「……つかれた」
心臓から吐き出されたと間違うほど、息よりも小さく吐き出して出た言葉。私は少しのお金を持って学園へと帰ってきた。
(建物の修繕、修復作業……かなりキツかった……)
キヴォトスでは日々の銃撃戦のお陰で建物や道路がボロボロになりがちである。そこで修繕工事の業者が数多く存在するのだ。私はゲヘナ勤務でバイトを行い、後悔をした。
うーん、なんだろうな。仕事が減るどころか増え続けるのって凄いよねって思ったよ。一種のホラーかと見間違うレベルで恐ろしかった……最終的にはゲヘナの風紀委員会っていうのが殆どの不良を鎮圧して物理的に仕事を増えないようにしてくれたお陰で終わることが出来た。
少し……いや、もうホントキツかった……でも、支払いは凄く良く、少ない日数で20万クレジットほど稼ぐことができた。
(20万なんて大金があれば4ヶ月は生きていける……いや、借金の総額から考えたら100分の1にも満たない数字だ。まだまだ稼がないと。)
バイトの紹介をするサイトや雑誌を見て回ったが、飲食店を除いてやはりシェアが高いのは建設、補修などのバイトである。銃撃戦が発生するキヴォトスにおいて付き纏う問題であり、先程も言ったが仕事は尽きない。飲食店はシフト制が多く、短時間かつ掛け持ちした際の移動時間なども考えると総合的に解体、補修のバイトを一本でした方が実入りは良い。
……だけど、これ以上実入りの多いバイトもあったりする。
───"傭兵"だ。
何故金額が高いのか、ということについては非常に分かりやすい。そもそも小競り合いから銃撃戦に発展しやすいキヴォトスでは護衛の価値は高い。金を持っている所では
ならば人間は安いのか?と言われれば『機械人形と比較して』安い。と言わざるを得ないとか。実際、機械人形のみの傭兵事業者は大口での依頼が常らしい。量か質か、という非常に難しい観点なのでケース・バイ・ケースとなりやすいのだとか。
無論、民間企業の質が低いと言っているわけではない。私のような一般人にとっては所謂PMCというものは脅威の対象であり、そこらの不良の集まりよりかは強い。というのが共通認識である。
…………まあ、要するに弾当てしか出来ない私には遠い世界だということだ。
「……私も強かったらもっと稼げたのかな……」
借金返済について学園中を探し回ると、どうやら月一回現金での支払いがあるらしい。それの足しになればと思って働いてみたものの、完済まではあまりにも遠すぎる。例え私が100人居ても完済までに十年はかかるだろう。
……正直に言えば、今持っているお金は月一回の支払いにすら満たない。何故ならば───借金の金額があまりにも多すぎるからだ。
アビドス学園が持つ現在の借金はなんと"8億円"を越えていた。これほど巨大になればもはや返すのは不可能だろう。毎月の利子だって700万円を越している。私が25万を全て借金返済へと充てたとしても余りにも雀の涙だ。
この事実を知った時、私は何故返済をしていたのだろうと考えた。どう考えても払えるはずの無い借金を前にして、どうして立ち向かう選択をすることができたのだろう?
「あれ───」
…………校門の前に人がいる。
治安維持を行う学園が殆ど機能停止していたせいで元々治安が悪かったアビドスが更に治安が悪くなる事態を引き起こしている。特訓の一環として砂漠で走り込みをしていたお陰で振り切ることが出来たが、こう何度も襲われるのはどうにかできないものだろうか。
───いや、今は前の人を警戒しよう。
夏はとっくに過ぎ、秋も終わりが近付いてきた時期。夜はもう寒く、昼間であっても冷えるようになってきた。
そのためか、遠目から見るに大きなコートを羽織っている。首元にはマフラーも付けているようだ。手には肩掛けのカバン───見たことが無いくらい大きな物を持っており、何が入っているのか検討が付かない。
そして……一番気になったのがその顔だ。
(…………)
人相というものは人を表す。その人が何をやってきたのか───というものが表面に現れると考えている。
要するに正面に立っている娘は嘘を付かず、暴力的ではない、という結論であった。……そういえば、2ヶ月くらいずっと自分の顔を見ていない。果たして今の自分の顔はどうなっているのだろうか。
危険は少ないと考えて、私は眼の前の少女の前に姿を表した。
「……アビドス学園に何か用があるの?」
「……えっ、と、副会長のホシノさんに話があって……」
想定の範囲内───か?いやしかし、こんな少女が……一体ホシノちゃんに何の用なのか。それとなく探りを入れてみよう。
「───ああ、ホシノちゃんを待ってたのかぁ。道理でこんな遅くまで……」
「ここで待ってたんですけど全然通らなくて……始めて来ましたけど、やっぱり……」
私は少し考えたふりをして彼女の名前を聞き出した。彼女は"十六夜ノノミ"というらしい。
「へぇ〜、中学生なんだね。」
……正直に言えば年上だと思っちゃったよね。
「ホシノちゃんは……ごめんね。連絡が今取れないっていうか……なんというか。すぐに会わせることは出来ないんだ。」
彼女の今の心はどうなっているか。私には知る必要も、その権利も無い。だからこそ、返せる訳が無い多額の借金を返済するのは私でないと駄目なのだ。
───私がやらないと駄目なのだ。
会えないことを伝えると、彼女は少し沈んだような顔をした。早急な要件なのかどうなのかは分からないが、今すぐ会わせるのは双方にとって良くない筈だ。
ノノミちゃん───彼女の要件は未だに詳細に伝えられず分からないままだ。それに…………彼女の持っている鞄にはとある企業のロゴが入っている。それだけでなく、手袋、靴下などにもロゴを確認することができた。彼女の通う中学校も全く同じ名前であった。
(生徒会室に忍び込んで調べた所、砂による被害が出る前はネフティス社とかなり密な関係だったらしい。恐らく、ノノミちゃんの所属は"そこ"だ。)
しかし、私の警戒に反してノノミちゃんに悪意という感情が無いのはすぐに分かった。例の件より、私はそういったものに機敏になっていた。誰が、どう見ているかと言えばいいのか、向けられる感情に対しては感じ取れた。
わざわざホシノちゃんを指定したということはかなり重要なことなのだろう。先程から私に対して疑念……よりもっと好意的な感情だが、迷いのようなものを感じ取れる。
「……ホシノちゃんが次に来た時に分かるように書き置きでもしておくね。」
結果、これが最低限で最大限の行動だった。
ノノミちゃんと別れて生徒会室へと入り、お金と書き置きを残しておく。これで気付くはずだ。
生徒会室は静かだ。私はそこに置かれていた椅子に座り、この部屋を眺める。
「先輩───ホシノちゃん───」
口から零れ落ちた名前───返事はあり得ない。
私が思うのは後悔───
それと無意味な空想。
そんな
たった、20万、されど20万だ。無いよりかはマシだと少しでもそう信じたい。