イムの娘(いむのこ)   作:槙 秀人

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敵船の場所が違いましたね。
原作を読んでて間違いに気づいたので、修正しました。
タマリスク沖 → アルバーナから真北、この島(サンディ島)の沖
※修正:2023.10.09






03-117話:外道と言われ…

「だから、出せって言っただろ!」

 ルフィが檻の中で喚いてる。

 

「どうすんだよ、アイツ逃げちまったじゃねェか!」

 いやいや、あんたがアイツをぶん殴るって言い続けてるからでしょうが!!

 

「逃がしたのよ!だいたいあんたは、ここで何をするつもりだったのよ?」

 溜息を吐きながら聞くと、ルフィは胸を張った。

 

「決まってんだろ! クロコダイルをぶっ飛ばす!」

 だ・か・ら!

 

「ふざけんな!バカだろお前!!」

「へぶっ!?」

 格子の隙間からビビの?金棒を使って殴らせてもらいました。

 

「ぶっ飛ばすって言うのは散々聞いてたからわかってるけど、時と場所を考えろ!ここをどこだと思ってんのよ!?」

「アラバスタ!」

 即答かい!!?しかも…

 

「範囲が広すぎるわ!!」

 ボコッともう1発、頭を殴っておいた。効いてない様子がなんとも腹立たしい。

 はぁ…疲れる…

 

「ここは地下、しかも湖の中でしょうが!こんな所で暴れようとすんな!水没したらどうすんのよカナヅチ!!」

 言うとルフィは暫く考え、やがてポンと手を打った。

 

「あー、そっか」

 そっか、じゃねェよ!!

 

「でも、それじゃお前ェ、ここが湖の中だって知ってたのか?」

 ……………はい?

 

「いやいや、見ればわかるでしょ?」

 周りはぐるっと水槽じゃん? 見事にアクアリウムが広がってるじゃ、あ~りませんか!

 

「いやー、気付かなかった!」

 しっしっしっし、と笑うルフィ。

 コイツ……置かれた状況を理解してなかったんじゃなくて、そもそも把握してなかったのか…さすがはルフィ…って、おい!?

 

「こらこら!何で全員目が泳いでんのよ!!?」

 スモーカーを除き、檻の中のゾロもウソップも、さっき出したナミまでも視線が泳いでいた

 

「うそでしょ?まさか……誰も気付いてなかった…なんて事はないわよね?」

 私が恐る恐る確認をとってみると、ウソップとナミが慌てたように首を振った。

 

「! い、いや、気付いたぞ!? あのワニが鍵飲み込んだのを見てな!」

「私だって! アンタとクロコダイルの会話を聞いて……」

 つまり、それまでは気付いてなかったと?

 ゾロを見ると、サッと視線を逸らされた……お前もか。お前もなのか。

 あっははー、そっかそっかー、気付いてなかったのかーーー……………って、おォい!?

 お前ら、それなりの時間を檻の中で過ごしたんだろ!? 捕まってから30分は経ってるのに… なのに周囲の確認もしてなかったって!? ちょっと窓の向こう見れば、すぐに解っただろ!?

 捕われてたんだぞ? 目の前に敵がいたんだぞ? 時間は刻々と過ぎてたんだぞ? 出られないなら出られないなりに、出来ることはあっただろ!? なのに、ただ檻の中にいただけ!?

 原作で、ルフィとウソップがお笑いに興じていたのは知っている。ナミがツッコんでいたのもだ。

 だけどそれはほんのひと場面の事でしょう?いったいその他の時間は何やっとったんじゃ?

 せめてナミぐらいは気付いてて欲しかった……。

 私がしっかりしないといけないの?いやいやダメでしょ?私は私の事情があるんだってばさ!

 早々に教育せねば……やることが山積みだよ!!

 

「そ、それより早く! 水が入ってきてるわよ!」

 ビビがフォローするかのように私を急かしてきた。その指差す先を見ると、確かに穴から水が入り込んできている。

 

「あー、うん。そうね……」

 しっかりするんだ私。気を取り直すんだ。この程度のことで脱力しきってる場合じゃない!

 

「早く、私たちもアルバーナに行かないと! ……あそこは湖の中なんかじゃないし、ルフィさんが暴れても大丈夫よ」

 その言葉に、ルフィが喜んでた。ってか、気合を入れまくってた。

 

「暴れるのはルフィだけじゃないだろうけどね。クロコダイル以外にも、エージェントたちを潰さなきゃならないわけだし。町も多少……いや、それなりに壊れちゃうと思うけど…」

 町が壊れるという言葉にビビは眉を潜めたけど、堪えたようだ。

 

「……反乱が起こるよりはずっとマシよ……あの伝電虫は確かに本物。あの時の会話が流れてたのなら、反乱軍もきっと止まってくれるはず……」

 後半は自分に言い聞かせるようにしてたけど…まぁ今は、言わない方が良いんだろうな。

 あの放送だけじゃ反乱軍が止まる事は無い!なんて……。

 

「グルルルルルルルルルル……」

 

 一番の懸念は、放送が始まる前にユートピア計画が発動してしまっていた場合だ。

 おそらく計画を指示した際に時刻合わせを行っていると思うけど、それは確実な事じゃない。

 仮に発動してしまっていたならば、反乱軍は既にアルバーナに向かってしまっているだろう。

 まぁ、クロコダイルの時計でも7時をまわる前から放送は開始していたし、話し終えた頃にちょうど7時をまわったわけだから、それは大丈夫だと思うけど…

 

「グルルルルルルルルルル!」

 

 ビビは放送が流れたことで、反乱軍が止まってくれると思ってる。多分その効果で、今の所ビビは落ち着いているんだろう。

 けど、どちらかというと混乱の方が大きいと思う。場合によっては反乱軍の中で内部分裂が起きて、国王軍と、ではなくて別の内乱が起こる可能性だってある。まぁ、その辺は、バロックワークスの社員どもがなんとか誘導するだろうから心配してないけどね。だからこそ、泳がせてたんだし…

 

 止まる事は無い!とは言ったけど、数はだいぶ減ると思う。最近寝返ったという30万はほとんどが離脱ないし、戻るんじゃないかな?

 もともと居た40万も半数以上が離脱すると思う。反乱軍本隊でも20万確保するのも難しいんじゃないか? 全部集まったとしても国王軍よりは少なくなっているだろう事は疑いない。

 それでも国王軍とぶつかれば、かなりの戦闘にはなってしまうだろう。

 まぁ、ゼロには出来ないだろうと思ってたから、本隊以外は止めるつもりだけどね。

 

「グルルルルルルルルルルル!!」

 

 ルフィはクロコダイルをぶっ飛ばすって言い続けてた。それは、長い目で見て反乱を鎮める方法だ。

 だから私は、現在進行中の反乱をできるだけ小さくするための策を考えた。

 詳細については、やるべきことと一緒に話せばいいかな?

 まぁ、言わずに(というか言えない)やろうとしている事もあるんだけどね?

 

「グルルルルルルルルルルル!!」

「さっきからうっさいわね!!」

 

「グルゥァ!?」

 威嚇してきてたバナナワニが流石にウザかったから、思いっきり蹴り入れときました。

 バナナワニ飛んでったよ! 何か痙攣してるけど……ま、どうでもいっか。

 え? いつバナナワニがこの部屋に入って来たかって? 私が考え事してる間にだよ。

 水が入って来てからしばらく経って、ビビと私が入ってきた扉とは反対方向にあった通路の床に大きな穴が開いて、そこから入って来た。

 クロコダイルがいなくなってある程度時間が経ってから穴が開くようになってたんだろう。無駄なところに金使ってんなぁ…

 

「オイ! どんどん入って来てんぞ!?」

 私が蹴っ飛ばしたバナナワニに続き、ぞろぞろと大量のバナナワニが部屋の中に入り込んで来るのを見て、ウソップが絶叫していた。

 しかしすごい数だわね。よくぞこれだけバナナワニ飼ってたもんだわ、クロコダイル。

 それともこれは、売り物か? まぁそんな事はどうでもいいか!

 

「ルフィ」

 檻の中のルフィに声を掛けた。

 

「まだ、腹立ってる?」

「当たり前だ!」

「じゃあ、その怒り。取りあえずあいつらで発散しといてよ。その間に他のやつらも出しとくから」

 言ってルフィをミニ化し、檻の中から出した。

 

「よっしゃァ~~~~~~~!!」

 檻から出したルフィをすぐさま元のサイズに戻すと、ルフィはあっと言う間にバナナワニの群れへと突っ込んで行った。

 何にせよ、これでMr3も救助できるだろう。ひとまずバナナワニの胃から出しとけば、後は自力でどうにかできるっしょ。

 Mr3にはここで死んでもらわない方がいい。アイツがいれば、後々、その能力が役に立つからね。

 対マゼラン然り、合鍵作成しかり。海楼石の手錠からの解放は私の能力でも可能だけど、1人より2人。いないよりはいた方がいいものね。

 

 まァ、それはひとまず置いといて。

 私は続けてゾロ、ウソップも解放し(ゾロもルフィ同様、解放直後にバナナワニの群れに突入してた。何気に鬱憤溜まってたんだろうか?)最後に残ったスモーカーと向き合った。

 

「さて、スモーカー…、どうする? このまま沈む? それとも、海賊の助けを借りて外に出る?」

 海賊の助けを借りて、の部分を強調してみた。

 

「グッ!」

 スモーカーは、そりゃもう忌々しそうな顔で睨んできた。さっきのクロコダイルには及ばないけど。

 現状では他の選択肢なんて無いだろうけどね。

 あ、そうだった!

 

「一つお礼を言っとくわ! あれから私、『あかがみ』って呼ばれてないのよ。まだ『くれない』とは呼ばれたことはないけどね。あなたでしょ?」

「…別に……」

 そっぽを向いてるけどそうらしい。なんとなく照れてる感じは気のせいか?

 

「オイ、本当にソイツも出す気か!?」

 何だか腕が引っ張られると思ったら、さっき出したウソップに引き寄せられて耳打ちされた。

 

「出した途端、おれ達のことも捕まえようとするんじゃねェか?」

 あぁ、その気持ちは解るかも。でもねェ…。

 

「ウソップ。私たちがモーガニアじゃなくてピースメインだって事は理解してるよね?」

「!?…お…おう!」

 

「それなのに一緒に捕まってた海兵を見殺しにする気?確かに海兵は海賊の敵だから気持ちはわかるけど、海軍との戦闘中ならともかく、そうでない時に命を奪うのは間違ってる。少なくとも私はそう思うんだけど、『勇敢なる海の戦士』はどう思う?」

 こういう事はきちんとしておかないとね?今後同様の事があった時の行動にも影響してくるから。

 

「おぉ…そうか。 そうだな!そういうことならおめェのいう通りだ。あぁ、助けるべきだ。」

 私の問いかけにちょっと顔を引きつらせながらウソップが答える。

 ウソップ、お前… そのうち損な役回りを押し付けられそうだぞ。押し付けるのはたぶん私のような気がするが、 まぁそれはいいか…

 

 ウソップが納得してくれたことで、私は再びスモーカーと向き合う。

 

「今までの流れで気付いていると思うけど、私も能力者なのよ。ミニミニの実を食べた、縮小人間。今回はそれで対象を小さくして、檻の隙間から出したわけだけど……変なことは考えないでよ? あんたには、檻から出た後は勿論、このカジノから脱出するまで、ずっとミニサイズでいてもらう。この能力は私が解除しない限り元には戻らない。嫌でしょ? この先ずっと、1/10サイズで人生を終えるなんてね?」

 そういえば、サボの親父(おやじ)ってどうなってんだろ? どうでもいっか!!

 

「脅迫!? 外道なヤツめ!」

 ……うん、ウソップ。後で覚えてろ。

 これは脅迫ではない! 交渉だ! そして誰が外道だ、誰が!

 

「外道はクロコダイルでしょうが!!」

 私がジロッと睨むと、ウソップがブンブンと首を横に振り。傍で聞いてたナミが呆れたような溜息を吐いた。

 

「外道はアンタよ……私もさっきまではクロコダイルだと思ってたけど。実際に目の当たりにしてみると、よく解るわ」

 何ですって!? 何でナミまで!!?

 

「じゃ、じゃあクロコダイルは何になるのよ?」

「アレは下劣」

 おぉっ、スッパリ言い切った!

 『下劣:下品で卑しいこと。道義的に下等であること。』 

 多分2つ目の意味でしょうね。言っちゃ何だけど、クロコダイルって、あんまり下品じゃ無かったし。

 って、それよりも。そろそろ脱出を考えないと。

 

「じゃ、まずはその十手。渡してくれない?」

 私はスモーカーに対して右手を差し出した。補充したんだね? まぁ、武器なんだから壊れることもあるし、取られる事だってあるだろうからね。

 

「………………クソッ!」

 スモーカーはスモーカーで、今の自分に他の選択肢が無いことぐらいは理解してたらしい。

 もの凄く葛藤していたけれど、最終的には舌打ちと共にソレを檻の隙間から差し出して渡してくれた。

 

 ん?

 

「脅迫して大人しくさせた上に、装備まで取り上げンのか。しかもアレ、絶対ェ返す気ねェぞ」

「まさに外道ね」

「2人とも……」

 ヒソヒソと酷いことを言い出したウソップとナミを、ビビが少しだけ窘めてた。ビビ…ありがとう!!

 

 私はスモーカーを小さくして持って来ておいた瓶の中に入れた。コルクでしっかり密閉できるタイプのヤツである。煙になっても出られないようにね。

 え? 酸素? 空気穴は開いてないよ、その穴から出られても困る。完全に密閉されてるけど、脱出までの間ぐらいなら大丈夫でしょ?どうせ碌に動けないだろうし。

 それに水の中を進む事になるんだから。ポケットに入れておいたら逆に窒息しかねない。

 私がその注意を懇切丁寧にスモーカーに言い聞かせてやってたら、何故かまたもや周囲の私を見る目が外道を見る目になっていた。しかも、スモーカーももの凄い怒りの形相だった。

 何なのよ!私はこうして敵を助けてやろうとする程度には優しいわよ?

 

 ルフィとゾロによるバナナワニ無双は、私たちが檻の前でゴチャゴチャ話してる間に終わってた。

 なお、途中で出てきたMr3も既にぶっ飛ばしたらしい。ご愁傷様。

 

「玉の中から出て来たんだ! しかもその玉、鍵が付いてたぞ!」

 ちょっとだけ興奮してるらしいルフィが、クロコダイルの捨てた鍵を掲げている。

 

「……もう檻からは出たんだから、いいじゃない? どうせ偽物だろうし」

「偽物!?」

 私が答えると、ビビがバッと振り向いた。あー、ビビ、あの鍵に思いっきり食い付いてたもんね。

 

「あそこで本物の鍵を出す意味なんて無いじゃない?」

 あの鍵を必死に探しあて、それが偽物だと分かり、私たちが絶望するとこまでがセットじゃんよ!

 

 念のためなのか、ビビはルフィから鍵を受け取って、檻を開けられないか試していた。

 そして、鍵が鍵穴に入らないのを確認し、ガックリと膝を付く。

 

「私は……何のために、あんなに焦って……」

 ちょっと憔悴してるようにも見える。

 

「落ち込むな、ビビ! あれはしょうがねェ!」

 そんなビビを慰めるように、ウソップが拳を握って力説していた。

 次いで、ナミが労わるようにビビを立ち上がらせた。

 

「そうよ。むしろ、ここまでクロコダイルの行動を先読み出来るあの子が可笑しいのよ」

 …アレ?今、私…可笑しな子認定された?

 

「あの子の外道っぷりは世界一なのよ、きっと! クロコダイルも上回ってる……だから、ああして掌の上で転がせるんだわ。私たちはそんなこと、むしろ出来なくていいのよ!」

 ちょっとちょっと? 何言ってくれちゃってんの? まったく言わせておけば…

 

「……そうね。」

 こういう時は、肯定から入りましょうかね。

 案の定、言ったそばからウソップとナミが驚いてる。お前らが言ったことでしょうが?

 

「私はルフィが真っ直ぐな分、誰かがその真逆なものを担わなきゃならないって思っててね。人に任せるのはかなり気が引けるから私が全て引き受けるつもりで居るの。でも、そうするからには相手を上回らなきゃ意味が無い。相手を上回れなかったら無駄に仲間を危険にさらす羽目になっちゃうからね。だから私は相手を上回れるように思考を巡らすの。そのためならなら悪魔に魂を売ったってかまわないと思ってるわ。もっとも…私が考えているのは戦略や戦術であって、古今東西の文献を読んで学んだ事よ。確かに時々思いつきで色々やらかしたりはしてるけど、そんなに突拍子もない考えではないはずよ?」

 たぶん……ね。

 

「……お前ら、それぐらいにしとけ」

 私たちのやりとりを静観してたゾロが、待ったを掛けてきた。

 

「そろそろ、マジでヤバいらしい」

 その視線の先には、どんどんと部屋の中に入ってくる水。

 しかも、ルフィとゾロが暴れて部屋が脆くなったせいか、最初に入り始めた時よりもずっと勢いが激しくなっている感じ。ゾロの言う通り、マジでやばそうだ。

 

「じゃあ、行きますか。ルフィ! ちょっとこっち来て!」

 私はルフィを手招きして呼び寄せ、小さくした。そして、続けて私自身も小さくする。

 ルフィはカナヅチだから、等身大のままじゃあ周囲への負担が結構デカい。私はというと泳げないけど、月歩で水中移動で脱出は可能。けど黙っておこうかな?面倒くさいし…。

 

 そんなわけで、私たちはその後、特に問題無くレインディナーズから脱出したのだった。

 泳いでる最中にウソップの脳天を岩が直撃してたけど、大した問題じゃないだろう。

 

 レインディナーズの外に出てみると、私が言っていた通りかなりの数の民衆が押し寄せていた。

 町中の人々が半ばパニックになりかけてるのかもしれない。

 『クロコダイルさんが!』とか、『どうなってんだ!?』とか、「国王じゃなかったのか!」とか、そんな声が聞こえるから、ちゃんと放送を聞いてくれていたんだろう。

 

 その一方で私は、頭を打ったウソップと何故か水を飲んだらしいルフィを起こしにかかる。いくらカナヅチでも、息を止めることぐらいは出来るはずなのに…

 

「反乱は起こらねェかもしれねェが……このままじゃ、どっちにしろ暴動に発展しそうな勢いだな」

 特に騒がしい方向……カジノの正面付近だろう辺りに視線を向け、ゾロが顔を顰めた。

 確かに、理性を失った群衆っていうのは怖いからねぇ。

 

「当のクロコダイルがもういないんだから、暫く時間は稼げるでしょ? クロコダイルは砂になって去って行ったから、あの集団も見付けてはいないだろうし」

 むしろ、その為にアイツは砂になって行ったんだろうしね。そういう意味では、この国で砂人間は便利だ。例えばエースなら火だからバレバレだろうし、スモーカーなら煙だから目立つ。ここは砂漠の国だから、砂が多少舞ってても誰も気に止めやしない。

 

「どの道、後は短期決戦よ。ルフィがクロコダイルをぶっ飛ばせば、それで全ての片が付く。混乱も収まるでしょう」

 私がそれだけ言うと、ゾロは頷いた。

 当然、『負けたならどうなるか』という道筋もあるけど、それは互いに口にしない。今の私たちが第1に信じるべきは船長の勝利だからね。

 

「でも、あれだけ騒ぎになってて、よく誰もあそこに乗り込んで来なかったわね」

 ビビも喧騒の方角に目を向け、ホッとしたように呟いた。

 あぁ、それは。

 

「だって、そのように指示を出しといたからね」

 種明かしをすると、どういう意味だ、と視線で問いかけられた。

 

「ペルって人からあの伝電虫を受け取った時、私、エルに伝言を頼んでおいたのよ。放送が流れ始めたら、誰もカジノに入って来ないように通せんぼしといてね、ってチョッパーに伝えといて、的なこと」

 

 せっかく店をカラにしてもらったのに、群衆に入られてしまったら意味がない。だから手を打っておいたってわけさ。

 あんな内容の会話を聞けば、国民……特に、このレインベースの住民は、真偽を確かめようとカジノに押し寄せるのはわかりきっていた。

 でも、実際に入って来られたら危険だし、こっちとしても邪魔だ。

 だから、入れないようにしといて欲しいと頼んだ。しかもそれは、地理的には難しくない。むしろ簡単だ。

 レインディナーズは湖の真ん中にあるカジノである。つまり、あの正面の橋を守っておけば中には入れない。尤も、それだと既にカジノにいる人間までは防げない。でも……。

 

「私たちがカジノに入った時には、何故かもう建物内はもぬけの殻になってたしね。運が良かったわね」

 ね? と首を小首を傾げると、ビビにも、隣にいるゾロにももの凄く微妙な顔をされた。

 

「まさか……カジノに誰もいなかったのって……クロコダイルが人払いをしたんじゃなくて、イオリさんが何かしたの?」

 

 え。

 

「実力行使ならともかく、私にカジノの人間を追い出すことなんて出来るわけないじゃん?」

 なんの権限もないんだし…それに、店内で騒動を起こせばクロコダイルの耳にも入るだろうし。

 

「アンタなら、何か出来そうなんだけど?」

 私の至極真っ当な反論は、ナミの理不尽は言い掛かりによって跳ね付けられた。しかも、そのナミの発言にゾロもビビまでうんうんと頷いてるし……。

 

「あんたたち、私を何だと思ってるの?」

 本当に疑問に感じる。

 

「外道だろ」

「外道ね」

「………………」

 順に、ゾロ・ナミ・ビビだ……って、ビビ!? 遂にフォローもしてくれないの!?

 私、泣くわよ?うざいわよ? それともイジケてやろうか?そこに蹲ってさァ!!

 いや、今はそれどころじゃないんだった!はやく先に進まないと!!

 

「……とにかく。私は、本当にカジノの客にも店員にも何もしてないわよ。そもそも出来るわけないでしょ!!」

 

 そう、私は本当にカジノには何もしてない。

 私は……ね。

 

 その後、ルフィとウソップを復活させてる間に、私は子電伝虫を使った。

 レインディナーズに入る前にエルに託した、あの子電伝虫だ。

 通話に出たのはサンジだった。エルは上手いことチョッパーに接触出来たらしい。

 そして、サンジも一緒になって橋の前にいたんだとか。

 ありがとう、サンジ。そしてお前の活躍を奪ってゴメン。

 その通話で2人(?)……それと、合流していたらしいペルもこちらに呼び寄せた。

 

 彼らが来る間に、瓶詰めスモーカーも解放しておく。

 

「はい、これ」

 十手を返したら、ものすごく驚いた顔をされた。どういう風の吹き回しだ的な?

 

「…いらないならもらっておくけど?敵船を捕まえてもらうんだから武器くらい返すわよ。それに、2本もいらないって。」

 ローグタウンでもらっちゃったしね。ちなみに今も小さくしてベルトに差してます。

 

「……おれが…いつ、…そんな事を言った?」

 えっ、だって…これから人口降雨船をさがすんじゃなかったっけ? ちがった? まあいいや。

 

「アルバーナから真北、この島(サンディ島)の沖…3kmくらいの所に、14、5人かな?気配があるから、たぶんそれだと思うわよ?」

「……チッ…余計な事を……テメェ、覇気使いか。」

 さすが、その辺の知識はあるよね。知ってってくれて良かったわ。説明が省けて…

 

「ただ、船は一隻じゃないかもしれないわよ?さすがに気配だけじゃ船の数や大きさまではわからないからね。任せて大丈夫?」

「てめェなんぞに心配される筋合いはねェよ!。武器を積んでるってェ商船も含めて拿捕してやるさ!無論、テメェらにも渡さねェ。」

 あっそ…それは残念。原作で見たのは大型ガレオン船だったから大量の武器が積んであるはず。結構なお金になっただろうに。

 

「うん。じゃあ、よろしくね!」

 そんなことは考えてませんよ、という感じでスモーカーには答えておく。

 

 でも、よかった。今はクロコダイルを優先してくれるらしい。そりゃそうよね?エースとは違うんだし…

 ルーキーの小規模海賊団よりも、国家乗っ取りを企む七武海の方がよっぽど大事だもんね。

 加えて多分、檻の中でのルフィたちの様子に、何か思う事でもあったのかもしれない。勿論、絆された、とまでは行かないだろうけど…。

 ……クザンさんを介して話をすればもしかして…カノンが鍛えたりする事も可能かしら?

 どのみち、しばらくは(階級上げなきゃならんから)無理か……

 

「今回だけだぜ……おれがテメェらを見逃すのはな……」

 そのスモーカーの口調からは、少しだけ棘が取れていた。

 

「おれ、お前嫌いじゃねーな しししし!!」

「さっさと行けェっ!!」

 ルフィが余計な事を言ってスモーカーが怒ってたけど、問題ないよね。

 

 さて、次はいよいよアルバーナ

 アラバスタ、最後の決戦だ!!

 

 

 

 

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