普通に戻れるように贈られたそれについて、藤丸とマシュは思い返す。
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今年の夏の思い出も収めるついでにアルバムを見返した藤丸とマシュは、1枚の写真をきっかけにして互いの傷となったある出来事を思い出していた。
そして、傷を晒しあったことを回想し終わると次に思い出すのはソレを他人に見せないようにした時のこと。
傷と一緒に抱えていた感情を互いに吐き出しながら、どのくらい泣いていたのだろう。
10分か1時間か、それとももっと長くなのか短くなのか、泣き疲れた私とマシュは揃ってベッドに収まっていた。
「マシュってば酷い顔だよ、何度も擦るから目の周りが真っ赤だ」
「先輩も泣き腫らして、目の周りがふっくらしていますよ」
「「ふふふっ」」
泣くだけ泣いてスッキリした私たちは互いに相手の顔を見合わせて笑い合い、額を突き合わせる。
「ごめんね、マシュ。ちょっと情けないところ見せちゃった」
「いいえ、謝るべきはわたしの方です。先輩のもっとも近くに居ながら何も気付けませんでした」
うーん、これじゃ堂々巡りになっちゃいそうだし、こう言った方が良いかな。
「ありがとうねマシュ。そうやって心配してくれてすっごく嬉しいし、こうやって溜まってたの吐き出せてスッキリしたよ」
真っ直ぐに瞳を見つめながらそう言うと、マシュも同じように答える。
「こちらこそ、ありがとうございます。先輩のお陰で、わたしはここ迄来ることができました」
これでこの話はお終いだけど、マシュは私にある提案をする。
「ダヴィンチちゃんやドクター、キャスターの皆さんに頼めば、時間は掛かると思いますが傷痕を全てキレイに治せると思います。そんなに傷痕が嫌ならば……」
「それは無しかな。私が嫌なのは傷付くことで、傷痕そのものじゃないから」
私の即答に言葉の意味が分かっても理由が分からないというふうに、マシュは可愛らしく首を傾げた。
「いつか人理を取り戻したら、私はカルデアを追い出されるかもしれないでしょう? その時に記憶やサーヴァントの皆との契約を消されても、傷痕が身体に残ってればナニカがあったことは消えないから」
もしそうなれば悲しくて辛いことだけど、ただの一般人の私がカルデアにずっと居られる保証はない。
だから、どんな形でも良いから消えない痕を残したいんだ。
「それはその……」
「マシュは気にしないで。未来のことは分からないし、意外とカルデアにずっと居られるかもしれないでしょ」
傷付きたく無いのに傷痕は無くしたくない、そんな気持ちも私が身体を見てショックを受けた理由かもね。
「でしたら、せめて傷痕を隠せるようにしませんか? ダヴィンチちゃんやキャスターの皆さんならそのための魔術や礼装も、きっと作れるはずです!」
両手を胸の前で握り締めたマシュは鼻息荒く、とまではいかないけれど、熱心にそんな提案をしてくれた。
確かにそれなら普段傷痕を見て苦しむことは減るし、必要な時には傷痕を見て思い出すことができる。
カルデアから全てを喪って追い出されても、その程度の魔術礼装ならお目溢しがありうるだろう。
「そうだね、そうしようか。だけど、ドクターには内緒だよ」
「それは何故ですか?」
今のカルデアのトップはドクターだから言うのが当然では? というマシュの疑問ももっともだが、一応ちゃんとした理由はある。
「ドクターに変な心配かけたくないしさ、何より男の人に女の子の身体を見せるのは流石に抵抗が……」
本来の性別が男でも、確実に全裸となる気がするので女性だけがいい、というかドクターに裸見せるとか無理無理。
そんな当たり前の羞恥心に基づいた私の要望をマシュは汲み取ってくれ、ドクターには内緒のままでヒッソリと進んでいった。
当然だけど回路はへっぽこ、知識は勉強中、実技は礼装頼りの私がメンテフリーで無理なく常時発動できる礼装の開発はうまく行かなかった。
結局、査問の日になっても受け取れないままフィニス・カルデアから逃走したのだけど、霊基トランクの中にソレはあった。
《藤丸君、あるいは立香ちゃん、この手紙を読んでいるなら対面では無いだろうからこんな書き出しになるのを許して欲しい。
そこにある、君と君を先輩と慕う娘に頼まれていた傷痕隠しの魔術礼装は私から君への最後の贈り物だ。使い方は手に嵌めて"Memoria"と口にすればいい。
強く擦ると消えてしまうけど、すぐに戻るから大丈夫。君とあの娘が消そうと思って擦ればすぐに消えるから、見たくなっても大丈夫だとも。
本当は対面で渡したかったけど、残念だな〜。
万能の天才、レオナルド・ダヴィンチより》
ダヴィンチちゃんからの最後の贈り物となってしまった腕輪は普段使いに目立たないシンプルなものと、フォーマルな場所にも相応しい精緻な飾りが施されたもの。
「……ありがとう、ダヴィンチちゃん。だけど、まだコレは使えないな」
これから普通じゃない傷痕はますます増えるし、傷痕と共に刻まれる物も増える。
俺が普通に戻っても良いとダヴィンチちゃんが残した腕輪は、再び普通から離れていくと分かって身に着けるのは相応しくない。
「コレを使う時はダヴィンチちゃんにも見せるから、遅くなるのを許してね」
そうして7つの異聞帯を壊して住まう大勢の人々を殺して周り、その間に増えた傷の分だけ俺は普通からどんどん離れていった。
それにすっかり慣れてしまった私は普通なのか普通じゃないのか分からなくて、人理漂白を解決したときにはすっかり普通じゃなくなっていた。
「「ダヴィンチちゃん、ただいま」」
【Ⅱの獣角】の個体増殖で男女同時に姿を現した俺/私は傷隠しの腕輪を着けてフィニス・カルデアの格納庫、ダヴィンチちゃんが最期に見ていたはずの場所に立つ。
「こんな感じで普通じゃない傷痕も増えて分裂だったり色々できるようになったけどさ、どうにか世界は取り戻したよ」
「残念ながら私は普通じゃなくなったけど、ダヴィンチちゃんの礼装のお陰で普通のフリやちょっとの間戻るくらいは良いって思えた」
血痕どころか何もないそこで、ダヴィンチちゃんが最期に見たはずの光景を上書きするように私服を着たまま唱える。
「「Memoria」」
腕輪を起点に厚い化粧を塗るような感覚が通り過ぎ、ソレが全身に及ぶとその感覚が消える。
互いに顔や服の下の身体を見てみれば、傷痕はキレイに見えなくなっていた。
「「さすがダヴィンチちゃん!!」」
”当然だとも、私は万能の天才なんだぜ? ”
聞こえるハズのない声が格納庫に響いた気がして、胸の奥をギュッと締め付けられる思いがする。
「ドクターもダヴィンチちゃんも、遺すモノだけはちゃんとしてるんだから」
「ソレを見て、遺された人が苦しくなるって分かってるのにね」
それがどうしようもなく切なくて苦しくて、でも悲しくはないこの気持ちを理解し合える私/俺と、自分同士で抱き締め合う。
内側に抱えた感情を我慢するためではなく消化するためにしばらくそうして、落ち着いた所で手を離すと全く同じタイミングで俺/私も手を離した。
「「クスクス、やっぱり私/俺だもんね」」
肉体が2つで個体として独立しても自分は自分、根っこが繋がっているのだから仕方が無い。
これ以上格納庫の外でマシュを待たせるのも可哀想だし、気持ちの整理もついたなら外に出よう。
互いに腕輪のない方の手を繋いで出入り口に歩みを進めると、互いの身体の境が曖昧になって溶けあっていく。
不快どころか心地よい温かさを伴うそれが終われば、ココに居るのは俺一人。
「不思議な感覚だな。さっきまでの2人も今の1人も、どっちも藤丸立香としてココにいることが同じだなんて」
男と女でどっちが自分なのかというのは気にしない、というか気にならない。
等しく藤丸立香として2人になっていたのが1人に戻っただけで、大したことではないのだから。
「先輩、いかがでしたか?」
格納庫を出るとすぐ、1人で待っていたマシュが心配そうに話しかけて来たので改めて時計を見てみると30分ほど経っており、『少しダヴィンチちゃんのお墓参りしてくるね』というには長過ぎたようだ。
「さすがダヴィンチちゃんだね、男でも女でもバッチリ礼装は機能したよ」
その証拠にと服の袖を捲り裾を持ち上げてみれば傷一つない普通の身体が露わになり、顔をほんのり赤く染めたマシュはしげしげと見つめながら頷く。
「確かに先輩のお身体は傷一つないでしゅ……」
「今更恥ずかしがるようなことでも無いでしょ? お互いに全部見せ合ったんだし」
「ソレとコレとは話が違います! 確かに裸のお付き合いもして一番深いところで繋がったりもしましたが傷痕1つ無い先輩の身体にはまた違う、ではなくてですね、コレが何事も無かった普通のままの先輩だと考えると色々と考えてしまって」
言葉の前半部分に苦笑しつつ後半部分には納得する。
もはや傷跡があるのが当たり前となってしまったので忘れがちだけど、前は普通じゃない傷が付くたびに自分も普通から離れていくように感じて嫌になっていた。
その延長で考えれば傷跡1つない見た目というのは普通のままだった私というある種のIF、【カルデアのマスターではない藤丸立香】なのかもしれない。
「マスターじゃない、マシュと出会わなかった俺……。ヤバい、全然想像できない、というかしたくない」
「わたしもです。先輩抜きの人生、この場合はサーヴァント生かもしれませんが、そんなものは考えられません!」
言葉と共に俺の両手を握るマシュの手は程よい力強さで安心感があるから心の底からホッとして、なによりマシュと一緒にカルデアに戻って来たことを改めて実感して嬉しく思う。
そしてこれから先の人生、俺のアフター・ライフについて改めてマシュにお願いをしなければ。
「マシュ、普通じゃなくなって、欲しくない永遠に付き合わせておいて今更だけど、これからもずっとよろしくね」
マシュの手を握り返して隣に居続けることを選んでくれた最愛の1人にお願いすれば、マシュは首を横に振って答える。
「いいえ、この度の永遠は先輩を1人にしないために自ら欲したものですから、よろしくというのはわたしの方です」
微笑んでそう言ったマシュにつられて自然と頬が緩み、笑い声が漏れる。
「ふふ、お互い様だね」
「お互い様ですね」
傷1つで多くを語り過ぎた気もするけれど、それだけ身体中の傷跡には色んな記憶が詰まっている。
「この傷痕全部を話したらどれだけ時間が掛かるんだろうね」
「それこそ、永遠じゃないですか」
偽装魔術を解いて袖を捲れば無数の傷跡が浮かび上がり、マシュが言うように永遠に話し続けることが出来るだろうが今は違うことを話したい。
「「マシュ」」
そんな気分だから私/俺と俺/私でマシュを挟み、耳元で名前を呼ぶ。
「ひゃ、なんでしょうか先輩方」
急な個体増殖と耳元で囁かれた名前に驚いた様子をニヤニヤと眺めながら、交互にマシュへ催促する。
「今度はマシュの話が聞きたいな」
「私の知らないマシュの話もイッパイあるでしょ? 何か聞かせて」
アルバムの作業は一旦おしまい、そこにあるのは俺/私の思い出だからマシュの話には要らないしね。
私はマシュの腕を抱きしめて、俺は私とマシュにまとめて腕を回す、これでもうマシュは逃げられない。
「では不肖マシュ・キリエライト、藤丸先輩と立香先輩に改めてお話させていただきます」
一体なにの話だろうかと、俺/私たちは語り始めたマシュの言葉に耳を傾けた。
ぐだーずの同時登場回ということで簡単な性別による差異的な紹介を
-藤丸立香(ぐだ男)
性別男の方、一人称は俺、他人からは藤丸 or 〜君。
生まれた時から基本的にコッチで生きているので、価値観や趣味嗜好はこちらがベース。
我慢強く割と1人で抱え込んでしまうが、ぐだ子の方から影響を受けて吐き出すことができるようになった。
性格は受動的、暢気、諦めが悪い。
-藤丸立香(ぐだ子)
性別女の方、一人称は私、他人からは立香 or 〜ちゃん。
ひょんなことから第五特異点で性転換してしまったが、第六特異点までには自在に切り替えられるようになった。
価値観や趣味嗜好がぐだ男ベースなので男のロマンにも理解があるが、思考や意識はきっちり女性。
我慢はできるがきっかけがあれば自分の感情を素直に吐き出せるタイプ、モヤモヤが溜まるとこっちになっていることが多い。
性格は能動的、陽気、諦めが悪い。
ちなみに恋愛対象はどちらも共通して女性。
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