外に出て目的の場所にまっすぐ向かう。
この姿は星野アイに瓜二つの様だが、それをはっきり認識できるのは自分と加害者のみ。他は雰囲気が似た容姿の良い少女としか認識できないだろう。
だからこうして変装をする事なく意気揚々と街を練り歩いても本人には一切迷惑はかからない。それでも星野アイ要素を認識できなくても容姿が整っていることには変わりないので周囲から集める視線は少し多い。私の行動を阻害しない限りはどんなに見てもらっても構わない。
電車を乗り継いでタクシーも使用して彼女達の住まう場所へ向かう。
私が起こす行動は指針で決めた通り対象の護衛、加害者の鎮圧及び...場合によっては殺害。我ながら倫理観はどこに捨てたのか不明な考えだが、この身を犠牲にしようが必ず達成する覚悟でいる。
自分の中で燃え上がる炎を押さえつけて、冷静であろうとするために静かに深呼吸を行う。怪しまれない様に頰杖をついて窓の外を見るというアクションの中に含ませる。
目的地に着いた。
怪しまれない様な自然な動きで堂々とした姿勢でエントランスのセキュリティを他の住人の後に続くという形で突破する。
フロアは既に調査済み、他の住人を先に行かせてから一人でエレベーターに乗る。不可思議な力を記憶を代償に手に入れて、新しい体を得た第二の人生。
始まってからまだ三日程度しか経っていないが、ここで終わらせる気で臨むというのは贅沢すぎる命の使い方なのではなかろうか。
前世含めて上流階級のような生活はしたことないが、唯一この命の使い方だけは彼らにすら勝る部分だと思い、不思議と笑顔が浮かぶ。エレベーターのガラスに写る最強のアイドルの笑顔は紛い物であろうとも、紛い物自信を虜にしてしまいそうな破壊力を誇る。そして同時に彼女の最期がフラッシュバックして悪寒とともに表情が無表情に戻るのがわかった。
フロアに到着して、物陰に隠れる。
ここからが賭けだ。力で勝てるかどうかで言えば勝てない。しかし、瞬間的に対処法を検索して実践をすれば十分に勝機がある。
...いや、待てよ。
このまま彼女に何も知らせずに鎮圧してしまえば彼女は再び同じ過ちを犯すのかもしれない。そうだとしたら今回の私の行動が水の泡だ。
ならどうする?
アイを危険な目に合わせるのは身が分かれる思いだが、再来があるのもそれはそれで困る。ならば加害者がインターフォンを鳴らしてアイが玄関から出てきて一言かけられた瞬間で取り押さえる。うん、それしか無い。
失敗した際のことを考えると体の震えが止まらなくなるが、成功以外の結果を私は認めない。これが自己中心的な行動だとは分かっている。しかし、これはいくつもある世界線が一つ増えるだけに過ぎない。他の世界線ではアイは殺されるのだろうし、私のいた世界での流れも変わることはない。この世界で起こる私自身が起こす世界を変える行動。ちっぽけな私が超常的な存在に会って力を得て、世界を変える。なんて素敵な人生だろう。
私の歪んだ自己愛に潤いをもたらすために悲劇を無くす。それだけの話だ。
少し待つと事件発生数分前になる。
エレベーターがこのフロアに着くと例の男が白い花束を持って出て来る。うまく花束の陰にナイフを隠しているのだろうが何度も見た私には誤魔化すことは出来ない。
息を吐き出して止めることで心拍数を抑え気味にして無理矢理緊張を解す。
そして奴がインターフォンを押した。
私は気配を消した上で彼の近くに寄った。
玄関の扉が開かれてアイが出てくる。今から何が起こるのか全く予想できていない様子で、そんな顔の彼女もまた美しい。
見惚れそうになるのを舌を噛むことで我慢して、タイミングを計る。
一言話して花束を押しつけ...今ッッッッ!!!
気配を急に現してアイとナイフの刀身の間に左手を差し込む。
手のひらというのは骨の集合体なもので、あまり距離が付いていない、威力がそこまでない刺突攻撃であれば簡単に貫通することは出来ない。
刀身が手を突き破る痛みに筋肉が固まりそうになるが、神経に干渉して人間の反射行動を無効化する。
加害者は急に現れたもう一人のアイに驚愕の表情を浮かべていて、そんな間抜け顔を晒している人物に向かって勢いのまま体当たりと背負い投げのコンボで相手を昏倒させる。
相手が気絶したことを確認すると深いため息とともに一息つく。
「ふーっ...、お嬢さんお怪我はありませんか?」
痛み止めのためにアドレナリンを過剰分泌させているためか、言動がおかしくなるがまだ普通の範囲内のはずだ。
「え...........」
アイは呆然とした様子で固まっており、思考回路がストップしてしまっているようだ。
(流石のアイでもこんな状況をすぐに理解することは出来ないか...)
アイドルであって非日常に身をおいているわけではないのだ。そんな状況をすぐ受け入れる人間の方が珍しい。
私だっていきなりそんなことに巻き込まれたら同じような反応になるに決まってる。
腰に巻きつけておいた上着を裂いて、両手両足をきつく縛る。手にナイフが刺さっているので作業しにくかったがしっかり捕縛できた。
ついでに警察に通報を行っておく。これで数分で警察が到着するだろう。
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サイレンの音と共に警察が到着して、警察官にすら左手の有様を見られてギョッとされたり事情聴取を受けたりして結果的に解放されたのは21時過ぎだった。
夜空に覗く月に左手をあててみる。
包帯でグルグル巻きにされている中で治癒力をそこに集中しているため、通常の4倍程で治るだろう。
気や霊力等を使ったりすればさらに早く治せるのだろうけど、1日にいくつも知識を増やすと凄まじい頭痛が発生するのでこれは我慢する他ない。
もうアドレナリンは分泌していないため、神経を操作することで局所的に感度を鈍らせて痛みを軽減している。
ちなみに事情聴取の際は通りすがりという事を押し通した。アイからしたらこちらも住所を知っていることに対して不審に思って警戒度を高めてくれると嬉しい。
作戦は大成功、これからは星野一家の活躍をテレビや配信サイトにて見守っていこう。
...あ。
「そういえば、これから先どうやって路銀稼ごうかな...」
唐突な現実的問題が私を直撃する。
「動画サイトでも始めてみるか...?」
色んなオカルト的な力でマジックとかもできるだろうな。
蛇足だけど斉藤社長に凄い感謝されてお礼の品を渡してきたのだが、あくまで自己満足なので丁重に断っておいた。彼と会うことも2度とないだろう。
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署内にて
派遣された救急隊員の前でナイフを思い切り引き抜いて血がダラダラ流れ出る様子を見せて怒られるという一幕があった。
大切な記憶について
大切な記憶となっているが、抜き出された=最初からなかったことになっているので本人的には大して問題にはなってないです。
少し自己愛が歪んで肥大化したってくらいで自分から犯罪を起こす人間ではないです。多分、maybe。
作者のメンタルがやっと回復しました。
全快ではないですけど相当マシになりました。
追記:ああいう展開になりましたがアイからアクアとルビーに対して「愛してる」という発言は形は違えどしっかり発生したものとします。これはしっかり伝えとかないとな、と思ったので急いで追記しました。