アビドス高校一年 雨之こよみです!   作:よわよわよわ

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□黒見セリカと昔話

今日は疲れた───肉体的にではなく、精神的にだ。

まさか、アビドスのみんなが紫関へ来るとは思わなかった。それに先生まで来ていたのだ。

 

正直ため息もついてしまう。いや、()()先生が来たこともそうなのだが、先生曰くコヨミ先輩は仕事に戻ったらしいのだ。何とも自由な行動だけど、結局アヤネちゃんが聞きたがっていたことは聞けなかったし、ホント身の回りには自分勝手な人が多いと辟易する。

 

「───セリカちゃん。ちょっといいか?」

 

「大将?何か?」

 

柴大将に呼ばれた私は食器洗いの手を止めて振り返る。アビドスには人が少ないので、紫関は夜遅くまで営業していない。大将の好意でふらっと来た客を招くこともあるが、基本的に9時クローズだ。ピークは昼間が殆どだ。

 

「いや、今日"友達"が来てただろ?」

 

「あー……はい。」

 

そう言われ、今日の光景を夢想する。全く……みんなして好き勝手言ってきて……

 

「あの───金髪の子(ノノミちゃん)犬耳の子(シロコちゃん)はセリカちゃんの先輩だよな?」

 

「……?そうですけど……もしかして知り合いなんですか?」

 

「まあな……それで、こよみって名前の子はいるのか?」

 

「こよみ───コヨミ先輩のこと?」

 

突然の名前───少し驚いたものの、ホシノ先輩も紫関を知っていて、先輩二人も来たことがあるみたいだ。であれば昔に先輩方4人で紫関に来たことがあるのだろう。

 

「緑髪の?」

 

「緑髪の。」

 

十中八九コヨミ先輩のことで正解だ。キヴォトスでは苗字被りは稀だけど、名前被りは比較的多い。見ず知らずのコヨミさんではないことは確かだろう。

 

「ええと……昨日は学校に来てました。でもバイトに行ったみたいで今日は来なかったって。」

 

「……そうか。」

 

「…………大将はコヨミ先輩と知り合いなんですか?」

 

 

 

 

 

「───んまぁ、ちょっと難しいんだが……こよみちゃんは俺にとって娘みたいなモンだからな。」

 

「えっ!?」

 

想像以上の言葉───いや、えっ!?大将がコヨミ先輩のお父さんなの?!

 

私がそう驚いていると、大将は焦ったように口を開く。

 

「いや本当の親子って意味じゃねえんだ。……まあちょっと面倒見てたことがあったからな。」

 

「なんだ……そういうことか……」

 

「んで、元気にしてるかどうか聞きたかったってだけだ。元気そうか?」

 

「……まあ。でも、バイトしすぎっていうか……ウチに殆ど帰ってこないんですよ。」

 

「ん?どういうことだ?」

 

「住み込みなんですかね?ゲヘナのどこからしいんですけど、そこで働いてて、月に一回帰ってくるんです。」

 

「借金返済の為に?」

 

「───借金返済の為に。」

 

大将は手で目を覆った。コヨミ先輩との関係性が凄く気になる……

 

「それで、先輩と大将ってどういう……関係性なんですか?」

 

実は、あの先輩について私は殆ど知らない。というか、私とアヤネちゃんは先輩の話からどういう人なのか理解するばかりで、本人とは未だ5日程度しか会っていないのだ。

 

ホシノ先輩曰く、自由な人だということがわかっているけども……そんな先輩だからこそ大将との関係がどういうものなのか知りたくなった。

 

大将は口を手で覆い、それからカウンターに座ってゆっくりと話し始める。

 

「───こよみは昔、ウチで働いてたんだ。」

 

「へえ、それって1年前くらいですか?」

 

「いんや。もっと前だ。確か……13,4年くらい前だかそこらだ。」

 

「───13年前!?ソレってまだ幼稚園くらいじゃないんですか!?」

 

私の予想はまたしても大きく外れた。ただ先輩がバイトをしていた店の一つだと思っていたが、大将と先輩の関係性は彼女の幼少期から続いているものだったようだ。

 

そして大将はその口から昔話を始めた。

 

「今から14年前───セリカちゃんは南部大砂害って覚えてるか?」

 

南部大砂害───それは、ここアビドスで初めての大規模な砂害だった。

 

死者行方不明者合わせて5万人を超える規模の災害で、当時のことは私は覚えていないものの、学校でそれらについて勉強をすることがあった。

 

「アイツは南部大砂害の被害者で、東南部の生き残りの一人だ。」

 

「…………どういうことですか?」

 

私は訝しんだ。東南部って確か、南部でも最も被害が大きかった地域の筈……

 

「ここら一体が飲み屋街だった頃だ。今は客が来ねえってんで殆どの店は閉めたが、深夜でも人通りが多かった。」

 

「南部大砂害から2週間も経ってたから、店にはいつもの喧騒が戻ってきていた。そんな中、偶々偶然(たまたまぐうぜん)店の扉を開けた。」

 

「そこにアイツは居た。まだ小さいガキだったから───いや、小さいガキだったからこそ気付いた。砂だらけでボロ切れのような身体と腹をすかせた奴の目だった。」

 

「唇が乾ききってて、肌はもう泥が乾いたような質感だった。それで、放っておくのもアレだから店ん中入れてラーメンを食わせたんだ。」

 

「初めはどうも困惑してたみたいだが、どうしても腹が減って仕方が無かったみたいでな。一気に齧り付くかのようにラーメンを食べたんだ。果てにはスープまで飲み干して……それで少し落ち着いたら理由(ワケ)を話してくれた。」

 

「どうも、こよみは家族諸共砂嵐で埋まっちまったと。それで一人で救助が来るまで待とうとしてたらしい。」

 

「…………だが助けは来なかったみたいでな。線路から数日かけて徒歩で歩いてきたって言っていた。」

 

「まだ小さいガキが行く宛が無いままふらついても碌な事にならんから、ウチで引き取ることにした。そうして半年ほどだったか。ある日、アイツは置き手紙を残して消えてった。」

 

「『礼は返します』だとよ。俺からしちゃ、感謝はあれど返されるモンでもねえ。次にどこからか金を持ってきた時は叩き出してやった。」

 

次々に話される先輩の過去。それは、彼女がどういう人間なのかを物語っていた。

 

だけど、私はある違和感を覚えていた。

 

「……えっ?その時って……多分、間違いじゃなかったら、先輩って4,5歳くらいの時ですよね?」

 

「誕生日と年齢は知っていたから間違ってないとは思うが……恐らくは。」

 

「…………東南部って、ここから行くのに3日は掛かりますよね?5歳くらいの子供がここまで来るのは無理だと思うんですけど……」

 

「いや、多分だが大オアシス駅から来たはずだ。今はもう使われてないが、あそこは貨物列車の車庫があったからそこから来たんだろう。」

 

大オアシス駅───砂害が発生してから長らくは終点駅だったが、現在は線路は通っていても使われない駅の名前だ。

 

「それほど過酷な環境だったんだろう。まだ親から離れないような年齢で逃げて生き延びることを選ぶくらいにはな。」

 

 

 

「……まあ、アイツは悪い奴じゃねえ。だが……()()()()()()()()。」

 

「───どういうこと、ですか?」

 

「悪いが理由については聞いて無い。本人も言わないなら大丈夫だと考えてた。だけどよ、んー、何と言えばいいか……」

 

大将は珍しく言葉を詰まらせる。そして───

 

「セリカちゃん、これから話すことは推測だ。アイツから話されたことは無いが長く生きてりゃ分かる感覚があった。」

 

大将の威圧───私は首をこくこくと頷かせる。

 

 

 

「あくまで予想だが……アイツは虐待されてたんじゃねえかと思う。こよみを風呂に入れた時に背中には虐待痕らしき傷跡ががいくつかあったんだ。」

 

「……虐待───?」

 

「ああ。」

 

「そんな、虐待なんて」

 

「確かに砂害が起きたのは初めてで、後に南部大砂害なんて呼ばれたが……あの時はアビドス生徒会が生き残った住民を保護したからな。」

 

「でもアイツはそうじゃなかった。一回だけ話してくれたんだが、救助を待ってる時は何人かと一緒に居たらしい。」

 

「詳しく聞くのもなんだと思ったからそれ以上は分からないが、アイツが救助を待たなかったってことは()()()()()()じゃねえかと思ってな。それに……アイツは気にしていなかったみてえだが、首から肩、背中にかけて叩かれたような痣や傷跡もあった。」

 

「…………」

 

「すまん。話すような事でもないとは思うが、アイツもセリカちゃんたちにはまだ話してねえだろ? 」

 

「こよみはな、それなりに賢いし見てるものは何だって真似てしまう。人間(ヒト)を見るのが上手いんだ。だが絶対に心を許さない。俺に対してもそうだった。」

 

私はふと、入学する前のやり取りを思い出していた。

 

私達の入学に前向きでなかった先輩につい啖呵を切ってしまった。煮え切らない態度が嫌だったから、彼女を口撃したのだ。

 

彼女は一体、何を考えていたのか。家族を奪われ、これ以上犠牲の出ないように動いていた。正直、これが自分でも無駄な足掻きだってうっすらと分かってる。

 

…………保守派だった理由を考えれば、これ以上被害を少なくしようとしていた彼女が正しかったのではないか?

 

「……んな奴が初めてウチに連れてきたのがセリカちゃんの先輩らだった。そりゃあ、俺だってどういうことなのか聞きたいモンだ。」

 

取り敢えず先輩たちに聞いてみよう。彼女について何か知っているかもしれない。

 

ホシノ先輩なんかは特に。

 

「…………あの。」

 

「ん?」

 

「いえ、やっぱりなんでもありません。」

 

そう言って、私は皿洗いを再開した。

 

────────────────────

 

(コヨミ先輩にそんな過去があったなんて。)

 

ノノミ先輩やシロコ先輩はコヨミ先輩についてはあまり知らないと言っている。二人曰く、コヨミ先輩の私生活などはホシノ先輩から聞いた事が殆どを占めているのだとか。

 

昔から借金返済のためにバイトばかりしているらしい。

 

それで進級できるのか───と思ったけど、進級できないと言われても受け入れて退学することを絶対に選ぶとのことで、ホシノ先輩が連邦生徒会の制度の裏をかいてやむを得ない欠席という扱いにしているらしい。

 

先輩が二年生の時の出席日数は75日だという。

 

 

 

「…………」

 

この学校に思わないことはない。それなりに楽しい毎日を過ごしているし、思ってた以上に居心地が良い。

 

でも、それって先輩達が頑張ってきたからだ。

 

ぐにゃぐにゃになってだらけて引っ付いてくるようなホシノ先輩

 

意外とブッ飛んだ発想してるノノミ先輩

 

そことなく暴力的なシロコ先輩

 

あとバイト戦士コヨミ先輩

 

みんな、それぞれが頑張ってるから学校が続いていた訳で。

 

(───私ももっと頑張らないと。)

 

ここに入る時、アヤネちゃんと話し合った。

 

───アビドス最後の中学校からアビドス最後の高校に入るのかと。

 

最初、私は別の学区にした方が良いんじゃないかって言ってみた。だって、借金を返すのに何も関係のないアヤネちゃんが苦労する必要が無いから。

 

砂害という誰も責めることが出来ない理由だとはいえ、赤の他人といえるアビドスの先輩の遺した借金をどうして返済する必要があるのかと。

 

だけど、アヤネちゃんには確固たる意思があった。

 

彼女はアビドスが好きだからと言った。たったそれだけの理由でだ。

 

まあ?アヤネちゃん一人だと可哀想だし?それに友達の目標を応援するのは良いことだから一緒に付いて行ったけど?

 

それでウジウジ悩んでるコヨミ先輩がちょ〜っと情けないなあって思ってカッと言っちゃって……

 

…………ホント、コヨミ先輩には良くないことしちゃったよね。

 

「……何か、もっと稼げること無いかなぁ」

 

漠然と呟いた。何だっけか、わらしべ長者?とかなんとか昔の童話で物を交換して億万長者になるって物語みたいに、たまたまアビドスの砂漠にでも落ちてるものが数億円で売れたりしたら良いんだけどなあ。

 

「───そんな訳無いか。」

 

夢を見すぎだろう。第一、そんな簡単に数億円まで辿り着けないし。

 

「……あ。」

 

「あれ?シロコ先輩?」

 

「…………セリカ、今帰り?」

 

「そうだけど……」

 

シロコ先輩はいそいそとその場を離れようとしている。

 

その右手は背中に回されていて、こちらから見えないようになっている。

 

「───先輩、背中に何があるの?」

 

「………………それじゃあ───」

 

「えっ?ああ待って!」

 

脱兎の如く駆け出した彼女は瞬く間に闇の中へと消えてしまう。アヤシイことしてるんじゃないかなと思いつつも、シロコ先輩が何を持っていたのか暗くてあまり見えなかった。

 

「……何だったんだろう。」

 

帳の中で一人後散る

 

中からでは帳の外が分からない。皆、私に黙って何かをしている。終ぞ私は理解不能と自己嫌悪に思考の海を泳ぐことを選択した。

 

─────────そうして帳に侵入した何かに気付くことは出来ずに。




そう言えば、4月18日にこの小説が二歳になりました。

2年連載してアビドス1章のSSがあるってマジ?!

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