無意識少女と殺人鬼   作:ナチュラル7l72

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地獄の責め苦

中は思っていた以上に奇怪な空間だった。

昔ドラえもんをよく好んで視聴していたがそれに登場するタイムマシンを乗り時代を遡るときのあの謎空間のようだ。あの空間に流れていくダリの溶けた時計がそのまま謎の眼に置き換わったような感じでかなりのインパクトがある。

 

 

「こっちよ」

 

 

いつの間にか隣りにいた桃色の少女の先導に従い空間を歩く。

どうやらこの空間は三次元ではないらしくなにもないところでふと足を踏み外しそうになり、そして同じくいつの間にか隣に立っていたもう一人の少女に手を借りる。

 

 

「ねえ」

 

 

声をかけられキョロキョロと見回していた視線を少女に固定する。

少女は脈絡もなくどこか恥ずかしそうにしながら俺に続けて声をかけた。

 

 

「私の事も名前でよんでよ。ずっとおい。とかなあ。とかばっかりでさ。お姉ちゃんの事は名前呼びなのに」

 

 

こいつの名前を知らなかったわけではない。故・警察の方々から散々こいしこいし聞かされたからな。なんでこいつ電話口で自分の名前話しちゃうんだ?メリーさんだよ!とかでよかったじゃん。

 

別にこいつ呼びしていた理由は特にはない。ないが俺は殺人鬼だからな。決して殺人集団だと思っていない。だからできるだけこいつと距離を置こうとしたんだろうな。たからを殺したのも斎藤を殺したのも全部俺の責任で、罪だったからそれを俺一人で全部償おうとしただけだ。

 

だがそれはそうとさっきからなにか圧を感じる。そう、ちょうど俺の右隣からこいしと会話をしているだけで射殺さんばかりに凝視してくるさとりさん。

怖っ。お姉ちゃん怖いよ。その目の隈の付き具合で睨まれると本当に怖い。別にこいしを取って食うわけじゃないんだから結婚先のお義父さんよろしく睨まなくてもいいじゃないか。

 

 

「…そう」

 

 

「ほら、こいしって呼んで。こーいーしー!」

 

 

お得意の浮遊で俺の耳元まで飛び立ち囁くように自身の名前を連呼するこいし。邪魔くさくて仕方がない。いくら引き剥がそうとしても慣性が働かないかのようにどかそうと手を振るったその手にも引っ付いてくる。

そしてそれを見てまたも俺を凝視するさとりさん。だから怖い。本当に殺してきそうな殺気を感じる程だ。俺死刑の危機から逃げ切れたと思ってたけど私刑の危機に陥ってない?

 

 

「…ここね。さあ、入ってください燿さん」

 

 

「ここは?」

 

 

さとりさんが血色の悪い指で差したのは入るときにも見た空間の裂け目だ。奥にはどこかの事務室のように見える。

 

 

「貴方が住む場所よ。これからよろしくおねがいしますね」

 

 

にぱーと疲れたような笑顔を見せつけるさとりさん。その表情は歓迎というより企みの気配を感じる。とても胡散臭く俺は思わず苦笑いしてしまう。何故なら「ああ、これ俺利用されてるな」と悟ってしまったからだ。

 

にこにこと無邪気に笑うこいし。にこにこと俺をなにかに利用する気満々な邪悪な笑み。そのニコニコ空間に俺は後退りしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、俺はいつまでここにいなきゃいけないの?」

 

 

ここに来て一年が経過した。

未だ眠気が取れない眼を擦りながら一年を思い返す。

 

ここに来た俺に待ち構えていたのは地霊殿の主の従者という役職と大量の仕事だった。

 

もはやこいつらの所有物の一部となった俺は馬車馬のように働かされ毎日がサービス残業の日々。というか給料が住居費食費施設代全てと同額に設定されているのでいくら働こうがいくら残業しようがその分食事が豪華になり俺のポケットには一銭も入らなくなっていた。もはや詐欺のレベルだ。

 

辞職しようかと画策したがこの場所はどうやら自宅からそうとう離れているらしくさらにここの都市は洞窟の中にあるようでロッククライミングなんてできない俺は到底逃げることができない。

 

いや言いたいことはわかる。何故辞職の話で逃走手段の話が出てきているのか。そう言いたいのだろう。

しかし今にも死にそうなさとりが馬鹿みたいな量の仕事をしているのを不憫に思って仕事を半分くらい肩代わりしているうちに味をしめたのか今更逃してくれなさそうなのだ。

 

おかげで初対面の時と比べ彼女は随分と肌がつやつやもちもちになり目の隈もすっかり取れ幾分か爽やかな雰囲気になった。

更に言えばなにやら仕事をしているうちに筋骨隆々なここ、旧地獄の住人である鬼にこの一年で何故か気に入られているようで今故郷に帰ると言ったら何をされるかわからない。とりあえずで死ぬほど酒を飲まされるのは確定だろう。

 

そして俺は毎日のように眠気に襲われ隈もL並みにでき社畜根性が身についてしまった。この覚り妖怪、俺が疲れてんの知ってるくせに容赦なく仕事を吹っかけてきやがる。知っていながら無視するとはとんでもない根腐り妖怪だ。

 

というかそもそも辞職という選択肢は残っていないも同然だ。もし仮に辞めれたとしてもここから帰る手段を持たない俺はここで暮らすしかなくなるのだがここの住民の暴挙の数々に耐えられる気がしない。毎日のように吹き飛ぶ家屋。力士の様な体格をした鬼達がすっ飛んでいく姿はもし巻き込まれたら痛いじゃすまないだろう。

 

 

「?一生にきまってじゃないですか。そもそも現で咎人扱いを受けている貴方が元の世界へ帰れたとしても精々捕まって処されるだけよ。おとなしく私の手足として働いてください」

 

 

「え!もしかしてまだ帰るつもりでいたの?」

 

 

「あれだけ外堀埋められてきてるのにまだ帰ろうとしてるなんてすごいねえ」

 

 

「そうだよー!せっかくおいしいものとか気持ちいい日向ぼっこの場所とか紹介してあげようと思ってたのに!」

 

 

一月一日。元旦での仕事納の文化はこの異邦の地にもあったらしく大量の書類といったんおさらばしひと時の休みを享受しているというわけだ。

 

俺は仕事部屋兼自室で久々に七時間以上の睡眠をとろうとしたがちょうど昼食の時間と被ってしまい「ペットは全員一緒にご飯を食べる」というここの謎ルールによって俺より背の高い空に首根っこを掴まれ連れてこられてしまった。地味に俺をペット枠として雇用されている事実に涙を禁じ得ない。

 

 

「…いや、俺は帰るからな。一刻も速く帰らなきゃいけないんだよ」

 

 

真顔で魚を丸呑みしているハシビロコウをなでながらそう返す。

 

なんだかんだいってここでの仕事も慣れてきた。それに鬼の連中ともそこそこ仲良くなり一応ではあるが目上の人物として敬ってくれているし猫や鴉とも外食を食べに行く程度には友好関係が構築できている。

 

ここにいるのが嫌な訳では無いが俺には情報分野を勉強して人工知能使う生業になるという将来の夢があるのだ。仕事をこなしながらも休日にプログラ厶を使って遊ぶというのはなかなかに楽しそうだ。

 

しかし昨今の技術系の仕事はプログラミングを出来る、という一芸だけでは生き残れないらしい。だから英語を使えるとか電子の話にも明るいとかその辺の個性を持っておかないといけないのだ。だから俺はこんな所で社畜なっている暇などないんだ。日々の勉学が技術を身につけるのに最適だと言うことは産まれて十数年でわかり切っているからな。

 

 

「えー!そんなあ。そんなにここが嫌いなの…?」

 

 

「もう諦めた方がいいと思うけどねえ。あの粗暴な鬼たちからも認められた貴方が今更その役から降りることを許容されるとは思えないなあ」

 

 

「も、もしかしてあっちの世界で心に決めた相手がいる、とか?!」

 

 

上から空、猫燐、こいしがそれぞれ好き勝手に勘違いだったり感想を口にする。

別にここが嫌いな訳では無いしいくら外堀が埋められていようと掘り返すし恋を経験したのは小学生で最後だ。

 

 

「貴方の犯したモノは一生を地獄で償わせるのにふさわしいものだと思いますよ?」

 

 

唯一俺の真意を読み取ったさとりは俺に1番刺さる言葉を惜しげもなく使ってくる。こういうところマジで性格悪い。

んなもん知ってるよ。もうとっくのとうに覚悟なんざ終わって今はその地獄の真っ最中だ。

後悔した。自責した。なんでこんな真似をと思った。夜になればだれかの怨嗟の声が聞こえてくる。

 

 

「だから俺はあっちの世界で、綺麗ごとかもしれんがせめて社会の役にたって償いたいんだよ」

 

 

そもそもあっちの世界で罪犯したんだからあっちの世界で償うもんじゃないの?いくらここが地獄だといっても旧が頭につくしやらされてる事といえばめちゃくちゃ働かされてるってだけだし。もっと舌引き抜かれるとか血の池地獄で一生泳がされるとか想像してたんだけど。

 

 

「あんなところに行く必要なんてありません。清濁併せ吞む事が社会で生きる事に必要なのだとしたらそんな社会に出る必要はありません。というか行かせません。せいぜいこいしや私と仲良く一生ここで過ごしておいてください」

 

 

怖っ。ところどころ誤魔化してるけどつまるところ死ぬまで働かされるって事?一日20時間は働かないといけないこの環境で?

猫燐が最初はさとり様ずいぶん警戒してたのに今じゃなかよくなったもんだねえとか言っているけどうれしくねえから。それ目を付けられたとも言うから。

 

 

「…俺は帰るからな」

 

 

口から思わず出た言葉。それはあたかも俺の真意からの発露だと見える。が口ではそういいつつたぶん俺は自発的に帰ることはないんだろうなと自覚していた。

ふわりとテーブルを乗り越え俺の周りをくるりと回る。

そして俺の頬を優しく小さ手で包み安心させるように俺につぶやいた

 

 

「大丈夫だよ。私がいつでもどこでも隣にいるからね!」

 

 

その姿は俺がたからを殺しに行ったときと同様に、とても綺麗で幻想的だった。

 

もう二年も前の事。だというのに俺は今更気づく。俺は最初からこいつに捕まっていたのだろう。

俺はああ、そう…と呟き熱を帯びた頬を隠すようにソファに倒れこみべしゃと俯いた。




これでとりあえず区切りとさせていただきます。
元々が99%と思い付きと1%の設定なのであんまりぐだぐだ長引かせても蛇足になるばかりだと思いこんな感じで終わらせにかかりました。

なにげに初めて完結した作品なのでもっと言い終わらせ方があったかもしれません。が作者の技量ではここが限界でした。もっとこいしちゃんの魅力を伝えたかった…

一応設定集や後日談も投稿する予定なので興味があるようでしたらそちらも是非ご覧ください。

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