無意識少女と殺人鬼   作:ナチュラル7l72

12 / 13
本編外
仕事


「これもやっておいてくれませんか?あと…これも。これとこれも」

 

ぽいぽいぽい。ぽぽいぽいぽい。

 

死ね!

 

「悪魔!」

 

「なんとでも。私は良い上司ですね。暴言を吐きまくる部下に大した罰則も与えず許すなんて」

 

ゴミ!クソ!性悪!

 

紙束となってまとめられている仕事の書類を蹴とばしついでにテーブルを踏みつける。気分は教師に盾突く不良だ。

 

そしてその教師役、さとりは三つ目の瞳も合わせて俺に視線を向けてくる。

 

「これくらい前からできていたでしょう。今日に限っていきなりどうしたんですか。反抗期ですか?」

 

淑女のような笑み。とは程遠いにやにやしたような笑みをしながら俺の抗議活動にそう返す。こいつ俺の考えてる事わかってるくせによう。逝ね!

 

「俺を何連勤させるつもりだ。もう数えてないが二桁は余裕で行ってるぞ馬鹿野郎!」

 

「私は野郎ではありません」

 

「馬鹿尼!」

 

俺の怒鳴りをするりと受け流しつつ崩れた書類タワーを再建しだす我が上司さとり様。テーブルに乗り出している俺の足の上、つまり膝に器用に紙束を重ねていく。

 

「貴方、確か贖罪のために社会の役に立ちたいんじゃなかったんですか?ならこの程度我慢してください」

 

はあ…といかにも私疲れてますアピールをかましながら上目遣いで俺を見つめるさとり。うーん。うざすぎて血管はちきれそう。

 

「ぶっ殺してやろうかクソ上司ぃ」

 

「できるもんならやってみてください精神よわよわ燿君。ちょこっと同族殺したくらいであんなに悩むのだからほんと、面白いですね人間って」

 

けらけらからから笑いながら最後の書類を膝の上に建設されたタワーに載せる。高さはちょうど俺の目線と同じくらいだ。だから多すぎだろ何日かければこれ全部終わるんだ?

 

クソ。ダメだこれぁ。どこ吹く風のようにこの少女はまるで聞きやしない。俺は口を動かすことを諦めペンを手に取る。正直無理だろうなって思いながら直談判していたので切り替えも早いのだ。行動が早い俺だが諦めも早いのだ。トライアンドエラーこれ大事。

 

今度は静かに書類の束をテーブルに置き直してから俺に与えられたソファに座り直す。溜息を吐きつつも仕事に取り掛かり始めたのを見たさとりは何故か自室に戻らず部屋に残り続ける。いやお前も仕事しろよ。

 

「しょうがないですね。なら少し外へ散歩しに行きましょうか」

 

「あそ。留守はしてやるし二度と帰ってこなくていいから散歩して来いよ」

 

家屋の被害を確認し被害総額を記した情報をやらかした犯人に、大工や修理屋に壊れた家の住所の情報を送る。

 

地底の住民はどうも頭がおかしいのか、何でもかんでも破壊しなんでもかんでも肴にし酒を呑む。だからなにを破壊してどれくらいの金額犯人に請求してそれの一部を大工や修理屋の代金にし修理、または再建を頼む。この作業を一日に三桁はやらなくてはならないのだ。

 

そしてこの作業が停滞してしまうと当然どんどん仕事が溜まり、さらにいつまでたっても対応されないと住民が不満を抱き始めそのうち地霊殿は彼らの拳により粉砕されてしまう。だからこれは仕事とは名ばかりで時間制限付きの爆弾を解除するようなものだ。

さっきはあんな馬鹿やっていたが本来あんな事をしている暇などないのだ。仮ではあるが現在の住居である地霊殿をまるで地ならしのように更地にされるわけにはいかんのだ。

 

「いえ貴方もついてきてください。仕事のし過ぎは良くないですから」

 

俺の言葉も待たすたすたと部屋の外へ行ってしまうさとり。どの口がいってんだこいつ。数分前の言葉を思い出しやがれ今更上司面しやがってよ…まあそのお言葉に甘えるんだけど。でも今の俺に必要なのはお散歩より睡眠だと思うんよね。この紋所が目に入らぬか…!(目の隈)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人類は電気の力、転じて人工灯の力で夜を克服し日夜問わず活動し続けている。

がこの世界の鬼達はデフォルトで夜を克服しているようで日夜問わずどんちゃん騒ぎをし続けている。ちょっと視線をずらせば野球ボールのようにかっとんでいく巨体の鬼。宴特有のだみ声バカ騒ぎ。

祭りのように半年に一度くらいのペースなら気にすることなく、むしろ風情を感じながら聞き流すだろう。しかしこれが毎日毎夜つづくのだ。ノイローゼになっちまうわ。

 

そしてそんな年中お祭り騒ぎな場所を潜り抜け打って変わって物寂しい風の音だけ鳴り木霊するような閑散した場所まで長々と歩き続けるさとり。俺は足取り悪く、時々転びそうになりながらも水色のふわふわした洋服の背中を見つめながらついていく。

 

この世界に来て三か月。俺は一生仕事をし続けてきたわけだが存外悪い生活ではなかった。

 

「過労死」という固有名詞が生まれたブラック会社代表国日本でもこんなに仕事をするか?と疑問になるくらいには馬鹿みたいに仕事をし続けそのおかげで精神が不安定になっているのかキレ症を発症しながらも俺はこの生活になにか安心感を覚えていた。

 

殺人鬼になり下がった俺に待っている生活なんて碌なもんじゃない。きっと苦痛と悲痛に満ちたものなると、ならないといけないと覚悟して人を殺し続けていた。

 

たかが四人。されど四人。なにをやっても楽しくない。というより罪悪感という暗く粘っこいタールのような闇が俺の心を支配し続ける。それはいくら殺人鬼として生きる事を決意しようが割り切ろうが俺について回っていた。

 

だが、なぜか社畜として役目を全うしていれば俺は安心感に包まれていた。まるで俺の存在意義が神にでも認められたかのように、生きる事を許されたかのように。

 

「ここがどこだかわかりますか?」

 

「俺ここにきてこのかた一度も地霊殿から出されたことがなかったもんでな。初見だよ」

 

恨みったらしくそういう俺に気にしたような様子もなくさとりは上を見上げる。俺もつられてそっちに向けるとぎらりとした太陽光が俺の目を焼いた。

 

「ここは地上と地底が唯一つながる空間です」

 

「なにこれ、縦穴?」

 

「ええ。陥没でもしたんでしょうね。崖ではありますががんばれば地上へ這い上がる無二な空間でもあります」

 

首が痛くなり阿保みたいに開けていた口を閉じ見上げていた顔を下げる。既にさとりは天など見ておらずその視線を俺に向けていた。

 

「まあ、こんな断崖絶壁一般人な俺じゃあ登れるわけもなしよな」

 

つまり、なにこいつ。俺の脱走する気概とか削ごうとしてるってこと?一生仕事させて物理的に脱走不可能にしてるくせしてさらに追い打ちの如く精神的にも脱走不可にしてくるとかやはり鬼畜。流石さとりきたない。

 

「違いますよ。そもそも貴方の心の内で脱走しようとなんて考えてない事ぐらいもう理解(わか)っているのでそんなことわざわざしません」

 

そうね。俺ってばなまじ適応能力とか理解力とかあるから脱走は不可能だって最初の一か月で理解したしそれを打破しようと考えるよりいかに楽に仕事をこなすかを考えてばっかで適応しようと必死だしな。今もどうにかこの会話を長くして仕事するまでの時間伸ばそうとしてるし。

 

しかしそんな就労反骨精神を抱いている俺を今しがた悟ったはずにも関わらずそれについて言及せず無視し続けている。言外に気にしていないと言っているのだろう。

おかしな事に我が敬愛すべき上司さとり様は敵というよりどちらかというと味方よりだからな。めちゃんこ煽り合いしてるけど俺もさとりも仕事に苦しめられ寝不足に苛まれているからな。じゃあなんで互いに対立しているのかというと「誘拐され連れてこられたこの環境から逃げたい俺」「大量の仕事に殴殺されそうだった所を俺に仕事を肩代わりさせることでなんとか生きながらえているさとり」で目的がぶつかり合っているからだな。全ての元凶は仕事だっていうのに。

 

「あくまで本題の文頭に話題として出しただけです。いわば時候の挨拶みたいなものですよ」

 

ん、んっ。と軽く咳ばらいをしつつ備え付けられたベンチのような場所に腰掛ける。寝不足も相まりふらつく足を諫めながらもそれに倣い隣に腰掛けると口を開いた。

 

「気づいていないかもしれませんが、少しワーカホリック気味になってますよ。適度に休息をとってくれないと長期的な目線で見た時作業効率がさがってしまうのでちゃんと睡眠をとってください」

 

嗜めるような言い方に少なからずムカついたがここは冷静になろう。所詮単位時間当たりの作業効率が~とかそういう話だ。適当にその辺りの埋め合わせをすればいいだけの話。その旨を話すだけでこの話題は終わる。

 

そう声に出そうと口を開こうとしたとき、人差し指でもってそれを止められる。突きつけられた指は細く白い。おそらく既に俺のこの考えを読んだのだろう。

 

「なにも理解していないようですね。まあ作業効率を引き合いにだしてしまった私も悪いですが。なら少し思い出してみますか?」

 

なにを言っているのか数秒理解できなかったがその言葉の真意に気づき慌てて手のひらを顔の前に持ってこようとするが既に手遅れ。もう俺とサードアイの目線は合ってしまっている。

 

「想起「テリブルスーヴニール」」

 

手のひらと同じくらいの大きさの眼を見つめつつも俺の脳は違う映像を映し続ける。サードアイで想起させられる情報が視覚からの情報を邪魔しているようだ。見ているはずがないのにまるで目に映っているように感じさせられる。

 

『貴方はここと、ここの精査をしてください。あとは私がやるので』

 

『…そうか。ならこの束の半分はよこしてくれ。いちいち前の仕事が終わって新しい仕事もってくんの面倒だから』

 

「これは貴方が地底にきて一週間後くらいの記憶ですね。この頃は仕事に慣れていないであろう貴方にそれ程仕事を割り振るつもりはありませんでしたが、何故か貴方の方から仕事を貰いにきたのでもしや私の美貌で狂わせてしまったのかとひと時心配してしまいました」

 

きっとその時の俺が聞いてたならその妄想を心配するより自分の体調に気にかけろよとツッコミしていただろう。あの時のこいつは枯れ木の枝のようにたゆめば折れちまいそうな様相してたからな。今にも過労で死にそうな少女。美貌について話すなら容姿に直結する体調を改善させてほしいものだ。今はだいぶ良くなったが。

 

「私はこう見えて初対面には礼節をもって対応しているんですよ。だから最初はあまり貴方の思考を読まずお互いが干渉しない不快のない環境を作ろうとしたのですが貴方が私をさとりだと知っても動じなかったので今は遠慮せず貴方の心を読んでいます。偉いと思いませんか?」

 

心読まれたら不快じゃないかと思ったならそれ継続しろよ。その時の俺が不快に思わなかったとしても後の俺が不快に思うかもしれないだろ。いや、まあ、今もそれなりだけど。

 

「つまりですね、最初は貴方が私に同情かなにかして仕事を増やしているのかと思っていたんです」

 

 

 

 

「しかし、どうも貴方は仕事に追われることで殺人を行ったことで生じた罪悪感を打ち消そうとしているみたいですね」

 

過去の映像が歪み消えていく。我に返るとなぜか俺は天を見ていた。いや、俺はなにか柔らかいものを枕にしてベンチの上で寝ているようだ。

顔をずらし横を向けば下地にしているピンク色のスカートがはためいているのが見える。俺はどうやらさとりを膝枕にしているらしい。おいおい上司をまるで寝具のように使う俺めっちゃ不敬じゃん。鬱憤が晴れる気がしてくるぜがはは。

 

いやどないなっとんねん。不敬とか鬱憤とかその前にパーソナルスペースをもう少し気にするべきでは?あとここ屋外だよね。誰かに見られたらすげえ嫌なんだけど。マジで嫌。星熊から一生酒の肴にされる未来が容易に想像つくぞ。

 

起き上がろうと腹に力を入れるがさとりの指で額を押されて起き上がることができない。決して俺の腹筋がカスとかそういう訳では無い。椅子に座った状態から立ち上がろうとした時人差し指で額を押され続けるとできないのと同じだ。じゃあなんでいまそれされてるのかって話ね。どーけーよーヾ(:3ノシヾ)ノシ。

 

「ジタバタ暴れないでください」

 

ベンチの上で高校生が手足をばたつかせながら暴れる…中々きつい光景だ。

そう思い不本意ながらも上司を枕代わりにする。ちょっと足がきついからもっとベンチの端によってくんないかな。

 

「諦めたからといって文句を言わないでください。そもそもこれは貴方が悪いんですからね」

 

俺?

 

「貴方は人殺しによって生じた罪悪感に恐怖しそれから逃げ続けている。逃げる事はいけない事ではありません。それすらできずに壊れてしまう事象は多々ありますからね。しかし重要なのは逃げて逃げ続けて、何時それに立ち向かうのかという事です。人殺しの罪と向き合う事はそうないだろうと貴方は考えているかもしれませんが必ず貴方の前にまるで審問官のように罪悪は立ちはだかります。貴方に今必要なのは睡眠でも休息でもありません。

罪を受け入れられず仕事に逃げて仕事を増やし続け自らを破壊しようとする貴方の改革です」

 

勘弁してくれ。この限界環境における唯一の逃げ場を潰しにこないでほしい。そもそもが未だに慣れていない環境なんだ。妖怪やら地獄やら鬼やらさとりやらで一杯一杯な俺に殺人罪と対峙させるのは酷というものじゃないか?

 

「知りませんよそんなこと。まだ逃げれるとでもお思いですか?私が急かしてあげるのでさっさと踏ん切りつけてください」

 

そんな簡単にいってくれるなよ。今も心臓がどくどく気味悪くうごめいて否応なしに拒否反応が出る。俺があの3人を殺した…殺せたのも、あの3人を殺し終えたらあの異常な日常が終わるからだと信じてやまなかったからなんだぞ。まさか数ヶ月たった今でも殺人の弊害がでるなんてわかるわけがない。

 

俺は…どうしたってこの罪の意識から逃れられない。

 

「別に逃げるな。なんて言ってませんよ」

「貴方が逃げたいなら私も手助けします」

「貴方が傷ついていたら私がそれを癒やします」

「否が応でも気づいて覚ってしまいますから、私はその弱い貴方を受け入れます」

 

「しかし、最後に立ち向かうのは貴方です。いくら装備を周囲が提供したとて最後に魔王に立ち向かうのは勇者自身です」

 

 

 

 

 

「…いや、やっぱ無理だよ。俺にゃ魔王を倒す資質も勇者の資質もないってことはあの時わかったし」

 

いい加減膝枕されるのも嫌になりさとりの拘束を解き立ち上がる。

 

「俺はどこまでいっても殺人鬼。人を4人も殺したくせして未だに自分が殺人鬼だって自覚が抜けきれていない小心者。そういや警察官も含めたら6人か?そんだけ殺してもまだ罪悪感が薄れないんだ。だから殺人鬼だって受け入れたんだよ。2人目を殺した時点でな」

 

依然としてなにも変わっていないはずなのに妙に晴々とした気分で伸びをする。寝起きに朝の日差しを浴びた時のような感覚。未だ睡眠不足の筈なのにな。

 

「罪悪感を打ち倒すなんて逆立ちしても無理だけどさ、殺人鬼であることを受け入れることぐらいなら俺にもできる」

 

俺はこの罪と共に生きていく。そう思うと少しだけ、体が軽くなったような気がした。

 

「…難儀な生き方をしますね」

 

さとりも立ち上がり用事はすんだとばかりに地霊殿に向かって歩いていく。

 

「さっさと仕事を終わらせますよ。無論、貴方には適切に大量の仕事を捌いてもらいますからね」

 

「大量の仕事は適切じゃねえよ労基に訴えんぞ」

 

すたすたと俺より背が低いくせして早足に歩いていく。

殺人鬼は少女に追いつくため、走って追いかけていった。




なんでも受け入れてくれるさとりん相手にてめえの手なんか借りねえ!するの大好き。もっとこの展開増えねえかな
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。