肩の力を抜いて緩くお楽しみください
バーヴァン・シーと藤丸と
「おいザコー、この前借りた本返しに来てやったぞ」
「わざわざありがとうバーヴァン・シー、別にポストでも良かったのに」
「別に、続きも借りたかっただけだし」
赤いドレスと髪を靡かせて歩く彼女はいつも通り、だけど本の続きを引っ張り出すと部屋から出ずに俺の膝の上に対面で跨がった。
「?」
「お前さ、アタシにザコって言われてムカつかないワケ?」
ザコ、たしかに悪口だけどバーヴァン・シーからはすっかり言われ慣れてるというか、最近は2人きりの場所とかでしか言われないので愛称の一種だと思っている。
「最初は少しムカついたけど仕方無い、今はTPOを弁えてるから何ともないかな」
「お前はアタシのマスターでお母様の夫だからな。一夫多妻っていうのは気に食わないけれど、多少は弁えるわ」
ただ彼女の言いたいことはそうじゃないらしく、顎をクイッと引かれると呆れたような眼で見つめられる。
「だけど今のお前ってお母様よりはザコだけどアタシよりは強いでしょ、なのになんでザコって言われてヘラヘラしてるわけ? マゾなの?」
「マゾではないけど、そんなに強いかな?」
「不老不死の尸解仙にORTの体質、それに獣角モードだってあんだろ。正直、全開のお前に勝てる気しないんだけど」
確かにそうだろう、ただでさえ死に難いのに7つ全て解放すれば冠位霊基並みに魔力は上がって、権能と合わせて相当な戦力になる。
決してザコではなく強者、しかも上積み中の上澄みであることは間違いない。
「あくまでも貰い物、人から外れて手に入れた力だけどね」
なのであまり自分の力という気はしないが、やはりバーヴァン・シーには関係ないらしい。
「なんだろうと持ってるのは自分の力ってお前がいつも言ってるだろ、なら関係ないでしょ」
「でもそれは、君にザコって言われてもいい理由とは関係無いんだけどね」
俺が強かろうと弱かろうとバーヴァン・シーにザコとあだ名されても良い理由は別にある。
「じゃあ何よ、本当にマゾなの?」
「だから違うって、俺のことを侮らずに強いって認めた上で君は『ザコ』って呼ぶだろ。だからさ、君だけがそのアダ名で呼ぶなら良いかなって」
言葉に意味のない単なるアダ名なら、別に『ザコ』と呼ばれても良いのだ。
「ふーん、じゃあ2人きりのときは一生『ザコ』な。アタシ以外に呼ばせたら呪ってやるから、覚悟しとけよ」
「はいはい、せいぜい努めます」
しかし、ここでふとした疑問が浮かんだ。
「モルガンと一緒の時はどうするの? モルガンの夫だから系譜上はそういうことになるけど」
「……仕方ないから、お父様って呼んであげるわよ。認めたわけじゃないけど、キライでもないし」
「娘に認められて、お父さん嬉しい」
血の繋がり無いし種族も違うけど、父と呼ばれるのはまた1つ違う形でバーヴァン・シーに認めてもらえたようで嬉しい。
「そういうのマジやめろ! お前サドか!?」
「あっはは、マゾよりはそっちの方が良いかな」
カドックと藤丸と
高校卒業後はイギリス留学ということで時計塔に入ることを決めているため、藤丸は先輩にあたるカドックからそのレクチャーを受けていた。
「お前が所属する【現代魔術科】のことは分かっているな?」
「こっちのⅡ世先生が君主の比較的新しい学科で問題児や異端児、歴史の浅い家系なんかが所属してるココ100年前後の魔術を扱う学科だよね」
もともと現代の魔術関係はエルメロイⅡ世から習っていたこともあり、レイシフト適性と無数の犠牲の上で2度の人理修復を生き延びてしまった藤丸が政争に巻き込まれ難くするためにも学科はそこしかなかった。
「それで十分だ、あとは向こうで憶えたほうがお前は早いだろう。で、一応の後見人にオルガマリー所長とゴルドルフ新所長、ついでにシオンが付いてるからお前が切っ掛けを作らない限り、当面は安全なはずだ」
形だけのマスターということになっていても、多くの英霊と契約を交わした藤丸の肉体は英霊召喚の触媒として狙われる。
なので、時計塔でも発言力のある両家の当主に加えて外部の次期院長の威光をガードにしている。
「けどさ、事件の方から俺の方に来たら?」
「……」
「カドック? なんで黙るのさ!?」
「いや、事件の方から来るのが容易に想像できたのが嫌なだけだ」
散々の巻き込まれっぷりはカドックもイヤというほど体験しており、大人しくしていてもどうしようも無い時に胃を痛める未来を想像したようだ。
「もうロンドンに住まないでアヴァロンから通いたい」
「ある意味で安全だけどある意味で危険だろ、家庭内聖杯戦争でもやるつもりか」
「だよねぇ、アルトリア・アヴァロンとモルガンが良くても他の皆が絶対反対する」
このことを聞き付けたWマーリンの手によって、藤丸がロンドンで住む場所をめぐる暗闘が繰り広げられることをまだ誰も知らない。
ネロと楊貴妃と
「ふやぁ〜、いいお湯ですねぇ〜」
「うむ、アジア風のテルマエもローマであるな」
ネロ陛下と地下の温泉でご一緒するとは思いもしませんでしたが、こうやって裸の付き合いというのもアリですね。
「しかし楊貴妃よ、奏者との日本暮らしはどうなのだ? 獣の余は繋がり故に何かと平穏であることは察してるのだが、余はさっぱりでな」
人類悪の皆さんとの繋がりはなんとなくの情報交換程度のものらしいですけど、その位は分かるんだ。
「平穏も平穏ですよ。平日は立香くんとマシュさんと高校に行って学生をして、放課後にデートしたり向こうで出来た友達と寄り道して若者らしく過ごしています。休みの日は2人だったり3人だったり1人だったりで気ままに、時には友達も交えて遠出をして、この時代の普通という感じですね」
「普通か、奏者にとって何よりも切望したモノであったな」
「はい」
だけど立香くんの経験は決して普通でないもので、終いには精神だけでなく肉体も普通ではなくなってしまった。
日本に居るときの立香くんはその落差というのでしょうか、ときおり普通をつまらなく感じてしまうようでそれに嫌悪を抱いているときがある。
「ネロ陛下は普通をつまらないとお感じになられたことはありますか?」
「ない! とは言い切れぬな。余とて人である以上、万物を常に楽しいと感じている訳ではない。故に退屈と感じる時も皆無ではないな」
ネロ陛下ほどの方はそう感じた時どのようにして退屈を解消するのか、尋ねるよりも先に続けて答えを言われてしまう。
「そのような時は己で変えてしまえば良いのだ。学校に飽いたならサボるのも時には良い、そこまでせずとも普段しないことをするのも良いな。退屈な日常の輝きを知っているからこそ奏者が嫌悪するならば、貴様が連れ出してやると良い。自由放埒な振る舞いは得意とするところであろう?」
そう言ったネロ陛下は、うーんと身体を伸ばしながら湯舟に深く浸かって気持ち良さそうな表情に。
凛々しさと可愛らしさの黄金比に見惚れつつ、私も同じく肩までゆっくりと沈んでいく。
「そうですね、私は普通のほうが珍しくて楽しんでいましたけど、そこから連れ出せるのは私ですもんね」
「うむ、マシュも出来るだろうが真面目が過ぎる。貴様のほうが適任であろう」
ちゃぷちゃぷ、水面を揺らしながらお出掛け先でも考えましょうか。
テノチティトランとメルトとマシュと藤丸と
手に持ったエアブラシで無造作に、だけれども明確な意図を以てテノチティトランは卓上の住居を染めていく。
少し離れた所ではマシュがメルトリリスの指示を受けて住人の顔にメイクを施していた。
「お待たせ、お茶が入ったよ」
少し張り詰めた空気を緩めるよう、普段より香りが強い茶葉を選んで煎れた紅茶と菓子を運びながら皆を呼ぶ。
「もうそんな時間ですか、どうりで進みが悪くなって来た訳です、ね」
俺の言葉を切っ掛けに作業をキリの良いところで止めた皆はテノチティトランを先頭に作業部屋から出てきて、カップの蓋を外すとそれぞれが席に着く。
各々の席はテノチティトランは俺の正面、マシュは左横、そしてメルトは膝の上である。
「ようやく私の椅子の座れたわ」
「座り心地はどうかな、メルト」
流石にフィギュア作りの監修は普段の格好ではなく袖を縛ったペンギン、もといリヴァイアサンパーカーを着たメルトは身じろぎして収まりの良い場所を探す。
布1枚挟んだ向こうで動く肢体や艶やかな髪に魅了されつつじっとしている内、丁度いい場所を見つけた彼女は俺の身体のやや左寄りに背中を預けた。
「及第点といったところね、前よりも筋肉がついたかしら」
「日本でも筋トレは欠かしてないし、走り込みが増えて体脂肪率下がったからね。硬すぎる?」
下がったといっても誤差レベルだけど、程々の脂肪はあったほうが良いかな。
「及第点と言ったでしょう、このままで良いわ」
「仰せのままに」
そのままメルトは紅茶を口にし、彼女に代わって俺が今日の茶菓子を口元まで運んで食べさせる。
手の触覚が致命的に鈍い彼女にこうするのはいつものことだが、やはり真正面のテノチティトランの視線が痛い。
「テノチティトラン」
「トラマカスキ、別に拗ねてはいませんよ。私も膝の上に乗っている間に浴びせられたのと、同じものを浴びせているだけですから、ね」
人はそれを嫉妬というのではないかと思うが、指摘できる空気ではない。
「そういえば、テノチティトランさんの名前は何処で区切るのが正解なのでしょうか?」
「区切りですか」
マシュの疑問にテノチティトランの気が逸れて視線が和らぐ。
ナイスなタイミングで出された疑問だけど、俺も確かに気になる。
同じく文字数の多いメルトリリスはメルト+リリスで分かりやすいし、水着霊基でラムダリリスになるからメルトで呼べば良いのは自明だ。
けれど、テノチティトランはどう区切るのが正しいのだろうか?
「トラマカスキ、当然私の名前の意味は知っていますよ、ね?」
「『岩のように硬いサボテンの都市』、だったよね」
いきなりの質問だったが愛されるのを求めてソレに応えると決めた以上、彼女たちに関する最低限の知識は勉強したのでこの程度ならどうにか答えられる。
それに彼女が水着姿で映る概念礼装【カクタス・シティ】がほぼそのままの名前だったし。
「その通り、私の名前は岩・サボテン・都市の3つから構成されています。ナワトルでは岩がテトル、サボテンがノチトリです。それらに都市を意味するトランと付いてテノチティトランですけど、どちらかと豊かな場所を意味する言葉です、ね」
「なるほど、勉強になります」
テトル+ノチトリでテノチトリからテノチトリ+トランでテノチティトランというわけか、マシュの言う通り勉強になる。
「だけどテノチティって呼ぶのは少し語呂が悪いよね。ティトランだと他の都市と一緒だし、テノチでどう? そっちの方が響きも良いし」
「テノチ、ですか。構いませんよ」
サボテンという意味が近くなるから彼女にとってどうかといったところだけど、一度ソレを口にした彼女はアッサリとその呼び方を承諾した。
「リツカが私に一層の親しみを込めて呼ぶ為の名なら、拒みません。マシュもメルトもリツカが私に親しみを込めるようにテノチ、と呼んでもいいですから、ね」
……けど微妙にマウント取るのは止めてください、マシュはともかくメルトがメッチャ踏んでいるので足が痛いです。
藤丸とマシュと楊貴妃と立香と
夕食も終わりまもなく消灯時間、1日の終わり間際ということで2人とまったり過ごす時間が流れる。
「いやぁ、やっぱりユゥユゥの抱き心地は良いねぇ。もうしばらくこのままで」
「良いですけど、このままで辛くないですか?」
「むしろ幸せだから座っててー」
膝の上に乗せたユゥユゥを背中から抱きしめると良い気分、匂いとか肌に触れる髪の感触とか、全部を独り占めした優越感もあるしね。
「ふともも非常に善き、しっとりお肌とタップリのお肉が最高……。なのにくびれて上半身はスレンダー、羨ましい」
右手はふともも、左手はお腹、身体は背中で頬は頬、まさに全身で堪能。
「ユゥユゥ、大好き」
「私も満更ではないですし、立香ちゃんが良いなら良いのかなぁ」
「立香先輩のようなことを藤丸先輩もわたしにしたいですか?」
「ん!?」
我ながらあんなコトをするのかと思っていたところにマシュから尋ねられ、思わず声を上げる。
マシュを膝の上に乗せてあんなコトをするのは、ちょっと過激かなぁ。
「俺は遠慮するかな。アレは同性としての距離の近さもあるし、我ながらやり過ぎだと思うよ」
「そうですか」
俺の回答に納得したマシュは少し近付くと俺に体重を預け、肩に頭を乗せる。
「わたしも求められるのは吝かではありませんが、恥ずかしいので膝に乗せるくらいにしてくださいね」
「
左手にカップを持ち替えて右手はマシュを抱き寄せる、ちょっと身体を震わせた彼女はそれ以上のことがないと安心すると力を抜いてもたれ掛かった。
「先輩、大好きです」
「俺もマシュのこと、大好きだよ」
溺れるようにユゥユゥを抱きしめる
程々のところで切り上げた俺たちは4人で少し狭いベッドに入り、満たされる時間を過ごすのだった。
・バーヴァン・シーと藤丸と
成り行きはどうあれザコと呼ばれて何とも思ってないのかぐだが心配だった模様。
一応はお父様ってことにしておくいい子である。
・カドックと藤丸
巻き込まれ体質な後輩を心配、というよりも自分も巻き込まれるのが嫌な先輩。
アヴァロンに住むとかいうのはお前くらいだと思ってるけど、口にはしない。
・ネロと楊貴妃と
お風呂好きなローマ皇帝と大唐の貴妃。
お風呂は皆の憩いの広場。
・テノチティトランとメルトとマシュと藤丸と
模型とそこに入れる人形を製作中。
マシュはメルトの製作代行をしつつ湿度の高い2人に囲まれる先輩は大変だと思ってるけど、自分も大概であることには無自覚。
・藤丸とマシュと楊貴妃と立香と
恋人同士でまったりラブラブタイム、立香のスキンシップは同性ゆえに過激。
藤丸の方は異性なので一歩引いて理性的に。
こんなサーヴァントの絡みが気になるとか皆さんはありますか?
筆者は公式でもっとフォーリナー同士の絡みが見たいです。
よろしければコメントなどでお教えください。
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