明けて2月21日。
ドルトンさんがまた、みんなを連れて来てくれた。街の人も数人いる。
ドルトンさんが来た理由は、ドクトリーヌに診てもらいたい人が居たからだった。
なるほどね。こうやって時々、ここまで来てるわけだ。面倒見がいいのというかなんというか…そりゃ、みんなに慕われるだろうね。
ナミは熱も下がり、ドクトリーヌから診ても、病気はもう完治したと言っていい状態になっている。けれど、
サンジに至っては、罹患してからずっとナミの食事の世話を任せているので、回復してきた昨日から顔がにやけっぱなし。要するにメロリン状態である。
ドクトリーヌに診てもらいたいと、ここまでやって来たのは、原作で腕が痛いと泣いていたあの子とその父親だった。
おやまぁ、それじゃあドクトリーヌが今日、街に降りる事は無いのかな?
その親子は、生活雑貨ひと揃えを入れた複数の箱と金貨の入った袋を持っていた。
ドルトンさんの話によると、ドクトリーヌが駆けつけた場合は別として、ここまで診療に来る者は、彼らが持ってきた金額で済むらしい。具合が悪いと思ったら無理せず医者に診てもらう。そういう事がきちんと出来る者を、ドクトリーヌは無下にはしない。
もっとも、ここに診てもらいに来るのは、裕福な人に限られる。そうでない者はそもそも医者に診てもらおうなどとは考えない。だから、そういうところにドクトリーヌは出向くのだ。あまり知られていない事だけどね…。
子供を診察したところ、骨にばい菌が入っていたとかで、治療後1日入院という事になったらしい。
入院かぁ…。
修行に来た時から思ってたけど、医療大国という割に、総合病院みたいなものは存在しなかった。医者はほとんど開業医。ちいさな診療所が点在するだけ。中にはベットが2桁の診療所もあったけど、逆に診療所を持たない者も居た。
ワポルの前の王の時は城が病院として機能していたんだろうか?
麓のロープウェイ発着場付近には、結構な広さの土地があった。そこに病院を建てたらいいかも知れない。
イッシー20が戻って来るなら、彼らの食い扶持を確保する必要もあるだろうし、現在ドクトリーヌしか医者が居ないのなら、そういう場所は必要だと思う。
でも、この島の住人だけでは20人もの食い扶持は確保できるか疑問が残る。なので、製薬会社みたいのも設立して、病院と一緒の経営体制にすれば、なんとかなるんじゃないかしら?
F-RONPは出資をするだけでもいいし、なんならで経営しちゃってもいいかもね。
冬島ならではの作物や魚介類もあるだろうし、食料品関係の工場とかもいけるんじゃないかな?
なんにしても、雇用を生み出す事は出来るだろう。
場合によっては、出て行った人も戻ってくるかもしれないし、他から流れてくる人も居るかもしれない。この国の発展につながると思う。
よし!後でユナに話してみよう!!
*-*-*-*-*
ところ変わって…
ロープウェイから少し離れた店で、ちょっとした騒ぎが起こっていた。
「この手配書の男は…昨日やって来たっていう海賊じゃないか?」
1人の男が取り出したのはルフィの手配書である。それを見て、店にいた人たちは目を丸くする。
「7000万ベリー!? 結構な大物じゃないか!」
その手配額は、添付された満面の笑顔に似つかわしくないほど高値だった。
店内は俄かにざわつくが、最初にその手配書を持ち出した男はまた別の手配書を広げる。
「それにこっちも!似顔絵はともかく、これイオリちゃんだってよ!」
それは、似てない似顔絵が添付されたイオリの手配書だった。こちらもかなりの高額だ。
「実は、彼らに対する伝言を預かっているんだ」
男は本来、ロベールの町に住んでいる。昨日、海賊がこの島に来て、城に向かったという話を聞いて、わざわざここまでやってきたのだった。
彼がルフィとイオリの手配書を持っていたのは、ほんの数日前に1人の男がその手配書を置いていったからである。
男はその昔、イオリに家族全員を診てもらった事もあり、預かった伝言を伝えに来たというわけである。もう一つ、頼まれ事もあったりするが…
店の主人が、周囲を代表するように口を開いた。
「彼らなら昨日治療してもらった仲間を迎えに、ドラム城に向かったはずだ」
「ロープウェイで城まで行ってみるか?」
そうだな、と初めの男が頷いたその時、その店に酷く慌てた様子の男が飛び込んできた。
「ドルトンさん! ドルトンさんはいるか!?」
この男は今日の見張り番の1人だった。初めはドルトンの住むビッグホーンへと向かったが、そこで昨日の海賊を連れてロープウェイに向かったと聞き、ここまで急いでやって来たのだ。
「ドルトンさんならDr.くれはに診てもらいたい患者を連れて、昨日の海賊たちと一緒に、ドラム城に向かったぞ?」
「早く、早くドルトンさんに知らせないと!!」
酷く、狼狽しながら男が言った。
「「一体なにがあったんだ?」」
「ワポルのやつが!帰ってきやがった!!」
その叫びに、店内は一気に驚愕に包まれた。
この島に暮らす民たちにとって、一番恐れていた存在が舞い戻ってきてしまったのだった。
~ ~ ~ ~ ~
ドラム島へと帰還したワポルは、側近のチェスとクロマーリモだけを自分の毛カバ、ロブソンに乗せてさっさとドラム城へと向かってしまい、一般兵とイッシー20は自分たちの足で地道に登山することになってしまった。
これは、そんな一般兵とイッシー20が出会ったとある『雪男』の話である。
厳しい雪山道を、彼らは固まってゆっくりと登っていた、
その最中。雪の向こうから半裸の男が歩いてきたのである。極寒の雪山で半裸の男。怪しすぎる。
そしてその男…ゾロは何を思ったのか、獰猛な笑みを浮かべた。
「どうやらおれは、運がいいらしい…」
その笑みに、一同は戦慄を感じた。そう、それはまるで蛇に睨まれた蛙。
「さ、さては貴様が、一時期騒がれていた『雪男』だな!」
兵士の1人が叫んだが、それは間違いである。噂の『雪男』は青っ鼻トナカイのチョッパーであってゾロではない。しかし彼らには、その正誤を判別する術は無かった。
「かかれェ!!」
本能的な恐怖は感じたものの所詮は多勢に無勢。しかも向こうは無手で、こちらは武器を持っている。全員でかかれば何とかなる。彼らはそう考え、一斉に襲いかかった。すぐにその考えが甘かった事に気づかされるのだが…。
「うっはっはっは! あったけェ!!」
襲いかかってきた一般兵全員をあっさりと返り討ち、そいつらが着ていた温かいコートや手袋、靴などを手に入れたゾロは上機嫌に笑った。
昨日は一日筋トレをして過ごした彼は、今日は寒中水泳を行うべく川に飛び込んだ。川で魚を見つけて追いかけてたら、あがる岸を見失い、歩いていたら森に迷い込んでしまったのである。そして寒さに震えながら彷徨っている中で運よくその一団と遭遇し、防寒具を奪った。
襲いかかってきたのは向こうが先とはいえ、立派な追剥行為である。しかも服だけではなく、兵士たちの懐から財布も強奪しているあたり、彼も仲間の女性陣の影響を色濃く受けていた。
「港はこっちでいいんだよな?」
戦いに参加せず、難を逃れたイッシー20に道を聞き、ゾロはその場を離れて行った。彼らが指さしたのとは真逆の方角に進む男に、イッシー20はいろんな意味で震えて何も言えなかった。
そしてそれを見ていた者は他にも居た。
「あれが…『雪男』…!!」
たまたま遠目でその光景を見ていた数人の国民たちは、震えが止まらなかったという。
もしも近くで見ていたならば、それが『雪男』などではなく、ただの人間だと解ったのだろうが、微妙に距離があったことが災いし、『雪男』にしか見えなかったのだった。
これが後のドラム島サクラ王国にて長く語り継がれることとなる、『緑の雪男伝説』の真相である。
~ ~ ~ ~ ~
子供の治療を終えて、ドクトリーヌがナミの様子を見に来てくれた。
ちなみにドルトンさんも一緒である。そこに…
「ドルトンさん!」
明らかに町民らしい男が何人か、部屋に飛び込んできた。
「大変だ! ワポルが帰ってきやがった!!」
その話に、ドルトンさんは目に見えて顔色を変えた。
あれ? まだ昼前だけど? 来るの早いなワポル。もしかして、ルフィに吹っ飛ばされなかったからかしら?
「おれたちは、ロープウェイで先回りして伝えに来たんだ!きっとワポルも、もうすぐ山を登ってこの城まで来る!」
昨日、この城に向かう間にドルトンさんがワポルの事を話してくれた。一方の話だけ聞いて判断するのはあれだけど、ワポルに対してはみんな同じ感じで腹を立てていた。あいつは、ウザくてムカつくキャラだもんね。
だから、ルフィはあいつをぶっ飛ばすだろうと思う。お付きの二人はチョッパーか、合体しないなら、サンジにやらせてみるか?
原作ではサンジは背中を痛めていたけれど、ここでは雪山登山をしていないので、サンジは健康そのもの。ダメージはどこにも無い。
ワポルは多分、掲げられたヒルルクの旗を攻撃するだろう。けれどルフィがそれを許さない。海での遭遇が無かったから一味とワポルたちの間に因縁は無いけど、話を聞いただけでも敵対する要素は満載だ。
しかもワポルについては昨日の夜、船でビビが昔の話をしたらしい。王としても人としても最低最悪なガキんちょ。それがワポルである。焚き付ける必要も無い。
私が少しトリップしていると、ドルトンさんは変身しながら飛び出して行ってしまった。ということはもうじきバトルが始まるのかな?私はドクトリーヌと一緒に見学でもしてようかしら?もしくはナミとあの子供の護衛かな?
そんな事を考えてると、飛び込んできた男たちの内の1人が私の方に歩いてきた。
他の人はドルトンさんの後に続いて出て行ったけど、私に用があるのかな?
「イオリちゃん。あんたとこの手配書の男に伝言を預かってるんだ」
言っておじさんが取り出したのは、ルフィの手配書だった。でも、私の事を『イオリちゃん』って言うって事は、この人昔診た患者さん?
「伝言って?」
「1週間ぐらい前だったかな。ある男から伝言を預かってるんだ」
へぇ…まさか、伝言が届くだなんて思ってなかったわ。
1週間前にロベールの町に1人の男が現れ、そしてこんな会話があったらしい。
『もう1つ聞くけど、麦わらを被った海賊と赤い髪の海賊がここに来たか?』
『いや、来てねェが…』
『じゃあ、この手配書のヤツらがこの島に来たら、おれは10日間だけアラバスタでお前らを待つと伝えてくれ』
『いや、伝えてくれって…この手配書…ん?イオリ…ってもしかしてこれ、イオリちゃん?』
『ん?なんだあんた、イオリの事知ってんのか?』
『いや、あんたの言うのと同じかどうかはわからんが、昔ここで医師の見習いをしてた娘が居てね。たしか髪も赤だった。』
『あ~、そういや医術を学んでたとか言ってたな。100歳超え女医に師事してたらしいが…』
『なら、あんたの言うのはイオリちゃんで間違いねェな。Dr.くれはは140才のばあさんだ。』
『140!?すげェな!まぁ知ってるんだったら話が早ェ、じゃ、頼んだよ…』
『おい、ちょっと待ってくれ。あんたの名前は?』
『おお! そりゃそうだ! うっかりしてた! おれはエース。そのルフィとイオリってのが来たら、そう言ってくれりゃ解る』
確かに伝わる。すぐ解る。
『オイ、そいつを捕まえてくれ! 食い逃げ野郎だ!』
『やべっ! じゃ、頼んだぜ!』
怒り狂う店主から、エースはすたこらと逃げ去ったんだとか。
これが、1週間前の出来事の全容らしい。
しかし、相変わらず食い逃げしてんのか…変わんないな。
ってか、そんな事しておいて、伝言なんて頼んでんじゃねぇよ!!
おめェ考え浅すぎだろ!!?
「で、あの男は何者なんだ?」
おじさん、何でそんな事聞くんです?
どうしようかなぁ…たぶん身内だとわかったら、飲食代を請求されるんだろうなぁ…
とはいえ、ウソを言うのもなぁ…。仕方ない。正直に言うか。
「私たちの兄です」
白ひげ海賊団二番隊隊長だ!とでも言えば、請求されないかも知れないけど、それはそれで、そんな大物と知り合いなんて!!って事になっちゃうもんね? なにせ相手は懸賞金10億ですから。
「それで、飲食代はいくらですか?」
おじさんは、ポケットから紙を取り出して渡してくれた。ご丁寧に請求書ですと。
まぁ、伝言を頼むんだから、少なくとっも知り合いだって思うじゃんね?店の人も請求する気満々だったわけだ。
ハァ…
「マジっすか!?」
請求書の金額を見て驚いた。これって、一人の飲食代? ぼったくりバーじゃあるまいし…
とりあえず、
話を聞くと、しばらくメシを食ってなかったと言いながら、店の食料を食い尽くす勢いで食べていたらしい…
ゴアで食い逃げしてた頃に比べたら、そりゃ食べる量は増えてるだろうけど、4人分の料金のさらに数倍って…
一応ね…。元の世界でも立場が立場だったから、知ってる子とかが居る店で飲食したら、その子の分も支払ったりとかしてたけど、兄妹とはいえ、知らんところで飲み食いした料金まで支払う羽目になるとは思わんかったよ。
いや、別に…偶然そういう事になったなら仕方ないと諦めるけど、エースは伝言頼んだんでしょう?つまりこうなる事も有り得るわけじゃん?
アラバスタで請求してやろうかしら?
恐らくエースは『黒ひげ』を探してグランドラインを逆走してきたんだろう。
私が『黒ひげ』…マーシャル・D・ティーチに関して知っていることは少ない。というより原作知識以外でヤツの情報は皆無と言っていい。
どれほどの力を持っているかもわからない。ただ、ヤツは若かりし頃とは言え、シャンクスに傷を負わせた事もある。
懸賞金1億越えの者を狙っていた事からも、それ以上の実力がある事は疑いない。後の話ではあるけどエースを倒した事もある。
恐らく今のルフィでは、枷を外しても勝てないのではなかろうか?
『黒ひげ』は今のところ手配もされてないし、新聞に載ったことも無い。情報収集しようにも、会った事もなければどこに居るのかもわからない。
ドラムを張っておけば良かったかもしれないけど、あまりに情報が無い為に、捕まるリスクを考えて、諦めていた部分もある。
ヤツに関しては、物語の重要人物とも考えられるため、可能な限り情報を得たいものである。
麦わら一味と黒ひげ海賊団の接点は、空島前のモックタウン。
そこでヤツの思考を読んで、その上でどうするかを決めればいいか?
とりあえず今は、黒ひげに関しては考えるのを辞めにした。