イムの娘(いむのこ)   作:槙 秀人

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03-107話:アラバスタまでの数日間(その2)

~ エピソード5 余暇 2月23日 午前 ~

 

 みかん畑ではナミがみかんの木の手入れをしている。あの畑を外敵(←主にルフィ)から守ってるのはサンジだけど、実際に育ててるのはナミである。サンジはパシリに使われてるけどね。

 勿論、時々は収獲してる。でないと折角育てたみかんも腐るだけだからだ。

 それらは殆ど女性陣によって消費される為、男どもにはあまり回る事はない。確かにビタミンCは女性にとって大事だけれど、畑に最も貢献しているサンジにはあげてもいいんじゃないかと思うけど?

 ちなみに味はとても美味である。ルフィが断続的に狙うのも無理ない。

 

 私は今、デッキチェアに座ってお茶を飲んでいる。

 ぽかぽか陽気、湯気の立つお茶、膝上には丸くなった猫(本当は虎)。こうなってくると、お茶請けが欲しくなってくる。

 今だって頂戴って言えばきっともらえるだろうけど… 何だか、サンジに悪いじゃん?

 さて、どうしたもんだろう?

 

 どうしようかな?と思って何気なく空を見上げると、上空に1羽の鳥が飛んでいるのが見えた。ただ鳥が飛んでいるのが見えただけなら、別に気にしないけど、その鳥はメリー号の上を旋回している。

 あ~、あの鳥みかんを狙ってるわね?

 今までにもそんなことはあった。みかんを狙う外敵は主にルフィだけど、ルフィ以外にも鳥がいる。

 そういうのもサンジが追っ払ってきたけどね。

 でも今は…

 

「気付いてなさそうね」

 ナミもサンジも気付いてない。二人がいるから鳥も襲撃してこないけど、いなくなれば来そうな感じ…

 まぁ、サンジが何とかするだろうけど。

 

 そんなことをつらつらと考えていると、一通りの作業を終えたのかナミが手を叩いて泥を落としていた。

 ここからじゃ聞こえないけど、サンジに何かしら声をかけているらしい。

 すると、サンジはメロリン状態になりながら船内に消えた。

 あらあら…

 それとほぼ時を同じくして木から離れるナミ。

 途端に鳥が急降下して来た!

 そして、みかんを1つ銜えて飛び去った!

 

「あ、ちょっと!」

 距離があるせいでさっきのサンジとの会話は聞こえなかったけど、今回は驚いたのもあって、それなりに大きな声が出たんだろう。私の耳まで届いてきた。

 

「エル、ちょっとどいて! 剃刀!」

 ポンッとエルを床に放って、私は空に駆け上がった。あ、エルはちゃんと着地してくれてるよ。 流石はネコ科動物。

 

「クエッ!?」

「返してもらうわよ!」

 鳥はあっさりと捕まえることが出来て、みかんも取り返せた。この鳥、ついでに食料にしちゃおうかしら?

 いや、今のところ別に食料には困ってないし、どうでもいいか。

 取り返したみかんを見てみると、運良く傷はついていなかった。これなら洗えば何の問題も無いだろう。

 内心でほくそ笑み、船に戻ると、何故かサンジに絡まれた。

 

「…イオリちゃん…、それはおれの役目なんだけど!?」

 いや、そう言われても。

 

「だって、いなかったじゃない!」

「おれはナミさんに頼まれて水を取りに行ってたんだよ!」

 見るとサンジは、手に水の入ったコップを持っていた。なるほど、パシリか。

 

「いなかった事には変わりはないって」

 肩を竦めながら、それに、と続ける。

 

「放っといたらサンジ、あの鳥追いかけられなかったでしょ?飛んでる鳥を捕まえられるのなんて私の月歩か、そうでなければルフィのゴムぐらいだし。」

 あ~、そういえば、チョッパーも月歩使えるんだっけ。

 

 私の発言に、意外なところから援護射撃が来た。

 

「それもそうよね」

「ナミさん!?」

 ナミのあっさりとした肯定に対してあからさまのガーン状態になるサンジは、まぁ、それは放っておいて…。

 

「ナミ、このみかん貰ってもいい?」

 今のうちにと強請ってみました。

 

「ハァ……いいわよイオリ。あんた!欲しかったら言いなさいよね。」

「うん。今度からそうする。」

 よし! みかんゲットした! でも……。

 

「空が……鳥が……ナミさんが……」

 サンジがウザい!

 ってか、すんごい哀愁の篭った目で見られてますけど!?

 

「あ~……何なら教えてあげよっか? 月歩」

 ウザいけれど同時に何となく哀れでもあって、私はそう提案してみた。

 実際サンジの脚力なら、剃と月歩と嵐脚は割とすぐに覚えられると思うのよね。

 それは本心で、親切心のつもりでの提案をしてみた。

 

「えっ!教えてくれるの!? イオリちゃんに教えてもらえるならおれ、頑張っちゃおうかな?」

 飛びつかれました。

 まぁ、ちゃんと教えてあげようと思う。

 月歩が出来るメンバーが他にも居ると何かと便利だろうからね。

 さっそく今晩から訓練するって事で、夕食後に約束しました。

 

 私はみかんの皮を剥きながら、さっきの場所に戻った。

 再びデッキチェアー座ると、エルが待っていたと言わんばかりに膝に飛び乗って丸くなる。

 みかんも美味いし、今日は平和だねぇ。

 

 

~ エピソード6 特訓・六式 2月23日 夜 ~

 

 サンジに六式の一つである月歩を教える。脚力を試すために『剃』のやり方を教えて、とりあえずやってもらったら、不完全ではあるけどすぐに出来た。おそらくルフィと同等レベルなのではないだろうか?

 

 月歩はそれよりも高度な技になる。能力者ではないサンジには水上でのトレーニングがお勧めだ。水上を走れるようになれば、蹴る強さを増せば、月歩が可能になる。

 訓練を初めて驚いたのはエルが興味を持ったこと。しかも・・・

 

「うおっ!!マジかコイツ!!」

 サンジが剃を練習していたらエルがマネしてついていったのだ。

 そして水上歩行はエルが先を越した。

 

「エルすげェ~~~!!!」

 チョッパーが素直にエルの事を称賛していた。エルも得意げにしている。

 さらに、エルの背に乗ってナミが楽しそうに海上を移動する。

 ※エルの縮小を解除しています。

 

「あぁ…ナミさん、おれがお姫様抱っこで海上を走れたら……」

 う~ん、どうだろう?

 エルにまたがって移動するのとサンジのお姫様抱っこ…

 ナミは迷わずエルを選びそうな気がするけど?

 でも言わんとこ。サンジがもっと落ち込みそうだから。

 

 ちなみにルフィが乗ったら海上で振り落とされてた。ウソップが助けてたけど…

 通訳してくれたチョッパーに曰く、乗り方が雑!落ち着きがないとの理由で振り落としたとの事。

 どうでも良いことだが、エルの中でナミよりルフィの方が格付けが下だという事が判明した。

 

 現在のところまだ二人?とも空中歩行までは至っていない。でも水上歩行は完璧になってるから、そう遠からずできるようになると思う。サンジもライバル?が出来たので進歩は速いのではないだろうか?

 

 

~ エピソード7 ウソ下手!! 2月24日 夜 ~

 

 ビビとユナは、リトルガーデンに向かっている時、ナミがお風呂に入っているタイミングできちんと?再会を果たしていた。

 その際ユナは、この事を仲間の誰にも言わないように念を押した。男どもにバレたら(ルフィが居るので)どこまで情報が拡散するかわからないからだ。

 

 今日、イオリは終日、修練上で男たちの覇気の訓練と六式の訓練に付き合っていた。

 ナミとビビもずいぶん仲が良くなっており、ナミはビビにユナの話をあれこれ聞いていた。

 

「初めてユナに会ったのは、6年前の世界会議(レヴェリー)の前夜祭なの。」

 ビビはその時の様子をナミに話して聞かせた。

 招待されて会社の何人かと聖地に訪れていたユナは、天竜人に囲まれていた。オーダーメイドの下着の注文を取りに来ていたらしく、何人かの採寸もしたと話を聞いたとの事。

 本当は、注文を取りに来たのでも採寸をしに来たわけでも無かったのだが、ビビはそう感じていたらしい。

 話をしていると、イオリが部屋に戻って来て、シャワーを浴びるからと準備をしていた。

 その際、ユナの名前を出す度に、チラチライオリの方を見るビビをナミは目を細めて見ていた。そして、イオリがお風呂に出ていくと…

 

「ねえビビ?どうしてユナさんの名前を私が言う度にイオリの事を見てたの?」

「えっ!?」

 その時のビビの様子は、まさしく『ウソ下手!!』状態だったらしい。

 ウソというかごまかすスキルが低すぎた。結果として、ビビは『イオリ=ユナ』を認めてしまったのである。

 

「?」

 お風呂から戻ってくると、なぜかナミが腕組みをしながら迎えてくれた。

 

「ちょっと、イオリ!!あんたはずっと私を騙してたって事?」

 ナミの後ろには、平謝りするビビの姿があった。

 あら~…、ビビったら、ナミに話しちゃったんだ。仕方ないわね。

 私は溜息をついて、口を開いた。

 

「もともと私はこうやって航海するつもりだったのよ。ナミに初めてあった時には、もう会社がかなり大きくなってたから、別人になるしかなかった。だからコノミ諸島にもイオリとして行ったのよ。でも…」

 と言いながら、私はユナへと姿を変える。同時にナミが驚いて、目を見開いた。

 

「ごめんねナミ。騙しているつもりはなかったの…」

「あ…………いえ…別に…そんな………」

 

「「?」」

 ナミの態度の変化に、ユナとビビが顔を見合わせる。

 

《これはある種のサンジ化か!?》

 

「えっと…あの……あ、握手してください!!」

 最初から決めてました!!的な感じで、腰を90度に折って右手を差し出すナミを見て、私は少し引いていた。

 

「い、いいけど…」

 さっきの怒りはどこ行った? これはもしかして、ナミに怒られそうになったらユナの姿になれば逃げられる?

 いやいや、そんな事しちゃダメでじゃんよ! そもそも私がナミを怒らせることなんて、この事以外無いはずだし。

 たぶん…

 

 握手した後、イオリの姿に戻ると、ナミは不貞腐れたような顔をした。

 

「そういう事なら仕方ないわね。許してあげる。でもビビ、それならバラしちゃダメじゃない!ユナ様に迷惑かけたら承知しないからね!!今後は気を付けるように!!」

「は、はい。」

「…」

 今、ユナ”様”って言った!? まさかの完全(パーフェクト)ファンじゃん!!?

 

 それにしても…

 演技はうまくなってても、なにかの拍子に秘密がバレちゃいそうな予感。

 潜入後、ビビが無事だったのはもしかして…敵方の裏取りに時間がかかっていたからなんじゃないのかな?

 これはダメね。クロコダイル相手に腹芸するのは、普通に考えても難しい。

 ビビに秘密を抱えさせる事は、リスクになり得るという事だ。

 

 しかたない。

 じゃあ、”あれ”は黙っておく事にしましょうか。

 

 

~ エピソード8 敵を知り己を知れば… 2月25日 ~

 

「バロックワークスって会社のシステムは、一体どうなってんだ?」

 これまでの航海であれば、もうじき目的地に到着するだろうと思わる事もあり、(ほんとうは、まだ数日あるけどね?)ウソップが疑問を口にしていた。

 

 そしてそれに対して、ビビが簡単な説明をする。

 

「システムは簡単よ」

 実際、システムそのものは簡単な構造だった。

 Mr0であるクロコダイルを筆頭に、12人と1匹のエージェント。エージェントたちは、実力の見合った女性のエージェントと組む。 Mr13とミス・フライデーのペアはちょっとした例外。

 本当に重要な任務を任されるのがMr5以上のオフィサーエージェント。

 部下を率いて資金集めをするのがそれ以下のフロンティアエージェント。

 それにオフィサーエージェントの部下であるビリオンズが約200人、フロンティアエージェントの部下であるミリオンズが約1800人。

 最終的には、構成員およそ2000人の大所帯だ。

 

 やっている事は賞金稼ぎと、指令による任務遂行。指令は諜報活動から暗殺まで多岐に渡り、失敗はそく処分。処分とはその状況により異なり、除名される(クビになる)か抹殺である。

 フロンティア・エージェントになれば、ようやく普通の生活が送れる程度の給料が貰えるらしいが、それ以下の構成員は給料も少ない為、辞める者も少なくないらしい。

 なんとなく、歩合制の企業に似ている感じ?

 でも、社員2000人規模の会社を、自分の存在を謎のままに経営するって、なにげにすごい事だと思うけど…

 主要キャラだからこその力だと思うけど、そうでないならF-RONPにスカウトしたいところだわ。

 

「そーか!じゃあ、クロコダイルをよ! ぶっ飛ばしたらいいんだろ!?」

 ビビの話を聞いて、ルフィが張り切ってる。話の内容は絶対理解してないだろうけど、一応核心は突いている。

 

「クロコダイルだけじゃないわね。アラバスタ乗っ取りはバロックワークスの最終目的なわけだから、それが近いとなればそのオフィサーエージェントの残りも……」

「ええ」

 話を振ると、ビビは強張った顔で頷いた。

 

「集結するはず」

 

 さて、これで話を終わらせてはいけない。原作知識として知っているけど、知っているということを不審に思われないためには、事前に聞き出しておいたという『事実』が必要なのだ。

 なので、甲板で全員への説明が終わってから、ビビを捕まえて話を聞いてみることにした。

 

「取り合えず、残りのエージェントについて知ってることを教えてくれない?」

 私の質問にきょとんとした顔をするビビ。私、そんなに変なこと聞いてるかしら?

 

「Mr0が七武海のクロコダイル、そのペアのミス・オールサンデーが『悪魔の子』ニコ・ロビンっていう大物だからね。特徴だけでも解れば、他の奴らも案外見当が付くかもしれないじゃない?」

 ビビは私の言わんとする事を理解してくれたらしい。顔つきが変わった。

 

「オフィサーエージェントはMr5以上って言ってたけど、Mr5ペアとMr3ペアは、もう事実上落ちてるから、後はクロコダイルたちも含めて8人?」

「いいえ、7人よ」

 ビビはふるふると首を振った。

 

「Mr2は、ペアを持たない単独のエージェントなの。会ったことはないけど、オカマだかららしいわ」

 まぁ、知ってるけどね。

 

「オカマ……ね」

「ええ。Mr2は大柄なオカマでオカマ口調、白鳥のコートを愛用していて背中には『オカマ(ウェイ)』と書かれてるんですって」

「へぇ…」

 全員そろっている時に今の話を聞いたなら、ボンちゃんと遭遇した際、みんな気づいてくれるんだろうか?

 いや、きっと気づかないんだろうな…。

 

 やめよう、今考える事じゃない。

 それよりも情報を引き出さないと!!

 

 その後の話でMr4ペアについてはそれなりに情報を仕入れられた。けれど、会ったことが無いというMr2とMr1ペアに関しては情報は少ない。そうは言っても、推測を立てる分には問題無いと思えるだけの情報は手に入った。

 あとは、あるいは敵からでも情報を仕入れられればいいかもね?

 

 ルフィはクロコダイルをぶっ飛ばすと言っている。ならば私は、反乱を何とかする事を考えよう。

 

 そもそも反乱は、なぜ起こったのか?

 

 それはコブラ王が雨を奪ったと思われているから。

 つまり、雨を奪ったのがコブラ王ではなくクロコダイルであると、反乱軍に伝わる事が大事なのよね。

 でもなァ~…

 それでも反乱は止まらないと思う。

 なぜなら何年もそう思って反乱軍は動いているから。

 そう、何年も…

 

 情報が伝わったとしても、それが事実と認識してもらえるかどうかが問題だ。

 それが事実だと伝われば、少なくとも『反乱』をする意味など無くなる。

 その為にはまずは準備が必要だ。

 ユナ(・・)と協力して、コブラ王に連絡をとって、あれを準備してもらって…。

 クロコダイルの持ち物もある程度は把握する必要があるわね。

 それはカザマにお願いするとして、みんなをうまく誘導する必要もあるかしら?

 その為には、やっぱり情報が必要よね。

 

 交渉材料にはあれ(・・)が使えるから…。

 原作通りであれば、彼女は迎えに行く事になる。

 そのタイミングで接触すればいいかしら?

 

「イオリさん?」

「っ!」

 ヤバい、ビビの話聞いてなかった!

 

「どうしたの、急に黙り込んだりして」

「……ゴメン、ちょっといろいろ考えちゃって…」

 すみません。しばしトリップしてました。

 思考の中に入り込むと周りが見えなくなっちゃうのよね。

 前にもエイタに注意された事があるけど、気を付けないと!大変な事になっちゃうわ!

 

 ※実は…。イオリは考えに没頭している最中に襲われた事がある。

  その際エイタはオートパイロットにより、防衛行動を取ったのだ。

  その結果、とんでもない事になっていた。

  イオリは驚愕した。

  思考を終えて見回すと、辺り一帯が廃墟と化していたのである。

 

「まさか、病気か何かじゃないわよね?」

 本気で案じているらしく、ビビの声音は不安そうだった。気持ちは解る。

 ナミがあんな病気に罹かったんだもの、病気に対して過敏になるのは仕方がない。

 

「ちがうわよ。ほんとにちょっと考え事をしてただけ!!」

 私の言葉にビビは明らかにホッとしていた。

 

「ならいいけど。でも本当に無理はしないでね?あなた(ユナ)は私の…大事な友達なんだから…」

「うん。わかってる…。心配してくれて、ありがと。」

 そうね。友達だもんね。

 ビビの為になるべく争いを小さくしないと!!

 

 私は決意を新たに、色々と策を考えながら日々を過ごしていくのでした。

 

 

 

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