フジマル・アフター・ライフ   作:のーん

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夏の微小特異点も無事終息し今年の思い出となった。
それをアルバムに収めようとした藤丸はマシュと共にそれを見返す中、ある写真を見つめる。
藤丸とマシュ、2人の傷跡となる1枚を。



いつも読んでくださる方、初めての方、どちらもありがとうございます。
テュフォンちゃん不憫可愛い、プトレマイオスイケ爺過ぎると思ってしまった作者です。
最近はハリポタパロを仲間内で書いていたこともあり、更新が遅れました。


第39話 藤丸、傷痕を語る ~マシュ編~

酒呑童子と茨木童子が生み出した夏の微小特異点も無事に終結しレポートを書き終えた藤丸は、今回のことも納めようと【 旅路の目録(ブック・オブ・ジャーニー)】からアルバムを取り出した。

「だけど、懐かしいなあ」

引っ張り出したついでに最初から頁を捲っていると色んな出来事を思い出す。

カルデアに来ていきなり飛ばされた特異点Fから戻ってきた直後やオルレアンの出撃と帰還、この頃の写真は監視カメラや映像記録から拾ってきたものなのでアングルやピントがズレているのが多い。

次のセプテムからは少しずつ現地やカルデア内でカメラを使って撮られた写真が増えるが、これは召喚に応じてくれたゲオルギウスが撮ったから。

それからカルデアでは人理焼却が解決しなければ外部に漏れる心配なんてない、という理由を付けて皆が写真を撮るようになった。

「オケアノス、ロンドン、そういえば初めて女の子になったのはこの時だっけ」

アルバムを捲る手を進めると俺じゃなくて私が写った写真が出てきた。

夏特異点のこともあって思わず手を止めると部屋の外に気配がするが、それは嬉しい来客の物だ。

「先輩、部屋に入っても良いでしょうか?」

「良いよ、マシュ」

声の主に気付いていた藤丸はアルバムをベッドの上に置くとマシュを部屋に迎え入れ、そのまま自然な流れで手を繋ぐと連れ添ってベッドまで歩き、揃ってそこへ腰掛けた。

「アルバムを見ていらしたんですね」

「今年の夏のも入れておこうと思って出したんだけど、懐かしくて」

マシュはその言葉とアルバムの内容で俺が何を思っていたのか察したようでクスリと笑う。

その笑顔に俺まで嬉しくなっていると、アルバムを眺めていたマシュの顔が不意に曇る。

「マシュ?」

なにか不快にさせてしまうような写真でもあったかな?

そう思って開いたページを隅々まで見れば、理由は直ぐに分かった。

右頬に大きなガーゼを貼られ医務室で横になっている私と婦長の写真、北米特異点で私になれるようになってまだ俺にはなれなかった頃、召喚直後の彼女に治療し直された記念にと撮った物だ。

「あー、初治療だから撮ったんだけど、ごめん」

普通なら問題ない写真だけれども私とマシュ、そして大きなダヴィンチちゃんにとってはそうじゃない。

「先輩、失礼しますね」

「うん、良いよ」

丁度写真でガーゼの貼られていた辺りをマシュが手で撫でると、柔らかい感触とは別に厚い皮を剥かれるような感覚がする。

ベッドサイドの鏡に映る俺の顔を見れば、マシュの手が触れる場所に細く濃い傷痕が1条。

普段はソレを隠している偽装魔術を彼女が解いたから露わになった物だ。

「これが無ければちゃんと先輩の苦しさと向き合えなかったと思うと、この傷はわたしにとっての傷でもありますね」

「だけど大切な記憶でもあるよ」

マシュと話して思い出すのはこの傷が付いた、初めてマシュに弱さを吐き出した時のこと。

そして、大きなダヴィンチちゃんからの最後の贈り物。

 

 


 

 

第五特異点、北米から戻って来た私の中には困惑と平静、相反する2つの感情が渦巻いていた。

困惑は当然、私の今の状態。

特異点で一晩寝て気が付いたら女の子になっていた上、髪も瞳も元の色とは似ても似つかない朱色と琥珀色になっていた。

なのに視覚以外のあらゆる要素で皆は私がカルデアのマスター・藤丸立香と認識していたし、シバの観測に至っては何も変化していない。

コレで困惑するなというのは無理だ。

そして平静は今の状態に対する自分の気持ち。

目が覚めて最初にこの姿を見た時は驚いたけど、不思議なくらい身体と心への違和感は無かった。

「先輩がお、女の子に!?」

と叫んだマシュが下着はどうとか一緒にお風呂に入ろうとか言われても、『男だから』という感じで断りもせず普通に女の藤丸立香として振る舞えていた。

女になったことには困惑したが、女でいることには平静なのだ。

「あれ? 男に戻ったらこの記憶とかどうしよう?」

今はマシュの裸を思い出しても綺麗だなーくらいの感想しかないが、男の時にこういうのを思い出したらリビドー的サムシングが湧くのでは?

まぁ、今悩んでも仕方が無いので放置しよう。

一先ず女の子になってしまった原因追求はダヴィンチちゃんとドクターに任せて、私はマシュと共に召喚室で恒例となりつつある特異点帰還後の召喚である。

「概念礼装が出来上がるとしても黒聖杯、せめて宝石剣を……!」

縁という曖昧な物を触媒に召喚するカルデアの召喚システムはサーヴァントを召喚できるとは限らず、失敗した時は概念礼装を作るようになっている。

誰も応えてくれなくてもせめて力になる物を、そんな祈りが通じたのか召喚サークルの光が虹色に変わった。

「虹回転! 誰!?」

「落ち着いてください、先輩」

召喚難度の高いサーヴァントが応えてくれたその光に興奮を隠せない立香をマシュが宥めながら光が収まると、赤いジャケットに黒いスカートの軍服を身に着けた女性がそこに居た。

「私が来たからには、どうか安心なさい。すべての命を救いましょう。すべての命を奪ってでも、私は、必ずそうします」

「ナイチンゲール!」

「ナイチンゲールさん!」

名乗りなんて無くとも分かる真名を呼んでマシュと一緒に彼女に抱き着く。

頭1つ高い位置から、看護婦がこれほど歓迎されるとは、などと聞こえてくるが関係無い。

先程までいた第五特異点で勝利出来た最大の功労者、あの戦場で全ての病根を癒そうとした鋼の婦長がこんなに早く来てくれるなんて。

「マスター」

「どうしたの?」

挨拶もそこそこに、私の顔の高さに目線を合わせたナイチンゲールはその紅い瞳で私をジッと見つめる。

決して不快では無いが、何もかも見抜かれそうなその瞳に緊張する。

「マスター」

「はい」

「緊急治療を開始します、処置室への案内を」

緊急治療が必要が人間が居るなら一大事だと、ナイチンゲールに医務室の場所を教える。

「ココを出て左、2つ目の角を右に曲がったところだけど、誰をぉっ!?」

「せんぱーい!?」

一瞬だった。

私を姫抱きにしたナイチンゲールは暴走機関車という言葉がピッタリの勢いで、ドップラー効果のかかったマシュの叫び声を残して全力で走る。

 

 


 

 

そして、瞬く間に医務室に駆け込んだナイチンゲールは私をベッドに寝かせると右頬のガーゼを乱暴に剥がした。

「痛つっう」

「これはなかなかですね」

あまり見せたく無かったモノを晒されるというのはあまりいい気分じゃない、女の子として傷の付いた顔というのは特に。

「ただちに処置をし直します、痕が残るかもしれません」

さすがバーサーカー、私の意見など聞かずにテキパキ治療をするけど。

「んぅ〜〜!!」

地味に痛い、麻酔の入った軟膏で多少は軽減されているとはいえ、そこをメスやピンセットで弄られると痛い。

そして目の前のガーゼには傷口から取り除かれた血の塊や肉片が置かれていき、否が応でも傷口を処置されていると分かる。

「傷口の処置は終了、縫うほどでは無いのでこのままテーピングします」

最後に消毒液を吹きかけられ、傷口がピッタリと合うようにテープを貼って上からガーゼを貼ると処置は終わりらしい。

「次はアナタのココロの治療です、マスター」

「ココロの? でも、私はそんな……」

嘘というのは私が一番分かっている、女になって自分の身体を見た時に思ったのだ。

 

”こんな傷だらけの身体なんて嫌だな”

 

北米で左の腕と脇腹は吹き飛んだ、ロンドンの魔霧と雷には全身を所々灼かれ、オケアノスでは無数の砲弾や岩の破片を浴び、セプテムでは矢が幾つも掠り、オルレアンではワイバーンの攻撃の余波を浴び、冬木では街を焼く火と無数の攻撃に見舞われた。

もちろん大きな傷や放っておけない傷は魔術や最新技術で治療してもらっているけど、傷跡まで完璧に消せる時間もリソースも無い。

だから大小含めて私の身体は傷痕だらけで、どれも普通なら付かないソレが付くたびに嫌になった。

男の時もその感情はあったはずだけど男の傷は勲章だとか、マシュの前でそんな弱いところを見せられないとか、顔の傷も他の傷と同じとか、そう言って見ないようにしていた。

だけど女になってそんな強がりが何処かに消えたら、単純に傷だらけの自分の身体が嫌になってそんな我慢なんて出来ない。

見える所の傷痕は向こうで知り合ったエレナに教えてもらった化粧で誤魔化して、シャワーを浴びる時もマシュには見せないようにした。

それでも今まで溜まっていた感情は独りの時に溢れ出て、その時は必死に声を圧し殺して泣いた。

管制室にはもしかしたらバレていたのかもしれないけど、気遣ってか何も言わないでくれた。

「マスター、医師の問診には正直に答えなさい。でなければ、私は殺してでもアナタを救うことになります」

なのに、目の前の看護師は召喚されてから傷の処置をするまでの僅かな時間で誤魔化しを見抜いてみせた。

彼女になら、話しても良いかもしれない。

「ナイチンゲール、これから話すことは誰にも言わないでくれる?」

「『職務上の知り得た秘密についてはこれを秘匿する』、私の名を冠する誓詞にある言葉です。この場に居る私達だけの秘密としますから、正直に全てを」

その言葉に安心しきった私は全部を話した。

隠しごとも誤魔化しも無く、普通じゃない傷が身体に付くのが嫌で、これ以上傷つくのも嫌で、それを我慢して強がるなんてしたくないと。

全部吐き出した私はナイチンゲールのハンカチをぐっしょりと濡らすほど泣いて、少しだけスッキリした気持ちで彼女に優しく抱擁されていた。

「少し症状が改善されたようですね、今後も治療を続けましょう」

「ずびっ、うん、また辛くなったら言うね」

今日の治療はここまでだから落ち着いたら自室に戻るようにと言い残し、ナイチンゲールが医務室のドアを開ける。

そこには……。

「あっ、あの、わたし」

「ま、しゅ?」

泣き腫らした私の顔なんて、マシュには見せたくなかった。

精一杯強がって、マシュの尊敬する先輩でマスターでいたかったの。

だけど、それはもう崩れてしまったらしい。

「その、ごめんな」

「ちょうど良かった、マスターが落ち着くまでここで見張りを」

ポン、とほんの少し背中から押されたマシュは言葉の途中で呆気なく医務室に押し込まれ、その背後で扉が閉まる。

途端に医務室をつつむ重い静寂、呆然とした私はただ困惑を浮かべるマシュを見つめるだけだった。

「マシュ」

「はい!?」

多分、私にどう言葉を掛ければいいか分からなくなっていたマシュは私の言葉にとても驚き、その様子が可愛くて少しだけ気持ちが軽くなった。

「とりあえず、隣に座って」

 

 


 

 

召喚室から出ていかれた先輩とナイチンゲールさんを追いかけた先の医務室、盗み聞きするつもりは無かったのですがお2人の会話、特に先輩の悩みを聞かずにはいられませんでした。

そして、その内容が耳から離れない私はナイチンゲールさんが出てきたとき動けず、今はこうして先輩の右隣に座っています。

「それで、話はどこから聞いてたの?」

「その、全部、です」

「そっか」

それだけ言った先輩は簡単には逃さないという意思表示のようにわたしの手に指を絡ませ、互いの袖をめくりあげました。

傷痕だらけの先輩と傷1つ無いわたし、そんな2本の腕が露わになります。

「ごめん、なさい」

人間とサーヴァントの違いと言ってしまえばそうですが、先程の先輩の話を聞いてしまったわたしは謝っていました。

「ねえ、マシュは何に謝ったの?」

「先輩の身体は傷痕だらけなのに、わたしには残っていないからです。あと、先程の話を盗み聞くようになってしまったことも」

俯いたまま、絞り出すようにそう言ったわたしを先輩は優しく撫で始めました。

「?」

「そっか、マシュは傷痕が無いことを悪いことだと思ったんだ」

ひとしきり満足した先輩は手を離し、今度はわたしにもたれるように抱き着いてきたのでそれを受け止めます。

「私はね、盗み聞き以外でマシュが悪いことしたなんて思ってないよ。怪我するのはお互い様だし、直接戦ってるマシュの方が深く傷付いてるんだもん」

だけど、と区切った先輩はわたしを強く抱きしめ、声を震わせながら続けます。

「私、身体に傷が付くのが嫌なの。ぐすっ、消えなくて、治らなくて、普通じゃない傷が付くたび私が普通からどんどん離れていって、戻れなくなっちゃうみたいで」

「せん、ぱい」

知らなかった。

私が知っている先輩は優しくて強くて、どこまでも普通なままでどれほどの英霊・反英霊であろうと接する人で、私の憧れの人だった。

「けど、こんなとこ皆が知ったら、ずびっ、心配するし、もっと前で戦ってるマシュの方が傷付いてるから我慢しなくちゃって」

だけど、今ここにいる先輩はそんな普通なままマスターであり続ける憧れの人では無く、私と同じかそれよりも戦いで傷付くことを恐れる普通の人だった。

「へへ、カッコ悪いとこ見せちゃった。先輩失格だ」

そう言って私を離した先輩は普段のふにゃりとした優しげな笑みとは違う、無理矢理作ったように引き攣った笑みを浮かべていました。

「いいえ、いいえ、ぐすっ、先輩は、格好悪くなんて」

先輩がそんな風に笑うのは私のせい。

私の先輩であろうとするから、格好良い藤丸立香で居ようと精一杯だからです。

「先輩はそうやって強く在ろうとして、私が不安にならないよう、ぐすっ、なのにわたしは先輩が傷付いていることも知らないで、傷から守れなくて」

それがショックで、サーヴァントとして守り支え合ているつもりが、ずっと私を先輩が守り支えていたのを今更知ったことが苦しくて、悔しくて、私は泣きながら先輩を抱きしめていた。

「なか、泣かないでよ、マシュ。ずびっ、マシュは悪くないの、私が自分を守れなくて、マシュは私よりもっと傷付いてる、ひぐっ、なのに、傷付くのが嫌なの」

先輩も同じように泣きながらわたしを抱きしめ、心の奥から苦悩を吐き出す。

「マシュに守ってもらって傷付くのも、えぐっ、マシュが私のせいで傷付くのも両方嫌なのに、わたし、ひぐっ、マスターだから戦わないとだめなの」

人類最後のマスター、そう呼ばれていてもただのティーンエイジャーだということを、わたしは見ないようにしていたのかもしれません。

尊敬する先輩という一面だけ見て、なのにアイコンタクトですべてこなせるようになんて、瞳の奥にある苦悩さえ知らなかったのに。

「せ゛ん゛ぱ゛い゛ぃ゛ぃ゛!!」

「ま゛し゛ゅ゛ぅ゛ぅ゛!!」

そこまでが限界で、互いに胸の内の苦しさを自覚して吐き出したわたしたちは互いに縋り合うようにしながら、涙が枯れるまで泣いていたのでした。




書いてみた思ったのはメチャクチャ湿度だったことですね。
宜しければ感想・評価ほどをお願いします。


ハリポタパロは他の方との兼ね合いもあるのでpixivのみの投稿となります。
そちらにもいろいろ書いては投げているので、読んでみたい方はよろしくお願いします。
https://www.pixiv.net/users/6591632/novels
感想等で要望あればこちらにも上げますので。

感想・評価送るのはハードル高いですかね?

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