バットマン Burns The Night   作:織姫ミグル

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第10章

 

 

少年はまだ十一歳だった。

 

対して、屋敷にやってきた少女は七歳。

 

少年はまだ社会の理不尽どころか仕組みすら何も知らなかった。

 

小学校の六年生に上がってから九月に入った頃。その時はまだ、その数ヶ月後に両親を失うことすら想像もしていなかった。

 

精神的にもまだ幼かった彼は、学校から帰ってきた後、うっすらと開いた父親の部屋のドアの奥で話されている会話を、興味本位で聞いてしまっていた。

 

父親、トーマス・ウェインの顔が誰かの顔と向き合っている。

 

その人物はここからでは見えない。父と同じように、高級なスーツを着込んだ男性は少年ブルースに背を向けて、何かを話し合っていた。

 

 

『それが、あなたに救って欲しい患者です』

 

『······なるほど』

 

 

話している内容のほとんどを、この時は理解していなかった。なんか難しい大人の会話をしている、としか思わなかった。

 

少なくとも、彼にとってそれは関係のないことだった。

 

しかし、冒険心が強かったこの頃は、悪いことだとわかっていてもどうしても気になってしまった。

 

部屋の中にいる彼らはブルースの存在に気付かず、会話は続けられる。

 

 

『しかし、先天性心疾患では例え治療したとしても、この子の場合は二年くらいにしか寿命を伸ばせない。彼女の心臓はそれほどまでに弱い。どれだけ延命処置をしても、心臓そのものが耐えられなくなる』

 

 

先天性心疾患。

生まれつき心臓や血管の構造の一部に障害が起きる病気のことだ。

 

その種類は多岐にわたり、疾患の重症度は人それぞれで、軽症の場合は自然に治ってしまう人もいると聞かされたことがあるが、複数回の手術を受けなければならない重症の方もいる。

 

話し合っている患者の容態は、おそらく重症なのだろう。

 

ウェイン財団の社長ではあるものの、経営は他の者に任せて医者として多くの者を無償で治療してきた自分の父親が誇らしかったが、あのような表情を見るの初めてだ。

 

渋い顔をして、患者の病気が書かれたカルテを見ている。

 

それほど深刻なんだということは伝わってきたが、目の前にいる男は首を振ると、

 

 

『心配には及びません』

 

 

そう言って、彼は手に持っていたアルミツールケースを机の上に置くと、ガチャという音を立たせて開いて見せた。

 

中に入っているものはわからない。

 

だが、会話からその中に入っているものを想像することはできた。

 

 

『こちらは、我々の組織が支援していた者が開発したものです』

 

『これは?』

 

『拍動なしの完全置換形人工心臓。現在知られている技術の、数世代先を行く最も実用に足る代物です』

 

 

完全置換形人工心臓。

 

文字通り人の手によって作られた人工的な心臓。心臓のポンプ機能が弱ってしまった者にそれを移植すれば、延命機能を動かせられる。

 

 

『とはいえ、完全ではないのですがね』

 

『と言うと?』

 

『耐久性能にまだ問題がありまして。例えどれだけ充電しても、機能していられる時間は決まっているんです』

 

『具体的なリミットは?』

 

『おそらく······持って彼女が成人するまで』

 

『······』

 

 

トーマスは、呆然とその言葉を聞き入った。

 

対して、目の前にいる彼はこう続けた。

 

 

『彼女を今失うには惜しすぎる。現在人工心臓はこれしかありませんが、彼女が生きている間には新しい人工心臓が開発されるはず。それだけ生きていられれば、新たに移植する臓器を用意できて更に延命できる。彼女の持つ可能性は、それほどまでに希望に満ちております。アラン機関から才能が認められたあなただからこそお願いしたい。何としてでも彼女を救って欲しいのです、トーマス・ウェインさん』

 

 

それは大人が子を想うことによって生まれた言葉なのか、それとも別の意味なのか、幼いブルースには判別できなかった。

 

言葉の一つ一つには強い想いが込められているものの、何か裏があるのではないかと疑ってしまうのは自分の考えすぎなのだろうか。

 

しかし、どう判断するかは自分ではない。

 

医者である父親が決めねばならぬことだ。

 

口出しすることは許されないし、そもそも子供が盗み聞きしていい内容じゃない。

 

人の命が懸かってる話題に、子供が介入する余地はない。

 

そして、少年は父親の回答を聞く。

 

彼の言葉を素直に聞き入れたトーマスは視線を落として、

 

 

『私にも、子供がいてね』

 

『!』

 

 

自身のポケットからチャームらしきものを取り出してみせると、決意を固めたようにそれを握りしめながら語る。

 

 

『それに私は、困っている人達をどうにかするのが信条でね。この街は今不景気だ。恵まれない人々は苦しい生活を強いられている。そんな人達を救うのが、私の使命さ』

 

『······なら』

 

『彼女の命は、ウェイン家の名に懸けて必ず救ってみせる。約束するよ、ミスター・ヨシマツ』

 

 

最後の一文に強い想いを込めた父親の姿に、隠れているブルースは息を呑んだ。

 

その父親の姿は、魅力的だった。

 

小さく微笑んでしまうほどに、尊敬してしまうほどに、とても魅力的だった。

 

 

『ありがとうございます、ウェインさん』

 

『礼はいらないよ。私にとってはいつものことをしているだけさ』

 

 

そう言って、二人は握手をする。

 

合意は得られた。その瞬間を目にしたブルースはこれ以上は聞く必要はないと感じたのか、父親のいる部屋から離れていく。

 

父の医者としての才能が認められた、という証にも思えた。頼られる存在というのは、信頼の証でもある。どこの誰なのかは知らないが、その腕を見込まれて頼ってきた男の言葉を聞いて快く承諾した自分の父親が誇らしく思い、自分の部屋へと向かうために廊下を走る。

 

十一歳にもなって無邪気な子供のように走るブルースは、そこで何故か立ち止まった。

 

 

『?』

 

 

そこは庭が見える窓がいくつも並べられている。一つ一つから別の景色が見れるようにと配置された窓の一つの前で止まったブルースは、そこから庭を眺める。

 

ぼんやりと外へと目を向けると、車椅子に乗った小さな女の子が自分の家の花壇の前で蝶々と戯れている。

 

花に止まった蝶を、微笑みながら小さな指でつつく様子がとても可愛らしかった。

 

あれが何者なのかブルースが首を傾げて迷っていると、突然彼女は上を見上げた。

 

彼女の視線の先にはブルースがいる。

 

 

『!?』

 

 

こちらの視線に気付いたとわかったブルースは、電気が走ったように肩を震わせてつい壁の陰に身を隠してしまう。

 

この頃は精神的にも未熟だったこともあり、彼は誰に対しても人見知りだった。

 

大富豪の息子、いいとこのお坊っちゃま、という存在故に友達がほとんどできなかった彼は、近い年代の人と会うとつい逃げたくなる。

 

どう話したら良いのかわからないのだ。

 

共感できる話題も持ってないし、何より人と話した経験が少ない。コミュニケーションが取れるような相手と接する機会がなかった彼は、目が合うと逸らしてしまう癖がある。人との会話方法は自然に学んでいくため、そういうのは遅咲きの人もいるというが、ブルースはそれに当てはまる。

 

誰とも気軽に話したことがない彼は、女の子となんて更にない。

 

心臓が跳ね上がるように鼓動が早くなっていることを自覚したブルースは、背中を預けた屋敷の壁に自分の後頭部を押し立てて、息を殺すように口元を固く閉ざす。

 

壁と一体化して、風景に溶け込もうとする癖はこの頃からあったようだ。住んでいるところが広い屋敷であるために、かくれんぼに適した場所であったことから隠れそうな所を見分けるスキルが幼い頃に既に身に付いていた。

 

後にこれが成長する毎にチート級の洞察力にまで発展することになるのだが、それはまた別の話。

 

そして、緊張しているのが鏡を見なくてもわかる。

 

本当に情けない、とブルースは思う。どう見ても自分よりも年下であろう女の子を目にしただけで緊張してしまうなんて、財閥の御曹司として恥だと自分で自分を追い詰める。

 

人見知りな自分に、思わずため息をつく。

 

早くなった心臓が元に戻るまで、どれくらい時間がかかったのかもわからなくなっていたブルースは、しばらくの間その場に立ち尽くしていた。

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

苦しい。

 

小学生の年代で言えば一年生。満七歳となったばかりの頃、彼女はアメリカのとある街の病院で、朦朧とした意識の中でそう思った。

 

自分が今、危篤状態なのは幼い少女の頭でもわかる。

 

手術室に運び込まれ、麻酔マスクをつけられているのも、何となく理解できる。

 

だが、だとしても現実味を感じることはできなかった。

 

既に意識は手放す寸前だった。手術のために意識を一時的に失わせるように鼻及び口元を覆うようにつけられた麻酔マスクからは、脳の機能を低下させる揮発性の麻酔薬のガスが放出され、肺を満たして体内に全域に吸入される。

 

吸い込む度に、意識が遠退いていく。

 

上も下も、前後左右も判断できないような気分に違和感を感じる暇もない。視界が定まらずに余計な思考すらできない状態で、今から何が行われるのかすらよくわかっていない。

 

麻酔のせいなのか、それとも命の危機に直面してるから頭が働かないのか、意識が朦朧としていてそれすらも区別がつかない。

 

真っ白な部屋。

 

そこにいる人達の声がわずかに聞こえてくるものの、耳まで麻痺してるのか上手く聞き取れず、意味不明な言葉しか届かない。

 

聞き取れた言葉は、移植という単語。

 

重症患者にしか縁がないその単語に少女は眉をひそめるが、すぐ近くにいた手術服を着込んだ誰かが安心させるように声をかける。

 

 

『安心しなさい、君はすぐに元気になる』

 

 

そんなに肩に力が入っていたのだろうか、その言葉に心臓がビクンとする。

 

医者なのかよくわからなかったが、その人はそれだけを言うと物凄い速さでオペの準備に取りかかる。手術室にいる何人もの人々に指示を出す彼の声は少女の耳には届かなかったが、手慣れた様子だったことは理解した。

 

朦朧とする少女には、その動きが目で追えなかった。

 

心が締め付けられる。思考の歯車が何個も外れてしまったように、理解しようとしても意識が途絶する。考えがまとまらず、情報があちこちに散っていた。

 

急激な眠気によって引き起こされたリラックス状態に、却って不安になる。自分の病気が重度であるということを既に理解していた少女の思考は精神面に悪影響を及ぼし、全身に駆け巡る血液が一瞬速くなり、全ての内蔵の機能が障害を起こす。

 

緊張、と呼ばれる感情。

 

心臓の弱い彼女からすればその感情を抱くのは死に至る危険性がある行為。先天性心疾患を持っている彼女が緊張を抱けば、その度に命の危険度が変化する。

 

命、というものをこの世に留めるための重要臓器に障害がある彼女の全身が悲鳴をあげる。

 

この手の心因的な問題は、朦朧とした意識の中ではほとんど実感できない。感覚が鈍っていて何に心配してるのかわからないが、少なくとも自分はこれからの展開に不安を抱いているということだけはわかった。

 

ぼんやりとした彼女の意識が、無意識に舌に乗せられる。

 

手術服を着て自分を覗き込んでいる人に対して、彼女は背中を丸めて蚊が鳴くような声で素直な本音を溢す。

 

 

『でも······怖いよ』

 

 

力のない声。

 

死にたくない、という気持ちがそれだけで伝わってくる。

 

常に死と隣り合わせの場にいる自分がそんな感情を抱くなんて、自分でもおかしいとすら思える。襲いかかってくる寒気に嫌悪感を抱いたのはこれが初めてかもしれない。

 

自分はいつも生還している。

 

その実績が死ぬ恐怖を抑え込んでいたのだが、それとは関係なく病によって命の危機に直面している彼女は、一体何が不安なのかそれすらもわからない。

 

意識も手放す寸前。

 

少女の心は恐怖心に苛まれていく。

 

その恐怖に負けた彼女は本当にその言葉を発したのかわからないまま、医者に自分の思いを伝えた。

 

マスクをして、髪の毛が落ちないように専用の帽子を被っている医者らしき人はその声を聞いて、自身の頑丈な掌を彼女の頭に乗せる。

 

そして、彼はベッドの上で横になっている少女に笑いかけた。

 

暖かく、絶対の信頼を与えるように、ただ優しくこう告げた。

 

 

『大丈夫、心配ないよ』

 

 

その言葉に、少女は小さく頷いた。

 

目を細めてすぐに閉じてしまった少女のその想いを胸に刻み付けた医者。

 

トーマス・ウェインは。

 

小さな命を救うために、メスを手に取る。

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

懐かしい夢を見ていた気がしたが、その内容はすぐに忘れてしまった。

 

ブルースがバットマンとして活動できる時間は限られている。

 

自分で定めたルールだからいつでも改めることは可能ではあるが、正義の代理人活動を長く続けるために決めたそのスタイルが体に既に染み込んでいるため、今更ルールの変更を検討しようだなんて一切思わない。

 

全世界どこへ行こうと、例外がない限りは夜行性動物として生活する。

 

悪人どもが動く時間帯は決まって夜だ。

 

目立ちたがりな奴らを除けば、悪党は夜の方が人も少ないため目撃者に犯行現場を見られる可能性も低く、犯罪を成立させやすい。

 

それを狙って、ブルースは闇を纏う。

 

夜に溶け込めば、油断した奴らは背後に迫ってくる自分に気付くことはない。

 

だから、コウモリのスーツを着る時間は予め決めているのだが、

 

 

「······?」

 

 

目を覚ましたその時、ブルースは自分が本当に起きているのか眠っているのか、その判断もできなかった。

 

時間があやふやで、今が一体何時なのかすらよくわかっていない。部屋の四方八方が真っ暗闇だったことから時間帯的には夜であることはわかる。

 

それはつまり、バットマンとしての活動予定時間を既に越えているということだ。

 

 

「時差ボケ、か」

 

 

自身の優秀な執事からも忠告されていたものに悩まされる。

 

普段、大企業の社長アンド闇の正義という事情から使用人達に生活管理を任せている彼だったが、ここではそうはいかない。

 

日本に来ている以上、寝起きやらなにやらは自分でやらなければならない。一般人の生活を送るのはこれが初めてではないが、やはり慣れないものだ。

 

悪と戦うために自ら闇社会に飛び込んで悪とは何かを学んだ彼は、少なくとも普通の人間が抱く感情を知っていたはずだ。貧困に苦しんで犯罪に手を染めようとする者達の気持ちを十分理解していた彼だったが悪を罰する側に回ったことで、その考えを忘れてしまっていたらしい。

 

一般的な生活スタイルがなっていないブルースは、自身の恵まれた環境に甘えていたことを悔やむ。

 

ここには、悪人達から身を潜めるための頑丈なアジトがあるわけではない。あくまで、一時的に雨風を凌げる程度のホテルの一室を借りているだけだ。

 

バットマンのスーツやガジェットも、ベッド下に隠すことしかできず、居所を特定されないように常にホテルを変えているから、のんびりとくつろぐことすらできない。

 

朝になれば一般人として振る舞い、夜になればコウモリのスーツに身を包んで暴れまわる。

 

ゴッサムから密輸された銃を見つけるために、朝と夜どちらの時間帯でも、ブルース・ウェインという人物ではない誰かになりきらねばならない身であるため、そんなサイクルを送っていれば、当然疲れも溜まる。

 

ゴッサムとは違う環境に未だ慣れていない彼は、危機管理意識を今一度見直そうと思いながら目を擦る。

 

その時だった。

 

ブブブブブッ!!

 

と、虫の羽音を大きくしたような物音が鳴り響いた。それと同時に、真っ暗だった寝室に光が点く。空間一面を均等に埋めるには物足りない光の正体は、持ち込んだパソコンからだった。

 

寝起きだったこともあって、最初はその光に目が眩んだが、夜行性動物としての洞察力を鍛えた彼の目はすぐに適応する。

 

どうやら、誰かからメールが送られてきたらしい。

 

 

「······」

 

 

怪しい、が最初に浮かんだ。

 

誰からだ、なんのメールだ等と疑問に思う前に、ブルースはパソコンを睨み付ける。

 

彼が勝手に決めたルールは複数あるが、その中の一つに、『連絡する場合は事前に持ち込んだ特性の携帯電話にするように』というものがある。

 

フォックスが作った携帯は独自の電波を発して連絡することができるため、他の携帯に繋がることはない。特定の連絡端末にしか繋がることはないその携帯は、どんな特定班でも見つけることはできない。

 

繋がる先の端末はアルフレッドに預けてあるため、連絡してくるのは彼しかありえないのだが、携帯にするようにと口酸っぱく念を入れて伝えておいたため、パソコンにメールが届くなんてありえないはずだった。

 

解析ツールとして持ち込んだパソコンにはそもそも連絡するアプリは入れてないはずだ。

 

情報が漏れないように外部からの連絡を一切断ち切ったパソコンには、難解な暗号や記録を保存しておくための機能しか備わってないはず。

 

迷惑メールすらも届くことはないパソコンにメールが届いた時点で怪しすぎる。

 

疑問に感じながらもブルースは、ようやくパソコンのタッチパッドに触れる。

 

画面に表示されたメールの差出人には、心当たりはなかった。やはりどう考えても怪しすぎる、こういうのは開かない方がいいとすら考えてしまう。

 

しかし、怪訝に思う暇もなかった。

 

パソコンに表示されたメールは自らの問題を白状するかのように操作もなしに勝手に開かれて、母国語に配慮したような文章を強制的に見せつける。

 

そこにはこう書かれていた。

 

 

『Emergency request : Walnut, help me escape at night Batman』

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

「で? どのくらい急ぎ?」

 

『現在武装集団に追われている』

 

「ありゃりゃ、そりゃ大変」

 

 

錦木千束は自分の隠れ家で、DVDのパッケージがいくつも散らかっている床に直接座り込んでいた。

 

片付けない理由は、単にめんどくさいというのもあるだろうが、緊急事態だからやる暇がないというのもある。

 

店を終わらせてからの依頼。

 

それを勝手に引き受けた店長が連絡を寄越してきたので、彼女は急いで準備する。

 

床の上に並べられた銃のパーツを組み立てて、作業を行いながら首と肩で挟んだ携帯電話の声に耳を傾ける。

 

 

「たきなはもう仕事の話は聞いてるの?」

 

『ひと通り話した』

 

「ミズキは?」

 

『逃走ルート確保のために動いている』

 

「張り切ってるねぇ~。汚れ仕事が嫌でDA抜けたくせに珍しい~」

 

 

千束はミカの声を聞きながら銃を弄り回す。

 

 

『今回のはDAとは関係ない。それに、報酬が相場の三倍で一括払いで来たからな』

 

「あー、ど~りで」

 

 

千束は思わず笑った。

 

なんの感情も籠ってない、乾いた笑みだった。

 

 

『危機的状況ということなのだろう、敵は五人から十人程度。プロ寄りのアマだ』

 

「ほほーう」

 

『ライフルも確認された、気を付けろ』

 

「了解了~解!」

 

 

億劫そうな返事をしながら、通話を切ると防弾仕様の学生鞄に放り込み、残業代がたらふく貰える仕事へと繰り出す千束。

 

部屋には相変わらず趣味のDVDが散乱していたが、どうせ誰も入ってこれないような仕掛け満載の部屋だし、気付くことはないだろう。

 

階段を駆け降りて道路へと出た千束は中古の原チャリに股がり、安全のためのヘルメットを深く被ってアクセルを捻り、夜道を走り出す。

 

 

 

 

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