「ラピスの誕生日プレゼント?」
「はい……。」
スタルークは、真剣な表情でシトリニカを見つめた。
「大切な臣下の誕生日ですから、きちんとお祝いしたいのですが……いったい何を贈ったらいいものか、まったく思い浮かばなくて。」
「あら、あなたが用意したものなら、ラピスは何でも喜んでくれると思うわ。」
「えっ……そんなはずはありません。ただでさえ『僕が贈った』という大きなマイナスがあるわけですから、せめて品物くらいはきちんとしたものを用意しておかないと……。」
「まったくスタルークったら、鈍感なんだから……。まあいいわ、なら、一緒にいい贈り物を探しに行きましょう?」
「恩に着ます、シトリニカ。」
こうしてふたりは、街へ出かけることにしたのだった。
***
「どんなものを贈るか、ある程度見当はついているの? まずはそこからね。」
城下町の石畳を歩きながら、シトリニカが問いかける。
「そうですね……やはりラピスなら、実用的なもののほうが喜んでくれるでしょうか。でも、逆に言えば、ふだんラピスは自分から嗜好品や装飾品を買わないですよね。こういう機会にこそ、僕たちが贈ってあげるべきかもしれないです。」
スタルークはじっくりと考え込んだ。
「装飾品ね……いいかもしれないわ。せっかくかわいい顔をしているのに、飾りっけが足りないと思っていたのよね。もっと煌びやかにしてあげれば……」
「ま、待ってくださいシトリニカ。ラピスの性格からして、あまり派手すぎるものは嫌がりそうな気がします。むしろ、ちょっと控えめなものを選んであげたほうが……。」
「確かにそうね。いつだったか、宝石がたくさん嵌まった首飾りをあげようとしたら、『こんな高価そうなもの受け取れない』って断られてしまったことがあったわ。似合うと思ったのだけれど……。」
「……それはラピスでなくても気後れしてしまうのでは……?」
思わず素で突っ込んでしまうスタルークだったが、シトリニカはまったく気にする様子もなく話を続けた。
「うーん、難しいわね。ラピスが喜びそうで、かつあまり高価なものでないものとなると……。」
そこでシトリニカはふと言葉を切り、何か思いついたように微笑んだ。そして、スタルークのことをじっと見つめる。
「あ、あの、僕の顔に何かついていますか?」
「ええ、しっかりついているわ。最高の贈り物がね!」
「えっ……?」
戸惑うスタルークに対し、シトリニカは楽しそうに言った。
「ねえスタルーク、あなたのその―――」
***
それから数日が経った、ラピスの誕生日。
「誕生日おめでとうございます、ラピス。」
「ありがとうございます、スタルーク様! 毎年きちんと覚えていてくださって、嬉しいです。」
満面の笑みを浮かべるラピスを見て、スタルークも自然と頬を緩めた。
「わたしからも、誕生日おめでとう、ラピス。」
「シトリニカも、ありがとう。おかげで、今年もいい一年になりそうだわ!」
「うふふっ……はい、これ。今日という日を煌びやかに彩る贈り物よ。」
そう言って、シトリニカが手渡した箱から出てきたのは、赤いドレスだった。
「わあ、綺麗……だけど、こんな素敵な服、着る機会があるかしら……?」
「スタルークはこの国の第二王子なのよ? 臣下のわたしたちも、一緒にパーティーに招かれたりすることはあるはずだし、そんな時にドレスの一着や二着、ないと困ってしまうわ。スタルークに一生をかけて添い遂げるつもりなら、社交界にも出ないといけないでしょう?」
「そ、添い遂げる!? 一生をかけて!?」
「あら、臣下として、という意味だったのだけれど。」
顔を真っ赤に染めて慌てるラピスに対して、シトリニカはあくまで涼しい顔で話を続ける。
「さあ、スタルークも贈り物を用意しているでしょう? 早く渡しなさいな。」
「は……はい。つまらないものですが……これを。」
スタルークは、小さな包みを手渡した。包みを開いたラピスは、ハッと驚いた表情でスタルークを見つめる。
「こ……これってまさか、スタルーク様の……?!」
「はい。僕がつけているのと同じ髪留めです……。僕なんかとおそろいですみません……。」
「そんな! すごく……すっごく嬉しいです!!」
言っているそばから、ラピスは髪留めをつけた。感動のせいか、その目は少し潤んでいる。
「ほらね、スタルーク。絶対に喜んでくれるって言ったでしょう?」
「本当によかったです……。」
「ありがとうございます、スタルーク様……! シトリニカも……。きっと、今日は絶対に忘れられない日になるわ。」
薄桃色の髪の中に、主君と揃いの真っ白な髪飾りを輝かせ、ラピスは輝くような笑顔を見せた。