イムの娘(いむのこ)   作:槙 秀人

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03-114話:準備万端

 もうじきレインベースに着くという所で、ナミがマツゲの上からウソップに声を掛けていた。

 どうやら、クリマ・タクトを受け取ったらしい。

 

「一見前と変わらねェただの棒だが、全然違う! 3つの棒の組み方で、何と攻撃が変わるんだ!」

 う~ん……これは、言っといた方がいいかもね?

 

「具体的にはどんな攻撃が出来るの?」

 ウソップの隣に並んで聞くと、開発者殿は胸を張って教えてくれた。

 

「聞いて驚け! おれ様のアイデアを!」

 クリマ・タクトを三角形に組んでボタンを押すと2匹の鳩が飛び出す、ファイン・テンポ。

 小銃のように組んでボタンを押すと銃口から花が出て来る、クラウディ・テンポ。

 3本のボタンをそれぞれ押すと噴水のように水が出て来る、レイン・テンポ。

 Y字型に組んでボタンを押すとボクシンググローブが出て来る、サンダー・テンポ。

 

 いやいや、攻撃ちゃうやんけ? ウソップ、ある意味期待を裏切らない男だわ!

 

「誰が宴会芸のための道具を作れって言ったのよ!?」

「ウソップーーー!!」

 クリマ・タクトを思いっきり顔面に投げつけられて沈むウソップを、チョッパーが必死で揺さぶっている。

 

「医者ァー!」

 いや、それお前だから。

 

「まぁ、確かに聞いて驚いたけどね。……チョッパー、大丈夫よ。ウソップはきっと、ちゃんと成仏してくれるから!」

「勝手に殺すんじゃねェ!」

 あ、起きた。

 私はさっきナミが投げたクリマ・タクトを拾いながら苦笑する。

 

「冗談よ。で? それで終わりなの?」

 拾ったクリマ・タクトを1本ずつ指の間に挟みながら持ってフラフラと揺らしながら先を促すと、ウソップは口ごもった。

 

「あー、後は宴会後の余興用のサイクロン・テンポと、1発限りの必殺技のトルネード・テンポがあるけどよ」

 それを先に言えば良いものを……何だって数多の宴会芸をまず口にするんだ?

 しかもそのせいか随分とナミの信用を失ってしまったらしい。フンと鼻を鳴らしている。

 

「どうだか」

 ほらね。私にもその原因の一端はあるかもだけど……ちゃんとフォローはしておこうかしら。

 

「けど実際、大した発明だとは思うわよ? 鳩と花とボクシンググローブはともかく、水を出すんだから」

 改めてクリマ・タクトを観察してみる。本当に、見た目は何の変哲もない。元々が武器としても制作依頼でなければ、宴会芸用の道具としても中々の代物なんじゃなかろうか。

 

「噴水の様にってことは、予め水を棒の中に仕込んでるわけじゃないんでしょ?それだとすぐに切れちゃうもんね? どうやって水を発生させてるの?」

「あァ、それは……」

 それでウソップは漸く説明してくれた。クリマ・タクトは振ったり吹いたりすることで、ヒートボール、クールボール、サンダーボールという3種類の小さな気泡を出すことが出来、その組み合わせによって、何やかやと現象が起こせるらしい。何でそこを最初に説明しないんだよ?そこが肝だろうに…

 やっぱりというか、その話を聞いて、ナミも興味が湧いたらしい。何故解るかって? 

 クリマ・タクトの引き渡しを要求されたから。ナミなら今の説明でクリマ・タクトの有効的な使い方を察するだろう。

 私としては、ナミがクリマ・タクトを使っての初戦で説明書を見ながら戦うという羽目に陥らなきゃいいと思う。

 

「別に戦わなくたって、ナミさんとビビちゃんはおれが守る!」

 あっ、そこに私は入ってないんだね? ……何か煩いサンジは放っとこう。

 フェミニストは結構だけど、海賊やってる以上は絶対的な安全なんてあり得ない。

 身を守れる程度の戦力はあった方がいいに決まってる。ましてや今回ナミが戦う力を求めたのは、自分の為というよりむしろビビのためなんだし。

 

「プリンスって呼べ! ハハ!」

「プリンス(笑)」

「ぶっ飛ばすぞ、てめェッ!」

 呼べって自分で言ったくせに、本当に呼ばれるとサンジは怒った。まぁ、相手がゾロだったからだろう。ほんとに仲がいいと言うか。言ったら絶対否定するだろうけどね。

 しかし、よく自称できるなサンジ。今、その凄さが垣間見えた気がする。

 でもこの法則で考えると、プリンスはむしろエース? 本人が聞いたらブチギレしそうだ!

 

「ところでよ、バロックワークスはおれ達がこの国にいることに気付いてんのか?」

 ゾロの今更とも言える質問にビビが頷く。

 

「恐らくね。Mr2にも遭ってしまったし、Mr3もこの国に来ているようだし……。知られてると考えてまず間違いないと思うわ」

「それがどうした?」

「顔が割れてるんだ、やたらな行動は取れねェってことさ」

 その辺のことを理解してないのは、どうやらルフィだけだったらしい。

 面が割れてしまっていては、バロックワークスの社員にすぐ見付かってしまって手を打たれてしまう。 例えば暗殺とか。

 

「大丈夫なのはチョッパーとサンジぐらいか。私も変装すれば大丈夫かな」

 レインベースに着いたら変装しようかな?

 

「よーし! クロコダイルをぶっ飛ばすぞー!!」

「話聞いてんのか、テメェ!」

 ウソップはいつも通りツッコむ……けど。

 

「ここまで来たら、波風立てずになんていかないわよ。近い内に激突するのは間違いないんだし」

「そうね……今はとにかく全てにおいて時間が無いの。考えてるヒマなんて無いわ」

 ビビももう腹を括っているようで、強い口調だった。

 

 確かに時間が無い。ユートピア作戦の始まりは、確か7時だっけ?

 今は6時前。後1時間強しかない。まさに時間との勝負である。

 いざ、レインベース。

 

 ~ ~ ~ ~ ~

 

 レインベースは活気に溢れた町だった。最初に上陸したナノハナも活気はあったけれど、このレインベースは街並みにせよ通行人の格好にせよ、ナノハナよりも幾分派手な感じがする。

 大きなカジノがあるからだろうか? 尤も、そのカジノがクロコダイルがオーナーを務めるレインディナーズだと思うと、この活気を素直に喜ぶ気にはなれないんだけどね。

 レインベースに着いてすぐ、ルフィとウソップが水を買いに行った。まだまだ余裕はあるけれど、ちゃんと冷えた水が飲みたかったらしい。

 

「あいつらに任せて大丈夫かしら?」

「お使いぐらい出来るでしょ? 平気よ」

 ナミの認識は甘いと思う。ルフィは真正のトラブルメーカーだぞ?しかも周りを巻き込むほどの…

 え? じゃあ何でルフィを行かせたのかって? 『水ー!』ってダダ捏ねてたからに決まってるじゃない。それに、ここまで来たら多少のトラブルなんてどうでもいいしね。

 そんな風に嵐の前の静けさ的な小休止に入る中、チョッパーが輪から外れた。

 

「おれ、小便行ってくる」

 って、そうだ。こんなのんびりしてる場合じゃ無いや。

 

「私も変装してくるわ!」

 それだけ言い残して、私はチョッパーとはまた別方向に歩き出す。

 変装してくると言ったのは半分は方便みたいなものだ。

 何故そんなことを言うかといえば、みんなからさり気なく離れるためである。多分ルフィたちは海軍を引き連れて戻って来るだろうし、そんなことになれば町中大騒ぎになるだろう。追い掛け回されて、無駄な時間は使いたくないし、目立ってバロックワークスの下っ端に目を付けられても面倒だ。数だけはいるからね。

 さて、方便とはいえ言ったからには実行しようと思う。変装するとなると鏡があって水が使える所がいいよね?

 と、いうわけで。

 

「ここがレインディナーズか」

 一足先にやって来ましたレインディナーズ。先端にワニの模型が付いたピラミッド型の建物だ。

 私は、誰にも気づかれないように、橋の手前にある柱の根本に電伝虫を置いた。

 

 しかし、追われていなければこんなにもあっさりとたどり着けるわけだ。

 実は、今って丁度いいのよね? まだ騒動が起こってないから、クロコダイルは私達がこの町に来ていることを知らない。反乱軍のいるカトレアに向かってるとでも考えてるだろう。つまり、警戒が薄い。

 そんな状態ならばここに入っても、『髪が赤い』ってだけじゃ私の正体はまずバレない。

 何しろ、私の顔は知られてないからね。

 だから、ここのトイレで変装しようってわけ。目的も考えれば、まさに打ってつけ。

 これだけ近ければヤツのいる場所もよく分かる。私は見聞色と超能力を駆使して仕掛けを施した。

 

 レインディナーズは、賑やかなレインベースの中でも特に賑やかなんじゃないかと思う。

 それぐらい人で溢れかえっていた。

 はっきり言って、私はカジノに入るのは初めてだ。賭け事にはそんなに興味が無かったからね。

 スロット、ルーレット、ブラックジャック、ポーカー……ゲームは様々なモノがあり、気楽にやる分には楽しそうな気がする。もしもただの観光としてここに来てたらの話だけど…。

 

 変装し終えてトイレから出ると、適当にスロットの前に座って操作するフリをしながら待つ。

 すると、そう掛からずに騒々しいヤツらが飛び込んできた。

 

「クロコダイルー! 出て来い!!」

 こんなに騒々しい店内なのに、ルフィの叫びは見事に響き渡っている。よく通る声だこと…。

 

 ルフィと一緒に入ってきたのは、ゾロ、ナミ、ウソップである。よかった、原作通りで少しホッとした。あまりに原作と変わり過ぎても、先の予測が面倒になるもんね。

 所構わず叫んだルフィにウソップとナミがツッコんでたけど、ビビがいないからクロコダイルの顔が解らないという結論に至った。ってなわけで。

 

「「「ビビー! イオリー! クロコダイルー!!」」」

 今度は3人揃って叫んでいた。ビビや私の名前をクロコダイルと同列に並べないで欲しいんだけど?

 私の名前も入ってるのは、たぶん私が手配書の束を持っていて、写真を全部覚えているって事を前にウソップに言った事があるからだと思う。クロの手配書も出したもんね?

 でもそんな叫びには応えず、私はひたすらスロットをするフリをしながら他人になりきっていた。

 にしても、7時までまだ40分以上あるんだけど?

 ということは原作では、ルフィたちって結構長いこと牢の中にいたのかな?

 そんなことを考えていると、また別の人間がカジノに飛び込んでくる。

 

「追い詰めたぞ麦わら!!」

 スモーカーである。やっぱり来てたのか。まぁ原作通りではあるけど、これでいいのか海軍本部? 

 しかし、海賊と海兵に店内で騒がれるなんて、普通の店舗であれば迷惑以外の何物でもないだろう。商売あがったりだ。そもそも、この店は政府関係者立ち入り禁止らしいし。

 だから警備員が数人立ちはだかったんだけど……。

 

「ん? 何かぶつかったか?」

 ルフィに轢かれてそのままぶっ飛んで行った。そのせいだろうけど、店の奥の方で店員が騒いでいる。

 

「大変です、マネージャー! 何者かが……」

 おや? あれは……。

 

「VIPルームへお迎えしなさい。クロコダイルオーナーの命令よ」

 ロビンだった。

 バロックワークスの副社長ってだけでなく、レインディナーズでも要職を務めているんだね?

 やがてルフィたちは、赤絨毯の先のVIPルームへと促されて行った。スモーカーをくっつけたまま。

 まぁ……今はあいつらはそう心配しなくてもいいでしょう。それよりも。

 

「……」

 私は外に出て行こうとするロビンに背後からさり気なく近付いた。

 そして、この賑やかさに紛れて周囲の人間には会話が聞こえないだろうという所まで距離を詰めると、声を掛けた。

 

「おはよう、ミス・オールサンデー」

 あえて名前ではなくコードネームの方で。

 ロビンは私の接近には本当に気付いてなかったようで、一瞬だけれどピクリと肩を揺らした。

 まぁ、気付いてなくても無理は無い。私は敵意も戦意も出していないし、でもだからって妙に気配を消しているわけでも無いからね。

 人気の無い所ならば気配を消すけど、これだけ賑やかならば消すよりも紛れてしまう方がいっそ解りにくくなる。

 ロビンだけど、動揺したのはほんの僅かな間だけだったようだ。少なくとも表面上は。

 何故なら、振り向いた時には既に感情を隠すように微笑んでいたからだ。

 尤も、それは私もだからお互い様なのだけれど…

 

「あら、おはよう。その恰好はどうしたの?」

 ロビンもエースと同じく、変装した私が誰だか解ったらしい。

 私は表情を微笑みから無邪気な笑顔に変えて、少し髪を摘んだ。

 

「賞金首だからね。変装ぐらいするわよ。どう?似合ってる?」

 私の今の言動は、敵対してる相手に向けるモノではないと思う。まぁ、私はロビンを敵だと思っていないしね。

 

「ふふ、そうね。あなたと『麦わら』は姉弟だと聞いていたけれど、そうしてると、確かに似てるわ」

 仲間と同じ事を言うじゃない。血がつながってないはずだから、似てなくてもおかしくないんだけどね?

 ロビンが私の振った雑談に乗ったのは、本気で世間話をしたいからじゃないだろう。

 恐らくはこちらの出方を見極めようとしてると思う。本来であれば、話しながら相手のペースを乱して、こちらの思惑に引き入れるとかするんだけど、ロビンは頭脳派だから、こちらの思惑通りに事が運ぶとも限らない。何より今は時間がない。さっさと本題に入ってしまおう。

 

「ところで、ちょっと話があるんだけど……いいかしら?」

 言って私は、店の外に親指を向けた。それはつまり、2人きりで話したいって意思表示である。

 ロビンは余裕のありそうな微笑みを維持したまま首を傾げる。

 

「私に?あなたたちが用があるのは、クロコダイルじゃないのかしら?」

「勿論、クロコダイルには大きな用があるわ。でも私は、あなたにもちょっと話があるのよ。ミス・オールサンデーにではなく、ニコ・ロビン。あなたにね!」

 

 今度はコードネームではなく本名で呼び掛けると、ロビンの表情がピクリと動いた。

 

「……私を知っているようね」

「ええ、知ってるわ」

 ロビンと私の間にある距離は、そう離れていない。けれどその距離をさらに詰める。

 

「前に会った時点で、あなたが誰なのかは気付いてた。手配書で見たことがあったから。で、ここに来るまでの間に詳しく調べさせてもらったのよ。『悪魔の子』ニコ・ロビン。超人系悪魔の実、ハナハナの実の能力者。20年前に8歳で指名手配された。西の海・オハラの出身で手配額は7900万ベリー」

 目の前で立ち止まって『どう?』と小首を傾げると、早々に動揺から復活したらしいロビンはまた微笑んだ。

 

「正解よ。それで? あなたはそんな私にどんな話があるのかしら?」

「あなたにしか出来ない事について」

 私はニッコリと笑ってみせて、囁くように小さく続けた。

 

「ちょっと、私の『お願い』聞いてくれない?」

 そんなに難しいことじゃないからさ。

 

 ~ ~ ~ ~ ~

 

 レインベースの町をビビを探して走る。私にとってそれは難しいことじゃない。

 なにせビビの気配はちゃんとわかっているからね。

 走りながらさっきのことを思い出す。お膳立ては出来たし、取りあえず当面は何とかなるだろう。

 さて、問題のビビももうすぐだ

 

「はい、到着!!」

「グハッ!」

 ビビはバロックワークスの下っ端たちに囲まれてた。両手で孔雀スラッシャーをぶん回しながら抵抗してたけど。

 私はそんなビビの背後で刀を振り上げてたヤツに飛び蹴り食らわせながらの登場です。

 ちなみに、蹴ったヤツは建物に激突して動かなくなった。

 

「イオリさん!?」

 これにはビビにも予想外だったみたいで、私の登場に驚いてた。

 

「もしかして私、来なくても良かった?」

 周囲を見渡してみると、そこかしこに人相の悪い輩が倒れている。ビビがやったんだろう。

 やっぱり、ビビの戦闘能力は非戦闘員としては相当に高いようだ。

 

「ううん」

 私の問いに、ビビは首を横に振った。

 

「助かったわ。数が多くて……」

 確かに。かなりの数が倒れてるのに、まだ数十人はいそうだし……ん?

 

「イオリ? 手配書の?」

「だが髪の色が違うぞ?」

「それに女じゃなかったか?」

「いや、口調からすると女のような…」

「「胸ちっちゃ!」」

 

「あ゛!?」

「い、イオリさん!?」

 変装で小さくしてるんだから別にいいんだけどね?いいんだけど、女は胸って発想がね?

 あーそうさ!!あたしゃ普段はFだよ!わりィかよ!!元の世界じゃ大きい方でも、こっちの世界じゃ普通かちっちぇよ!!だから何だってのさ? 別に女は胸じゃねェわ!!

 (ちなみにナミとロビンはIカップ。私より3サイズ上です。)

 なんかムカっとするじゃないさ!!

 

「ところで、こいつら全員私が殺っちゃってもいい?」

 笑顔で一応確認を取ると、ビビはコクコクと頷いた。じゃあ殺っちゃるか!

 

「あんたら、覚悟しなさいよ?」

「「ヒィッ!」」

 

 ~ ~ ~ 残酷な光景繰り広げられております。暫くお待ちください ~ ~ ~

 

「よし、すっきりした!」

 腹が立った時はストレス発散に暴れるのもいいもんだ。多少は気分も晴れる。

 極めて失礼だったバロックワークスの連中は纏めて始末しといた。

 

「私がこいつら相手にどれだけ苦労してたと……」

 ビビが何やら溜息を吐いてるけど、私の力は(本気は見せた事ないけど)知ってるじゃないさ!

 

「こいつらなんてどうだっていいでしょ?」

 私が言うと、ビビは顔を上げた。

 

「ええ、そうね。ところでイオリさんは、どうしてここに?」

「ビビに万一のことがあったら大変だもの。気配を追って来たのよ。」

 本当は別の理由もあるんだけど、それは口にしない。

 

「ところで、ビビは服を着た鳥に心当たりある?」

 私は上空を指差して質問してみた。その指し示す先には、今さっき見付けた文字通りの『服を着た鳥』が飛んでいる。まだ多少距離はあるけど間違いない。

 その指摘でそちらに視線を向けたビビの表情がパッと明るくなった。

 

「ペル!」

 やっぱりあれがペルか。獣化した姿は見た事なかったから確信できなかった。

 ビビが呼びかけながら手を振っているからか、ペルはすぐさま私達に気付き、まっすぐここまで飛んで来た。

 

「ビビ様! ご無事でしたか!」

 降りてきてすぐ、真っ直ぐビビに駆け寄るペル。まぁ当然の反応か。

 王女が数年行方不明になってたんだから。でもここまで華麗にスルーされるのも寂しいかも?

 

「私は大丈夫よ! それよりペル、どうしてここに?」

「カルーが持ち帰ったビビ様の手紙を読み、国王様がクロコダイルと戦うことを決めたのです。それで私が先行して視察に来ました」

 話を聞く限り、アルバーナ宮殿では概ね原作通りの展開だったようだ。

 

「ちょっといいかしら?」

 いつまでも無視されてるのもアレだし、私は自分から話に割って入った。

 そもそも私が今ここにいる目的の大半は、このペルとの接触なんだから。

 

「君は……?」

 当然ながら、私とペルの間に面識は無い。故にペルは少し困惑していたようだが、それを察したらしいビビが説明してくれた。

 

「彼女はイオリさん。私をここまで連れて来てくれた人たちの1人よ」

 どうも紹介ありがとう。

 

「なるほど……件の、『心強い仲間』ですか?」

 確認のようなペルの問いかけにビビが頷くと、ペルは改めてこちらに向き直った。

 

「イオリ、ということは、君があの手紙の主か?」

 あの手紙、というのはおそらくアレだろう。ビビと一緒に私も出した手紙。

 

「まぁね。悪いけど、あまり時間が無いの。多少の無礼は見逃してもらえると助かるわ……。早速だけど、私の頼みは聞き入れてもらえた?」

 聞くとペルは布袋を取り出した。

 

「あの手紙だけでは判断が付きかねたが、ビビ様からも念を押されていたからな……君が要求してきたものはこの中に入っている」

 よし! やった!

 

 礼を言って布袋を受け取ると、中を確認する。

 私がアラバスタサイドに要求したものは、3つある。

 まずは子電伝虫1組。これに関しては、特に問題無く貸してもらえるだろうと予測してた。

 元々そう珍しいものでも無いし、貸したところで何も問題は無いはずだから。

 私はその子電伝虫を1つ掴むと、布で包んでエルの首に括りつけた。

 そう実は、エルずっと一緒にいたんですよ! 私の服のポケットの中にね!

 

「じゃあ、エル。チョッパーを探し出してそれを渡してきて頂戴。それと、伝言もお願いね!」

 託すべき伝言は、既に教えてある。そしてチョッパーに伝われば、サンジにも伝わるだろう。

 こういう時、チョッパー&エルって便利だよね。何しろ人間には言葉が解らないんだから、情報を聞き出そうとしたって無理。その上ミニ化させたエルはトラ猫にしか見えないから、事実関係を知らなければ誰も警戒しない。今回の場合では、町中のバロックワークスたちとかね。私がさっき大分ぶっ飛ばしたけど、多分まだたくさんいるだろう。

 

「がう!」

 エルは張り切ったように返事をするとピョンと腕の中から飛び降り、地面の匂いを嗅ぎながら走り去って行った。

 犬ほどではないとはいえ、猫(虎)の嗅覚だって人間とは比較にならないほど優れている。

 ナノハナのように別の匂いで充満してるわけでもなし、合流は難しくないだろう。

 チョッパーたちだってそう遠くには行ってないはずだしね。

 そしてもう1つの子電伝虫も取り出し、これは懐に入れておく。さて、子電伝虫に関してはこれでいい。

 2つめはコブラ王、というかアラバスタ城の電伝虫の番号である。連絡がとれると何かと便利だからね。これは最悪でもビビには教えてほしいと書いたんだけど、特別に教えてもらえたみたい。まぁ、騒動が終わったら変えればいいんだし、問題ないとは思ってた。

 

 それよりも重要なのは……。

 

「本当に貸してもらえるなんてね」

 袋の中のソレを見ながらしみじみと呟くと、聞くべき事を聞くためにペルを見た。

 

「貸してくれたのはありがたいけど、これ、ちゃんと使える?」

「ああ。既に準備は出来ている」

 至れり尽くせりだ。本当にありがたい。

 

「それはどうもありがとう……これでたぶん、クロコダイルに一泡吹かせられるわ。」

 ニヤリと笑うと、ビビの視線が何故か泳いでいた。ちょっとビビ?

 

「何でそんな顔をしてるのかな?」

「え!?」

 話を振られるとは思ってなかったんだろう、ビビは動揺していた。

 

「え~と……そ、それより、それは何?」

 あからさまに話を逸らしたわね? ……ま、いいけど。

 これ?これは……。

 

「まだ秘密。敵を欺くにはまず味方から、ってね。そう長くは掛からないと思うから、ちょっとだけ忘れててよ」

 言うと私は、ビビに見えないように自分の体で隠しながらソレを袋から取り出してポケットに移した。それでもビビは、どこか腑に落ちないようだった。

 

「イオリさんには考えがあるみたいだから、それはそれでいいけど……でも、どうしてペルがそれを持っていたの?」

 どうしてって、決まってるじゃない。

 

「私が手紙で指定しておいたのよ。もしも貸してもらえるようならば、今日ここにそれを持って来てほしいってね」

 肩を竦めながら答えると、ビビは考えながら口を開いた。

 

「それって、イオリさんには解ってたってこと? 私たちが今日この町に来ることになるって」

 解ってたといえば解ってたけど(原作知識で)。でもそれ以前に…

 

「解ってたと言うよりも、予測してたって言うべきかな? 手紙を頼むときに言ったでしょ? 私はルフィとは長い付き合いだって」

 言って思わず苦笑する。

 

「あの子の考えてることはそれなりに読める。反乱軍の説得が成功するにせよしないにせよ、ルフィならその次にはクロコダイルの所に行きたがるだろうって具合にね。反乱軍の本拠地がナノハナからカトレアに移ってたから少しばかり事情が違ってきたけど、結局はその通りになったでしょ? だからあの手紙を出した時、あの地点からこのレインベースに来るまでに掛かるだろう日数を逆算して手紙で頼んでおいたのよ。予測が外れる可能性だって勿論あったけど、その時はその時よ。」

 

「……だからユバを出た時、ルフィさんの言動にすぐに対応出来てたのね」

 ビビは何だか納得したような疲れたような、微妙な顔をしている。

 

「じゃあ話はこれぐらいにして、レインディナーズに行きましょうか!」

 いざ、クロコダイルと対峙しに!!

 

 でも何とか言い包めて、ペルにはここに残ってもらおうかな?

 

 

 

 

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