お話し的には前話から直結です。
少しばかり後味悪く教室を去った藤丸、マシュ、楊貴妃の3人はコーヒーチェーン店で気分転換をしていた。
「転校初日から疲れました〜」
「はい、あんなに質問攻めにされるのは想定外でした」
柔らかそうな頬を下にして頭をテーブルに載せた楊貴妃と、それを見ながらカフェラテを飲むマシュの顔には少しだけ疲労が見える。
大勢の人に囲まれるのはそれだけでも精神的に疲れるものだ。
「だけど、最後に来た人にはちょっと悪いことしちゃったかな?」
3対の超常の瞳を視る羽目になった渋井と名乗った学生を藤丸が心配する。
向こうから絡んできたので自業自得ではあるが、恐慌の表情で教室を出ていった姿を見ると若干同情する。
「先輩と私の眼は視られるだけなら影響はないはずですけれど、漏れた魔力にあてられてしまったのでしょうか?」
「私の眼のほうが視られるのは危ないですからね。普通の人がまともに視ちゃうと狂気に陥っちゃいます」
「俺はそんなユゥユゥの瞳をなんかいっぱい視てる気がするー」
具合的には宝具を使う時とか。
「マスターはソッチに慣れすぎなんです、あまり深いものは本当に毒になりますよ」
バーサーカーと意思疎通したり、フォーリナーの触れる邪神の一端を見たり、果ては自身の肉体が邪神になったり、楊貴妃の言う通り確かに慣れている。
「それは気を付けます。けど俺の『
「普段は問題ないですが、魔眼をお持ちの皆さんが仰るように感情が昂ぶると出てしまいますね」
制御を式さんや藤乃姉さん、フェイカー達から学んだ時も自身と密接に関わる魔眼は感情の昂りに反応しやすいって言われたな。
特に藤乃姉さんは魔眼が発現したのがだいぶショッキングな状況だって聞いたし、うん、なんで俺とか他の男の人と普通に話せるのか不思議なくらい。
「眼の話はここまでにして、そろそろ2人の家まで案内してもらってもいい?」
過ぎたことを気にしても仕方がないと藤丸が話題を変える。
元々放課後は2人の家まで案内してもらう予定が、最後の一件で直行するには気まずくなったので気分転換にこの店に入ったのだった。
「はい、このあとご案内しますが住所はコチラになります」
マシュがスマホの地図アプリで表示した住所は藤丸家の近所、結構大きな家が最近建った場所だった。
「あの家、マシュ達の家だったんだ」
今更だがもっと前から教えてくれても良いのではと藤丸は思う。
目的地も分かったことだし3人のカップはすでに空、何時までも長居をするわけにはいかないので一路マシュと楊貴妃の住まいへ。
そうして辿り着いた藤丸家近くの2人の住まい。
広い庭と車数台分のガレージ付き、地上2階地下1階というなかなかの豪華物件である。
まだ引っ越して来たばかりと主張するようカルデア印の段ボールが置かれておりリビングの家具は最低限の椅子とテーブル、家電も冷蔵庫とテレビしか見えない。
「なんにもないねー」
「家具家電は自分で好きな物を、ということで最小限しか」
「あとは洗濯乾燥機とベッドくらい?」
コクリと頷くマシュに椅子を勧められたのでひとまず腰掛けると楊貴妃がお茶を持ってきてくれたので受け取る。
「……先輩、怒っていらっしゃいますか?」
「え、どうしたの急に?」
「いえ、何の連絡もなしにコチラへ来てしまって驚かせてしまいましたし、学校でも……」
しょぼんという表現がピッタリ合うようマシュが俯いて、楊貴妃もそれにつられてなのか気まずそうな顔をして少し場の空気が重い。
確かに何の話もなく2人が来たことには驚いたし、そのせいでクラスメイトどころか学校中の噂になるような事態になったのも事実。
それでも、怒ってはいない。
「顔を上げてくれないかな、マシュ」
「はい……!?」
顔を上げたマシュを不意打ち気味に抱き締めると驚きの声を上げるが、無視して両腕へ力を込める。
感じる体温や匂い、聞こえる息遣いをしばらく堪能して、そのままの姿勢でマシュに語りかける。
「怒ってなんかないよ、むしろ嬉しいくらい。こうやって何時でも触れることのできる距離にマシュが、その、恋人が来てくれて怒るわけ無いでしょ」
「せ、先輩」
その言葉に反応してマシュも俺に手を回して抱き締め返してくる。
そのせいで自分が抱き締めるときはあまり当たらないようにしていた胸や頬がガッチリ触れ合って、否が応でもその感触を意識してしまう。
チラリと視線を上げると楊貴妃は羨ましそうに見ていたが、首を縦に振るとすぐ背中側に回って抱きついてくる。
「マスター、私のことも怒ってないですか? マシュさん一人だけならあんなふうにはなりませんでしたよ」
グイグイとマシュに対抗するよう身体を押し付けられているが言うことはもっともである。
「ユゥユゥのことも怒ってないよ。マシュだけコッチっていうのも不公平だしね」
右手をマシュからユゥユゥにまわして頭を撫でる。
そう、この2人には怒っていない、怒るとすればその相手は。
「ダヴィンチちゃん〜〜?」
《あはは〜、やっぱり私にはそうなるよね》
「そうなるよ~」
若干怒モードでダヴィンチちゃんと通信中、予想通りに主犯はこの人だった。
詳しく話を聞くとアサシン達による見えないガードは以前からしていたけど見えるガードもしたい、じゃあついでに社会勉強でマシュを送って不公平だから楊貴妃も一緒に入学させちゃえ、ということだった。
「新所長もカドックも止めてよ」
《止められると思ったからゴルドルフ君の許可は2人が日本に着いてからとったのさ》
「……あとで菓子折りを送ってあげよう」
家のお金は、とも思ったけど幾らでも工面できそうなサーヴァントたちの顔が浮かんだので訊くのを止めた。
《それじゃあ藤丸君、恋人たちと良い学生生活を楽しんでくれたまえ。そうそう、その家にはキングサイズベッドを置いた防音バッチリシャワー付の部屋があるから好きに使っていいよ。それじゃあね☆》
最後にとんでもないこと言って通信を切ったよ天才、というか天災……。
「キングサイズ……」
「防音……」
それを後ろで聞いていたマシュは恥ずかしそうに、楊貴妃は嬉しそうに頬を赤く染めていた。
年頃の男女故カルデアであんなこともしていたとはいえ、そんなことまで用意されているとは恐るべし。
まぁ、当面は使わないだろうけど場所くらいは3人で確認してベッドに寝転ぶくらいはしたけど。
他にも2階にある2人の私室や客間、1階の和室や地下の工房予定地など一通り家の中を案内してもらって今日はお開き。また明日学校で会うことを約束して俺は自宅へと帰る。
「ただいま」
「おかえりなさい立香、遅かったわね。あら、なんだか嬉しそうね?」
「うん、カルデアで知り合った人が転校して来てね。家も近所だったからちょっと寄り道させてもらったんだ」
別に隠すことでもなく、偶然顔を合わせることもあると考えた藤丸は母親へありのままを話しながら2階の自室へ。
着替えてから降りてくるとニヤニヤとした表情で母親が迎える。
「もしかして、マシュちゃん?」
「……女の勘ってやつですか」
「だってあなたが嬉しそうにする転校生で、天文台で知り合った同年代の子なんてマシュちゃんくらいだもの。いいわねぇ、運命の再会って感じで」
ハーレ○クインみたいな小説が好きな母親には大分ハマったらしく、なんとも言えない視線が向けられる。
不快では無いギリギリの好奇の目、コレでユゥユゥまで居ると言ったら……。
「それで何時家に来るの? 折角ならおもてなししたいから事前に教えてよね」
どうやら母さんの中では家に来るのは確定でタップリと話を聞くつもりらしい。
うーんピンチ、これはチョット3人で話を詰めないといけないのでは?
その翌日の昼休み、母親がマシュに会いたがっているが2人との関係をどう説明しようかと藤丸はマシュ・楊貴妃と話し込んでいた。
「やはり私と先輩は恋人同士、楊き、ユゥユゥさんは共通の友人であると同時に先輩を好いていると説明するしか」
「そうだけど、母さんが何ていうかなんだよね」
「藤丸君のお母様はそういうこと結構潔癖なタイプなの?」
楊貴妃の言う潔癖とはつまり、一人の女性と付き合うならば他の女性から好意を持たれてもキッパリ断るべき、ということだ。
今日は持参した弁当を口に運びながら藤丸は考える。カルデアに行く前はこういったことと縁がなかったので恋愛観の話などしたことも無かった。
「そこまで潔癖ではないと思うけど、自分の息子が1人の女の子が次の恋に進むのを邪魔しているって考えるかもしれない」
「いえいえこの玉環、誓って天子様以外の方に恋することなど有り得ません」
ハッキリとそう告げた楊貴妃の真剣な表情に藤丸は恥ずかしさと嬉しさで顔を赤くしながら応える。
「ありがとうユゥユゥ、今みたいな形だけど君の気持ちにはしっかりと向き合うよ」
「はい」
「コホン、お2人とも」
少し話が脱線したのでマシュが修正する。
ひとまずは3人の関係については学校でしているのと同じ説明で押し切り、マシュと楊貴妃は恋のライバルでありながら友人という路線でいくしかないという結論になった。
人の口に戸は立てられぬ、ならばギリギリ嘘ではないラインで行くしかない。
キングサイズベッド、一体何Pに使うんだ……。
そして藤乃姉さんはサヴァキャンの記録を見た弊カルデアのふじのんがそう呼ばせているだけです。
「幽霊の私には姉さんと呼んでくれたのに、この私はそう呼んでくれないのですか?」
的な一幕が魔眼の制御を教わるときにあったとか。
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拙い作品にもかかわらず応援いただき、ありがとうございます。
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