フジマル・アフター・ライフ   作:のーん

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すべてが終わったあと、変わった自分と変わらない日常とを過ごすカルデアのマスター・藤丸立香。
文化祭がついに開幕、藤丸・マシュ・楊貴妃3人のクラスは『逆転ベーカリーカフェ』で普段からいろいろ雰囲気も気分も変えて店員に扮するのであった。

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第61話 藤丸、文化祭の始まり

 11月半ば、藤丸たちの通う高校は文化祭の当日を迎えた。

 クラスの企画は逆転ベーカリーカフェ、普段とは何かが逆転した店員に扮する藤丸たちは一体何を逆転させた姿になったのか。

 

〜 side マシュ 〜

 

 今日は先輩と別れて別々に登校となりました。それぞれ文化祭でする仕事は違って、先輩はほかのクラスメイトの皆さんと一緒に一足早く登校してベーカリーカフェの開店準備をしています。

 わたしとユゥユゥさんはそんな先輩に焙煎したてのコーヒー豆を届けるべく、逆転用の衣装を持って学校へ向かうのです。

 

「だけど、先輩の逆転は何なのでしょうか? ユゥユゥさんはご存じなんですよね」

「そうだけど秘密、それにあたしとモルガン陛下も立香くんが結局どうしたのかは知らないんだ。もしかしたら、全然違うのを着てるかも」

「むぅ、そうなるとますます気になってしまいますね」

 

 一体、先輩がどんな格好をするのか、アレコレと考えてユゥユゥさんと話しているうちに学校に到着した。

 校門には大きく【文化祭】と書かれた看板が設置され、昇降口や校舎の近くには屋台代わりの4脚テントがいくつも並んでちょっとした非日常気分。忙しく当日の準備に追われる皆さんの邪魔にならないよう、少し普段よりも遠回りをして着いたわたしたちの教室もそれは同じ。

 教卓を並べて作ったカウンターの上にはサイフォンとドリッパー、そしてコーヒーミル、その後ろの机にはコーヒーメーカーと電気ケトルが置かれていて、十分にカフェ気分が味わえます。

 肝心のベーカリー部分は窓際に置かれたトレーに可愛らしいイラスト付きの値札が付けられて、すぐそばのオーブンでは既に第1陣となるクロワッサンとイングリッシュマフィンが芳ばしい香りを漂わせ始めていました。

 

「おはようございます」

「おっはよー!」

「おはようマシュさん、ユゥユゥさん。藤丸から話は聞いてるよ、コーヒー豆はそこに置いておいてだって」

 

 佐藤さんに言われた通りケトルの横にコーヒー豆を置いたわたしは、改めて教室を見回しますが先輩の姿はありません。

 

「何方かお探し、お嬢さん?」

「あっ、はい、そうですけどアナタは……。へ? うそ!?」

「マシュさん、どうしまし……えぇっ!?」

 

 呼びかけられた声に振り向くと、そこにいたのはゴシック風のエプロンドレスと共にアンニュイな雰囲気を纏った女性。声も確かに女性のようでしたが、気怠げな表情を浮かべる瞳と感じる径路(パス)はあの人のモノで、ユゥユゥさん共々驚きの声を上げてしまった。

 

「先輩、なのですか?」

「確かに上品な女性って案を出して色々楽しく着せ替えたけど、ホントに?」

 

 驚くわたしたちを愉しげに見つめたその人は口元を緩めると、よく知った声で応えた。

 

「ふふっ、やっぱり2人にはすぐバレちゃうよね。だけど、どう? 今回はやり過ぎなくらい気合を入れてみたんだけど、切っ掛けがなかったら俺だって判らなかったでしょ」

 

 アイメイクで普段よりもアンニュイな印象の目を細めて愉快そうに微笑んでみせた先輩はいつもよりミステリアスで、思わずどきりとしてしまう蠱惑的な雰囲気すらも漂わせているようです。

 隣のユゥユゥさん共々首を縦に振り、そのことに先輩は満足気ですが、本当にコレで店員をするのでしょうか?

 

「という訳で私は今日この姿だから、2人とも良いわね。それと声は一応地声、ハスキーだけど女性に聞こえたかしら?」

「もちろん、知らない人から見れば完璧に女性の声だよ!」

「ユゥユゥのお墨付きなら大丈夫ね。じゃあ、私は開店準備に戻るわ」

 

 自分からしたということもあって完全に板についた女性仕草で振る舞ってみせる先輩はクラスメイトの皆さんを驚かせつつ開店に向けて焼き上がったパンを並べ、豆を挽いてコーヒーをいつでも出せるように準備しているのでした。

 

「自分から女装するときの立香くん、やる気というかノリがスゴイですねぇ」

「はい、いつもそうですが自分から何かするときの先輩はスゴイのです」

 

 本心から自分でなにかするとき決めたときに先輩が全力です、仮にそれが女装だとしても……。

 

「ひとまず、わたしたちも着替えましょうか」

「そうですねー」

 

 

〜 side 藤丸 〜

 

 モルガンとユゥユゥ、第三再臨だったあの時は楊貴妃かな、に薦められて上品な女性というテーマが今回の逆転のテーマ。うん、正直言って結構楽しい。

 自分からするぶんには女装は好きだし、話し掛けてきたクラスメイトにネタバラシをすると盛大に驚いてくれるから。

 

「お客さんには黙っておきましょうか。それと、此処に来た皆はどんな顔をするのかしら?」

 

 出来るだけ径路は細くして、自分とは別に楽しんでもらおうと予め分裂しておいた立香に殆どを委ねる。コレで径路を手掛かりに俺と分かるのは難しいはず。

 それにマシュとユゥユゥの逆転衣装が気になるところだ。マシュはスーツだと小耳に挟んだけれど、ユゥユゥについては事前情報無し。あえて訊くこともしなかったし、どんな衣装を用意したのだろう。

 

「藤丸さん、ホットコーヒーの準備出来てる?」

「えぇ、コーヒーメーカー2つ分出来てるわよ。ドリップコーヒーがどのくらい出るかは分からないけれど、すぐに出せるものが無いってことにはならないわ」

 

 いろいろと考えているうちに開店5分前、最終確認をするクラスメイトの佐々木さんにコーヒーサーバーの中身を確認して答えると暫し見つめられる。流石にじっと見られると居心地が悪いので、俺の方から声をかける。

 

「何かしら?」

「いや、女装というか女性としての振る舞いが自然過ぎて、なんというか女子としての敗北感を……」

「ふふ、これでもたくさん練習したの。お姉様たちやコーチにレッスンを受けて、それこそ演劇みたいに、ね。だから貴女も身に付けられるわ」

 

 思い出されるのは新宿亜種特異点でのレッスンの数々とその後に立香で女性サーヴァント、特にメイヴちゃんとバーヴァン・シーに仕込まれた女性としてのメイクやファッションその他諸々。

 あくまでも男性ベースとはいえ立香のときは女性の肉体に引っ張られて精神もソッチ寄りになるので、厳しくも楽しんで指導を受けさせてもらった。その成果が今こうやって藤丸として女装しているときにも生きるというのは思うところもあるけれど、楽しいので良しとしよう。

 実際、ユゥユゥに激しく嫉妬されながらも特異点の楊貴妃の代役としてロクサーヌを演じる際にも役立ったわけだし。

 

「立香お姉様……!」

「ちょっと、お姉様呼びは止めて。クラスメイトにやられると心臓に悪い」

「素に戻るレベルなんだ」

「そりゃ戻るよ」

 

 お姉様呼びなんてされたら、クラスメイトの性癖を捻じ曲げたんじゃないかと不安になる。

 

「あと単純に同姓同名な知り合いの女子がいるから。この文化祭にも来るって言ってたし」

「あぁ、前に会った立香さん? あの人も来るんだ」

 

 そういえば、佐々木さんは夏休みの終わりに立香の方でも会っていたっけ。会って。

 夏休みの終わり近くにマシュとユゥユゥ共々遊びに出かけたとき、最後は事故という宜しく無い幕引きだったけれども、確かにあの日一緒に楽しんでいる。

 

「同姓同名で近くに住んでる縁もあるからね、それに2人とも仲が良いし」

「女の子3人も侍らして、浮気者め」

「立香とはそういうのじゃないってば。そんなことより開店時間よ、お客様をお迎えする用意は宜しくて?」

 

 時計を見ればまもなく開場時間の9時、いつまでもお喋りしていないでお客さんが何時来ても良いようにしなければ。口調といっしょに気持ちも切り替えて、ココから先は女主人として振る舞いましょう。

 

「すご、一瞬で切り替わった」

「この程度なら簡単なことよ」

 

 鳴り響くチャイムの音は普段なら授業の始まりを告げるもの、ですけど今はこのお祭りの開催を告げるものです。さて、今日と明日の2日間を目一杯楽しみましょうか。

 

 

〜 side マシュ 〜

 

 時刻は少し巻き戻り、藤丸と別れたマシュと楊貴妃は更衣室へと向かっていた。

 普段なら運動部や体育の授業時にしか使われないそこでは、2人のクラス以外からも多くの生徒が用意した衣装へと着替えていた。

 

「白のスーツ、マシュさんの清廉としたイメージにぴったりですねぇ。それに普段ふわふわしたマシュさんが眼鏡を外してキリッとした表情で立香くんのそばにいたら、完璧に女主人と女騎士ですよ」

「そんな、言い過ぎですよユゥユゥさん。それよりわたしは、ユゥユゥさんがそんな思ってもいなかった逆転をされたことに驚いています」

「そうかな? けっこう衣装自体は定番みたいだけど……」

 

 少しオーバーサイズ気味のジャージにショートパンツ、そこにフリルエプロンとヘッドドレスを身に着けた、俗に『ジャージメイド』と呼ばれる格好をユゥユゥさんはされています。さらに髪型も普段のツインテールではなく三つ編みのおさげに、自慢の肌にも少しくすんだそばかすメイクを施したことで、印象もどことなく冴えない感じです。

 

「いいえ、普段のユゥユゥさんを知るわたしからすれば、十分に驚きに値します」

「えへへ、なら立香くんも驚いてくれるかな」

「はい、藤丸先輩も立香先輩もきっと驚くはずです」

 

 今日はおふたりに分かれて行動されるとのことなので、今日のユゥユゥさんに会ったら別々に感想を伺わないといけませんね。

 

「もちろんマシュさんも一緒にね。立香くんと立香ちゃんに、2人でこの姿を見せて驚かせちゃおう」

「はい、わたしも一緒です!」

 

 最後の仕上げにサーヴァント化で視力を補ったマシュは眼鏡を外し、それとは対照的に楊貴妃は伊達の黒縁丸眼鏡をかけた。そして、互いにコレで良しと身だしなみを確認し終えたタイミングでチャイムが鳴り響く。

 

「まずはぐるりと他のクラスを見て回りましょうか」

「ですね、それで時間になったら教室でお仕事しましょう」

 

 学校は普段の規律ある学び舎から準備期間を通して少しずつ変わって、今はまさにお祭り会場です。殺風景な廊下には色とりどりの看板やわたしたちのように着飾った生徒の皆さんが歩き、教室や校舎外には様々な店や飾り付けが広がって、普段とはまったく異なる空間になっています。

 

「あっ、マシュさん! スーツ姿凄い似合ってる、隣の人はもしかして?」

「あたしでーす、今日のあたしは地味なジャージメイドさんなのでした」

「うそ、ユゥユゥちゃんなそんな地味子ちゃんに!? あとで逆転喫茶行くから、私のオーダー取ってー」

「手がすいてたら、でね? それじゃ行くねー」

「わたしと先輩もいますので、よろしくお願いします」

 

 別のクラスの友人とも会話を交わしつつ、学生以外も多くが歩いている校舎の中で見慣れた方が遠くにふと見えました。

 

「モルガンさん、シャルロットさん、朝早くから来てくださったんですね」

 

 今は同じ屋根の下で暮らすおふたりが真っ先に来てくださったカルデアの関係者でした。

 

「えぇ、他の者が来る前に我が夫の艶姿を目に焼き付けておこうと思いまして」

「結局わからずじまいだった立香さんの逆転姿、しかと目にしたいと思います」

 

 おふたりとも気合は十分、といいますかモルガンさんに至っては本格的なカメラをお持ちになっています。これは完全に先輩の姿を激写しようとしていますね。

 

「「モルガンさん」」

 

 示し合わせたわけではないのに自然とユゥユゥさんと声がハモりました、

 顔を見合わせれば真剣そのものな顔、きっとわたしも同じような顔をしているのだろうと思いつつ言葉を続けます。

 

「「撮られた写真は是非わたしたちにも分けてください」」

 

 一言一句同じ言葉でモルガンさんにお願いしたわたしたちに向かって、モルガンさんは不敵な笑みを返しながら頷きました。

 

 

「任せない2人とも、撮った写真はとっておき以外2人にも共有しましょう」

「「ありがとうございます」」

 

 ココが学校でなければ深々と頭を下げていたかもしれない程ありがたいモルガンさんの申し出に感謝して別れたわたしたちは、再び校内散策に戻ることにしました。

 カルデアの皆さんがいつ来るかはわかりませんが、先日の学校公開日に来ることのできなかった方々は一層の意欲を持って来ることでしょうし、ゆっくり楽しめるのは今のうちかもしれませんね。

 

 

〜side 藤丸〜

 

「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりかしら?」

「えっと、ドリップコーヒーを」

 

 文化祭が始まってしばらく、流石に朝からパンを食べようという人も開始早々飲み物を欲しがる人も少なかったけれど、クラスメイトの親と思わしき人がちらほら来て初の注文が入った。

 

「ドリップね、今の時間は豆を挽くところからで時間がかかるけど良いかしら?」

 

 お客さんが増えそうなお昼以降は予め挽いておくつもりですけど、朝の時間に余裕がありそうなうちは淹れる直前にするのは前もって決めていたこと。

 

「本格的だなぁ。っと、大丈夫ですよ」

「そう、ならお代は300円です。少しお待ち下さいな」

 

 代金を受け取ったらマシュたちが持ってきてくれた豆をミルで挽き、その間に湯を沸かしてドリッパーを準備したらちょうど沸騰したお湯をカップに注いで温める。そしてそれを捨てたら粉をフィルターに入れてドリップを始めましょう。

 あくまでも女主人として、落ち着いた手つきを意識してゆっくりとお湯を注いで粉を蒸らす。それだけで挽き立ての粉はぷっくり膨らみながら豊かな香りを放ち、お客さんも感心したような表情を見せる。

 20秒ほど経ったらまたお湯を、今度は円を描くようにお湯の1/3ほどを注いでいくと濃褐色のコーヒーがカップに落ちていき、それが無くなる直前に残りのお湯を落ちる速度と同程度で注いでいく。

 

「お待たせしました、こちら当店のドリップコーヒーでございます」

 

 未練がましく落ちきるのを待たず、少しだけ残ったドリッパーからカップを外せば今日最初の一杯の出来上がり。じっと見ていたお客さんはまさかココまで本格的に淹れるとは思っていなかったのでしょう、差し出されたカップに口をつけたのは少し間をおいてから。

 

「美味しい……」

「口に合ったようで何よりですわ。挽き立ては余裕のあるときにしか出せませんの」

 

 これからお客さんが増えたら出すのが難しくなる一杯、たくさんの方に飲んでもらいたいけれど難しいわね。




アフタータイムの初イベント、自分で量らない中立・善の怖さがありましたね。
気持ちはわかるけれど、それを踏みつぶしてきた今のぐだは秩序善とかになってそうだなと思うこの頃。
そしてフローラとわらしとツチノコと可愛いが大渋滞でした、癒し、大事。

サテライトステーション見ながら書いているのですが、デメテル来ちゃいましたね。

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