……とはいえ舞踏会のシーンはほとんどないし、なんならスタルークとラピスの会話もない。でもスタラピです。
「スタルーク、入るわよー。」
「はい、どうぞ。」
扉を開けて執務室に入ると、誰もいない。確かに声はしたはずなのだけど……あら?
「何を……しているの? そんなところで。」
スタルークは、机の下で三角座りをしていた。
「暗くて狭い場所って落ち着きますよね。まるで部屋の隅に溜まった埃のような気分になれるので……。」
「……要は、埃になりたいほど追い詰められているのね?」
「はい。できれば明日の晩までには掃除されてゴミ箱行きになりたいです……。」
明日の晩、か。となると、アレね。
「舞踏会のことなら、心配する必要はないわ。あれだけ踊れれば十分よ。むしろ、踊りが上手い部類に入るのではないかしら。」
「気を遣う必要はありません、シトリニカ。シトリニカ以外の人に、踊りが上手いだなんて言われたことは一度も……」
「そもそもわたし以外に見せたことがないのだから、当然でしょう。」
明日の為にスタルークの舞踏の練習に付き合ってあげていたが、実際かなり筋はいい。あとは、もっと自信を持てば完璧だろう。
「まあ……いざとなったら、わたしを頼ってくれればいいわ。でも、わたしにばかり構ってはだめよ。舞踏のパートナーを一番大事にしてあげなくちゃ。」
「パートナー……?」
まるで初めてその言葉を聞いたかのように、目を瞬かせながら繰り返すスタルーク。一瞬の沈黙の後、急に堰を切ったように話し始めた。
「パートナー……そうですよ、パートナーですよ、シトリニカ。舞踏会に出るためにはパートナーが必要です。でも僕には今のところパートナーがいませんし、僕なんかのパートナーになってくれそうな人の心当たりもありません。というわけで、残念ですが僕は明日の舞踏会に出ることはできません! 主催者に伝えておいてください!」
「主催はわたしよ。招待状をちゃんと最後まで読まなかったのね? 『舞踏会』の文字が見えた瞬間に諦めたのかしら。……ともかく、あなたは主催者権限で強制参加よ。」
「な……何が目的ですかシトリニカ! 僕を辱めて、いったい何の得が……?」
「そんなこの世の終わりみたいな顔しなくてもいいわ。パートナーのことは心配ないもの。」
「えっ?」
と、そこへ扉をコンコンと叩く音がして、書類の山を抱えたラピスが入ってきた。
「失礼します。頼まれていた書類の確認が終わったのでお持ちしました。……って、これはいったい……どういう状況……?」
机の下に小さくなっているスタルークと、それを覗き込む姿勢のわたしとを交互に見比べて、ラピスが困惑気味に言う。
「気にしないでちょうだい。それよりも、ちょうどあなたに訊きたいことがあったの。」
「え、ええ。あたしで答えられることなら……。」
まだ困惑した様子のまま、ラピスはひとまず頷いてくれた。
「明日の舞踏会にはあなたも出るのでしょう? パートナーは決まった?」
「え……いいえ、あたしみたいな平民出身のいち王城兵を誘ってくれる人なんていないし。というかそもそも、スタルーク様の警護が仕事だと聞いていたのだけど。」
「何を言っているの、舞踏会に来る以上はあなたも踊らなきゃ。パートナーがいないなら、そこにちょうど余っている人がいるから、それで大丈夫ね。」
「余って……?」
数秒間の沈黙の後、全てを理解したラピスの顔は、みるみる屋敷の絨毯のように真っ赤な色に変わっていった。机の下のスタルークの耳も、似たような色に染まっていく。
「それじゃ、あとはふたりでごゆっくり。ダンスの練習はもう必要ないわよね。」
「待って! 待って、シトリニカ!」
「そそそんな急に言われても……!」
パタン、と閉めた扉の向こうから、慌てて立ち上がったスタルークが机に頭をぶつけたような音と、ラピスが持っていた書類の山がバサバサ落ちるような音が聞こえてきた。
「まったく、世話が焼けるわね。」
思わずくすりと笑みをこぼしながら、わたしはすぐにその場を立ち去った。
それから部屋の中で何があったのか、それはわたしにはわからない。確かなのは、翌日の舞踏会にふたりが揃って現れたこと、そして他のどの組よりも息の合った素晴らしい踊りを披露したこと、それだけだ。
改めてどり様、素晴らしい企画をありがとうございました!