イムの娘(いむのこ)   作:槙 秀人

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03-104話:ヒルルクの桜(5人目)

 気づくとドクトリーヌが居なくなっていた。多分、ワポル戦を観戦にでも行ったんだろう。

 どうしようかな?

 まだ、お昼にもなってないから、記録が溜まるまでには、まだ10時間近くある。

 私も観戦しに行こうかな?

 それとも病室に行って、ナミとあの子の護衛でもしてようかしら?

 

 迷った挙句、私はナミ達の居る病室へと向かった。

 そこにはビビとウソップが居た。ルフィとサンジはチョッパーを追って外に出たらしい。

 ちなみにナミは熟睡中。ルフィ達が居ないのでゆっくり眠れる事でしょう。

 原作ではアラバスタへの永久指針があったので、病気が落ち着いた時点ですぐに出航しようとしてたけど、ここではアラバスタへ行くには記録が溜まるまで待つ必要があるので、慌てたところで意味が無い。

 永久指針が無い事で、ある意味ゆっくり出来るのは、ナミにとって良かったかも知れない。

 どの道、出航するのは夜だったんだし…。

 カーテンで仕切られている別のベットには、今日治療した子供が居るけど、その子も寝ているみたい。

 

「なんだか浮かない顔をしてるけど?」

 ビビが私に声をかけて来た。

 

「ちょっとね。高額請求されて凹んでるのよ。」

「「?」」

 2人が頭の上にクエスチョンマークを浮かべてるけど、個人的?な事なのでコメントは控えさせてもらった。

 

「上着、上着!」

「!?」

 病人2人をビビとウソップに任せて、私が外へ行こうと思っていると、ルフィが部屋に飛び込んできた。

 

「はい、上着!!」

「おっ!サンキュー!!」

 なんでここにルフィの上着があるのかと思ってたら、着て行かなかっただけだった。

 確かにこの部屋は暖かいけど、外に行くなら着なさいよ!!サンジだって出る時着て行ったでしょうに…。なんで同じようにしないかな?

 ほんとおこちゃまなんだから…

 

「……何かあったの?」

 あら、ナミが起きちゃった?

 

「あァ、ケンカだよ。トナカイとドングリのおっさんが頑張ってんだ」

 お、チョッパー! ちゃんと『トナカイ』って認識されてる!?

 ドングリのおっさんっていうのは、ドルトンさんのことだろう。

 

「ケンカねェ…特に問題は無いんでしょ?」

「無ェよ。ナミはまだ寝てろ!イオリは暇なら、ばあさんと一緒に見学すっか?」

 ルフィは即答したけど、そりゃまぁ、問題ないでしょうね。

 チェスやクロマーリモはドルトンさんと同等の強さらしいけど、気配からするに、1対1ならドルトンさんに分がある感じだし。しかも、ここにはドルトンさんへの人質になる民衆がいないから、あいつらがドルトンさんを倒す手立ては無いはずだ。加えて無傷なサンジも居るし、チョッパーも居る。

 あれ?って事は、単純計算でもワポルの勝ち目って無いんじゃね?

 

「イオリ!あのトナカイ、面白れぇし、しゃべんだぞ!!」

「いや、だから…あの子が、私の弟弟子で、船医に誘おうとしてる子なんだって!!」

「だから、おれはあいつを仲間にすることに決めた!」

 やっぱりコイツ、人の話を聞いちゃいねぇ……

 そもそも面白いとかで、仲間に誘おうとすんじゃねェよ!!

 

「まぁ、それはいいけど、ルフィと私に伝言が届いてたわよ?」

「伝言?」

 不思議そうに首を捻るルフィ。フフフ…驚くわよ?

 

「1週間ぐらい前にこの島に来たある男が、あんたと私の手配書を出して、こう伝言を残したんだって。 『もしもこの手配書のやつらがこの島に来たら、おれは10日間だけアラバスタでお前らを待つと伝えてくれ』、ってね!」

 伝言を伝えると、ルフィは首を傾げた。

 

「おれたちを? 誰が?」

 きょとんとした表情からして、ルフィは本当に解っていないらしい。思わずため息が漏れた。

 

「あんたはマジで鈍いわね。このグラインドラインに、私たちの共通の知り合いなんて何人いる?」

 グランドラインに入る前からの、という条件をつければ、それこそエースとサボと…後は精々、ガープくらいじゃないかしら?

 

「伝言を聞いたおじさんは、こうも言ってたって!『おれはエース。そのルフィとイオリってのが来たら、そう言ってくれりゃ解る』ってね」

 その言葉に目を丸くするルフィ。

 

「エースがアラバスタにいんのか!?」

 何となく興奮状態だ。久しぶりだもんね。

 

「らしいわよ?」

 

「うし!じゃあケンカさっさと終わらせて、トナカイを仲間にして、出航すんぞ!」

「いや、だから…」

 出航は夜にならないと出来ないんですけど?

 

 エースと久しぶりに会えるとわかって、ルフィはもの凄くやる気を出していた。

 

「よし! んじゃ、行ってくる!」

 上着を着て、防寒対策が終わると、ルフィはさっさと外へと駆けて行った。

 

「エースって?」

 ルフィが出ていくと、私たち二人の会話で出て来た名前にナミが興味を持ったみたいで聞いて来た。他の2人も同じ感じだ。まぁ、ルフィがあれだけ興奮してれば興味も湧くでしょう。

 

「ルフィより3つ上の私たちの兄よ。3年前に海にでて、今は海賊やってるわ!」

「…そういえば4人兄弟って言ってたわね。もう一人はどうしてるの?」

「もう一人の兄は…、子供の頃に船出したんだけど、全く情報が無いのよね。エースは17歳になってからの出航だったから、すぐに手配書が発行されて、その後も更新されてるんだけど…」

「…そうなんだ…」

「まぁ、無事だと信じてるけどね?」

「…」

 ナミが少し沈んだ顔をした。聞いてはいけない事を聞いてしまった。とでも思ってるんだろう。

 

「はい。この話はおしまい!ナミはもうちょっと寝てたら?」

「そうね。まだ記録が溜まるのには時間があるし…」

 ナミがもう一度寝ようと横になろうとした、その時だった…

 

 ドン! という砲撃音が響いたかと思った次の瞬間、城が揺れた。

 

「何!? 何なの!?」

 城が大きいからか揺れはそう強いものじゃなかったけど、人の動揺を誘うには十分だったらしい。

 ナミが慌てたような声を上げた。

 ちなみに、子供は起きなかった。まだ麻酔が効いているのか、それとも薬の効果かはわからないけど…。

 

「さっきルフィが言ってた、ケンカの余波じゃない?」

 3人とも目を丸くした。まぁ、砲撃だもんね。ケンカとは規模が違う気がする。

 

「ケンカって…一体誰と?」

 ビビから当然の疑問が出た。でも、疑問に思ってたならルフィに聞けばよかったのに?

 

「ワポルってヤツがここに向かってたらしいから、それじゃないかな?」

「ワポルって、この国の元国王の?」

 まぁ、昨日ドルトンさんに聞いたもんね。

 私が頷くと、2度目の砲撃音が響き、また城が揺れた。

 

「おいおい、大丈夫かァ!? 城が崩れたりしねェよな!?」

 ウソップは相変わらずのネガティブ思考だ。

 

「問題ないわよ。城が崩れるほどの衝撃なら、壁にヒビとか入るだろうし、それに音が響いたのはもっと上の方だったじゃない?」

 

 恐らく、旗が攻撃を受けたんだろう。

 

「心配なら、様子を見てみたら? 窓を開けて身を乗り出せば、多少は見れると思うけど?」

 聞くや否や、ウソップは窓を開けて身を乗り出していた。

 私に言われる前に状況を確認しに行くならともかく、『勇敢なる海の戦士』はそんなあたふたしながら行動しないと思うわよ?

 自分で言ってた目標なんだから、もう少し意識して行動してほしいもんだわ。

 でも実際、ウソップの思い描く『勇敢なる海の戦士』ってどういう風なんだろう? 

 ヤソップ? それともドリー&ブロギー? 

 

 ウソップほど慌ててはいないけど、ナミとビビも確認したいのかウソップの所へ行った。窓を開けたので、冷風が部屋に入り込む。私はガウンをナミに掛けてあげた。

 

 私も窓から顔を出して城の上の方を覗いてみる。すると、1番上の屋根が少し崩れ、そこでルフィが少し焦げながら旗を掲げているのが見えた。

 

「これがどこの誰の海賊旗か知らねェけどな」

 ルフィがいつになくマジな顔つきになっている。距離はそこそこあるはずなのに、その声がしっかりと聞こえてきた。

 

「これは命を誓う旗だから、冗談で立ってるわけじゃねェんだぞ!」

 それはそうだけど、攻撃されたのが自分ではなく他人の旗なのにそこまで本気になれるってのが、ルフィの凄いとこだと思う。

 

「お前なんかが、へらへら笑ってへし折っていい旗じゃないんだ!!」

 視線を下に移してみると、ワポルとチェスマーリモだろう2人がその怒気に完全に気圧されていた。無理も無いか、まるで空気が震えてるようにも感じられるし、多少だけれども覇気も感じられた。まだまだ弱いけど、徐々に強くなってるみたい。

 

「どうやら、心配無さそうね」

 あの程度で城が崩れるなんて事は無いし、ケンカの方も問題無いだろう。

 というわけで…。

 

「窓、閉めるわよ?他にも患者が居るんだし!!」

 私の言葉を聞いて、この部屋に居るのが自分たちだけでない事を思い出して、3人が慌てて身を引いた。窓を閉めると風も雪も入ってこなくなった。

 

 さて…私はマジで見学しに行こうかしら?もしもワポルが城に入って来た時にここには来ないようにした方がいいだろうし…

 

「私は見学しに行こうかと思うんだけど、ビビとウソップはどうする?どちらか一人はここに居てほしいけど…」

 言うと2人共ここに残ると言い張った。ビビはいいけど、ウソップお前……。

 まぁいいや。ウソップは原作でも事が終わってから城に来たんだし…

 

 

 

「ん?」

 病室を出てると、すぐ下から声がして、見るとワポルがそこに居た。

 

「まっはっは! 貴様ァ! さてはあの麦わらの仲間だなァ!?」

「…」

 あらまぁ、これは…まさかのナミポジじゃん?

 

「麦わらって?」

「え?…いや、外に居ただろう?」

「そうなの?」

「違うのか?」

「何が?」

 なんだか会話が嚙み合っていない気がするけども…

 麦わらを知らないとするなら、私の返答は正しいはずだ。

 けれどワポルは何故か、私をルフィの仲間と確信しているらしい。しらばっくれても意味がない?

 おかしいなぁ… 私のハッタリが見抜かれたわけでは無いんだろうけど、なんで仲間だと確信したんだろう?

 会話をしながらもワポルは柱をよじ登っていた。あの体形で何気に身が軽いというか体力あるというか…。

 

「しらばっくれるなァァ!!!」

「きゃあぁぁぁ!!!」

 部屋に入られるのは不味いので、悲鳴を上げながら逃げ出すと、ウマい具合にワポルが追って来た。

 そのまま真っ直ぐ走ると階段があり、私はそれを使って階下に降りる。

 

「ウゲッ! ウ…最近、ちょっと太りすぎたか!?」

 メタボなワポルには階段に入る穴が小さかったらしく、ものの見事に挟まっていた。

 ガツンとハマり、降りる事も登る事も出来ないらしい。ほんの数ヶ月前までは自分が暮らしていた城なのに、太ったのは『ちょっと』どころじゃないと思う。いったいどんな暴飲暴食したのやら…

 

「あ、そうだ!大事な事を忘れてた!!」

 私がある事を思い出し、ワポルがハマった階段を見ると、バケツが一つ落ちて来た。

 

「完了…奇跡の骨格整形術!スリムアップワポール!!」

 おえぇ…って、なんか嫌な音を発していたけど、現れたのはスリムになったワポルだった。

 なんか、背も高くなってる?

 

「逃がさんぞォ!!」

 スリムになったワポルは、それなりに速くなっていた。けれど、あくまでもそれはワポルとしては…という話。私からすれば、話にならないくらい遅いので、捕まえようとしたその手を躱して、ひとつスらせて頂きました。

 私に飛び掛かって来たワポルはそのまま倒れたけれど、怒りの表情をもって私に向き直った。

 

「おのれェ!!コケにしやがって!!」

 おめェが勝手に転んだだけだろうに。あたしゃ、躱しただけじゃんよ!!

 ワポルは再び私に襲い掛かろうとしたけれど、ざんねんでした! 私の出番はおしまいです。

 

「見っけ」

 ワポルを挟んでその向こう、ルフィが構えてるのを見付けた次の瞬間には、ワポルはゴムの足で思いっきり蹴り飛ばされていた。

 

「ヌベェ!!」

 ルフィに思い切り蹴り飛ばされたワポルは、そのまま城の壁に激突した。

 

「あり? あいつあんなに細かったっけ?」

 ルフィの疑問は当然だけど、答えるのが面倒なのでスルーしよう。

 

「イオリちゅわぁん!! 無事か~い!!」

 サンジも来たよ。私しか居ないのに、目がハートのメロリン状態で…

 なんか対応変わってない?

 

「まっはっはっはっは!! そこまでだ貴様らァ!!」

 突然、ワポルがバカ笑いを始めた。ルフィに思いっきり蹴っ飛ばされて壁に激突したはずなのに、ずいぶん丈夫な事で…。

 ワポルは他よりも数段大きな扉の前で仁王立ちしている。

 

「ここは武器庫だ! 鍵はおれだけが持っている!!」

 ワポルの作戦。それは、武器庫の武器を食べて世にも恐ろしい人間兵器となること!

 …って、言われてもね。

 

「…なぁ~んだ、これは武器庫の鍵か…宝物庫の鍵かと思ったのに…ザンネン。」

 私はさっき、襲って来たワポルを避けた際にスっといた鍵を掲げて見せた。

 原作ではナミがやってた事だけど、私が代わりにやりました。

 ちなみにこの時、ワポルから一つ情報を頂きま(ゲット)した。

 

「「「…………」」」

 え、何この沈黙。

 

「か、重ね重ね……この、コソ泥がァ!!」

 ブルブルと震えながら怒鳴るワポル。しかしその発言には頷けない。

 

「コソ泥と一緒にしないでほしいわね。スリの技術は芸術よ!!」

 どん、と胸を張って言ってみた。

 コソ泥もスリも、もちろん海賊も…。どの道犯罪者には変わり無いけどね!

 技術を芸術と言ってるだけで、スリという犯罪が芸術とは思ってないからね?念のため…

 

「く…まだだ! まだ奥の手はある!!」

「あ! 待て!!」

 逃げるワポルと追うルフィ。ルフィはなぜか剃を使わない。下が氷だから滑るのかな?

 2人は、上へ上へと登って行った。

 

「イオリちゃん!ところでナミさんとビビちゃんは?」

 何かのショックから立ち直ったサンジが聞いて来た。

 

「ナミはまだ寝てるし、ビビとウソップは付き添いで病室に居るわよ?なんならサンジは護「了解(ラジャー)!!」」

「…」

 護衛としてそこに居たら? と聞こうとしたら、食い気味に被せてきたよ。

 いや別に…命令や指示を出したつもりは無いんだけど?

 

 サンジは病室まですっ飛んでった。ウソップとビビの悲鳴が聞こえた気がするけど、たぶん気のせいだろう。

 ワポルに関してはルフィに任せるとして、私は武器庫を物色する事にした。

 

 けっこういろんな武器があった。ガトリング銃とか、巨大なボーガンとか、戦車まで。重火器以外にも剣や刀、斧や槍、弓。何でか知らんがマグロ包丁まである。

 それと、手錠や鎖、ロープに鞭に蝋燭?

 ………他にも色々あった気がするけど、あの一角は見なかった事にしよう。

 

 とりあえず、大砲はドクトリーヌが使うだろうからおいといて、他の武器をいただく事にする。数点は船に置いて自分たちで使う事にして、残りはアラバスタで売るとしよう。

 

 その後、武器庫の鍵をドクトリーヌに渡し、ルフィがチョッパーを勧誘した。

 原作とは異なり、チョッパーは隠れていなかったけど、一緒に行く事に躊躇するのは私がルフィの船に居ても変わらないらしい。

 

「だっておれは、トナカイだ! 角だって蹄だってあるし…青っ鼻だし!」

 

 チョッパーが何を言いたいのかと言えば、要は『自分は他と違う』と言う事だ。

 昨日ドクトリーヌと話したけれど、この世に同じものなど2つと無い。チョッパーが気にする事など何もないのだ。

 けれどそれをそうだと思える者は、少数派でしかないのだろう。

 チョッパーは多数派なのだと思うけど、実はこの一味、その少数派が多いのよね?

 

「うるせェ! 行こう!!」

「「「!!?」」」

 チョッパーの悩みは、ルフィのそんな一言で解消した。

 難しく考えてしまうと、どうにもならない事も、単純に考えればあっさり解決してしまう。

 ルフィがそんな事を考えているわけがない。コイツはいつも直感でこういう事をするから逆にすごいと思う訳よ。

 

 軽い宴が開かれて、ドクトリーヌがチョッパーとの別れを惜しむ。最初、すごくイヤな顔をされたけど、ドクトリーヌとは約束があるのでね?

 ちなみに宴にはドルトンさんや何人かの街の人たち。イッシー20も居たりする。ちなみにイッシー20と一緒にいたワポル付きの兵士等は、何故か全員倒されていて、捕縛監禁されたとの事。改心してこの国の兵士として役に立ってくれることを望む。

 にしても、なぜか違和感を感じるのよね?なんだろう?何か忘れているような…?

 

 そして、夜になってようやく記録が溜まった。

 

「うし!行くか!!」

 ルフィがそう言い、せっかくなのでチョッパーの引くソリに乗って一気に下山することとなった。

 

 ドクトリーヌ。大変お世話になりました!

 包丁を持った彼女に追われることも無く、落ち着いた感じでの下山です。

 

 山を降りきり、ソリは森の中を走っていた。そして、それが始まった。

 今さっき降りてきたドラムロッキー、そこから何発もの砲撃音が響いてきた。

 

「何だ!?」

 突然のことに驚き、チョッパーが止まる。そして、ドラムロッキーを振り返る。

 けれど、何が起きているのかわからない。何しろ月が出ているとはいえ、時刻は夜。

 辺りは暗くてよく見えない。

 でもそれも、山頂がライトアップされるまでのことだった。

 

「ウオオオオオオオ!」

 チョッパーの叫びは何も知らないヤツが見れば、幻想的な光景の前にはそぐわない、無粋なものとも言えたかもしれない。けれど少なくとも今この場には、そんなことを考える者は誰もいない。

 

「ウオオオオオオオ!」

 ボロボロと流れる涙が、何よりも正直にチョッパーの心情を表していた。

 それにしても…。

 

「すげェ…」

 ルフィの呟きは思わず漏れたものだろうけど、私も素直にそう思う。

 ヒルルクはよくもまぁこんなことを考えたもんだと感心するわ。雪で桜を表現しようだなんて…。

 考えてみれば、桜が舞い散る様を『桜吹雪(・・)』と言ったりするし、雪が舞う様は確かに桜が舞い落ちる姿に似ている。だからと言って、こんな光景を作ろうとするなんて…

 この光景は遠目には桜にしか見えない。ドラムロッキーのように直線的な山ならば、幹にも見立てる事が出来るだろう。

 

「ウオオオオオオオ!!」

 冬の雪山に桜を咲かせる。勿論、本物の桜じゃないけど、重要なのはそこじゃない。

 ヒルルクが目指したものは、息をのむ程の美しい風景を表現する事だ。今私たちの目の前に広がるそれは、条件を十分に満たしていると思う。

 

 ヒルルクの桜は、私がこれまでに見た中で、特に心に残る美しい『桜』だった。

 

 

 

 

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