ってやるんだから」

 

 何かが罅割れる音が続く。

 私の中で、何かが壊れていくのが分かってしまう。

 

 ─────やめて。

 

 唇が震え、喉が詰まって声が出ない。

 心の中で叫んでも、声に出ないから総司には届かない。

 

「そんなに憐れだったか?」

 

 言葉を止めない総司は、私に冷たい視線を向けながら─────

 

「星野アイに人気を奪われる、仲間達の姿は」

 

「やめてっっっ!!!」

 

 あれだけ出そうとしても出なかった叫びは、総司の決定的な一言を耳にした瞬間にあっさりと出てくれた。

 こんな風に大声を出したのなんて、いつ以来だろう。…少なくとも、施設に預けられてからは覚えがない。

 

「ハァ─────ハァッ…!」

 

「…」

 

 たった一言、大声を出しただけなのに、不思議と息が荒くなる。

 そんな私を、総司は何も言わずにただ静かに見ていた。

 

「…お前は嘘を吐いてばかりだ」

 

 そんな総司が、不意に口を開く。

 

「笑顔を貼り付けて、愛してるとファンへ偽りの言葉を吐いて、俺にもたった今、嘘を吐いた」

 

「─────」

 

「お前の本当の気持ちを言え。ここはステージの上でも事務所の中でもない。今、お前はアイドル(嘘吐き)である必要はない」 

 

 ()()()()()()()()()()()

 その言葉を聞いた私は無意識に顔を上げて、総司を見る。

 

 笑っていた訳じゃない。いつもの鋭い視線もそのまま。

 なのに今の総司からは、さっきまでと違って刺すような威圧感が全く感じられなかった。

 むしろ、包み込むような穏やかさが、今の総司からは感じられた。

 

「─────悔しいよ」

 

「…だろうな」

 

「悔しいよ。だって、私だよ。B小町にここまで人気が出たのは、私のお陰だよ。なのにどうして…よりによって、()()()()()()()、私からスポットライトを外すの?」

 

「…あのままじゃ、B小町が崩壊するからだ」

 

「分かってる!分かってるよ!だから、私は何も反対しなかった!」

 

 全部分かってる。総司が─────苺プロダクションが今の方針に乗り出したのは、B小町をグループとして立て直すためだって事くらい、馬鹿な私にだって分かった。

 

 それでも悔しい気持ちは溢れ出して、だけど前のままじゃいけないのも分かっていたから、私は何も言わなかった。

 

「だが、()()()()違うだろう」

 

「違くないよ!だって…私が前に出たら、また─────っ!」

 

 脳裏に過るのは、かつて私が向けられた、憎しみの籠った凍てつくあの瞳。

 私を恨み、憎んで、消してやりたいとすら思われていそうなあの瞳の中から溢れる涙で顔を濡らしたあの娘が、私に向けて発した最後の言葉。 

 

『あんたさえ、いなければ─────っ!!』

 

 …もう裏切られたくない。誰かを傷つけたくない。あんな思いをするのはもう嫌。

 そう思っていたのに、結局、私が今までやってきた事はまた仲間を傷つけていた。

 

 それなら、いっその事──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思った通り─────いや、思っていたよりも、星野の心にかつての出来事は深く刻まれていたらしい。

 

 星野がここまで動揺、慟哭する理由を、俺は知っている。

 

 これは、斎藤から聞いた話だ。かつて、B小町内で苛めがあったという。

 星野の人気と贔屓された扱いに耐えかね、嫉妬心を爆発させたメンバーの一人が、化粧品を盗んだり、他メンバーに対して星野の話である事ない事言ったり。

 苛めに対する斎藤の対応は迅速で、すぐにそのメンバーとの契約を解除したという。

 

 そのメンバーというのが、星野と一番良く話していたという、斎藤曰く星野はそのメンバーを友人と思っていたのではないか、との事。

 そんな大切に思っていた仲間からの裏切りは、星野を深く傷つけただろう、というのも斎藤談であり、あの日あいつが恥も外聞も捨てて俺に縋ってきたのもこの事件を受けてようやく自分の過ちに気付かされたのが切っ掛けだったという。

 

 そしてその斎藤の予測は図らずも、俺達が行ったB小町の活動方針変更によって証明される事となる。

 

 星野からスポットライトを外し、他のメンバーへと向けていく。それによって、少しずつではあるが、彼女らは向上心を取り戻しつつあった。

 

 ()()()()()()

 

 他のメンバーへ向けられる注目を取り戻そうという気概はなく、星野は現状を受け入れようとしていた。

 それは、俺が来る前の、星野以外のB小町メンバーと同じだった。

 

 俺が望んでいたのは、現状維持ではない。

 星野もまた、自分から外されたスポットライトを取り戻そうと奮起し、更にそれを見た他メンバーがそうはさせじと奮起する。

 そんな相乗効果を望んで、今の方針に乗り出した。

 

 それなのに、当の星野本人が思惑から外れた行動に出てしまった。

 今日のこの食事は、その真意を探るべく催したものだ。

 

「…」

 

 という理由で星野を誘い、ここへ連れて来て、計画通り星野の想いを吐かせたのは良いが…どうすりゃいいんだこれは。

 俺が思ってた以上にあの苛め事件がトラウマになっているらしく、星野の目から涙が零れている。

 

 もう俺の中で、星野に言いたい事というのは固まっているのだが─────これを言って、星野がアイドル辞めたらどうしよう。

 これが他のメンバーだったり、カミキ相手でも平気で言えるが─────絶対に口に出しちゃ言えないが、他の人が辞めるよりも星野が辞める方が、事務所的にダメージがでかすぎる。

 

 かといって、このままで良い筈もない。

 それなら、俺が言いたい事を押し込め、別の言葉で星野を慰める。

 

 ─────いや、駄目だ。

 俺は最初に星野に、嘘を吐くなと言った。だというのに、嘘を吐くなと言った本人が嘘を吐くのか?

 

 ふざけるな。そんな情けない事、出来る筈がない。

 

「星野。言っちゃ悪いがな、これからアイドルを続けていく以上、同じような事はまた起こる」

 

 出来る限り柔らかく、努めて声を作り、星野に話し掛ける。

 

「お前のアイドルとしての才能は、癪だが類稀なものだ。芸能界中を探しても、お前ほど才能がある奴はそういない。そんな才能を目の当たりにして、芸能界を諦める奴がまず間違いなく出てくるだろうな。…もしかしたら、B小町からも」

 

「っ…!」

 

 星野の体が大きく震えた。

 俺の言葉を聞いて、想像して、恐ろしくなったか。

 

 …しかし、それを乗り越えていかなければ、アイドルとしてのこいつの未来はない。

 

「星野。もしそれが嫌なら─────悪い事は言わない。今すぐアイドルを辞めろ」

 

 俺と星野は、少しだけだが似ている。

 俺もこいつと同じ道を通った事があるからだ。俺の場合は、こいつみたいに恐ろしくなんてなりはしなかったが。

 

 複数の企業の経営を任されるようになった今でこそ、そんな時間は無いからとっくに止めているが、中学に入るまでは芸事、音楽、武芸と様々な分野にて、本当に色々な事をやらされた。

 自分で言うのもあれだが、かぐやと一緒にその全てでトップクラスの業績を残してきた。そんな中で、今のB小町のメンバー達のような奴らを、俺は何度も見てきた。

 

 俺の才能に嫉妬し、しかし四宮というバックボーンにより手出しは出来ず、ただただ才能の差に絶望し、止めていった奴らを何度も見てきた。

 星野と違うのは、それでも特に何も感じなかったという事くらいか。他の誰が何をしようと、俺には関係なかったから、どうも思わなかった。

 

 しかし、そんな風にハッキリと割り切れる奴の方が珍しいんだと、今の俺は知っている。

 星野みたいにそれを嫌だ、と思う方が多数なのだと、周りを見ているようで見えていなかった幼い頃とは違い、もう分かっている。

 

 それでも、それを割り切り、努力をし続けなければならない。各分野でトップに立つ者達は、誰もがそうやってきた。

 そしてこいつは、芸能という分野においてその資格がある。それ程の才能を、こいつは持っている。

 

 俺はこいつに、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 だが、それが出来ないと、誰かを傷つける事が嫌だというのなら─────ここで道を外してやるのが、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「よく考えろ。そして決めろ。…安心しろ、どちらを選んでも、お前の背中を押すと約束してやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




続きます。
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