「 報告書
作成日:5月23日 作成者:小山
事件発生日:5月22日
詳細:
5月22日 渡辺隼人が自宅で刺殺されているのが発見された。電話の記録を調べた結果、学生間で度々噂される怪談話、『メリーさん』を語る「こいし」による殺人と断定。今回で108件目となる通称『メリーさん殺人事件』が発生した。
指紋やDNA鑑定ができる毛髪などの採取も試みようとしたが失敗。住民以外のものは落ちていなかった。
さらに死亡推定時刻、渡辺隼人の両親はコンビニにそろって買い物に行っていたらしく、『メリーさん殺人事件』に共通する、犯行現場の目撃者がまたもいない結果となった。前者もまた同様である。
しかし今回、従来の事件と違い殺害依頼をされたと予想されるの西辻燿は殺害されず渡辺隼人殺人事件の後、生存していることが確認されている。
西辻燿がこうして殺害依頼をされたにもかかわらず生存しているのは『メリーさん殺人事件』の一つとされる岡野宝殺人事件でも同様であると確認されている。
当時はなにかの偶然ではないかと思われていたが、二回も殺害依頼を受けたにも関わらず生存しているのは不自然である。
よって、今回西辻燿には重要参考人として取り調べるものとする。
以上。
」
(はあ…だりい…)
俺は殺人鬼だが、別に社会不適合者ではない。
というか俺は学生兼殺人鬼。あまり学生で社会不適合者とか聞いたことがないし殺人鬼は別にニートとかヒモとかとはまるで別ベクトル。歴史上殺人鬼の身で社畜の人とかいくらでもいただろう。
(授業サボれねえかなあ…)
なのになんでこんなにも後ろ向きな態度で授業を受けているのかと言えば、
「よーし。お前らあ二人一組作れー。作ったらストレッチ開始なー」
体育だからだ。
昨日渡辺殺して寝て起きて学校に行ったわけだが特に休みになるわけではなかった。
奇跡が起きて渡辺の遺体が発見されなかった。わけがなく単に学校に影響する程の事でもなかったという事だろう。
忌引きみたいなことはあるかもしれないが学校側がなにか対処することでもないしな。期待は外したけど予想は当たったって感じ。
そして渡辺を殺した影響か知らないが一部生徒が今日休んだらしい。まあ学校からのメールにうちの生徒が殺害されましたって来てたからな。どっかの親バカな人が自分の子供を守ろうとしたってことだろう。
そして無事クラスメイトの数が奇数になった二人一組であぶれた俺は、こうして一人悲しく呆然と立ち尽くしているってわけだな。体育ってクソだな。ボッチの時からその片鱗は感じていたが…
殺害予定のボッチ仲間こと斎藤は元々この事態を察知していたらしく予約していたストレッチ仲間と組んでいるらしい。
それをぼーっと眺めているとトントンと肩をたたかれ後ろから声がかけられる。
「ひとりぼっちなの?なんか惨めだね!」
「…お前なんでいんの?」
振り返るとそこにいたのはメリーさん。具体的に言うと殺人鬼仲間だ。当たり前だが見た目もさることながらこんなところにいていいやつじゃない。
「他の依頼も終わって暇なんだよね~。お姉ちゃんも忙しそうだし。それでなんで燿はひとりぼっちなの?他の人たちみんな二人一組でなんかしてるじゃん」
「あぶれたんだよ。昨日人殺したせいかなんか知らんけど奇数になって俺が余り1になっちゃったの」
はあ…とため息をつきジャージのポッケに手を突っ込む。体育の教諭もなにか対処してくるわけでもないし。やってられんよまじで。晒し者もいいところ。
「そうゆうわけなんでできれば帰ってもらえると助かるんだが。ただでさえ目立ってんのに独り言言ってると思われたらキモイ奴とか思われるから」
「じゃあ私が相手になってあげようか?」
「え?なんの?」
「みんながやってることの」
もはや見慣れた物理法則に反して少女が浮きながら俺の背に回る。
「ほら早く地べたにすわってよ。背中押してあげるから」
「いやそれだと一人でストレッチしてるさらにやべー奴に思われるやん」
ぐいぐいと押され無理やり校庭の地に座らされる。こいつ結構力強いな。その細い腕のどこからそんだけの力が出るんだ?俺いちお170あるんだが…
「痛くなったら言ってねー」
「へいへい」
適当に言葉を返しながら肩口からそっと誰にもばれないように覗き見る。
斎藤光希。
俺を殺したい意思があるらしい。それを意識してよく観察すると段々分かってきた。
あいつはコミュ障じゃない。俺の前でだけひたすら無口なだけだ。
俺と話すだけでもムカつくのだろうか。蚊かゴキブリのように俺を目の敵にしてくる。
なににそんな切れているのかまるでわからん。されど嫌がらせめいた事はしない。ただその蚊を
だけどまあ関係ないか。
だって今日殺すもん。
「授業って長いんだねー」
相変わらず教室内でふよふよ浮いてる少女はリュックに教科書を詰めながらそうつぶやく。
帰る準備をかわりにしてくれるのは助かるがそう言うならさっさと帰ってほしい。
授業中に袖の中にイヤホンくぐらせて頬杖ついてるふりして音楽聞いてる奴のイヤホンジャック引き抜いてアニソンを大音量で鳴らす遊びをするのはやめてほしい。めちゃバカ笑いしていたがそいつの成績落としたんだからなお前。いや、音楽聞いてるやつが一番悪いんだけどさ。
「50分で6時間は長えよなあ…ありがと」
手渡されたバッグを受け取り背にかけ教室を出る。欠伸をかみ殺しながら廊下を渡り出入口に向かう。そして靴に履き替え校門へ。
俺は何故かさっきからおしゃべりしたそうな少女を無視してさっさと家に帰って勉強しなければいけないのだ。
ただでさえ夜更かしをして殺人しにいっているのだから当然眠い。体育の終わった6時間目には眠すぎて頬杖ついた腕が滑り顔から机に激突してしまった。鼻とかすごい痛い。
自転車置き場は学外にある。さっさと乗って帰るとしよう。
「あー、君。ちょっといいかなー?」
「..はい?」
「おい…」
「んー?」
去年の夏ごろからだろうか。俺..小山久の就職先である警察ではある事件が業界に衝撃を与えた。
通称「メリーさん殺人事件」。
ふざけた名前だが内容は深刻そのものだ。
学生間のメリーさんの噂がこの殺人事件の発生源になっている。なんでも願い事を叶える代わりに依頼者は死亡する。こんなおとぎ話のようなことが現実に起こっているのだ。
ある男子学生は盗まれたおよそ一億相当の札束の中で刺殺されているのが発見され、
ある女子学生は恋人と思わしき男性と寄り添うように胸に穴が開いていた。
いくら調査してもまるでだれもいなかったかのように存在しない物的証拠。
100余りの殺人事件が起きたにも関わらず目撃情報もなし。
いや、これは誤りだ。正確には「まるで人間を動かしたかのような都合のいい現場」。これが一番の問題だ。
事件が起こったとされる日時になにかおかしなことがなかったか遺族に尋ねても、「その時はちょうど家を出ていた。」神にでも操られているかのように皆一様にそう証言する。
そして我々警察はこの事件に手も足も出ていないのが現状だ。
くそったれ。
「お前なんでそんなに落ち着いてんだ。メリーさん殺人事件がようやく進むかもしれないんだぞ」
「かも、だろ?どうせなにも変わらんさ。僕がここにきて3年。この事件はそこいらの迷宮入り事件と比較しても犯行の仕方も、犯人の検討もついていないんだ。『こいし』とやらについても戸籍を調べたがそもそもボイチェン無しなら少女の年齢で100人近くの殺人を犯していることになる。夜神月君じゃないんだからそんな少女もいるはずもないしな。そもそも偽名かもしれないし」
目の前のぼさぼさ頭の神谷は200mlオレンジジュースを飲みながらそう答える。
人操れるっぽいしほんとに凶器はデスノートかもな。なんていいながら笑うこいつにいらっとくる俺は正当だ。
だが神谷の言っていることは正しい。
去年の5件となる殺人事件で被害者学生の友人から警察は噂の本人へとつながる電話番号を入手できた。逆探知機を繋げながら電話をかけると少女のような年齢の女の声で「依頼はなにか?」と告げられる。
話を引き延ばしながら素性を探ってみるがどうにも要領を得ない。
旧地獄だの地霊殿だの。本部は統合失調症と断定したがその割にははっきりした物言いがあり立ち会っていた俺としてはどうにも妄想の類とは思えないものがあったように思う。こちらに依頼を頼む意思がないのを察したのか電話は切られ有用な情報はこいしと言う名前と姉がいるという事くらいだ。
逆探知した場所に向かってみるもただのスタバであり私有地に結び付けることはできなかった。
そしておよそ一年半が経過した現在でも電話口を変え少女との対話を試みているが特に有益な情報は入手出来ていない。逆探知した場所は沖縄の路上だったり北海道の空き家だったり日本海のど真ん中だったり意味がわからない。UFOにでも乗っているのだろうか?
「あ、たぶんあの子だね。うーん、あの神のぼさぼさ感。同志かもな~」
そして今回、事件解決の手がかりとなりえる少年が発見された。
西辻燿。二度の殺害依頼を受けたにも関わらずメリーさんに殺されず現在も生還している男子学生だ。
依頼者の願い事の中には殺害依頼が数多くあり---これは依頼者の大半が学生というまだ未発達な子供であることからなのであるが---必ず依頼が達成されてから、つまり殺害依頼を受けてしまった者から殺され、依頼者がその後殺されるのだが、彼、西辻燿は今現在も殺されず生き延びている。
なにか重要な情報を持っているのかもしれない。
そしてありえないとは思うが、
この一連の事件の犯人である、かもしれない。
「…やる気が無いのは理解できるがあの少年には色々聞かなくてはいけない」
「はいはい。わかってるよ。仕事はちゃんとする。小山さんはいつも堅いなあ」
少年が校門をでて、そのまま帰ろうとするところに声をかける。
「あー、君。ちょっといいかなー?」
「今ねー、巷を騒がせてるメリーさん事件についてちょっと僕たち調べてるんだよねー」
「…お前の通っていた中学でも一度起こっていただろ?」
俺に話しかけてきたのは警察らしい。服装が私服なのは視線を浴びてしまう俺を気遣ってのことなのか。
そこで俺はすぐに気づく。疑われている。と。
そしてそれと同時に今俺が立っているこの地はとても不安定であるという事に気づいた。このままでは俺は一生を警察に疑われたまま過ごすことになるだろう。
いや、最悪死刑になるかもしれない。