サツキは当たらなかった……
先輩が居なくなってから1万時間が経った。
あれから思っていた以上に状況は悪くなってはいない。自分一人では利息を払って借金の増額を少しでも抑えるか、アビドスの治安を良くするかのどちらかしか選べなかった。単純に人手が足りなかった。
シロコちゃん。ノノミちゃんが来てからは学校のことを分担して、私は治安維持に全力を出した。
……いや、最初からそうだった訳ではない。
初めは眠れないから外を歩いていた所で見つけて撃退しただけだ。それ以降もこれ幸いと私は夜中にパトロールを続けた。昼夜逆転の生活は最初は慣れなかったけど、今では慣れたものだ。
───そしてアビドスの治安はある程度良くなった。
流石に全域を見回れるほど狭く無いので見逃しはあるだろうけど。スケバンやヘルメット団を悉く散らした。ある日は数人、ある日は数十人規模の集団と戦う日々を続けた甲斐はあったと思いたい。
……だけど、
行方不明という意味ではなく、顔を合わせていない。という意味だ。ノノミちゃん曰く、夏に一度だけ会ったとのこと。でも、その顔は見違えるほど…………やつれるといえば良いのか、目つきが変わった?らしい。
……………………彼女は。
彼女は───外へと働きに行った。そして月に一度、現金が入った封筒と一緒に、"今月の支払いに用立てて下さい"と書かれた紙を生徒会室に置いているのだ。
……正直、言いたいことはある。
…………仲直りだって……したい。
あの時酷い言葉を掛けていなかったら。どうなってたんだろう。先輩の死んだ責任なんて彼女には何処にも無かったのに。当てつけのように叫んで、彼女を責め立てた。
これは、本当に良くなかった。
私は……ただただ、こよみちゃんに借金の存在を知らされていないだけだと思ってた。
普通に高校生活をしてほしい───先輩はそう言っていたのを思い出した。
それが妙に引っ掛かり…………こよみちゃんについて何か纏められていないか生徒会室を調べてみると、アビドス南東部───所謂、農耕部出身だった。そこは農産物は勿論、畜産も盛んな地域であった。
アビドス───引いてはキヴォトスでも随一の農耕地域。あのネフティスだってそこに専用の路線を引いていた程に一次産業が盛んな地域だったのだ。そして──────そこは、最も最初に砂害が始まった場所だった────────────
───先輩は理解していた……彼女の境遇を。
以前、"キャンプのような生活をしている"と言っていた。そして生活の詳細についても話を聞かされていた。
……その中で総じて何か、ズレのような───僅かにしこりがあるような違和感のようなものを感じ取っていた。それは……彼女の語る言葉の端々から来るものであった。
私が小学校の頃、アビドス南区は砂に埋め尽くされた。
彼女の年齢がウソではないのなら、おおよそ4歳頃に最初に起こった砂害に遭遇した筈だ。彼女はその後、何らかの手段で生き延び続けた。どうりで資料に所属中学校が無い訳で───その理由はそもそもこよみちゃんは
…………正直に言えば、何故アビドスへ入ってきたのか分からない。南東部は最初に砂に消えた地域として報道されており、死者行方不明者も多く出た地域だ。そんな場所でどうやって生き延びたのか。仮に、そこから離れた場所で砂害が起きたのだとしても、当時のアビドス生徒会によって保護活動が行われていた記憶がある。
(残った一部の資料では被災した市民の保護を行った記録が残されてた……詳細は分からないけど、この人達は"どうなった"んだろう?)
……他にも疑問は続いたが…………それは些細なことだ。
………………普段は何処にでもいるような只の女子高生……そう思っていた。
だがそれは間違いで───私はふざけた……あまりにも馬鹿げた仮説が脳裏に浮かび上がる。
彼女の家を調べれば、この仮説が正しいかどうかが分かるような"秘密"がある筈だ。速いテンポで鼓動が心臓を打つ。私は疑問を解決する為に急いで彼女の家へと向かった。
3時間後、私は彼女の家へと辿り着きドアノブへと手を掛ける。
以前来た時には鍵が掛かっていたが……申し訳無いけど無理矢理開けさせて貰おう。
私はショットガンを手にしてドアノブの横に押し当てる。そして引き金を引く寸前に───"パン"と音が鳴った。
瞬間、私は身体を捻じり曲げて跳躍する。シールド展開とハンドガンのセーフティを解除を行う。2秒もかからずに準備を終えて相手を確認する。
「……………」
「おーいおいおいおいおい!不意打ちも駄目なのかよ!」
(……ヘルメット団?)
「おら、ドチビ女!さっさと出てこい!」
「それともビビってんのかぁ〜?」
ごちゃごちゃ喧しい奴らがくっちゃべっている。チラッと覗いたが数だけはそこそこ多そうだ。
(……めんどくさ。)
「テメーを倒しちまえばアビドスはアタシらのモンだ!やるぞ!」
「「「「「うおおおおおおおおおお!!!!」」」」」
息巻くアホ共は私に
手榴弾を投げて、慌てている所にハンドガンを打ち込む。対応できずに二人が榴弾の爆発に巻き込まれたところでようやっと"撃て"の指示。
残念ながらハンドガンを撃った位置から移動しているので、全く意味のない牽制。ヘルメット団のリーダーは移動にすら気づいておらず、誰も居ない場所に脅しを掛けている。
そこらに置かれていたバケツを警戒しているポイントに投げ捨て、奴らが注目した瞬間にシールドと一緒に突進する。
「───や、やれっ!」
ヘルメット団を相手にしていて良く思うのが、何故かシールドを装備していないことが多い。いや、確かにそのへんの端材でシールドが作れる訳では無いのだが。それにしても防具がほぼヘルメットだけなのは軽装すぎる。
しかもゲリラ戦に慣れているのも少ない。ただの不良集団って感じだ。逆にシールドを持つのはヴァルキューレみたいな治安維持組織が多いイメージである。訓練されていないからこそ、ヘルメット団のような者達は持たないのかもしれない。
シールドで防ぎながらショットガンを打ち込む。2,3人を倒してリーダーをシールドで突き上げる。土手っ腹にシールドの辺で突いたのでもんどりうって転がったヘルメット団を踏みつけながら奥の団員に肉薄する。驚いた顔で固まった後方のライフルたちが正気に戻って対応するまでの時間は一掃するには十分すぎた。
手始めに分かりやすい場所に手榴弾を下げていた奴を気絶させ、それを掠め取った。引き抜いたまま横のヘルメット団にパスをした後、銃口をやっとこちらへ向け終えた不良の指をハンドガンの早撃ちで打ち抜き、追撃にショットガンをお見舞いする。
(……制圧完了、かな。)
こういった団体は少し近付き揺さぶれば容易に瓦解する。こいつらのような無鉄砲な奴らも多い……いや、殆どがそうなのだが、勝てないと認知させれば割と治安は引き締められる。
今回はどうなのか分からないが、とりあえずここから出て行って貰おう。
リーダーを起こすついでに、そこらに転がった銃を砂に刺したり埋めたりしておく。こうすると完全に分解してメンテしないとほぼ詰まるので無力化に結構おススメなのだ。それと使った分くらいの手榴弾と、いくつか銃弾も拝借しておこう。
「おーい」
「…………ぐえ。」
「……」ゲシッ
「───ぅげっ!?」
「あ、起きた?」
「え───あ、え???」
「……とりあえず、アビドスから出てってくれる?」
「アッハイ……ワカリマシタ……」
リーダーがゆさゆさと他のヘルメット団を起こし始めたのを確認して、私はその場を去ったのだった。
───────────────────────────
まあ普通に見逃す理由も無く。私はヘルメット団が逃げていった先を追いかける。すると一面が砂ばかりになったくらいで大きな建物の中へ入っていった。どうやらあそこが"ねぐら"らしい。
そこへ侵入し、リーダーに銃を向けながら何故出ていかないのかを聞いた。するとリーダーは震えながら荷造りをしていたんだ。と弁明した。
それを聞いて、夜にもう一度来ること、そしてそれまでに出ていなかったらどうなるかを聞かせて私はその場から立ち去った。ヘルメット団は大層堪えたようで、日が沈まない内に慌ててアビドスから出ていった。
───────────────────────────
なんてことがこの前にあった。
……あれから彼女の家には行ってはいない。というのも、次の日に行ってみるとなんとこよみちゃんが帰ってきていたのだ。
対面───ではないが、彼女を見たのは
……顔立ちがもっと変わったような気がするし。
けど、どうしても会おうとすると、震えが止まらない。
どんな奴がアビドスに来ても負けないし、恐怖は感じなかった。でも……彼女との関係性がこれ以上悪化するのが恐ろしい。また、先輩のように─────────
「──────────────────…………………うへ。」
心がピリピリする。強張った筋肉のミシミシ、ギュッギュというような音が頭へと伝わった。これは、自虐心と嫌悪感が表れた時に起きるのだ。
それらが痒みを伴って、首筋や腕、身体がひどく痒くなる。
顔を掻いてはいないし、頑張って堪えてはいるものの、寝ているときなどで無意識に掻き毟ることがあり、ミミズが走ったような赤い跡が身体の至る所に点在していた。
「…………」
こよみちゃんがプールに行こうと誘ってきたときに水着を買おうと選んだことがある。今は死蔵しているが……こんなナリでは行けるわけもない。
「───ホシノ先輩!!」
急に、声を掛けられる。一体何事かと振り向いてみれば、ノノミちゃんが手を振っている。
その内、ノノミちゃんが大急ぎで駆け寄って来た。その表情は困惑や焦りを感じるものだった。何が起きたの?また、シロコちゃんが悪いことをしたのだろうか?なんて思っていた。
「───大変です!来年度の入学希望の生徒が……志望理由書が2通届きました!」
「──────え?」
かつてのアビドス
アビドス北区
大規模な工業地帯
銃火器、衣類、自動人形、鉄道車両……現在では骨董品とされているが、数多くの工業製品が製造された。
現在は半分ほど砂に飲み込まれた。また、カイザーPMCもここに置かれている。
アビドス中央区
元首都。大オアシス駅などがあった場所でもある。
クッソ栄えていたクソデカ首都だったがほぼほぼ砂の中。
アビドス東区
中央区に近い側にアビドス本校があった。
本校の学区エリアで、他には中央区エリアからであれば通学できた。
現在では既に砂に埋まったエリア。
アビドス西区
居住区エリア
現アビドス中央線が走るエリア。
先代とユメ先輩が代替わりする直前に東区にある本校が飲み込まれたので分校(現アビドス高校)が置かれた西区に移動してきた経緯もある。
サンクトゥムタワーに一番近い場所でもある。
アビドス南区
こよみの実家があるエリアは南東部とあるが、南区の中で最も農畜産業が栄えていた地域の通称である。
南区、特に南東部は最初に砂に飲み込まれた場所である。
砂害から生き残った南区の市民は保護され、砂害が酷くなると望む者は他の自治区へと移送する措置も行われた。
ちなみに、雨野こよみは保護された市民のリストには載っていない。
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