「さ〜あホシノちゃん!早く早く!」
校門前にて私は彼女を急かした。それを受けて鬱陶しそうな顔をしている彼女は随分と悠長に歩いてくると私はかねてより構えていた言葉を投げかけた。
「ホシノちゃんの家ってどっち方向なの?」
「あっちの方。」
───そう言って校門前の道路の右手方面を指差した。
(───へえ、もしかして……)
「駅の近くなの?」
「君の好きな青春だらけのとこだよ。」
アビドス中央線───今、アビドスで残っている僅かな路線の駅だ。ここからトリニティとゲヘナに向かう路線や郊外へと向かう路線などが残っている。
アビドス中央駅はアビドスで最も都会だと言えるだろう。確かに規模は小さいかもしれないが、少なくとも飲食ができるからだ。
それ以外の場所ではそういったサービスを受けることは中々できない。アビドスも田舎になったものだねえ……
「私はあっちの住宅街の奥の方かな。」
───ホシノちゃんとは反対の方角へ人差し指をピッと指した。
アビドス中央駅から離れると住宅街になっているけど、アビドス高校は住宅街の真ん中より少し奥あたりに位置している。ちなみにこの広大な住宅街の約6割以上が空き家なんだとか。
私は高校よりも更に更に奥の場所にある家で生活している。私の家の周囲はボロそうな……というかぶっちゃけ半壊してるような建物ばかりだけど、そんな中ではそこそこ綺麗な家じゃなかろうかと思っている。
「あっちの方って……もしかして外周部?」
「うん。だから砂嵐の時とか大変でさ〜……」
「そう、なんだ。」
「特にここ最近なんか強くて強くて家が埋まっちゃうかと思ったよ。」
「…………もうちょっとこっちの方には住まないの?」
「あー……まあ、考えたんだけど難しくて……でも、いずれ引っ越そうかなって思ってるかな。」
「……ふーん。」
ちょっとだけピリッとした雰囲気になりかけている。
ま、"話題が話題だし仕方ないよね?"って思ってたらホシノちゃんはそのまま続けた。
「近くに飲食店とかスーパーがあるの?」
「いや、無いかな。結構遠い場所に買い出し行かないといけないから面倒なんだよね。」
「……だろうね。」
「なんだ〜?居住地マウントかな〜?」
───実際不便には変わりないのだから何も言えないけど、それはそれとしてちょっとだけ抗議を行う。
すると、彼女は申し訳そうな顔をした。
「……まあ、実際不便には変わりないけどね。配達範囲外だから荷物の受け取りもこの辺まで来ないと受け取れないし。」
10歩ほど無言になって歩いた後、そう呟いた。会話は続かなかった。
「ああ、そうだ。ホシノちゃんって本はよく読む?」
「……いや、そんなに読まないけど。」
「ふふん、だと思ったよ。そういうホシノちゃんの為に何かオススメの本を貸そうかなって思ってさ。」
「遠慮しておく───」
「───そう言わずにさ。コメディとか推理系とか好きなジャンルってあったりする?」
「……図鑑、とか。」
「図鑑?」
「そう。 実は海の生き物を見るのが好き。」
「そうなんだ……私はどちらかと言えば鳥とか蛇が好きかな。……そうか、海の生き物図鑑かぁ。持ってないなぁ……」
意外な趣味のホシノちゃんを知れた所で閑静な住宅街を抜け、ある程度の人の喧騒を感じられる場所に付いた。遠くから踏切の警笛か、規則正しく甲高い音が鳴っている。
これが、今最もアビドスで栄えているエリアだ。
「さてさて、ホシノちゃんはどの辺り?」
「そこだよ。」
ホシノちゃんがピッと指を指した先には小鳥遊という文字は一見見当たらない。何故ならば、それはマンションであったからだ。
「WOW……すっごい大きいマンションだ……」
「───……兎も角、そういう訳だからここでさよなら。」
「うん。ありがとうね!」
バイバイと手を振ると、なんだか気恥ずかしそうに少し手を振ってドアの向こうへと消えていった。少し後に私はここから立ち去った。
───さて
私は"やらなければいけないこと"がある。
それはずばり───
(───反省会……だよねえ。)
なんというか、ホシノちゃんは少し困っていたように思える。つまるところ、私がどうしてここまでグイグイ突っ込んでくるのかが分からないのだろう。もしくは、それを好ましく思わなかったか。
でも、ほんの少しでも不快にさせてしまったことは問題だ。このままだと関係が悪くなるかもしれない。
(次はもうちょっと……控えめにアプローチを……)
なんて考えを巡らせながら私は帰る途中でスーパーと書店に寄れるルートへと向かうのだった。
────────────────────────
凡そ2時間後───やっと家へと到着した。
周囲には砂しかなく、人がいるなんて思えない"砂漠"があった。しかも暗いせいでもう少し踏み込めば闇に飲まれてしまうだろう。
勿論、周囲に外灯なんてなく、間違いなくここは死んだ地域であることを現している。私は慣れたようにある機械を起動した。
"その"機械はとても低く唸り声を上げた。2、3度大きく唸り声を上げた後、断続的に震動とピストンによる回転が始まる。しばらく待てば家にある唯一の光源が点灯する。
プレハブ小屋……とは少し違うけども似たような四角い箱の家がお出迎えだ。
「ただいま〜」
ドアを開けて家の中へと入る───その前に羽箒で服に付いた砂を極力落とす。ある程度落とした後にやっと入るのだ。
学生服を脱いで別の服へと着替えをする。まだまだやるべきことがあるのだ。と、外へと移動する。
砂が入り込まないようにレンガで固めてある一角に薪を投げ込み、壁にあるクランクを回すと歯車が回転して横にあるドラム缶が火元の真上に設置される。向かいにある水瓶を設置しているキッチンへと向かい桶に水を組んで6回ほどドラム缶へと入れてやると今度はライターで火起こしを行う。
火の様子を見ながら服を脱ぎ捨てて火が大きくなった所で横から入浴を行う───前に後ろのタイル張りの所へと移動した。そこで手桶でぬるま湯を組んで頭から被る。髪が湿ったかなぁと思った頃に固形石鹸を砕いたものを上に塗布して泡立てる。
ある程度洗った所でもう一度手桶のお湯で洗い流す。この石鹸はリンス入りという超優れものなんだよね。
ナイロンたわしを用意してお湯へと入れた後、今度は固形のボディソープを使用した。十分に泡立った頃に全身を洗っていく。
「ふんふんふん〜♪」
入念に洗った後、手桶に入れていたお湯で泡を洗い流す。後にナイロンたわしもよく洗って干せばやっと湯を楽しむことができるのだ。
(今日はハーブも入れちゃったりして〜)
入浴をしてる時が私の中で一番生を実感するっていうか、とっても安心するんだよね〜
パパパっと千切った薬草と同時に湯に浸かる。
「嗚呼……良きかな良きかな……」
10分ほど浸かると、今度は湯が熱くなりすぎるのでドラム缶から飛び出る。そして予め用意していたタオルで全身を拭いた後に今度はクランクを逆方向へと回すと先程ドラム缶があった場所にすっぽり収まった。中にある水が冷やされた後にクランクを更に回すと裏庭にある貯水槽へと水が流れていき貯められる仕組みとなっている。そこから栽培している野菜の水やりとかに使用するのだ。
さて、先程ドラム缶があった場所に大型の金網を設置する。なんとこうするだけでキッチンの完成だ。そこへ買い置きしていた袋麺や今日買った野菜や肉を用意する。
「さてと、今日は豪華にいきますか。」
基本的に私は一度炊けばすぐに食べないといけない米よりも、しっかりと保存しておけばちょっと温めて美味しく食べること出来るパンばかり食べてしまうのだが、今日という日にはご飯を食べる理由に十分だ。
風呂に入る前に浸けておいた飯盒を乗せて、続けて肉の下処理を行う。
ちなみにだが、風呂場と炊事場は"本当は"別なのだが、燃料が勿体無かったり、2回も火起こしするのが面倒だということで使わなくなっている。しかし、ここは風呂場なのであくまで火を使う作業以外は炊事場で行っている。どこかでIHにしたいと思うけども、電力が問題だよねぇ……
ちなみに電力供給が無いので冷蔵庫はない。今はアビドス高校周辺部までしか供給されていないんじゃないかな。……というよりかは電柱が折れたり倒れたりしたままっていう物理的な供給できない理由なんだけどね。
こうしてガソリンやオイルを使って生活に必要な電力を賄って生活してる。ちなみに太陽光発電システムは止めておいたほうがいいかな。すぐにパネルが埋もれるかボロボロになるんだよね。
さてさて、今日のメニューは鶏肉のチリソース和えとサラダだ。飯盒の横に鍋をセットしてるから、まずはそこに鶏ササミと塩を茹でる。最近は鶏肉が安いので"買い"だ。
「ん〜……」
茹で上がった鶏ササミを岩塩、バジル、白胡椒で味を整えミニトマトと野菜を乱切りにして皿に載せていく。その上からオリーブオイル(エクストラヴァージンオイル)を掛けてサラダが出来上がる。
本当ならゆで卵なんかもいい感じなんだけど……保存場所がね……(´・ω・`)
でも、今日は特別な日なので買っちゃったんだ。4個入の小さいやつをね。
「さてさて……この万能調味料と鶏ガラでスープを作ろうか。」
先程のササミを茹でた鍋に2つの調味料を入れて味を整える。玉ねぎ半分をざく切りにして入れて10分ほど待てば手軽なスープの完成だ。出来上がりの直前に黒胡椒と胡麻を入れて頂こう。ついでに溶き卵も少し入れてと……
スープの横に小さい金属コップに卵を1つ入れてゆで卵も作っておこう。
そして、もうそろそろご飯も炊きあがる頃だ。
「ん───?」
炊きあがりを確認した直後、スマホから通知が来たようだ。
「───ホシノちゃんだ!」
『今日はごめん。』
『恋愛物とかも興味あるから。』
『機会があったらオススメの教えてね。』
「……ふwふふw……w」
ええと、ホシノちゃんはどんな顔をして送ったのだろうか?
『当然だよ!もっと色んな本もいっぱいオススメするよ!』と私はモモトークに送信した。温かいご飯を食べながら何だか頬の弛みが収まらなかった。
ちなみに恋愛云々は送信取り消ししていたのは別の話。
───まあ、何にせよ私の美しい学園生活は始まったばかりであり、ここから始まるドタバタコメディやセンチメンタルなストーリーが幾つも待っているのだろう。
アビドスエリア設定
〜駅周辺〜
人口が減りつつあるアビドスで貴重な都会かつ人が多く集まる場所。しかし、現実はそこに住んでいるだけであり、多くはアビドスの外へと仕事に向かうことが多い。
〜住宅街〜
駅から離れた地点にある住宅街。かなり広いが、その大半は空き家になっている。コンビニや飲食店などももぬけの殻であり、アビドス高校へ近いという利点くらいしかない。
〜外周部〜
アビドス住宅街の奥……というより、駅から遠く砂に飲み込まれつつある地域を指している。殆ど人が住むことはなく、こんな所で生活しているのは余程の事情がある者だろう。
〜砂漠〜
砂に飲み込まれた地域を指す。既に建造物の大凡5割以上は砂に埋もれている。