アビドス高校一年 雨之こよみです!   作:よわよわよわ

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◇彼女の想い

「…………」

 

無限に広がる砂の海。

 

聞こえてくるのは風の音。

 

私は一人夜の砂漠で座っていた。

 

思えば何を間違えたのか。どこを間違えたのか。

 

"たった一人の"先輩を思い浮かべたのだった。

 

(…………)

 

思考は無く、過去を振り返る。借金まみれのアビドスで飛び切り自由な人間が一人───いや、"二人"。

 

一人は決して諦めず、悲観せず、慈悲と希望を持って生きていた。

 

もう一人は何も知らず、自由と希望を持って生きてきた。

 

彼女達には酷い言葉を投げてしまった。今を生き、明日を夢見て過ごしていた。そこには何の違いも無かったというのに。

 

『ホシノちゃん』

 

また一つ、彼女の幻影が囁く。

 

『……ホシノちゃん』

 

また二つ、彼女の幻影が恐怖と困惑に満ちた表情を覗かせる。

 

 

 

頼りになる……とは言い難いが、信用できる先輩であった梔子ユメ───

 

同級生であり、友人……だった雨野こよみ───

 

私はたった数日の内にこぼれ落としてしまった。

 

あまりにも愚かな自分によって。

 

先輩の行動も、こよみちゃんの行動も、決して手放しに褒められたものではないことは確かだ。だけど……後輩として、友人として少しは弁えた接し方をすべきであったのかと思っている。

 

砂の下へと彼女達が埋もれていく。ゆっくりと流砂に飲まれるように───

 

「おい!そこのお前!」

 

「ここはウチらのシマだぞ!」

 

「ぼーっと座ってんじゃねえ!」

 

()()奴らだ。

 

苛立ちと怒りが心臓から頭へと登っていく。こうなった時は、彼女達は"現れない"ことを私は知っていた。奴らの持っている物にお目当ての物があることを確認して私は弾薬の少ない銃を手に取った。

 

────────────────────────

 

空は暗い、夜はまだ明けない。

 

私は戦闘前より増えた弾薬を数えながら帰ってきた。

 

───一つ、おかしな所がある。居る筈の無い校舎の一室に明かりが灯されていた。

 

急いでそこへ向かい、扉を開ける。

 

「ホシノちゃん」

 

そこには幻影が居ただけだった。

 

(………………)

 

胸の奥では分かっていた。

 

もう彼女達が戻ってこないことを。

 

…………分かっていた筈なのに。

 

 

 

「……………………出てってよ。」

 

「───ッ、ごめん。」

 

────────────え

 

あり得ない返事───

 

いや、これは幻影なんかじゃない。本物のこよみちゃん?

 

何故戻ってきたのか、いや、彼女の転学届はまだ未提出だった。きっと渡しに来ただけなんだろう。

 

「……私は、ホシノちゃんを見に来ただけだから……帰るね。」

 

「えっと……はい。これ。メロンソーダ好きだったよね?」

 

───メロンソーダはそんなに好きじゃない。いや、それよりも。

 

「───転学は。」

 

「……え?」

 

「転学は、しないの?」

 

彼女の気質を考えれば、ここから離れる筈だ。どうしてここに残り続けるのか?

 

目線を忙しなく動かして、彼女は言いづらそうに下唇を噛んだ後、言葉を紡いだ。

 

「…………あと、2年だけど。アビドスに残ろうかなって。」

 

「…………」

 

「…………」

 

「……………………なんで?」

 

互いに硬直の末出てきた言葉はそれだった。

 

───ただの疑問、ただ脳死で彼女の意図を聞き返しただけだ。

 

彼女は答えに詰まり、私はなんとも言えないような雰囲気に包まれる。

 

数度目の硬直───互いは動き出すより逃げることを優先した。

 

「……まあ、分かったよ。」

 

なんとも言えない返事をして。

 

「……うん、じゃあね。」

 

これまたなんとも言えない返事が返って。

 

互いに生徒会室を離れて終わり。そんな会話だった。

 

────────────────────────

 

次に彼女が姿を見せるのは翌日ではなかった。

 

(学園には来てない。何も動かされた形跡がない。)

 

何人かいた生徒は皆転学していった。現在、アビドスの生徒数は2……いや、3人だ。

 

(…………)

 

私は今日もアビドス中を探すつもりだった。先輩がどこにいるのかは分からないが、また誰かに騙されて泣いているに違いない。

 

……きっと。そう願って。

 

「……15日、か。」

 

半月、先輩が失踪してから既に経った日数である。

 

…………正直に言えばもう厳しい日数だ。そんなことはわかり切っている、けど……!

 

……私は探す為に先輩の所持品を集めて回った。日常生活で使っていた物、そして先輩の自宅まで行って手掛かりになりそうなものは全て回収した。

 

だが、どれだけ手掛かりを探そうとも先輩を発見できていない。こよみちゃんと再び出会うまでは焦りの気持ちでいっぱいだった。ほんの少しだけだが、彼女を見て安心してしまった。

 

(……どうして───)

 

悪いことを言った自覚も、何故言ったのかという後悔も噛み切れず口の中に残ったまま。全部飲み込むにはまだ苦かった。

 

 

 

青白い平原、空と砂のコントラスト。太陽の光は私へと注ぎ、照った地面は下から突き上げるように明るい光を伸ばす。どうしようもなくキレイな空の下、私はボロ小屋を発見した。

 

───いや、発見ではない。探し当てた。というべきだろう。

 

「…………」

 

『キャンプみたいに半自給自足で住んでるんだ!』

 

彼女が言った言葉を思い返す。

 

外観、そして一部の特徴から、それがこよみちゃんの家であることは容易に繋がった。彼女の家を訪れた理由については……

 

ドンドンドン

 

───ドアをノックする。

 

 

 

……彼女の家を訪ねた理由については何も無い。ただ、歩いて、ふとした拍子に思い出しただけだった。推論を重ねて彼女の生活圏を特定、住む場所に当たりを付けて訪ねたのだった。

 

(想像以上にボロボロだ。)

 

てっきり、駅の近くで住んでいると思っていた。

 

キャンプをやってみたかったという意味不明な理由でこんな辺鄙な所で過ごしているらしい。

 

「……鍵は流石に掛かってるか。」

 

砂に少し埋もれているが、庭に何かの野菜も育てているらしい。奥にはタイル張りの部屋があり、その中では水瓶が置かれており、これが生活に使用する水らしい。

 

(こんなのでよく生活してるなぁ……)

 

ナチュラリスト?ミニマリストだったっけか?よく覚えてないけど、型破りという彼女を表す単語だろう。

 

あのこよみちゃんは本人だった筈だ。メロンソーダなんて微妙な物を渡しに来るはずがない。そもそもメロンソーダは現実にあるものとして飲めたのだから。

 

ならばここに居る筈と考えたのだが、彼女は不在だったようだ。理由については分からない。一体、何故、どうして───頭にぐるぐると文字が廻るものの、答えは最初から無かった。

 

「……帰ろうか。」

 

このまま彼女が帰って来るまで待っているというのもアレだろう。と私はこの場を後にした。

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