無意識少女と殺人鬼   作:ナチュラル7l72

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暗あ…


殺人

俺はこいつが嫌いだ。

 

いつも目の敵のように嫌がらせをしてくるこいつが本当に嫌いだ。なにもしていないのに嫌がらせしてくるとか理不尽極まりない。

 

だが、殺したいほどじゃなかった。

 

 

「ふぅー…!ふぅー…!ごほっ…!」

 

 

地べたに転がっているたから。

そこを中心に湧き出る赤い血。

赤く染まったナイフを持つ俺。

 

 

「うんうん。初めてにしてはよく出来てるね!ちゃんと致命傷にさせれてるし!」

 

 

俺の後ろでぴょこぴょこ跳ねる殺人鬼。

いや、殺人鬼は俺の方だったんだ。

湿る手を覗きながらそう理解した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい。これ何処向かってんの?」

 

 

「んー?」

 

 

家から出て歩く事数分。

辺りはもうとっくに暗くなり街灯がなければなにも見えていなかったであろう道を歩いている。

 

 

「そもそもなんで私が貴方を殺そうとしてたか知ってるー?」

 

 

「たからに依頼されたとか言ってなかった?」

 

 

なんでさっきまで殺しにきてた相手と仲良く歩いているんだと疑問に思うかもしれないが俺もそう思う。

だけどこのまま目のつかない場所に行かれたらそれはそれで怖い。いつまた俺の命が狙わるかわかったもんじゃないからな。なにか他に解決方法があるならそれに越した事はない。

 

 

「うーん、それはそうなんだけどね。正確には【契約】したんだ」

 

 

「契約?」

 

 

契約書とかに印とか押すあれの事だろうか。お互いの同意があれば色んなことを法的に保証するみたいな奴。でも日本が他人の殺人を保証してくれるくらいヤバい国ならとっくに潰れてそうなもんだけどな。

 

 

「たぶん想像してるものとは違うと思うけどねー

メリーさんの噂って聞いたことある?願いを叶えてあげるけど叶えたら殺しちゃうってやつ

私ソレなんだよねー。その噂を通して宝君とは契約を結んだんだ」

 

 

んだんだーとつぶやきながらくるくる回る殺人鬼。

何言ってるかまるでわからんが要はたからと契約を結んだから俺を殺しにきたって事か。

 

 

「対価は宝君の死!噂を知ってる上で私に頼んできたんだからもう宝君は死亡確定!貴方を殺したあとすぐに宝君も殺すつもりだったんだけどねー」

 

 

それ実質俺とたからの命の重さ同等ってことだよな?普通に嫌だな…

 

どちらかというと学校方面にてくてくふわふわ歩いていく。そんな俺たちの向かい側から人影が伸びる。

夜にも関わらずなぜか俺らの行く方向から小学生や高校生らしき学生、よく見るおばさんが一斉に帰宅しようとしているのが見える。当然だがこの時間に小学生は普通帰らない。

 

 

「あれは私の能力の弊害だね。ここら一帯の人たちを今までここに来させないようにさせてたからさー」

 

 

「もしかして警察呼んでも出なかったり親がいつもでも帰ってもないのは…」

 

 

私のおかげだね!と元気よく言う殺人鬼。マジかよこいつが諦めてくれなきゃ俺ほぼ確実に死んでたじゃん。

俺の両親に関してもたぶん朝になったら帰ってくるよ。ホテルに誘導したから。とついでのように言ってくる殺人鬼。それは知りたくなかった。

 

 

「もうほんとに、貴方耐えすぎだよ。まさか早朝まで粘られるとは思わなかったなあ」

 

 

「早朝?」

 

 

空をみると遠くにうっすら太陽の光が見えている。

え、俺三時間くらいしか経ってないかと思ってたのにこれ十二時間くらい経ってね?俺そんなに集中力続かないタイプのはずなんだけど。火事場の馬鹿力ってやつはすげーや。

 

 

「だからさ、さっきも言ったようにこのままだと私の、メリーさんのブランドに傷がついちゃうんだよね。

私たち妖怪は人の恐怖を糧に生きてるからこのままだと”所詮噂か”みたいな感じになっちゃって減っちゃいそうなんだよ!」

 

 

「はあ」

 

 

「興味なさそうだけどこれは貴方にすごく大事な話だよ?それこそ命に関わるくらいね」

 

 

突然告げられた内容に思わず殺人鬼を注視する。相変わらずにこにこ笑いながら空中に浮いているこいつの表情には殺意や敵意らしきものは見えないが、逆になにを考えているのかもわからない。

 

 

「契約をしようよ。私と貴方で」

 

 

「お前と契約?」

 

 

「うん。私に協力してよ。そのかわり私は貴方を絶対に殺さない」

 

 

ふわりと俺の前に飛び入り手を差し出してくる殺人鬼。

どこぞのキュゥべえみたいな事を言ってくる辺り不穏でしかない。

 

でもこれは二択に見えて実質一択だ。

断るなら多分俺はまたこいつに一生狙われ続けられる事になるだろう。びくびくしながら生活するのはごめんだし、命は何物にも変えられないものだからな。倫理的にも俺は正しい。はずだ。

 

 

「それで、これどこ向かってるんだ?」

 

 

伸ばされた手を無視して道のりを歩く。

とりあえずは保留だ。命も大切だが悪い奴の提案に乗るとろくな事がないって漫画じゃ常識だから。

 

 

「まーとりあえずついてきてよ」

 

 

抜かした俺の横を通り抜け飛びながら俺を先導する殺人鬼。

そういえばこいつ浮遊してるのに誰も目向けないな。それを抜きにしてもこの殺人鬼のビジュアルはかなり凄い。殺しにきたこいつに思わず告白しちゃいそうになるくらいには。

アニメから出てきたかのような容姿なのに、なんならそいつについていく俺にも誰も反応を示さない。これまたなんか使ってるんだろうな…

 

 

そんな事をぼんやりと考えながらついていく。今思えばこれが良くなかったのだろう。まだ引き返せる。悪いのはこの殺人鬼だ。そう浅い事しか考えず気づいた頃には手遅れになっているんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マンションっていうのは建てれば儲かるものじゃない。立地とか設備とか金額等から人が集まり住むようになるからだ。たぶん。

 

俺はこのマンションの設備とか金額は全く知らないが立地に関しては最高と言えるだろう。

歩いて数分の場所に小学・中学校があり、最寄り駅もそれなりに近くスーパーや雑貨店等も自転車で数分の場所に点在しているため非常に住みやすいマンションといえる。

 

当たり前だが俺の家ではない。この前口上でそう思う人はいないと思うが。これで俺んちならただの自慢だからな。

 

 

「ここが目的地か」

 

 

「そうそう。ここで貴方に協力してほしい事があるんだよね」

 

 

「でも入れないだろ。この時間帯人も出入りなんかしないだろうし」

 

 

小学生の時、このマンションの遊び場によく遊びにきたものだがここに入るときはいつも知らんおばさんに便乗して入っていた。

マンションのオートロックは中の住民の承認さえあれば入れるが目的地がマンションの遊び場であるため友達にわざわざエントランスに備え付けられた受話器で電話するのは憚れたためその不法侵入紛いの事を毎度行っていた。昼時でさえ運が悪けりゃ誰も行き来しなくて入れなかったのに更に深夜となるとそれで入るのは絶望的だ。

 

 

「だいじょぶだいじょぶ。もうすぐ来るから」

 

 

「?」

 

 

アクセサリーかなにかだろうか。服の中から伸びている紐に繋がっている瞳を閉じた目のような紫色のものを撫でながらそういう殺人鬼。

殺人鬼の言葉に疑問符を浮かべているとエントランスの奥、ガラス扉の向こう側から数十人はいるであろう人集りがこちらに来てオートロックの扉を開ける。

 

 

「さ、入ろ!」

 

 

「お、おう」

 

 

何だったんだ今の人達…。このタイミングで人がくるのはたまたまではないだろう。こいつまたなんかしているのか…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たん、たん、たん、たん

 

俺の足音だけが鳴り響く廊下に影が2つ。

突き当り右の階段を登り三階のフロアにたどり着く。

こんなところでいったい俺に何を協力させるつもりなんだ。

 

 

「契約は絶対に守らなくちゃいけない」

 

 

「…?」

 

 

「破ったら死んじゃうよりも酷いことになるからねー」

 

 

「…まあ、そりゃそうだろうな。契約に破ったときの代償がないなら誰も使わないだろうしな」

 

 

「でもさー、変に思わなかった?」

 

 

「…なにが」

 

 

「私は宝君と、暫定だけと貴方とも契約を結んでいる。

一方は君を殺す。もう一方は君を絶対に殺さない。

これって矛盾してるよね?」

 

 

「そう…だな」

 

 

俺は【契約】についてなにも知らない。だが聞いてる限りかなりの束縛力があるみたいだ。なら矛盾した時点でこいつには相応の代償が降り掛かってもおかしくない。まだ暫定だからか?

 

話しながら廊下を歩く。3-8、3-7、3-6。

3-5。高野

 

 

「私と契約するかしないかをここで決めて。

もし契約しないなら私は契約を執行するために絶ー対っ貴方を殺す」

 

 

まるで脅すかのような物言い。

俺の前に立ち懐から出したナイフを左手に持ち右手をこちらに再度向けてくる。

俺がこの手を取ればきっと殺されることなく無事家に帰ることができるだろう。

そして手を払えば俺は死ぬ。

脅すことも含めてなにか必ず裏がある。

だが俺はその手を取ることしかできなかった。

 

 

「うん!じゃあ契約成立だね!」

 

 

取った手をそのままに手を引かれる。

殺人鬼は3-5と書かれた表札の扉のノブを回し、開く。鍵は何故かかけてられていないようだ。

 

 

「こっちだよ」

 

 

人の家にも関わらずズカズカと部屋に入っていく殺人鬼に引っ張られる形で俺も入室する。

廊下を渡り星マークのついたプレートが掛けられた個室への扉を押し開き中へ入る。

人の気配がない。いや、先程まで誰かいたのかもしれない。机の上に散乱した食器がそれを物語っている。

そして先程までいた誰かはいったいどこにいったのか。

 

 

「ここだね」

 

 

殺人鬼がまるで最初からわかっていたかのように探しもせずがらりと押し入れの扉を開ける。

案の定、そこには先程までいたであろう人間…岡野宝がいた。

 

 

「ひっ!おま、お前!西辻!」

 

 

「たから…?」

 

 

岡野という表札から察してはいたがやはりここはたからの家か。

たからは酷い顔をしていた。涙のシミと跡が残りがたがたととても怯えているのが見てとれる。そんなに怖いなら俺を殺すお願いなんかしなけりゃいいのに。俺も怖かったし誰も幸せにならないぞ。

だがなんで殺人鬼は俺をたからの家に…?

 

 

「実はね、契約にも穴はあるんだ」

 

 

「お、おい!母ちゃんはどうした!母ちゃんいんのになんでお前入ってきてんだよ!」

 

 

「【契約者が死んだらその契約は無効になる】でも被契約者が契約者を殺してもその契約は無効にならないんだ。めんどくさいよねー」

 

 

「…お前、まさか」

 

 

「そう!」

 

 

 

「貴方が宝君を殺せば契約は無効になる」

 

 

 

俺にナイフを押し付けるように手渡す殺人鬼。そのナイフは見た目以上に重く、冷たい。

 

足が震える。手が痙攣する。目ががたがた小刻みに揺れる。

 

俺が、たからを、殺す?

 

なんで、こんなことになってしまったんだ。

俺は生き残った。理不尽に襲いかかる脅威を避けきったと思ったら、なんで。

俺が何をした。殺されるような事も人を殺さなくちゃいけないようなこともしていない。

 

 

「別に逃げてもいいよ。私にとってはそれでもいいしね」

 

 

反射的に扉をでて家へ逃げ帰ろうとしたが、これは駄目だ。

「契約は絶対に守らなくちゃいけない」

この言葉が正しいならこの部屋をでて逃げた瞬間協力をしていないとみなされ俺は死ぬ事になるだろう。

殺人鬼の言うそれでもいいとはそれによって俺が死ぬ事で契約が無効に、なんなら願いを叶えた暁にたからも殺すのだろう。

 

もう、詰んでいる。

 

 

「おい!やめろ!やめろって!それを持って俺に近寄るな!出来心だったんだ!いつも委員長と話してるお前が憎かったんだ!それで女子から噂とか聞いちゃって!悪気があったわけじゃない!本当だ!嘘じゃない!それに噂が本物なんてさ…!誰が予想出来るんだよ!お前だってそうだろ!きっと俺と同じ立場ならお前も噂に頼ったはずだ!女子にモテてるお前にはわからないかもしれないけどさ!ここで近づくのをやめてくれれば、そう!お金!金やるから!こう見えて母ちゃん稼いでっから!タンスの裏にヘソクリあるの俺知ってんだ!そっから盗めば数万くらいさ余裕さ!だ、だからやめろ!ナイフを俺に向けんな!一生のお願いだ!ここで俺を殺さないでくれたら何でもする!お前の奴隷になるし金もやる!高い指輪とかも家から盗ってくるし!やめろ近づくな!おい!話聞いてんのか!俺にこれ以上近づいたら、あれだぞ!お前の頭ぶん殴って脳みそ破壊してやる!ナイフを構えるな!なんでもいいから置いてくれ!やめろオオォ!」

 

 

 

「げほっ、げほっ!あ、あああ!血が!血があ!」

 

 

 

嫌だ

嫌だ!

誰か助けて!

父さん!母ちゃん!おばさん!爺さん!いいんちょおおお!

 

死にたくない…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お隣が叫び声に反応して突撃してくる事を危惧していたがどうやら少女が事前に人を操る力で近くの人間を別の場所に移動させていたようだ。おそらくエントランスで出会った人集りがそれなのだろう。

 

少女はいつの間にかどこかに消え殺人鬼は家に帰り床についた。

 

きっと夢だ。さっきから眠たいし体も疲弊している。このまま瞼を閉じてすっと眠れば起きた先はきっと現実。なにも心配することはない。

 

 

 

 

 

 

 

目が覚める。時間は9時だ。

いつもなら遅刻なんて絶対しないのに母に叩き起こされ荒れた部屋を経由して玄関から外に出る。早足で学校まで行きふらついた体を授業中の教室へ滑り込ませる。

お前なにやってんだよーとからかわれるであろうからその返しを考えていたのだが何故かクラスの雰囲気が暗い。無駄に終わった。

 

無性に眠い。9時に起きたはずなのに4時間も寝ていないかのようだ。そんなはずはない。昨日はすぐに寝て明日に備えたはずだ。

 

授業の終わり際先生に遅刻について言及され叱られる。へへへとおどけてみせるが反応が悪い。なにかあったのだろうか。

 

昼休み。友達が俺に近づき言ってくる。

 

「たから、死んだらしいよ」

 

 

俺が殺したんだったな。




まだモチベは続く!
ので続く
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