フジマル・アフター・ライフ   作:のーん

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秋のある休日のこと、藤丸は【個体増殖】で男と女1人ずつに分かれて、それぞれがモルガン・楊貴妃とデートに出掛けることとなった。モルガンとは秋の花々や紅葉で有名な自然公園に、楊貴妃とは若者らしく渋谷へ向かい各々で2人きりの時間を満喫するのだった。




第59話 藤丸、恋人たちとのデート その2

風は少し冷たいけれど、雲一つない青空のおかげでそれほど寒くは感じない。

手をつないで隣を厚くモルガンの方にふと顔を向ければ、秋風に吹かれる彼女の横顔とその蒼銀の髪に目を奪われる。暖かに色づいた樹木と抜けるような青い空、それを背景にして歩くモルガンは映画の1シーンのようだった。

「どうしましたか、立香?」

「ちょっと見惚れてた、モルガンの歩く姿があまりにも綺麗でね」

恥ずかしさをごまかすように苦笑する俺につられるように、モルガンも微笑みを浮かべる。

「そうですか。ですが、貴男もまた私の視線を奪ってしまうのですよ? 私という魔女に再び春を持ち込んでしまったあなたが、逃れられるとは思わないことです」

「もちろん、君から離れないのは俺も同じだからね」

どちらとも無く腕を組み、また目的の花畑へと歩み出す。その最中、視界に入る自分の髪に自分のものでないという思いと、そんな姿でモルガンの隣を歩くという罪悪感が今更ながら顔をのぞかせる。

自分に都合で何をという話だが、本来の姿で彼女とデートを出来ないなんて。

「我が夫、私とのデートの何が不満なのですか。先程から表情が少し暗いようですが」

「モルガンとのデートに不満なんて無いよ、ただ自分がちょっとよろしくないなと思ってね」

「何か気に障ることでもあったようですね、薙ぎ払いましょうか」

物騒な発言に慌てて首を横に振る俺に悪戯っぽい笑みを向けたモルガンは、冗談ですと言って先に進みながら言葉を続ける。

「今の変装した姿でのデートに思うところがあったのでしょうが、気にしてなどいません。女王たる私の伴侶なのですから、より良い時間のためにも堂々とするように」

「堂々と……。うん、女王とその伴侶の逢瀬だもんね」

歩きながら瞳を閉じて、再び開くと同時に彼女の方を見る。

「ふふっ、ささやかに堂々と?」

「髪は流石に見られるとマズイから、せめてコレくらいはね」

モルガンが見ている瞳は変装のための碧眼ではなく俺の地の青眼。金髪から黒髪にいきなり変わっては周りを驚かせるだろうけど、この程度なら気づかれることも無いだろう。

「それで気が済むのなら、私もそちらの方が好ましいですから」

「じゃあ気を取り直して、せっかくのデートを楽しまないと」

モルガンのおかげもあって気持ちも軽く組んだ腕を引く俺は、モルガンから呆れたような嬉しそうな視線を向けられたのに笑顔を返せた。

その後も花や木を見ながら歩くことしばらく、俺とモルガンは目的の場所に到着した。

「なるほどコレは……」

「うん、すごく綺麗だ……」

見渡す限りの地面は桜色の花に埋め尽くされ、木々を境界に抜けるような青空が広がる光景にモルガンともども感嘆の声が漏れる。

同じく地面に生えるサクラソウよりも淡い桜色は空の色と相まって、秋風に揺れる姿は儚い美しさがある。また別の方向には秋らしい黄色やオレンジのコスモスの花畑があり、そちらは色づいた木々よりも鮮やかにその色を披露していた。

「こうしていると、ひどく穏やかな気分です。我が夫のそばでただ花畑を眺める、サーヴァントの身でこんな時間を得ることが出来るとは思っていなかったというのに」

少しのんびりしようと座ったベンチで、モルガンが不意にそんな事を言う。確かに受肉しようが俺の妻となろうが、モルガンはブリテン異聞帯で死んでいる。そして、その原因には間違いなく俺も含まれているわけで、元は敵同士だったのがこうなるとは思ってもいなかった。

「ふふっ、違いますよ立香。この眼でも視える程、私の死に責任を感じることはありません。既に過ぎたことです」

「それはそうだけど、どうしてもね」

空想樹の伐採、異聞帯の消滅、そして一度迎えた終わり、その全てに何かしらの強い気持ちを抱えている。モルガンはそんな俺を嗜めるように手を握って微笑み、その真意を口にした

「サーヴァントは自由意志を持っているとはいえ、どう取り繕っても使い魔であり兵器です。ただ世界を糺す、その為に喚ばれたのに幸福な時間を得られるとは思ってもいませんでした」

「俺の方こそ、モルガンにそう言ってもらえるようになるなんて思っていなかった」

「ならば同じですね。今はただ、この時間を」

そう言ってもたれ掛かるモルガンを受け止め、俺も少し彼女に体重を預ける。

「うん、この時間を一緒に」

空想の異聞だったはずがこうして確かなモノを持っていることの重みを、今は只々感じている。

なるほど確かに、こんな時間を得ることが出来るだなんて思ってもいなかった。

「時間だけは沢山あるから、無限に希釈されてもゼロにならないようにね」

「まったくですよ立香、無為な時間を許すほど甘くはないですから」

そのうち身体も冷えてきたので散策は一度中断、暖を取りながら園内のレストランで昼食を食べながら、話は学校生活のことになった。

「先日学校に行った時、文化祭と修学旅行があると目にしたのですが」

「うん、俺の高校は11月に行事を集中させるから。前半は文化祭で後半は修学旅行、受験や就活で忙しくなる前の思い出作りってところかな」

カルデアに行く前は先輩たちが羽目を外してはしゃぐ姿を不思議に思っていたけど、今ならその気持ちが分かる。最後の学生らしく、ある意味で子供らしくはしゃげる時が今なんだ。

「立香にとっても普通に楽しめる最後の機会ですね、ハメを外して楽しんで。もちろんマシュと、少し、えぇ、少し気に入りませんが妖星の貴妃とも」

「くすっ、文化祭はモルガンもね。見学日と違ってお客さんとして来てよ」

「期待しています、立香」

 

 

 

渋谷でデート中の私とユゥユゥは合間にランチを食べながら、目についたお店で気になった服を片っ端から試着して楽しんでいた。

定番のロリータやストリート、ちょっとコスプレみたいな制服風、普段は着ないギャル系や大人っぽいレザージャケット、合間にランチ気に入ったのは買ったそばから【旅路の目録】に収納して、今はその中から選んだチャイナロリでユゥユゥと双子コーデの真っ最中。

「立香ちゃんとお揃い♪ お揃い♪」

「ユゥユゥとお揃い♪」

「「えへへっ」」

そんな訳でショッピングは一旦お休み、カフェで少し休憩することにした私たちは舌を噛みそうな名前のホットドリンクを嗜みつつ、このあとどうするかを話し合う。

「どうしよっか? 買い物はもう良いからどこか落ち着ける所、近場だとプラネタリウムとかにする?」

「むぅ、秋の星ならフォーマルハウトが何時でもそばに在るのに浮気ですか」

「近くの星の眩しさで、他の7つ星以外はなかなか見れないから」

あとは雑貨やセレクトショップ巡りくらいかなーと、互いに行きたい所を探したりしてお喋り。ドリンクも少なくなってきたし、そろそろ決めるかお代わりしてもう少し居るかも考えないと。

「おっ、君たち暇? 良ければオレたちと遊ばない?」

うーん、静かなお店だったのにうるさいのが来たな。知り合いかナンパか、どっちにせよ空気を読んで欲しい、声かけられた方も迷惑だろうに。

「ユゥユゥ、もうちょい考えたいからお代わりして来ても良い?」

「良いけど、あたしのもお願いして良い? 立香ちゃんのと同じで良いから」

「おっけい」

何かシンプルなフルーツ系の紅茶を頼もうと席を立ったとき、誰かの手が行く手を塞ぐように伸ばされた。反射的に払い除けそうになったのを抑えて、どういうつもりかその手の主を見るとコッチに貼り付けたような笑みを浮かべた男が居た。

「良いよ良いよ、俺が奢ってあげるから遊ぼうよ」

その男の声はさっきのナンパ男、どうも私とユゥユゥをそのターゲットにした上に何人か連れがいるあたり良からぬことも目論んでいそう。ドリンクなんて頼んだら、不味い味付けをされそうだ。

「あの、すみません、そういうのは要りません。それに今日はこの娘と2人で過ごすって決めてるんで、ナンパもお断りです」

別にドラッグの1つ2つどころか山盛りでも毒耐性で効かないんだけど、確実に不味いものを飲むことになるから飲み物は絶対にNG。そしてデート中にナンパに乗るワケないない。

「そう言わずにさ、女の子だけじゃツマンナイでしょ」

「むしろ男のほうが邪魔でツマラナイんですけど。ねぇ、ユゥユゥ?」

「はい、りつちゃんと一緒の時に男性なんてお邪魔虫です」

しつこく引き下がらないので必殺の百合百合イチャイチャ、もうこのお店に居たくもないし出て行こう。

蔑み純度100パーセントの視線で一瞥して、心底不快だという態度を隠さずに席を立つ。

「おい、奢ってやるって言ってんのにそりゃねーだろ」

それに我慢がならなくなって声を荒げたナンパ男が私たちのどっちかをつかもうと腕を伸ばす。粗暴な態度にますます気を悪くした私たちは余計に顔を歪めてそれを躱した。

「不敬な、私も天子様も貴様のような下郎に奢られる安い女ではありません。身の丈に合った卑な端女が似合いでしょう」

「じゃーね、ナンパ男さん。しつこくてヘタクソなソレじゃ、成功しないだろうけど。あっ、奢ってくれるって言うなら、この騒ぎどうにかしてね」

「なっ!? てめぇっら!!」

貴妃モード入ったユゥユゥがこのままだと危ない、具体的にはごぉっとこの人を完全燃焼させそうな気配がしたので早々に手を引いて脱出。ついでに騒ぎを聞きつけてきた店員さんと警備員さんへの対処も押しつけて、スカートを翻しながらひとまずは適当な所まで逃げるのだった。

面倒なナンパ男たちから逃げた先はとあるビルの屋上。もちろん追い詰められてのことではなく、カフェから出たあと行く当てもなく走り回って辿り着いた展望フロアだ。

「いやぁ、ユゥユゥが貴妃モードになった時は焦ったよ。私もイラっと来てたから、お互い様だけどね」

「あたしと立香ちゃんが断ってもしつこくするから、カチンと来ちゃってつい、あのようなことを......。でもでも、清姫さんと違ってゴウッてやるつもりはありませんでしたから!」

「ええぇ、ホント~?」

「ほんとーだよ、お財布をメラッとして奢れないようにするくらいで、ゴウッとはやらないって」

燃やすのは変わりないんだ、という気持ちでじろっとユゥユゥを見つめると気まずそうに目を逸らされ、あそこで逃げたのは正解だったとの確信を深めた。

それにしても渋谷にこんな展望フロア付きの高層ビルが出来ていたなんて。レイシフトで行った時もここまで現在に近い時代じゃなかったし、カルデアに行く前はスクランブル交差点あたりしかイメージのなかった私には驚きだった。

「だけど、上からこうやって街を見下ろすのは不思議な気分だね。本当の風景を見ているのにどこか地図みたいで、同じ高さにある他の建物に視界を遮られたりもするし」

「このくらいの高さってあんまり縁が無いというか、他に同じくらいの高さがあるって言うのが新鮮だよね」

日も傾いて渋谷の街に夜の明かりが灯り始めるのを隣のユゥユゥと見ていると会話が途切れる。

ありえなかったはずの異聞が他の世界と繋がったことで在り得るものに、眼下や周囲の人々はそんなことなど知る由も無く生きているのだろうけど、確かに私が皆と一緒に認めさせたのがこの風景だと思うとつい頬が緩む。

「私たちだけの特権かな、これ全部を自分の作品だって思いながら見るのは」

「その通りだからね、コレ全部が立香ちゃんと私たち全員で守ったものですから」

AAの言っていた人の描く紋様、それをこんな雑踏に例えるのは失礼かもしれないけれど、それでも悪くない風景だ。

屋上も寒くなってことだし、そろそろユゥユゥにも声をかけて帰ろうかな。

 

今日1日、久々にデートを終えた4人は帰路につく。別に打ち合わせた訳ではないけれど、偶々家の近くで鉢合わせたのでそのまま揃ってマシュ達の家に。

「藤丸とモルガンは何処まで行ったの?」

「ちょっと大きな公園まで、せっかくだから秋の自然散策を楽しんで来たよ」

「色付いた木々もそうでしたが、一面に広がるコスモスは圧倒されました。我が妻のようなオレンジのもありましたよ」

「立香とユゥユゥは渋谷だっけ? その格好だとだいぶ満喫したみたいだね」

揃いのチャイナロリを着た2人を羨ましいと思って見ていると、ユゥユゥが俺の腕に抱き着いた。

モルガンもそれに対抗してか立香と腕を組み、束の間デートのペアが交代する。

「立香くん、今度はあたしとペアルックデートしよう。少し遠出すれば同じ高校の人も大丈夫だって」

「立香も今度は私と花畑へ、最高のデートをプランニングしましょう」

既に早くも次の算段つけ始めた2人に呆気に取られ、隣に居る自分同士で顔を見合わせる。当然ながら考えることは一緒で、全く同じタイミングで同じ言葉がつく。

「「来年は頑張って8人まで増えられるようになろう」」

もちろん、愛情は据え置きで。




更新遅れて申し訳ありませんでした、デート編はこれ迄!
次からは学園祭か修学旅行を書きたいな〜
2部が終わったと思えばまた何か始まりましたね!

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