地球防衛軍“5”TACTICS 作:二次創作ブラザー
おはようございます、試験番号B-219。
今回の基地司令官昇進試験合格、おめでとうございます。貴女には早速ニューヨーク、ブルックリン区にある第316駐屯基地に就任して頂きます。
ベース316の前司令官は高齢につき、既に業務の引継ぎ準備を終え退職しています。貴女は彼の後継として基地を運営してください。
改めてコマンダー、おめでとうございます。
2022年初夏。
ニューヨーク、ブルックリン区に建造された基地は、EDFの基地としては珍しく地下施設を持たない形式の拠点であった。
しかしそのぶん武器兵器類の充足に力を注いでおり、近隣住民の後押しもあってブルックリン区EDF第316駐屯基地、通称316基地は最新兵器と膨大な人員を抱える最大規模のEDF基地となっていた。
そして今、時の因果に釣られて一人の女性士官が基地にやってくる。彼女の本当の名は誰も知らず、ただ誰かがこう呼んだという。
──コマンダー、と。
ビル街の中心地、いくつかの使われなくなったビル群を撤去したその地に、316駐屯基地はあった。広大な土地、中心に鎮座する司令施設、その周囲を取り巻く宿舎、兵器格納庫、食堂、多目的施設……。 話に聞くよりかなりの規模の基地である。
軍用装甲輸送車グレイプから降りる。車内はエアコンが利いていたが、外は夏の蒸し暑さで熱気に覆われている。家に帰りたいが、生憎と私の家は今日からこの基地だった。
グレイプが車両搬送路に入っていくのを見届け、迎えが基地から出てくるのを四人の護衛と共に待つ。
基地から二人の兵士と一人のオフィサーが姿を見せた。彼らは私に駆け寄り、敬礼する。私も敬礼を返すと、必要最小限の会話が行われる。
「初めまして、コマンダー。お会いできて光栄です。
私はこの基地の副司令のジョージです。こちらのレンジャーは歩兵部隊の前線指揮官を務めております」
「陸戦部隊レンジャーの隊長をやってる。そうだな……ジンと呼んでくれ」
二人と握手をする。グローブ越しだが汗をかいているのが伝わる。この熱の下にあっては皆そうだろう。
「二人とも初めまして。今回316駐屯基地の司令官に配属されたメアリだ。気軽にメアリ、と呼んで構わない」
適当に会話を切り上げ、基地に入る。ドアを押してロビーに足を踏み入れれば、冷たく心地よい冷気が体を冷やしてくれる。涼しさに身を震わせるが、これ以上風に当たっていては肝心の業務引き継ぎを忘れてしまいそうだ。
コマンダーとしての最初の仕事は、
期待を抱いて、私は司令室に足を踏み入れるのだった。
・・・・・
午前の業務を終え、私は司令室の質素な椅子に腰掛ける。全部隊の把握から全兵器の定期点検報告、部隊の定期報告、パトロール隊の報告エトセトラ……。
会社員がやるような書類にポンポンと判子を押して回る作業をグツグツと煮詰めたような忙しさに忙殺されそうだ。知恵熱でぐるぐる回る頭を抑えながら冷えたコーヒーを流し込んだ。
今のところは前司令官の残した仕事をそのまま引き継いでこなしているだけだが、そのうち自分でやる事も増えてくるはずだ。今のうちに慣れておかなくては。
全員に交代で50分の休憩を取るよう言いつけてから、私は司令室を抜けた。施設を出て屋外のベンチに座り、持っていた冷たいコーヒーを全て飲み終えると、自販機に備え付けられたゴミ箱に缶を捨てた。
ふう、とため息を吐く。忙しいがやっていけそうだ、そう思っていた。
その時までは。
「コマンダー!! コマンダー、どこですか!?」
私を呼ぶ声によって私は勢いよく立ち上がり、その声のする方へと向かう。私を呼んでいたのは副司令だった。その並々ならぬ表情に、何かあったのかと勘繰るそれは、奇しくもアタリだった。
「ここだ。何があった?」
「ああ、コマンダー、よかった! 大変です!!
所属不明の航空部隊が、基地周辺に未知の兵器を投入しています! パトロール隊が現在交戦中です!!」
「なんだと!? 敵の正体は! ……いや、今はいい。増援部隊を送らせろ、市民に被害を出すな!」
副司令が敬礼するのを見、私もあと38分の休憩時間を捨てて司令室へと向かった。
『しまった、後ろだ! ぐぁぁっ!』
「どうした、レッド3応答しろ!」
『敵は兵器じゃない! 血が出た、生きてる!!』
「ブルー6、確かか? 敵は兵器ではなく兵士なのか?」
『化け物だ! でけえモンスターが街を練り歩いてやがる!』
『市民が……! 撃て、奴を仕留めろ!!』
司令室は混迷を窮めていた。情報が酷く錯綜し、この場の誰も正確な情報を把握していないように見える。比較的冷静な者のうち一人に話しかけた。
「何が起きている?」
「こ、コマンダー! いえそれが……。
パトロール隊のほぼ全隊が、敵性航空戦力の投下するモンスターと交戦状態にあります。 パトロール隊は口々に巨大な兵士、俊敏で弾が当たらないなどと報告しており、我々の知らない未知の兵器を投入してきている可能性が……」
そう言いながらオペレータが手渡したのは写真だ。パトロール隊のヘルメットに装着されているカメラが捉えた敵兵器の写真……なのだが。
それは兵器と言うにはあまりにも生物的で、生物と言うにはあまりにも巨大過ぎる。戦車にも匹敵する、あるいはそれ以上の大きさを持つこの生物は、確かにモンスターと呼ぶには相応しいだろう。
「わかった。基地から増援の出撃を急がせろ。
副司令が手配しているはずだ」
「イエスマム!」
オペレータが副司令の居る宿舎に取り繋ぎ、指示を伝える。
私も混乱しているが、やる事は一つだ。市民に被害を出させない。その為に兵士を動員する必要がある。
「コマンダー、パトロール隊グリーン1、及びブルー4から兵器類の投下要請です。航空優勢を確保していませんが……どうしますか?」
制空権を取れていない以上、輸送機を向かわせても敵戦闘機に撃墜される恐れがある。だが迷っている暇は無い。今こうしている間にも市民が攻撃を受ける可能性があるのだ。
パトロール隊の殲滅能力にも不安が残る以上、決断は必定であった。
「構わない、向かわせろ。コンバットフレームも半数出せ」
コンバットフレーム。前の紛争時に市街地戦闘に従事するための、装甲を保有する小型兵器というコンセプトで開発されたものだ。
歩行型兵器で、腕部にマウントされたマシンガンや専用リボルバーカノンによる火力で敵を掃討することを目的としている。
そしてそんなものを多数出せばどうなるか。
コンバットフレームの火力と敵の抵抗との板挟みで市街地は破壊されるかもしれない。 しかしそんなことを気にしていては、このブルックリンは蹂躙の限りを尽くされるだろう。
ならば、許可を出そう。無傷でこの街を明け渡すぐらいならば、この基地の総力を挙げて敵を撃滅しよう。
「貸してくれ」
「あ……は、はっ。どうぞ」
通信機を受け取り、息を吸い込む。全部隊へ通達──
「聞け! 私は316駐屯基地司令官である。現在を以てこの怪物を敵性勢力の攻撃部隊と認定、これを全戦力で排除する。敵を倒し、市民を守れ! 繰り返す、こちらはベース316司令官! 敵を倒せ! 市民を守れッ!」
ありがとうと言葉を添えて通信機を返す。基地からはコンバットフレームを搭載したカーゴヘリが飛び上がっている。現地のコンバットフレームパイロットがあれに搭乗し、歩兵部隊の火力の要となる。
しかし……。
写真をもう一度見る。
凄まじい巨体に、無限とも思える数。そして恐らくはパトロール隊を苦戦させる程の攻撃能力。
これ程の数の敵を投下する敵航空機とは一体───
『や、やられた! ビルに何か突き刺さったぞ!』
『光ってるぞ、敵の攻撃兵器じゃないのか!?』
ただでさえ最悪の戦況が、ここに来て更なる新兵器の投入という事態によって悪化の一途を辿る。交戦中のパトロール隊レッド1が、敵兵器の詳細を報告する。
……それを報告と言えるのかは疑問だった。悲痛な叫びが飛び交う戦場において平静を保てる者は少ない。訓練された軍人だろうと、死の危険が迫れば焦りに駆られるという。
『こちらレッド1、敵の塔がモンスターを送り込んできた!! 偵察していた部下が二人死んだ!!』
塔……通信に流れていた、
「コマンダー。総司令本部からの通達です」
「なんだ?」
「読み上げます。『現時点を以て我々EDFは、敵勢力を宇宙文明人であると認め、これを撃滅する。ついては、各駐屯基地の徹底抗戦を期待する。諸君らの戦うその場所が、諸君らにとっての最終防衛線である事を忘れないでもらいたい』 ……との事です」
それを聞いていた私もオペレータたちも唖然とする。敵は宇宙人などと、信じられるはずもない。
しかしその点に関して思い至らない点が無いわけではない。例えばモンスター。あの巨大な怪物をどう説明するというのだろうか。まさか動物園から逃げ出したなどという理由ではないだろう。そもそも全ての兵士に聞いたところであんな動物を見たことがあるわけがない。
次にモンスターが写り込んでいた写真だ。これに写るモンスターの遥か後方、上空に浮かぶ敵性航空機だが、どう見てもジェット推進やローター、プロペラで飛んでいるようには見えない。
……UFO。
私がそうぽつりと呟いたのを皮切りに、オペレータらが混乱する。
「最悪だ、敵の正体は宇宙人だと!?」
「ゾンビならまだ分かるが…。 宇宙人と来たか……」
『ブルー8、敵を全て排除! ……見ろ、また円盤だ! 化け物を投下してくるぞぉ!!』
『こちらイエロー2、コンバットフレームに搭乗し、敵戦力を撃滅した。他地域の援護に向かう』
通信が混雑する。頭が割れそうだ。
勤務初日でエイリアンの襲撃? そんな非現実的な事があるのか、そう考えるが、今も戦線の友軍が宇宙からの招かれざる来客から攻撃されているのだ。現実は受け入れなければならない。
「こちらコマンダー、総司令は諸君の戦うべき敵をエイリアンだと認定した。君たちの奮戦が人類を救うのだと心に刻め」
出来ることは前線部隊の指揮と味方の鼓舞だ。彼らの頑張りによっては、この地域に平穏が訪れるかもしれないのだ。それまでは、耐えてもらわねば。
『コマンダー聞こえるか?
こちらジン、戦線に到着した。交戦を開始する』
パトロール隊と違い、戦力の充実した本隊が市街の主戦場に到着したという報告が入る。隊長であるジンに指示を下す。
「よろしい。敵を排除し、市民の避難を助けろ」
『ジン了解! よし、各隊散開! 個別に戦闘を開始しろ!』
統率の取れた軍隊ほど強力なものはない。きっと勝てる。そう信じる他ない。あとは出来ることは無い。前線からの報告を待とう。
緊張の糸は解けることは無いが、体は強ばっていた。それをほぐすように私は自分の席にどさりと倒れ込むのだった。
「……コマンダー、起きてください。コマンダー?」
「ん………あぁ、すまない……戦況はどうなっている?」
時計を見ながらオペレータに訪ねる。眠ってから5分と経っていない。これは眠るというよりは気絶かもしれない。
「それが……コマンダー、ジン隊長から報告がありません。既に敵との交戦を終えているのをレーダーで捉えていますが……」
「私が話す。繋げるか?」
「ええ。どうぞ」
ジンの所属しているレンジャーチームとの通信回線を開いてもらった。通信機を手に取る。
「こちらコマンダー。ジン、応答しろ。ジン?」
『こちらレンジャー1、ユウキ。ジン隊長は別エリアに向かいました。通信機が機能していなかったようです』
どうやらユウキ隊員曰くジンは故障した無線機に気付かず他の仲間の下へ向かったらしい。顔見知りが生きている事実に多少なりほっとする。
「生きているんだな? よかった……よし。レンジャーチームは他の部隊を支援しろ」
『了解!』
通信が終了する。しかし指揮という指揮をしていない気がする。前線の兵士たちの判断に任せてしまっているようにも思うが、できることは少ない。彼らを信じよう。我々ができるのは方向の提示と武器装備の支援だけなのだ。
時計は16時25分を差している。全ての部隊からの連絡を待っている。生きているだろうが、反応がないと少し嫌な事態を彷彿とさせてくる。
そうこうしているうちに、ひとつの部隊から連絡があった。私が通信機を手に取る。
『こちらレンジャー2。敵性戦力の全排除を確認した。念の為そちらでも確認願いたい』
「コマンダーよりレンジャー2へ了解。オペレータ、レーダーを確認しろ」
ブルックリン区全域のレーダー中継機からのデータが送られてくる。敵性反応は確かに、全て消失している。
「こにらコマンダー。問題は無い、全て片付いた。
よくやった、被害状況を確認の後、帰還せよ」
『こちらレンジャー2、了解』
その言葉を聞いたオペレータ全員が、通信が終了すると同時に大きな歓声を挙げた。
「勝ったぞ!!」
「EDF万歳! 俺達が負けるかよ!」
喜びを全身で体現する中、私や一部の情報士官は脱力して座り込んでいた。
「お疲れ様です、コマンダー。初勤務でこんなのなんて、今日は厄日ですな。あとは我々に任せて休んでください」
「……わかった。先に失礼する。みんなよくやった」
護衛の兵に案内され、私は自分の寝室に入る。そういえば荷物を整理していなかった。午前の業務以降はあまりにも異質すぎる事態に見舞われていたからだ。
それよりも休みたい。
今日は色んなことがあった。明日からも戦争状態は続くはずだ。後で情報士官らと協力して敵戦力の詳細を把握しよう。
30分の休憩を取り、身体の休まらないまま私は再度司令室へと向かうのだった。
コマンダー
主人公。316駐屯基地にやってきた若き司令官。エイリアンからのプレッシャーを押し退けて今日もお仕事。
ジン
レンジャーチーム全隊の隊長。凄腕らしい。
ユウキ
レンジャー1の隊長。ロンドンから移転してきた。