非常に複雑な関係だと思った。
───ある程度気持ちの整理が付いたのか、多少は余裕があるような振る舞いへ"好転"した『彼女』
明るい雰囲気を纏うようになり、軽口だって言うようになった。以前までのことを考えればあり得ないことだろう。
しかし、もう一人は"何も変わっていない"。と……この時点でそう思うのは早計だった。
ある日、コヨミ先輩からこのようなメッセージが届いた。
『会って話がしたい。』
私は迷った末に、まだ素性が分からない一人の先輩を知る好い機会だと捉えて返事をした。待ち合わせの場所を決めるのに時間は掛からなかった。
〜アビドス中央駅前〜
「お〜い、ノノミちゃん!」
バタバタと手を振ってこちらに存在を示す姿を見て、ホシノ先輩から聞いていた彼女の姿と同じだとなんとなく理解した。
曰く、非常に気儘な性格だとか。
曰く、何故か異常に頑固な所があったりだとか。
『先輩とは別ベクトルで自由な人だった。』と、ほんの僅かに口に力を込めて話す先輩の様子から仲が良かったのだろう。と推測をする。……生憎、前生徒会長が死んでしまった後で関係は悪くなったらしい。
彼女が近くまで寄ると、悩ましげな表情で指を唇に当てて話し始めた。
「今日来てもらったのはシロコちゃんのことなんだ。」
こよみ先輩はシロコちゃんについて、いくつかの質問をしてきた。住まいや環境や、出会いなど、シロコちゃんに関する情報を殆ど聞き出してきた。勿論、答えれる質問には答えたが、どうして私なのだろうかという疑問が存在していた。昨日、モモトークを交換する際にホシノ先輩と友達になっていることは既に知っていた。
それとなく、"私が信用するに値する人間であるか"どうかを聞いてみた。
「……え?いやいや、そりゃあ信じるよ。そもそも騙す気はないっていうのは何となく分かるし、何よりホシノちゃんがノノミちゃんを邪険に扱ってないからね。」
頑固だったでしょ?きっと、最初は凄く怪しまれただろうし。と、続ける。それを聞いていた私は奇妙なデジャヴを感じた。
「ま、兎に角シロコちゃんの所へ行こうか。」
案内を任されて私達は歩き出す。その間も他愛のない会話が続いたが、それも直ぐに終わった。コヨミ先輩がコンビニで肉まんを買ったのだった。
「はい、ノノミちゃん。」
袋から取り出した好意を受け取る。気温の何倍も熱いそれはカレーの香りを放っており、まだ昼前だったこともあり胃を刺激する。少しはしたないかもしれないが、ここで頂くことにした。
先輩は袋の中のもう一つには手を出さない。……それどころかじっとこっちを見ていた。
「……食べないんですか?」
「ああ、いや、これは……シロコちゃんの分だから。」
「もしかして……食べ物で釣る気だったり?」
「まあね。やっぱり仲良くなるにはご飯を一緒に食べるのが一番だよ。」
これでノノミちゃんとも友達だね。なんて言って笑い合う。私が食べ終わるのを待ってから彼女は再び歩き出した。次の会話の内容はホシノ先輩に関してだった。
「ホシノちゃんは元気にしてる?」
「惣菜パンばっかり食べてない?」
「訓練なんて言ってシゴかれてない?」
ポツリ、ポツリ、雨が降るように強くなる。やがてそれは明け、どこかホッとした様子。
「……ありがとうね。」
最後に口にしたのは私への礼だろうか。追求するかを考えるも、既にシロコちゃんの暮らすアパートへ辿り着いていた。
「シロコちゃん、いるかなあ。」
チャイムを押して待ってみる。ここは万が一に対応できるように前に出ておいた方が良いだろう。
「ノノミ……」
ドアから顔を覗かせたシロコちゃんは後ろの存在に気付くとなんとも言えない顔をしていた。
「おはよう、シロコちゃん。」
「……何?」
「挨拶は大事だよ。……まあ、それはそれとして昼御飯は食べた?」
「……?まだ食べてない。」
「じゃあこれあげる。」
……いくら何でも脈絡無さ過ぎではないか?
そう思いつつも、シロコちゃんは素直に受け取ってニオイを嗅いでいる。あれがどういう食べ物なのか良くわかっていないらしく、袋を開けてそのまま食べれば良いという言葉通りに齧り付いていた。
「ふふ……」
どうしてこの人はシロコちゃんを見て満面の笑みを浮かべているんだろう。……コヨミ先輩は本当に表情がコロコロと百面相のように変わる。ついさっきまで、険しい顔をしていたのに今ではまるで菩薩のような優しい笑みだった。
食べ終わった包装紙を受け取って袋の中へと入れる。さっと縛るとポケットに入れた。
「さてと、私は"雨野コヨミ"。アビドスの1年生で部活はしていない。よろしくね。」
「知ってる。……よろしく。」
「……もしかして、ホシノちゃんから聞いた?」
コヨミ先輩の言葉にコクリと頷く。シロコちゃんが噛みついた時にはかなりこっ酷く叱られたので覚えていたのだろう。
「シロコちゃん、コヨミ先輩。ここではアレなので中で話しませんか?」
「……それもそっか。シロコちゃん、中に入っていい?」
「うん。」
────────────────────────
心配していたよりもかなりスムーズに話が進んでいた。ホシノ先輩からの言いつけをしっかり守るシロコちゃんと、全く悪意の無い立ち振る舞いのコヨミ先輩が衝突することは無かった。
身の回りの困ったもの、衣服であったり食料であったりが必要だとか、本やゲーム機、携帯電話など、自身の娯楽になるものが無いかなどを聞いていた。その最中、シロコちゃんが発した「趣味って何をすればいいの?」という言葉に心を痛めたような顔をしていた。
「シロコちゃん、趣味っていうのはね、自分のやりたいことなんだよ。」
「必ずしも
「……ん。」
頭を掻く。結論が見えず取り敢えず相槌を打っただけだろう───と予想するが、コヨミ先輩は更に畳み掛ける。
「そうだ。明日は何も予定はない?」
最期まで、覚えている。
「───じゃあ、やりたいことを探しに行こう。」