少し時間をさかのぼる。
時刻は7時半。あと30分で出発しなければならないという時間帯…
ビビは2人を部屋に招き入れた。
「入るぞビビ…」
「ええ、どうぞ」
2人が部屋に入ると、正装に身を包んだビビが居た。
「話とは………おお!!」
「これは……往年の王妃様と見紛いましたぞ、…ビビ様」
「うむ、全くだ……」
「座って、パパ…いえ、お父様…イガラム… 大切な話があるの…」
「「!!」」
そう言って、ビビは少し前の事を話し出す。 それはそう… 2年前の立志式の少し前の事だ。
― 首謀者がわからない? ―
「ええ。いわゆる地下組織ですよ…社長の事に関しては社員ですら何も知らない…」
「……それが… この国の敵…!!!」
「社員でも知らない事です。外部から情報を探る事などもはや不可能。 …むしろ、これ以上の詮索は国を危ぶむばかり…」
「 ― だけど、しっぽはつかんだのよね…?」
「ええ…… え?」
《しまった…喋りすぎたか?》
「イガラム…私の考えてる事……わかる?」
「い…!!! いや!!わかりません、わかりませんっ さァ仕事に戻らねば」
「イガラムっ!!!」
「ダメです、ダメっ!!!これは遊びじゃないんですよっ!?」
「だったら尚さらよ!!!」
― イガラム!!! 私、じっとしていられないの!!! ―
「昨日、遅くまで悩んだの。だけどまだ…結論が出なくて…」
「「…」」
「だから私、これから『東の港』まで行きたいの!ギリギリまで考えて……それでその…」
「行きなさい。お前がどんな結論を出すのか…、私はここから見守ろう。」
あっさりとした父の言葉に、逆にビビは驚いた。
「コブラ様!?」
「イガラム。彼らであれば、ビビを安心して任せられるだろう?」
「し、しかし…一国の王女が海賊になるなど…」
「いいのだ! ただし、楽しみにしている国民達にはきちんと言葉を届けなさい。昨日使った国内放送用の電伝虫を持って行くように!」
「うん。わかった! ありがとうパパ…いえ、お父様!!」
「… 急ぎなさい。時間が無いのだろう?」
~ ~ ~ ~ ~
― ならばビビ様! 一つだけ…質問をさせてください。死なない覚悟は…おありですか? ―
始まりは…あの日……
『少しだけ…冒険をしました。』
「おい!!王女様の話が始まったぞ!!!」
「待ってたよ」
「本当にご無事だったのねぇ、よかったわ!」
「アルバーナの式典が始まった!!」
「予定より2時間遅れだ、何があったんだ?」
「さて…騒ぎにならねばよいが…」
始まったビビの演説の声を聴き、コブラ王は一人…宮殿の窓から東の港の方に視線を向ける。
「コーザ!!こらコーザ!! 来い、始まったぞ!!ビビちゃんのスピーチが!!」
「拡声器の音量は最大なんだ。町中に聞こえてるよ」
『 ― それは、暗い海を渡る”絶望”を探す旅でした… 国を離れて見る海はとても大きく… そこにあるのは信じ難く力強い島々。見た事もない生物…夢とたがわぬ風景。波の奏でる音楽は、時に静かに小さな悩みを包み込む様に優しく流れ、時に激しく弱い気持ちを引き裂く様に笑います。……暗い暗い嵐の中で一隻の小さな船に会いました。…船は私の背中を押してこう言います。』
― お前にはあの光が見えないのか? ―
『闇にあって、決して進路を失わないその不思議な船は、踊る様に大きな波を越えて行きます。 海に逆らわず、しかし船首はまっすぐに…たとえ逆風だろうとも……そして指を差します。』
― みろ、光があった ―
『…歴史はやがて、これを幻と呼ぶけれど、私にはそれだけが真実……』
「…これ…、何の話だ?」
「人知れず戦った、『王女様の護衛』たちの話さ。」
『そして ― !』
~ 東の港 タマリスク ~
「聞こえたろ今のスピーチ。間違いなくビビの声だ。」
「アルバーナの式典の放送だぞ。もう来ねェと決めたのさ…!!」
「ビビ…」
「ビビの声に似てただけだ…!!」
言葉はゾロ、サンジ、チョッパー、ルフィの順だ。
あの~…みなさん?
私がレインディナーズで使った道具の事はお忘れで?
「行こう。12時を回った…」
「来てねェわけねェだろ!!! 下りて探そう!!いるから!!!」
諦めの悪いルフィが騒ぐ。
「おい、まずい!!海軍がまた追って来た!!」
「一体何隻いるんだよ」
ウソップが叫び、ゾロが愚痴る声が響く。
「船出すぞ!!! 面舵!!!」
ルフィも私も何も言わないからだろう。ゾロがみんなに指示を出す。
それでもまだ納得していないルフィにサンジが言う。
「諦めろルフィ… おれ達の時とはワケが違うんだ」
「………」
ルフィが膨れッ面になっている。ホントにコイツは!!
こういうところが子供よね?
そもそも私に聞けばよくね?覇気の事キレイさっぱり忘れてるでしょ?
「ビビは来てるわよ。」
「「「!!?」」」
私は少し呆れながらも呟いた。
その言葉を聞いてみんなが揃って振り返る。
「イオリ! ビビ何処だ!!」
「ほら、あそこ…」
私が岬を指差すと、ビビの声が聞こえた。
「みんなァ!!!」
「!!!!」
「ビビ!!!?」
「カルー!!!」
「クエェ!!!」
「ホラ来たァ!!!」
「ビビ」
「船を戻そう、急げ!!!」
ルフィがナミがウソップが、喜んだ顔で叫んでる。
「ビビちゃん」
「海軍もそこまで来てるぞ!!!」
サンジもチョッパーまでもが喜んでいる。まったく…
「待ちなさいよ!」
ココに来た事が、
「……お別れを!!! 言いに来たの!!!」
「!?…今、何て…!?」
聞こえなかったのか。それとも聞きたくない言葉だったのか…
どちらにしてもはっきりとは聞こえなかったのだろう。
気づいたビビがカルーに向き直り、あの電伝虫を手に取ったようだ。
『私…一緒には行けません!!!今まで本当にありがとう!!!』
放送設備を使ったおかげでビビの声はよく聞こえる。
けれどすぐそこに海軍船が居るので、恐らく彼らにも聞こえた事だろう。
ビビの姿も視認出来る。
ならば、ビビの存在が海軍にバレたとみて間違いない。
『冒険は…(一緒に)まだまだしたいけど、私はやっぱりこの国を愛しているから!!! だから…行けません!!!』
「……そうか!」
「…」
クロコダイルが居なければ、ビビはこの国を出たりしなかっただろう。
ビビはルフィと会う事もなく、あんな危険な経験や未知なる冒険などをする事もなく、この国で平和に暮らしていたに違いない。
また、クロコダイルがこの国を守っていた事も事実である。
実際に守っていただろうし、その名声によって、海賊たちが避けていたという事もあるだろう。
それが無くなるわけだから、この国、もしくは周辺に海軍支部がつくられる可能性は非常に高い。
そうなれば…今後この国で麦わらの一味と王女であるビビとが会う事は、避けるべきである。普通に考えるのであれば、今後、ビビと麦わら一味の
『私は ― !』
ビビの目から、涙がこぼれた…
*--*--*--*--*
”印ならバツがいい!!”
「何で」
「海賊だろ」
「でもありゃ本来相手への”死”を意味するんだぞ」
「いいんだバツがいい、なァビビ、カッコいいもんな!!」
「うん私もそれがいい」
「何でもいいから描けよ。本題はそこじゃねェんだ」
”これでよし…!!”
*--*--*--*--*
「………!!」
涙が溢れて…止まらない…
『…私は ここに残るけど……!!!いつかまた会えたら!!!もう一度仲間と呼んでくれますか!!!?』
「…………………」
聞いている国民達は、これをどんなシチュエーションだと思っているかしらね?
少なくとも、あそこにいる海軍船に乗る海兵たちは、ビビと私たちの関係を疑いだしているだろう。
私がそんな事を考えながらビビを見ていると、ルフィが大きく息を吸い込んだ。
「いつまでもナば…!!!」
「ばかっ」
大声を上げようとしたルフィの口を塞いでナミが止める。
「!?」
「返事しちゃダメっ!!海軍がビビに気づいてる。私達とビビとの関わりを証拠づけたら、ビビは”罪人”になるわ。……このまま黙って別れましょう!」
うつむいて、ビビに背を向け落ち込む面々。
ルフィの落ち込み具合がハンパない。
ナミもサンジも背中が小さく見える。
このまま放っておくのもかわいそうよね?
それにこれだと、ビビにとっても悲しい別れになってしまうもの…。
「よし、じゃあみんな!!包帯とって腕まくるわよ!!」
「「!!?」」
「これが、”仲間の印”!!でしょ?」
「「!! おうっ!!!」」
「……」
「クエ…」
全員で、印が見えるように左腕を上げる。
海軍にはわからない、私たちだけの”仲間の印”
”これから何が起こっても左腕のこれが、仲間の印だ”
ビビが笑っているのが良く分かる。
カルーと一緒に包帯取って左手を高く上げている。
「ちゃんと、ビビに伝わったわよ! フフ……。泣きながら笑ってるわ!!」
私とゾロ以外のみんなが泣いている。
ゾロはやれやれという顔でみんなを見まわした。
それを見て、私は肩をすくめていた。
海賊旗がたなびく…
「出航~~~!!!」
ルフィが声を張り上げた。
海軍の包囲を突破し、私たちはアラバスタを後にした。
ビビ、またね!!
これにて、アラバスタ編完結なり…