バットマン Burns The Night   作:織姫ミグル

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第12章

 

 

死体が蘇るのを見たことはあるかい?

 

 

「ぷぁっはぁ~ッ!!」

 

「「!?」」

 

 

蜂の巣まみれにされて鮮血を大量に流したはずのリスの着ぐるみから、見知った顔が汗だくになりながら手で風を送って涼んでいる。

 

それだけでは体温を調節できないらしく、身代わりの役をやらされていたミズキは運転手に向かって、

 

 

「あっづ! ちょっと! 約束通りビール頂戴!!」

 

「え? え? ええ!?」

 

 

事態が呑み込めていない千束を置いてくように、運転席から固定された担架に一本のビールが投げ渡され、彼女は喜びながらその蓋を開けて喉の奥に流し込む。

 

 

「カぁぁぁあッ!! はあっ!! うんめぇぇぇえッ!!」

 

「ミズキ!? な、な、なッ!? なんでッ!? だってさっき───ッ!!」

 

「落ち着け千束」

 

「えええええええ!? 先生までッ!?」

 

 

事態が呑み込めず、DAの手が回っている救急車の中はどんどんカオスな状況になっていく。

 

唯一取り乱してないのはたきなくらいだ。

 

千束は次から次へと変換される展開に驚き、もはやそれ疲れないのかとすら思えてくる。そんな千束に身代わり役を不本意にも買って出たミズキが端的に説明する。

 

 

「あ、これ防弾仕様。私も初めは撃たれて死なないか不安だったけど案外大したことなかったわ。派手に血が出るのがミソね。まじクッソ重いけど」

 

「うわ!? 飛ばすなッ!!」

 

 

真っ赤な血糊が噴出される着ぐるみに驚く千束。ミズキが着ぐるみに衝撃を与える度に赤い液体が飛び出してくる。

 

それだけの量を入れてればそりゃ重いはずだ。

 

体温もアルコールによって上昇。冷たくても精神面が冷えれば、彼女にとってはそれでオーケーらしい。

 

しかし、だとしたら気になることがある。

 

 

「あの·····ウォールナットさん本人は?」

 

「そ、そうだよ!? どこいったの!?」

 

 

たきながそう聞くと、続くように千束が慌てて訪ねる。

 

が、二人とも何も答えない。

 

彼女達に返すための言葉が見つからない。何故なら、自分達も行方がわからないのだ。

 

 

「今回の計画は·····私達が考えたんだが」

 

 

ミカが小声でそう言う。

 

ミズキがそれに続けるように、ビールを飲みながら悪態をつくように言い訳を述べる。

 

 

「あの野郎、突然目の前からいなくなって。自分は別ルートで逃げるから『ウォールナットのフリして死んだふりしてくれ』としか言わず、そのまま行方知らずだ。このままじゃ、報酬もパーになるな」

 

 

本人よりも報酬を気にしてるミズキであったが、だとしたらウォールナットは一体今どこで何をしているというのか。

 

そればかりが頭を過って現状が理解できない。

 

皆が皆、ウォールナットは一体どこに行ったのか頭を悩ませていると。

 

 

『こっちなら無事だ』

 

 

唐突に、血まみれになったリスの着ぐるみの被り物から声が聞こえた。

 

 

「うぉ!?」

 

 

驚きのあまり変な声を上げる千束だが、声だけとなったウォールナットはまだ生きているマイクを通して救急車に乗り込んでいる全員に話しかける。

 

 

『追っ手から逃げきる一番の手段は、死んだと思わせること』

 

「「!!」」

 

『そうすればそれ以上は捜索されない』

 

 

血まみれのリスの顔がそう話すと、余計不気味さが増して恐怖心が強くなる。

 

どことなくサイレントなホラー要素が増して、耐性のないものからすれば物陰があったらすぐ隠れたくなる光景だ。

 

それでも、

 

勇敢なたきなはリスの顔に向かって疑問を放つ。

 

 

「では、わざと撃たれたんですか?」

 

『そう、彼のアイディアでな』

 

 

この車の中で、『彼』と呼ばれるのに相応しいのは一人しかいない。

 

つまりそれは、

 

 

「先生ぇ~ッ!!」

 

「あははははっ!!」

 

 

悪びれず笑うミカは運転に集中する。

 

ハンドルを握っている以上、同乗者の命も守らねばならないという使命感から後ろを向けないのだ。

 

だから、声だけ出して会話を楽しんでいる。

 

 

「あーあ、最後はハリウッド並みの大爆発を用意してたのに無駄になったかー」

 

「早く終わってよかったじゃないか!!」

 

「······」

 

 

呑気に話している年長者二人に呆れるたきなだが、壊れたリスの顔から飛んでくる声に、再び空気は静寂に染まる。

 

 

『想定外の事態にキチンと対処して、見事だった』

 

「ち、ちょっと待って!! いろいろ聞きたいことがあるけど·····ッ!!」

 

 

頭の整理が追い付かない千束はウォールナットの声に反応して目を回している。それでもなんとか答えを導きだそうとして、頭を抱えて回答の答えを聞く。

 

 

「つまり、その·······予定どおりで」

 

 

身代わりとなっていたミズキに答えの代弁をしてもらう形で彼女の目を見て、

 

 

「誰も死んでない······ってこと!?」

 

「·······そういうこと、なんだけどねぇ」

 

 

歯切れが悪そうに答えるミズキに、何が? と千束が尋ねる前に、

 

 

「予定が狂ってるんだよ、かなり初めの方から。計画ではウォールナット本人も防弾仕様のスーツケースに入れて一緒に行動するはずだったのに、目を離した隙にいなくなっちまって、前金は受け取ってるけど、成功報酬も貰ってないし、どうすんだよウォールナットッ!?」

 

 

そうこうしているうちに、救急車は下町の喫茶店前で止まった。担架を支えている足を折り畳んでいても全体を響かせる怒号がミズキの口から炸裂する。

 

その声にビクッ!! とする残り三人は、ミズキが被っていた身代わり用のリスの頭に注目する。

 

マイク越しでしか話せないが、空気を読んだウォールナットはやや早口で結論を言った。

 

 

『残りの報酬については、またもう一つ仕事を受けてくれた後に渡す』

 

「はあ!?」

 

『今その仕事の詳細をお前らのボスに送った。成功報酬は、一千万円だ』

 

「「「「!?」」」」

 

『それが済んだら、ボクらは直接会うことになるだろう。追加依頼を達成するための資金も送った。追加で五百万。余ったら好きに使うといい』

 

 

贅沢な仕事だ。

停車していた救急車の運転手のミカは急いでポケットから携帯を取り出し、送られてきた追加依頼の詳細に目を通す。

 

 

「······!?」

 

 

それを見て、彼は目を見開いて唖然としていた。

 

その様子を見た三人は首を傾げていたが、その前にウォールナットが発言する。

 

 

『それじゃあ、追加依頼が無事達成されることを祈っている。頼んだぞリコリス』

 

 

そう言って、着ぐるみに着けていたマイクからブツンッ!! という切れる音がなり響き渡った。

 

そのタイミングで、千束は自身の師であるミカに何が送られてきたのか訊ねる。

 

 

「先生、追加の仕事って······何?」

 

 

それを聞いたミカは、ふふっと笑ってあっさりと答えた。

 

後ろにいる三人に顔を向けるように、横顔だけ見せてこう言った。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()······だとさ」

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

今回の事件に関与している連中は、雇っていたハッカーによって呼び出された。

 

隠れ家として使われている場所。

 

そこは、新宿にある高層ビルの一角だ。スポーツジムやプールなど、屋内レジャーだけでなく、あらゆる機材まで設置された秘密基地だ。

 

利用者のグレードはかなり高く、そこを訪れるものはそれなりの関係者ということ。建物に入るだけで関係者である証拠を求められ、会員証を提示しなければ入れない。しかも、そこから更にあらゆる施設を利用する際には会員証に書かれているランクも調べられる。

 

ハッカーのお陰で皆上流階級並みのランクの会員証を持っているが、全員呼び出された理由については良くわかっていない。

 

『テロリスト』

 

と言っても良い連中がいるのは、VIP用のパーティー会場。

 

窓から見える景色は最高で、地上にいる人々がゴミのように見えてしまうほど高い位置にある部屋に、その集団は集まっていた。

 

スクリーンには大量の液晶ディスプレイがつけられており、録画された映像に、株価の上げ下げ、事件の詳細に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()

 

年間契約を違法な手段で貸し切った張本人であるロボ太は、両腕を後ろで組んで、集まって貰った面子に感謝するような姿勢で話し出す。

 

特に、そのテロリストのリーダー的な存在である“緑髪のアフロヘア”の男には敬意を払って。

 

 

「友人よ、同士よ! 今日は会議に出席してくださり、誠にありがとうございます」

 

「······お前そんな話し方だったか? いつも通りの話し方で話せよ」

 

 

椅子にリラックスした状態で指摘するアフロヘアの男。周りもリラックスというか、ロボ太に対して敬意はないのか、パソコンチェアに腰かけながらスマホをいじってゲームアプリを楽しんで机に足を乗せてる奴までいる。

 

世紀末物語にしか出てこなさそうなトゲトゲヘアをした赤髪の男は、ロボ太の話を無視してゲームを楽しんでいる。

 

それでも、ロボ太は口調を崩さないまま話す。

 

 

「お気遣いありがとうございます“真島”さん。しかし、今回は早急に話し合わねばならないことがあるため、この話し方で進めさせていただきます。ご了承下さい」

 

「·······はいはい」

 

 

何もかも馬鹿馬鹿しいと思った、このテロリスト集団のリーダー的な存在である“真島”は、手で煽ってロボ太の言葉を受け流す。

 

ロボ太はスクリーンに取り付けてある何十台もの液晶ディスプレイを指差し、

 

 

「ご覧の通り、リコリスの破滅が予定より大幅に遅れております········フフッ」

 

「·······?」

 

 

一瞬笑った気がしたが、真島は特に気にせず、ロボ太は隣でさっきからゲームアプリに没頭している彼に近付いていき、指摘する。

 

 

「この件については、全力で改善しなければなりません。でないと、我々の計画が狂ってしまいます」

 

 

そう言うも、スマホをいじっている男は意に介さない。単にどうとでもなるとでも言いたげな表情で口笛を鳴らしてゲームを楽しんでいる。

 

近付いてきたロボ太に見向きもせず、ゲームを楽しんでいると、

 

アンティークめいたロボットの被り物が、ゲーム画面を破壊した。

 

 

()()()()()()()()()()()

 

 

と、

 

突如として、知らない声がパーティー会場を響かせた。

 

乾いた笑い声。

 

その異常さにようやく気付いたテロリスト達全員はロボ太に視線を向ける。

 

だが、そこにいたのはロボ太ではない。

 

服装はハッカーがいつも着ているのと一緒であるが、顔がまず知らない男のものだった。

 

リーダーと同じ緑の髪、三日月のように左右に割れた赤い唇の中からは黄色い歯が見え、顔面全てが白い皮膚に覆われている男は、ロボ太の服を着ながら机へと向かい、リラックスした状態で腰を落ち着ける。

 

両手をついて、先程までとは違って面白がるように話し出す。

 

 

HAAAAAAAッ!! HAHAHAHAHAHAHAッ!!

 

 

劈くような笑い声に、皆が銃を構える態勢に入る。

 

知らない顔が現れて、皆警戒しているのだ。

 

そんな敵意を向けられてもなんてこともないように振る舞う『道化師』は机に座り込み、先程までゲームアプリを開いて遊んでいた男に向かってこう言う。

 

 

「わかったか? ミスター·······モヒカン?」

 

 

その呼び名に腹が立ったのだろう。

ロボットの被り物を投げ渡された世紀末ヘアをした赤髪の男は、その被り物を投げ捨てると、不審に思いながら立ち上がって何者なのか尋ねる。

 

 

「てめぇ、一体何者なんだ?」

 

 

強気な態度。

自分の方が強いとでも思っているんだろうか?

 

しかし、『道化師』は一切動じず机から飛び降りると、懐から諭吉がプリントされた紙幣を一枚取り出し、

 

 

「俺は金を持ってるぞ」

 

 

雇い主が誰かを思い出させるように言い放つ『道化師』は、金を仕舞うためにまた懐に手を突っ込むと、

 

 

「·······それと、銃もな?」

 

「!?」

 

 

銃口が長いリボルバーを取り出して自分に向けられたことを認識した男は、慌てるように、そして降伏するように両手を上げる。

 

だが、

 

道化師はそんなのを無視して引き金を引く。

 

 

バンッ!!

 

バンッ!!

 

 

と、広いパーティー会場に銃声が連発する。銃弾は、男性の後ろにある美しい景色が見渡せる窓にめり込み、ヒビを入れさせる。

 

次に彼は面白がるように、わざと誤射したんではないかという素振りで、床に銃弾を発射する。

 

バキッと、弾痕がめり込む音が床から聞こえてきた。

 

反動で右手が上へと持ち上がるが、道化師はいかなる時も笑いを絶やさないということを大事にしているのか、思わぬハプニングにも笑って対応する。

 

 

「HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAAAAAAAッッッ!!」

 

 

流れ弾にならなかったのを見ると、彼の精神面は正常らしい。

 

だが、

 

端から見れば、こいつは明らかに狂ってやがる。

 

道化師は目の前にいる男を睨んで、

 

 

「リコリス共を殺るために雇ったんだから·····」

 

 

そう言って彼は銃口を頬を押し付けると、彼がさっきまで座っていた回転チェアに強引に押して座らせると、

 

 

「お前は······黙って殺ればいいんだッ!!」

 

「ッ!?」

 

 

地団駄を踏むように吠える道化師に、恐怖心を抱く男性。

 

そんな彼に対して、道化師は彼の座っているキャスター付きの椅子に右足を乗せて問う。

 

 

「お前には他に出来ることはないのか?」

 

 

ゲームばかりしてて、何も出来ないのか? と言われている気分だった。尋問にも近く、顔を目と鼻の先まで近付けられると彼の顔は歪み、それでも笑顔を絶やさず、声音を低くして残酷に告げる。

 

 

「······そうは思わなかったぞ」

 

 

失望した道化師の緑の目が蠢く。

 

同時に。

 

椅子に乗せていた右足を、彼が慌てて立ち上がる前に亀裂が入った窓に向けて蹴り落とす。

 

ガシャン!! という間の抜けた割れた音と共に、景色を楽しむためのガラスは砕け、男の体が重力の渦へと絡め取られた。

 

 

「うわぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああッ!!!??」

 

 

蹴り破られた窓ガラスの外から情けない男の絶叫が聞こえてくる。

 

彼の体が数十メートル以上ノーバウンドで空中へと投げ出され、分厚い地面に叩き落とされて鈍い音が微かに聞こえてきた。

 

それを眺めながら、道化師はうっすらと笑う。

 

パーティーなだけあって、もてなしの食事を用意して貰い、その中にあったみたらし団子を手に取って一口で食べきると、くっちゃくっちゃと口を動かして飲み込んで語り出す。

 

 

「うーん·····なんて美味しいみたらし団子なんだ!! さすがはジャパニーズッ!! どんな料理も五つ星だなぁッ!! ハハッ!!」

 

「て、てめぇッ!!」

 

 

それを見ていた仲間が立ち上がり、仇討ちとばかりに早足で近付いていく。

 

しかし、彼はそんなことは気にも留めず、だんご串を机に突き刺し、睨み笑って問いかける。

 

 

「誰か一つどうだ?」

 

「ふ、ふざけんなッ!!」

 

 

激昂した仲間が走り迫ってくる。

 

しかし道化師は余裕を持ってこう語る。

 

 

「それでは皆様ご覧あれ。今からこの串を、消して見せましょう」

 

 

状況を理解できていないのは、果たしてどちらなのか。

 

テロリストか道化師か。

 

少なくとも、テロリストの一人は仲間の仇討ちで頭がいっぱいで、目の前にいるふざけたピエロを殺すことしか頭になかった。

 

故に。

 

 

「これはこれは助手君。タイミングがいいなぁ~」

 

「!?」

 

 

その首を掴もうとした男の手を取った道化師は、後頭部を掴んで串が刺さった机に向けて頭を叩きつける。

 

机に刺さっていただんご串は男の目の粘膜を貫き、そのまま頭脳まで貫通して、机に当たった衝撃で後ろへと倒れ込む。

 

 

「タラーンッ!! ほうら、なくなったぁ·······」

 

 

机から消え去っただんご串を見せつけるように皆を睨む道化師。

 

そんな時、次の動きがあった。

 

パーティー会場の出入口である扉が向こう側から思い切り蹴り破られ、その奥から何かが倒れ込んで入ってくる。

 

 

「んむぅ~ッ!?」

 

「ふふん」

 

 

アンティークめいたロボットの被り物をした、『本物』のハッカーがガムテープでグルグル巻きにされている姿。その男に首輪をかけて逃がさないようにしているツインテールの女性が道化師と同じような笑みを浮かべてテロリストどもを睨んでいる。

 

そいつらを見て、テロリストの一人がまた立ち上がって忌々しそうな声を出した。

 

 

「て、てめぇら────ッ!!」

 

()()

 

「「「「「「「!?」」」」」」」

 

()()()()()()()()()()()()

 

 

そんな彼を、止める声が一つ。

 

このテロリスト集団の親玉である、真島だ。

 

彼は今までの光景を見ても一切表情を崩さず、むしろ面白い余興だとでも思うように楽しんでいた。

 

リーダーの命令は絶対。

 

その言葉に逆らうわけにもいかず、立ち上がっていた男は渋々座り直す。

 

それを確認し終えた道化師は語る。

 

 

「十年前に時計を戻そう。泣く子も黙るあんたらには、警察も検事も手を出せなかった。なのにどうした? あんたらはそれ以来目立った行動を見せていない」

 

「「「「「「「·······」」」」」」」

 

「あの電波塔を爆破したってのに、世間はあれを平和の象徴にしちまうなんて、最っ高に笑えないジョークだ。だからか? タマでも落としちまったか? ん?」

 

 

テロリスト達はやはり応じなかった。

 

しかし彼は続ける。

 

言葉を選びつつ、

 

 

「つまりその······俺みたいな」

 

「怪物?」

 

 

真島のその一声に、テロリスト共は一斉に笑い出す。パーティー会場にいる一団がどっと吹き出して、空間を笑いで満たしている。

 

そんな現状に不快に思う奴がいた。

 

道化師の助手だ。

 

バンッ!! と。

 

乾いた音を出して、一人の男の眉間を撃ち抜く。歯ぎしりしながら見つめる彼女は、男が倒れた瞬間にまた笑顔に戻る。

 

そんな事が起きたのに、真島と道化師は気にも留めずに話し合う。

 

 

「俺は知っている。お前らが、一体何を企んでいるのかを。あのコブルポットが千丁の銃を渡すぐらいだからな、大規模な計画を立ててるんだろう? 例えばそう、『闇に葬られた真実を浮き彫りにする』とかな」

 

「······」

 

「なのに何故、それを今すぐ出来ないのか」

 

 

道化師は確信を持って、リーダーである真島を見つめて言う。

 

 

「······D()A()()()()()()()()

 

 

普通の人なら知らない組織の名を口にした瞬間、真島の眉がピクリと動く。

 

 

「あいつらは影から治安を守る正義の味方気取りの悪党だ。法も秩序も関係ない。バレなきゃいいからなんでもやるような連中がいるせいで、あんたらはコソコソ隠れて、上手くやれずにいる」

 

「·······」

 

「DA、つまりリコリスの女共を殺っても、次は闇社会のプロフェッショナルであるバットマンがあんたらの悪業を暴こうと動くはずだ。皮肉なことだ、銃をゴッサムから注文さえしなけりゃ、奴も日本に来なかったってのに」

 

 

筋が通る話しに、つい耳を傾けてしまう一同。

 

その話を聞いて、真島はこう問いかける。

 

 

「あんたなら、アイツらを殺せると?」

 

「ああ」

 

 

あっさりと、答えて見せた。

注意深く観察しなければわからなかったかもしれないが、目の前にいるのはDAどころかテロリストでさえも手に負えない怪物だ。

 

そんな奴がリコリスを倒すと言うのだ。

 

その言葉に、何故か皆納得してしまった。

 

こいつなら任せられる。こいつなら計画を上手くやり遂げられる。

 

そう感じたテロリスト共は、リーダーの最終的な意見を聞くために彼の方へと視線を向ける。

 

 

「······面白ぇ」

 

 

真島は立ち上がり、道化師の前まで来ると、机に遮られた両者は向かい合うように視線を固定する。

 

真島は、こう尋ねる。

 

 

「まずは何から始める?」

 

「あの銃取引にいた連中の四人を殺す。全員階級は下っ端だ。少人数でもやれるはずだ」

 

 

そう言って、彼はロボ太を見張っている女に手を振って指示を出し、その懐から写真を何枚か取り出して主人に敬意を払って渡す。

 

道化師はそんなのどうでもいいかのように奪い取って、机にばら蒔くように写真を乗せる。

 

 

「まずは、こいつらのうちのどいつかを殺せ。殺した際、ベージュ色の女の指を一本切り取って俺様の元に持ってこい。出来れば人差し指だ。そしたら、更に金を払ってやる。成功する度に、報酬を払う。どうだ? 俺の話に乗るか?」

 

 

全ての会話を終えたかのように告げる道化師、“ジョーカー”は真島にそう問い掛けると、彼は無言で縦に首を振った。

 

交渉成立。

 

それがわかったジョーカーは、テロリスト共に向かってこう叫ぶ。

 

 

「よぉし! 会議は終わりだ!! まずは雑魚リコリス共の息の根を止めてこいッ!!」

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

「コンテナ四つ隠しておいた」

 

「また指示があるから、上手く行けば半分渡す」

 

 

怪しげな取引をする二人組の男。

 

壊れた旧電波塔が見える橋で行われた現場を見たベージュ色の制服を着こんだリコリスは身を潜めてその現場を目撃した。

 

鉄橋の手すりに両手を付き、懐から百万は入ってそうな紙束の封筒を、赤髪のサングラスをかけた男に渡す瞬間を確実に捉えていた。

 

その現場を食い入るように見つめていたリコリスは睨み付け、解散した所で金を渡した方の跡をつける。

 

黒髪の作業服を着こんだ男は素知らぬ顔でポケットに両手を突っ込みながら歩いていくが、その後を女子高生が何気ない素振りでついていく。

 

そして、

 

信号までやってきて赤から青になって道路を渡ろうとした瞬間、ベージュ色の制服のリコリスは背中の鞄に手を伸ばし、支給された拳銃を向ける。

 

が、

 

そこで彼女の意識は途切れた。

 

 

ゴン!! と。

 

 

猛スピードで突っ込んできた黄色い車が、少女の体を吹き飛ばしたからだ。

 

 

「······ッ!?」

 

 

脇からの一撃だった。

 

ブレーキをかけることもなく轢かれた女性の体には痛覚が麻痺し、全身が動かなくなる。

 

地面に叩きつけられたリコリスは『が、あッ!?』と苦しそうな声を上げるも、その周囲には男の仲間だと思われる連中が取り囲んでいた。

 

連中は懐から銃を取り出し、全ての銃口を地面に倒れている彼女に向ける。

 

それを見ていた真島は、車から一度外へ出て笑ってこう告げる。

 

 

「まずは一人目だ、リコリス」

 

 

瞬間、その一言を皮切りに全ての銃口が一斉に火を噴く。

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

数週間後。

リコリスの本部にある封筒が届いた。

 

 

「私宛に手紙だと?」

 

「·····はい」

 

 

宛先は、楠木司令。

 

普通、リコリスどころかDAの存在を知る者はいないはずなのに、わざわざ郵便を送りつけてくるとは。住所も何も公開されていないのに、どうやって送ってきたのかわからない。

 

聞いたところによれば、朝突然施設の玄関前に置かれていたそう。

 

周囲の監視カメラにも映っておらず、誰かが入った痕跡もない。

 

一切の証拠も残さず、何者かがこの施設に侵入して封筒だけ置いていったらしい。

 

 

「どこの馬鹿か知らんが、わざわざ自分から痕跡を残すとはな」

 

 

一般には知られていない場所に送りつけてくるなんて、まず相手はただ者ではない。仲間とも思えない。後で封筒についた指紋やらDNAやらを調べて特定してやろうと思いながら彼女は秘書から受け取った封筒の封を開く。

 

下に向けて、入っているものを出すように上下に振ると、二つの物が転がり落ちた。

 

 

一つは手紙。

 

もう一つは、

 

 

「·······ッ!?」

 

 

それを見た楠木司令は驚愕に満ちた瞳を限界まで開かせる。

 

少女くらいの小さな『人差し指』だった。

 

引き金にかけるためのDIP関節とPIP関節の間が固くなっており、これは銃の引き金を撃ち続けてきた反動で皮膚が角化した者の指だと確証する。

 

それはつまり、自分達の組織の者から切り取られたということだ。

 

 

「·······この指が誰の者なのか調べろ、大至急」

 

「え?」

 

「急げッ!!」

 

「ッ!! はいッ!!」

 

 

秘書にそう命令し、急いでDNA鑑定をするように言う。眉間に皺を寄せて言っていたことから、彼女はかなりご立腹のご様子。

 

そして次に、手紙の方へと目を向ける楠木。

 

彼女は睨むように目を細くして、手紙の封を切る。

 

出てきたのは、トランプのカード一枚とメモ用紙一枚。

 

トランプにはピエロの絵に『JOKER』と書かれたなんて事のないカード一枚だけだったが、メモにはこう書かれていた。

 

 

『Why so serious?』

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

あの日から、日本の夜が来るのが早くなった気がする。

 

ビルでの銃撃戦。

 

あの一件以来、過激な事件が続出している。夜は毎晩のように、悪党達が暴れまわっている。それを見過ごしてるのは何故なのか、対処に間に合わなかったからだ。

 

この人数で大丈夫という、『ある機械』が導きだした解答通りに動いてみたらこの様だ。

 

今はもう六月。

 

誰もが梅雨の時期だと予想していた。

 

だが、雨は降らない。地面に流れた血を流すための雨は流れず、自然は証拠隠滅の協力もしてくれない。これがもし、神の意志だと言うのなら、人間同士の醜い争いに嫌気が差したのだろう。

 

そんな夜が繰り返される毎日、六月七日の夜十二時、錦木千束と井ノ上たきな、そしてミカとミズキは、その銃撃戦があったビルの屋上で誰かを待っていた。

 

その近くには、依頼された通りに設置した特殊な投光器。

 

灰色に濁った雲まで届く光線を放つ大きくて丸い形をしており、その中に歪んだコウモリのシルエットを現すように、真ん中にはコウモリの形に切り取られた金属板があった。

 

皆が皆、空に浮かぶ巨大なシルエットに目を奪われている中、

 

 

()()()()

 

 

証明の反対側から声が聞こえた。

金属がコーティングされている漆黒の手袋の人差し指を伸ばし、コウモリ型の投光器を叩く。

 

全員が動きを止め、音源へ目をやり、明らかに夜の闇に紛れるためであろう漆黒の鎧を纏っている男を視界にいれた瞬間、初めに声をかけたのは千束だった。

 

 

「また会ったね、ゴッサムの守護者さん·····いや、バットマンさん」

 

 

千束がライトのスイッチを切ると、バットマンの背後から小さな影が現れた。

 

少女は、のんびりとそこに立っている。

 

全員が全身わずかに顔をしかめた。しかし、その姿に見覚えがある者もいた。

 

ミズキとミカだ。

 

 

「あぁぁぁあッ!? ウォールナットッ!!」

 

「「······え?」」

 

 

ミズキの言葉に千束とたきなの顔が思わず引きつった。

 

結論だけ言えば、ウォールナットという人物は小さな女の子だった。聞いていた話では、奴の年齢は八十代くらいだと聞いていた。

 

ダークネットの噂では、三十年間何度も死んでは生き返っている。

 

つまりは得体の知れん存在だということだ。

 

そんな存在を、指差して明確に名指ししたミズキに顔を引きつらせてしまった。

 

 

「こ、この子があのハッカ!?」

 

「ハッカーですよ千束さん」

 

 

また同じ間違いをする千束に指摘をするたきな。

 

そんな様子を見て、ウォールナットが忌々しそうな声を出した。

 

 

「もうそいつは死んだんだ。だから名前で呼んで欲しいものだな。ボクにはクルミっていう名前があるんだからな」

 

 

VRゴーグルをかけてぶかぶかなパーカーを着こんだ少女がそう言うと、たきなは訝しむ。

 

信じろと言って信じる馬鹿はいない。

 

なのに、

 

千束はそんなの関係なく泣きながら抱きついて行きやがった。

 

 

「んあああもうよかったぁぁぁぁあッ!! 生きてたんだねぇぇぇえッ!!」

 

「ちょっ!? おいッ!?」

 

「無事でよかったぁ!! ホント······ホントッ!!」

 

「は、離れろッ!!」

 

 

目尻に浮かんだ涙が飛び散り、クルミの衣服に付着する。頬を押し付けながら、なんとかやめさせようと必死にもがく二人は置いておいて、バットマンはこの中で一番偉いと思われるミカに話しかける。

 

 

「まずは、そのハッカーの護衛の報酬と、この投光器の設置の報酬についてだ。報酬は、お前達の所に既に振り込んである。確認してみてくれ」

 

 

そう言われて、ミカはスマホを起動し、通帳アプリを起動して見る。そこには確かに、一千万円分の報酬が振り込まれていた。

 

多額の振り込みに唖然とするミカだが、彼はそんなことよりも訊ねたいことがある。

 

 

「何故この場所に投光器を設置させた?」

 

「悪と向き合うためだ」

 

 

バットマンはハッキリと言った。迷わず、なんてこともないように。

 

 

「ここから全てが始まった。銃千丁の取引に、銃撃戦。ならば、奴らを出し抜くには全ての始まりの場で集まった方が都合が良い」

 

 

それはつまり、必要になったらその投光器で自分を呼べということ。あの世界一治安の悪いゴッサムの守護者が味方になってくれるのは心強いが、ミカは表情を変えず、スマホを仕舞うと、

 

 

「お前のお陰で、悪党達は怯え、夜の闇に希望が生まれ······」

 

 

ミカはそこで言葉を切ると、バットマンが代わりに訊ねる。

 

 

「しかし?」

 

「悪人達がまだまだ街を彷徨いているのが、日本の本当の現状だ。もう、我々の活動については知っているとは思うが、それでも追い付かないくらいの事が起きている」

 

「君達なら正常に戻せるだろう? DAの力があれば」

 

「そうかな? エスカレートすることは考えないか?」

 

「エスカレート?」

 

「私達がセミオートを持てば、奴らはフルオートマチックを使う。こちらがケヴラーを着るようになると、奴らはそれを貫く徹甲弾を仕入れる」

 

「······で?」

 

 

何が言いたいのかわかっていたが、バットマンは敢えてミカに答えさせる。

 

 

「だから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

ミカは胸ポケットから透明なプラスチックの証拠品袋を取り出した。

 

取り出して、バットマンに渡しながら言う。

 

 

「武装強盗、殺人の前科二犯。そして君のように演出を好み、既にこちらは一人やられた。仲間の指を切り落とし、それとこれを残していった」

 

 

バットマンはそれを受け取ると、中に入っているものを見ると、眉間に皺を寄せて睨み付ける。

 

新たに現れた·····いや、昔からの宿敵。

 

それを象徴する物を見て、バットマンはゆっくりと呟いた。

 

 

「······『JOKER』······」

 

 

銃を追い求めて戦いの果てに得たのは、新たな難関。

 

確かな同盟を結んだリコリスの四人と、ゴッサムの守護者であるバットマンが、これより再び世の悪を滅するために共に動き出す。

 

 

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