イムの娘(いむのこ)   作:槙 秀人

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03-129話:ビビの冒険

 少し時間をさかのぼる。

 時刻は7時半。あと30分で出発しなければならないという時間帯…

 ビビは2人を部屋に招き入れた。

 

「入るぞビビ…」

「ええ、どうぞ」

 2人が部屋に入ると、正装に身を包んだビビが居た。

 

「話とは………おお!!」

「これは……往年の王妃様と見紛いましたぞ、…ビビ様」

「うむ、全くだ……」

 

「座って、パパ…いえ、お父様…イガラム… 大切な話があるの…」

「「!!」」

 

 そう言って、ビビは少し前の事を話し出す。 それはそう… 2年前の立志式の少し前の事だ。

 

 

 ― 首謀者がわからない? ―

 

「ええ。いわゆる地下組織ですよ…社長の事に関しては社員ですら何も知らない…」

「……それが… この国の敵…!!!」

 

「社員でも知らない事です。外部から情報を探る事などもはや不可能。 …むしろ、これ以上の詮索は国を危ぶむばかり…」

「 ― だけど、しっぽはつかんだのよね…?」

 

「ええ…… え?」

 《しまった…喋りすぎたか?》

 

 

「イガラム…私の考えてる事……わかる?」

「い…!!! いや!!わかりません、わかりませんっ さァ仕事に戻らねば」

 

「イガラムっ!!!」

「ダメです、ダメっ!!!これは遊びじゃないんですよっ!?」

「だったら尚さらよ!!!」

 

 ― イガラム!!! 私、じっとしていられないの!!! ―

 

 

「昨日、遅くまで悩んだの。だけどまだ…結論が出なくて…」

「「…」」

 

「だから私、これから『東の港』まで行きたいの!ギリギリまで考えて……それでその…」

「行きなさい。お前がどんな結論を出すのか…、私はここから見守ろう。」

 あっさりとした父の言葉に、逆にビビは驚いた。

 

「コブラ様!?」

「イガラム。彼らであれば、ビビを安心して任せられるだろう?」

「し、しかし…一国の王女が海賊になるなど…」

「いいのだ! ただし、楽しみにしている国民達にはきちんと言葉を届けなさい。昨日使った国内放送用の電伝虫を持って行くように!」

「うん。わかった! ありがとうパパ…いえ、お父様!!」

「… 急ぎなさい。時間が無いのだろう?」

 

 

 ~ ~ ~ ~ ~

 

 

 ― ならばビビ様! 一つだけ…質問をさせてください。死なない覚悟は…おありですか? ―

 

 始まりは…あの日……

 

『少しだけ…冒険をしました。』

 

 

「おい!!王女様の話が始まったぞ!!!」

「待ってたよ」

「本当にご無事だったのねぇ、よかったわ!」

「アルバーナの式典が始まった!!」

「予定より2時間遅れだ、何があったんだ?」

 

 

 

「さて…騒ぎにならねばよいが…」

 始まったビビの演説の声を聴き、コブラ王は一人…宮殿の窓から東の港の方に視線を向ける。

 

 

「コーザ!!こらコーザ!! 来い、始まったぞ!!ビビちゃんのスピーチが!!」

「拡声器の音量は最大なんだ。町中に聞こえてるよ」

 

『 ― それは、暗い海を渡る”絶望”を探す旅でした… 国を離れて見る海はとても大きく… そこにあるのは信じ難く力強い島々。見た事もない生物…夢とたがわぬ風景。波の奏でる音楽は、時に静かに小さな悩みを包み込む様に優しく流れ、時に激しく弱い気持ちを引き裂く様に笑います。……暗い暗い嵐の中で一隻の小さな船に会いました。…船は私の背中を押してこう言います。』

 

 ― お前にはあの光が見えないのか? ―

 

『闇にあって、決して進路を失わないその不思議な船は、踊る様に大きな波を越えて行きます。 海に逆らわず、しかし船首はまっすぐに…たとえ逆風だろうとも……そして指を差します。』

 

 ― みろ、光があった ―

 

『…歴史はやがて、これを幻と呼ぶけれど、私にはそれだけが真実……』

 

 

「…これ…、何の話だ?」

「人知れず戦った、『王女様の護衛』たちの話さ。」

 

 

『そして ― !』

 

 

 ~ 東の港 タマリスク ~

 

「聞こえたろ今のスピーチ。間違いなくビビの声だ。」

「アルバーナの式典の放送だぞ。もう来ねェと決めたのさ…!!」

「ビビ…」

「ビビの声に似てただけだ…!!」

 言葉はゾロ、サンジ、チョッパー、ルフィの順だ。

 

 あの~…みなさん?

 私がレインディナーズで使った道具の事はお忘れで?

 

「行こう。12時を回った…」

 

「来てねェわけねェだろ!!! 下りて探そう!!いるから!!!」

 諦めの悪いルフィが騒ぐ。

 

「おい、まずい!!海軍がまた追って来た!!」

「一体何隻いるんだよ」

 ウソップが叫び、ゾロが愚痴る声が響く。

 

「船出すぞ!!! 面舵!!!」

 ルフィも私も何も言わないからだろう。ゾロがみんなに指示を出す。

 

 それでもまだ納得していないルフィにサンジが言う。

 

「諦めろルフィ… おれ達の時とはワケが違うんだ」

「………」

 

 ルフィが膨れッ面になっている。ホントにコイツは!!

 こういうところが子供よね?

 

 そもそも私に聞けばよくね?覇気の事キレイさっぱり忘れてるでしょ?

 

「ビビは来てるわよ。」

「「「!!?」」」

 私は少し呆れながらも呟いた。

 その言葉を聞いてみんなが揃って振り返る。

 

「イオリ! ビビ何処だ!!」

「ほら、あそこ…」

 私が岬を指差すと、ビビの声が聞こえた。

 

「みんなァ!!!」

 

「!!!!」

「ビビ!!!?」

「カルー!!!」

 

「クエェ!!!」

 

「ホラ来たァ!!!」

「ビビ」

「船を戻そう、急げ!!!」

 ルフィがナミがウソップが、喜んだ顔で叫んでる。

 

「ビビちゃん」

「海軍もそこまで来てるぞ!!!」

 サンジもチョッパーまでもが喜んでいる。まったく…

 

「待ちなさいよ!」

 ココに来た事が、(イコール)海賊になるって事じゃないでしょうが!

 

「……お別れを!!! 言いに来たの!!!」

 

「!?…今、何て…!?」

 聞こえなかったのか。それとも聞きたくない言葉だったのか…

 どちらにしてもはっきりとは聞こえなかったのだろう。

 気づいたビビがカルーに向き直り、あの電伝虫を手に取ったようだ。

 

 

『私…一緒には行けません!!!今まで本当にありがとう!!!』

 

 放送設備を使ったおかげでビビの声はよく聞こえる。

 けれどすぐそこに海軍船が居るので、恐らく彼らにも聞こえた事だろう。

 ビビの姿も視認出来る。

 ならば、ビビの存在が海軍にバレたとみて間違いない。

 

 

『冒険は…(一緒に)まだまだしたいけど、私はやっぱりこの国を愛しているから!!! だから…行けません!!!』

 

「……そうか!」

「…」

 

 クロコダイルが居なければ、ビビはこの国を出たりしなかっただろう。

 ビビはルフィと会う事もなく、あんな危険な経験や未知なる冒険などをする事もなく、この国で平和に暮らしていたに違いない。

 

 また、クロコダイルがこの国を守っていた事も事実である。

 実際に守っていただろうし、その名声によって、海賊たちが避けていたという事もあるだろう。

 それが無くなるわけだから、この国、もしくは周辺に海軍支部がつくられる可能性は非常に高い。

 そうなれば…今後この国で麦わらの一味と王女であるビビとが会う事は、避けるべきである。普通に考えるのであれば、今後、ビビと麦わら一味の軌跡(きせき)が交わる事はないのだ。

 

 

 

『私は ― !』

 

 ビビの目から、涙がこぼれた…

 

 

 *--*--*--*--*

 

 ”印ならバツがいい!!”

 

「何で」

 

「海賊だろ」

「でもありゃ本来相手への”死”を意味するんだぞ」

 

「いいんだバツがいい、なァビビ、カッコいいもんな!!」

「うん私もそれがいい」

 

「何でもいいから描けよ。本題はそこじゃねェんだ」

 

 ”これでよし…!!”

 

 *--*--*--*--*

 

 

「………!!」

 涙が溢れて…止まらない…

 

『…私は ここに残るけど……!!!いつかまた会えたら!!!もう一度仲間と呼んでくれますか!!!?』

 

 

「…………………」

 

 聞いている国民達は、これをどんなシチュエーションだと思っているかしらね?

 

 少なくとも、あそこにいる海軍船に乗る海兵たちは、ビビと私たちの関係を疑いだしているだろう。

 私がそんな事を考えながらビビを見ていると、ルフィが大きく息を吸い込んだ。

 

「いつまでもナば…!!!」

「ばかっ」

 大声を上げようとしたルフィの口を塞いでナミが止める。

 

「!?」

「返事しちゃダメっ!!海軍がビビに気づいてる。私達とビビとの関わりを証拠づけたら、ビビは”罪人”になるわ。……このまま黙って別れましょう!」

 

 うつむいて、ビビに背を向け落ち込む面々。

 ルフィの落ち込み具合がハンパない。

 ナミもサンジも背中が小さく見える。

 

 このまま放っておくのもかわいそうよね?

 それにこれだと、ビビにとっても悲しい別れになってしまうもの…。

 

「よし、じゃあみんな!!包帯とって腕まくるわよ!!」

「「!!?」」

 

「これが、”仲間の印”!!でしょ?」

「「!! おうっ!!!」」

 

 

「……」

「クエ…」

 

 

 全員で、印が見えるように左腕を上げる。

 海軍にはわからない、私たちだけの”仲間の印”

 

 

 ”これから何が起こっても左腕のこれが、仲間の印だ”

 

 

 ビビが笑っているのが良く分かる。

 カルーと一緒に包帯取って左手を高く上げている。

 

「ちゃんと、ビビに伝わったわよ! フフ……。泣きながら笑ってるわ!!」

 

 私とゾロ以外のみんなが泣いている。

 ゾロはやれやれという顔でみんなを見まわした。

 それを見て、私は肩をすくめていた。

 

 

 

 海賊旗がたなびく…

 

 

「出航~~~!!!」

 ルフィが声を張り上げた。

 

 海軍の包囲を突破し、私たちはアラバスタを後にした。

 

 

 ビビ、またね!!

 

 

 これにて、アラバスタ編完結なり…

 

 

 

 

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