イムの娘(いむのこ)   作:槙 秀人

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そう言えば、ヒナってヒナ嬢って呼ばれてたんだっけ…。
ユナと一字違いじゃん。

だからなに? って事でもないけどさ!






03-125話:手紙

 クロコダイル捕縛の次の日 ―

 

 アラバスタ東の港タマリスク

 

 

「スモーカー大佐 ヒナ嬢。たしぎ曹長がお着きに!!」

 

「ご苦労様です」

 

「久しぶりね たしぎ」

「ヒナさん」

 驚いた顔を見せるたしぎ。ヒナはいつもの彼女らしからぬ暗い表情が気になった。

 

「…こんにちは… …私っ…少し疲れたので、休ませて貰います」

「?」

 

「……!! スモーカーさん 只今戻りました。」

「ああ、ご苦労さん…。”麦わら”の件は聞いたぜ」

 

「……ごめんなさい。…海賊に手を貸し、捕らえられたかも知れない海賊を見逃して来ました。海兵として、恥ずべきことだと思っています。」

 

「なんで謝る。…それがお前の正義だったんじゃねェのか?」

「違います!」

「!」

 

「曹長……!!?」

 

「『そうする事しか』できなかっただけです」

 たしぎの頭の中で、海賊達の言葉が思い出される…

 

 

 ー 負け犬は正義を語れねェ…!!! ここはそういう海だぜ…!!! ー

 

 ー どこいったワニ 教えてくれ!!! ー

 

 

「敵の居場所を知っていても…それを教える事しかできなかった…。砲撃時刻を知っていても『彼ら』を援護する事しかできなかった…」

「……」

 

「私には…選べる正義がありませんでした」

 

「…つい最近まで同等だと思ってた奴らが、悪名上げてどんどん駆け上がっていく。『この海』じゃあ駆け上がらなきゃ死ぬしかねェ事を奴らは知ってるんだ。進むか死ぬか… この海へ来る事を誰が決めたんだ?」

 

 スモーカーがたしぎに向かって言葉を投げる。

 たしぎはタラップを上がり、スモーカーの横を抜ける時にイオリから受け取った手紙を渡した。その封は開いていない。

 

「…それ、『紅髪(くれない)』からです。 すいません私…少し休んできます。」

「……」

 

 スモーカーは顔を顰めながらも、黙って手紙を受け取った。

 

「バカが……」

 通り過ぎる際に見えた涙に、スモーカーが激を飛ばす。

 

「泣くほど悔しかったら…、もっと強くなってみせろ!!!!」

 

「ウ…」

 ボロボロと涙がこぼれ落ちる。たしぎは刀を強く握り締めていた。

 

「曹長…」

 海兵たちが心配そうにたしぎを見つめる。そしてたしぎが泣きながら叫んだ。

 

「なりばすよっ!!!!」

 ”バタン!!”とドアを閉めて、たしぎは船内へと消えた。

 

「………」

 

 たしぎから受け取った手紙を開きながら、スモーカーが続ける。

 

「てめェらにもあれくらいの根性がほしいもんだな… ホラ、さっさと身柄を船に運び込め!」

「はっ!」

 

 手紙が気になったのか、ヒナはスモーカーの元へと近づく。

 

「!!…なんだ、これはっ!!?」

 

「どうしたのスモーカー君?」

 

 険しい表情のスモーカーを見て、ヒナは怪訝な顔をする。そこへ………

 

「スモーカー大佐!!本部より通信です!!」

「ん?」

 

 

 

『 ― こちら海軍本部 スモーカー大佐でありますか』

「……おれだが」

 

『今回のクロコダイル討伐に関しまして あなたとたしぎ曹長に政府上層部より ”勲章”が贈与される事になりました。』

「……」

 

『さらにお二人とも一階級ずつの昇格が決定しましたので、つきましては、お二人に勲章の授与式に出向いて…』

 

「……フザけるな…!!!」

 

 受話器を口から遠ざけてスモーカーは小さく呟いた。恐らく電話の向こうには聞こえていないだろう…

 

 その様子にヒナは驚いた。こんな申し出をされて黙っているスモーカーを彼女は知らない。

 

「……勲章なら届けてくれりゃいい。そんな暇はねェと伝えてくれ!!」

 

 ガチャっ!!!

 

「クソッ食らえダッ!!!」

 

 受話器を置いた途端、スモーカーは毒づいた。

 

「クロコダイルをぶっ倒したのはおれ達じゃねェ。報告は……こいつの言うとおり…捻じ曲げられたって事だな!…くそっ!!」

 

 スモーカーは手紙を握り締める。その手がワナワナと震えていた。

 

「…驚いたわ、スモーカー君。ヒナ驚愕! あなたがすんなり上の言うことを聞くなんてね。」

 ヒナがタラップを上がりながらスモーカーに声をかける。

 

「そうよ。政府は今回の事実をもみ消すつもりよ。政府側の誰もが出し抜かれていたアラバスタ崩壊の危機を”海賊”に救われたなんて世間に知らせることなんてできないもの…。」

 

「おれ達がクロコダイルを仕留めた!? それができなくてウチの部下は泣いてんだぜ?」

「…よく我慢したわ。」

 

「これを読んでみろッ!!」

 ギリッっと歯を食いしばり、悔しそうにスモーカーは読んでいた手紙をヒナに渡す。

 さっと目を通したヒナがさらに驚愕の表情を浮かべた。

 

「…こ、これって…。なんでこんな事を!? まるで…全部わかってたみたいに……!!? なんなのこの、『紅髪(くれない)』って子は?」

 

 

 ”スモーカー様

  たしぎ様

 

  提案があるの。

  私たちの事を、まだ追ってくる気があるのなら……だけどね?

 

  政府は今回の件をあなたたち、2人の手柄にすると思う。嫌だろうけど受けたらいいと思うわよ?

 

  海賊が国を救ったなんて話が普通に世間に流れるなんて事は思っていない。そもそもそんなモノに関わるつもりなんて、私たちにはないからね。

  私たちは、友達(なかま)を助けただけで、国が救われたのはそのついでみたいなものなんだから…

 

  でも、そこに『手柄』があるのなら、無駄にしたらもったいないじゃない?

  だから手柄を受け取って、駆け上がっちゃってよ。

  利用できるものは利用するに限る。海賊の理論かもしれないけどね…

 

  この先もまだ、私たちを追うつもりなら、今の階級じゃムリだと思う。

  今だってかなりムリしてるんでしょ?

  それで変なところに飛ばされたりでもしたら、それこそつまらないわ。

 

  それにルフィの素性…、知ってるんでしょ?

 

  私はあの子と一緒に行くと決めてから、いろいろ調べたこともあって、海軍の階級とか管轄とかって事も知っている。

  この先、それこそ新世界に行こうと思ったら、最低でも『少将』以上にならないとね?

 

  もう、私たちに関わりたくないと言うなら、どうでもいいけど、あなたはなんとなく執着心が強そうだから、こんな提案をしてみたの。

 

  たぶん、手紙を読む頃には本部から連絡が入るだろうから、うまくやりなさい。

 

  ちなみに…

  ルフィはどうか知らないけど…、だから私は”海賊”になる事を選んだ。

  海軍や賞金稼ぎは好き勝手に航海できないと知ったから。

 

  届出を出すだけなら良いけど、許可が必要なんて面倒だもの。

  要するに自由な冒険者になりたかったのよ。

 

  だから、私たちは”ピースメイン”なの。他の海賊と一緒にされるのは勘弁してほしい。

  まぁ海軍からしたら ”海賊”=悪者 なんだろうけど?

  そこんとこは覚えておいてくれるとうれしいわ。

 

  最後に

   ルフィも言ってたけど私もあなたの事、嫌いじゃないわよ

 

                     By イオリ ”

 

 

「全部お見通しみてェに……、ご丁寧に手紙なんぞよこしやがって… クソったれがっ!!」

 

「………」

 ヒナは思った。

 紅髪(くれない)の真意が読めない…。単に手柄を譲る為とも思えるが…。

 あえて『追ってくる気があるのなら』と挑発するあたり、スモーカーの性格を熟知しているやり方に思える。

 

 しかし、相手は海賊。スモーカーが追ってくる事で彼らに何の得があるというのだろう?

 扱いやすい…とでもいうのだろうか?

 …このスモーカーが?

 

「…何にしても…。捕まえて聞けば済むことだわ……」

 

 こうしてヒナは、『麦わら一味捕縛』の為に動き出す事となる。

 

 

 

 

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