イムの娘(いむのこ)   作:槙 秀人

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04-134話:モックタウン

「まだか? ウソップ」

「ああ、まだ見えねェな」

 見張り台にはウソップが上り、双眼鏡で進行方向を覗いている。

 島はまだ水平線の先なのだろう。周りは全て水平線という状況だ。

 

「そんなに遠くはねェんだろ? あのサル男がさっきの地点を”ナワバリ”っつったくらいだ。」

「気候もさっきからずっと安定してるから、おそらくもうジャヤの気候海域にはいるのよ」

 

「ジャヤはきっと”春島”だな」

「ぽかぽかして気持ちいい。春はいい気候だな。カモメも気持ちよさそうだ。」

 チョッパーが飛んでいるカモメを見上げてつぶやいた。次の瞬間…

 ボトッ!! ボトト…!! と、そのカモメが落ちてきた。

 

「っあああああ!!!撃たれた~~~!!!」

 チョッパーがガーンってなってる。その後ろでは「お!焼き鳥しようぜ!!」とルフィがのたまう。

 

「撃たれたってお前…!!銃声なんて聞こえてねェぞ?」

「ほら銃弾!!飛んでた角度から見ても船の正面からだ!!」

 ウソップの言葉にチョッパーが反論してる。

 

「まだ見えてもいない島から狙撃を?チョッパーそれはムリよ」

「だっておれ、ずっと見てたんだ」

 ナミもウソップに加勢した。 ルフィはサンジにカモメを持って行く。カモメの肉は少ない上に臭いのよ?サンジなら、うまく調理するかもしれないけど、3羽程度じゃ、あんたには足りないでしょうよ。

 

「ハハ…そりゃどんな”視力”でどんな”銃”でどんな”腕前”の狙撃手だよ。 どっかで撃たれて偶然今落ちたのさ」

 ウソップが言うけど、それもどうかと思うわよ?頭を打たれてしばらく飛び続ける方が無理だと思う。

 よし、チョッパーがかわいそうなので、加勢しよう!!

 

「チョッパーが正しいかもよ?世の中には『音越』の異名を持つ狙撃手だっているんだし。」

「「『音越』?」」

 私の言葉にウソップとナミが反応する。チョッパーは思わぬ加勢に喜んでいる。

 

「西の海に、銃声が聞こえないほど遠い標的を射抜く狙撃手がいるって話を聞いた事があるのよ。確か、"ヴァン・オーガ"って名前だったかな? 高性能の銃をっ持っているとは思うけど、それだけじゃなくて、恐らくそいつは覇気で見えない的(まと)を見ることが出来るんじゃないかな? ウソップは覚えて置いたほうがいいんじゃない? 将来、ライバルになるかもしれないんだから。」

 

「『音越』…ヴァン・オーガ…ねぇ…」

 胡散臭そうにウソップが呟く。でもどうなんだろう?向こうはライフルで、こっちはパチンコ。どっちがすごいかって言ったら、私はウソップのほうがすごいと思うんだけど?

 調子に乗るから絶対に言わないけどね!!

 

 

 数時間後…島が見えてきた。

 

「うっは~~~!! いいな~~!!いい感じの町が見えるぞ!!」

「ちょっとリゾートっぽいんじゃねェか!? おいおい~~」

「リゾート!?」

「急げメリー」

 ルフィ、ウソップ、チョッパーが騒いでいる。見えているのはホテルかな?

 

「ホント、ちょっとゆっくりして行きたい気分~~」

 ナミもホテルを見てリゾートっぽく思ったらしい。まぁ、そこだけ見ればそう思うかもね?

 

「…」

 私は一旦、女部屋へと戻り、本棚から目当ての本を探してデッキに戻った。

 

 さらに島が近づき、港が見えてきた。

 

「しかし、港に並んでる船が全部海賊船っぽく見えるのは気のせいか?」

「も…もーウソップったら!海賊船が港に堂々と並ぶわけないじゃない?」

 

 ウソップが見た通りの事を呟くとナミが冗談やめてよのノリでツッコむ。

 

「ハハハ!!だ…だ だよな―」

 

 

「殺しだァ!!!」

 

 

「「「何なんだよう、この町はァ~~~~っ……」」」

 ウソップ、チョッパー、ナミは、トリオで涙を流して項垂れていた。

 

「はい、ナミ。ここ読んで!」

 と言って、私は”ジュー=ウォール”の航海日誌のページを捲ってナミに差し出した。

 この本はアラバスタでナミが貰ってきた蔵書の中にあったものだ。

 本には、”ジャヤという島の西にある町。そこは夢を見ない無法者達が集まる政府介せぬ無法地帯― 人が傷つけ合い、歌い、笑う町― そこは、嘲りの町―『モックタウン』” と書かれている。

 

「…なるほど。政府が放置した場所ってことね……って、ちょっとイオリ!?知ってたんなら教えなさいよ!!」

「私もさっき思い出したのよ。ジャヤって名前どっかで見た事あるなァってね。」

 そもそもこの本、ナミが面白そうってもらってきたやつじゃんよ!

 

「これだけ海賊船があるって事は、この島の人は海賊達からそんなに被害を受けてないって事じゃない?かえって政府が介在しないほうがいいって例かもしれないわよ?もっとも海賊同士のいざこざは日常茶飯事みたいな感じだけどね?」

「……」

 

 

 港に船を停泊して、いざ上陸となった。

 ガラスが割れる音や銃声や爆発音が響く。歓声や悲鳴が、船の上まで聞こえてくる。当然の事ながら、ウソップ、チョッパー、ナミのトリオはちょっとビビッてるみたいね。

 

 例によってルフィは既に下船してる。ちなみにゾロと私も一緒だ。

 

「なんか、いろんな奴らがいるなここは。」

「楽しそうな町だな。」

 

「ルフィやゾロにとってはあんまり面白そうな所ではなさそうだけど?」

 

「あん?」

「なんでだ?」

 

「今回は情報収集が目的だからどうでもいいことだけど、気配から察するに、この島には、うちらより強い気配はほとんど感じられないって事!」

 

「おいおい、まるでおれ達が強ェ奴を探してケンカをふっかけるような言い方じゃねェか?」

 

「あれ…違ったっけ?」

「…まぁ、否定はしねェけどよ…」

「ししし……」

 

「とりあえず、定石通り酒場にでも行きましょうか。」

「まぁ、そうだな。」

 

「なんとな~く、役に立つ情報は集められそうにない気がするけどね……」

 

「待って、ルフィ!!ゾロ!!イオリ!!」

 ナミが追ってきた。あれ? 私が2人と一緒だから来ないかと思ったのに…。まぁ別にいいんだけど…。

 

 

「「ワタクシは、この町では決してケンカしないと誓います」」

 

「よし。ホントよ?2人共。」

「「あ―」」

 裁判での証言者の宣誓の如く、ルフィとゾロはナミにケンカをしない事と約束させられた。私? 私は自分からケンカする事なんてないもの。たぶん…

 

「何、その気の抜けた返事!! あんた達が騒動起こすとね!!この町に居られなくなるの。そしたらもう空へなんて行けないんだからね」

「あ―」

 

「ああっ!!!」

 突然、ドサっという音と共に男が倒れた。

 

「わ…誰!?」

 

「みろ落馬した」

「ああ落馬したな」

 

「ア…ア  ゴホ!!…ゲフッ!!」

 

「おっ、血ィ吐いた」

「ああ、吐血だな」

 めずらしくルフィとゾロが落ち着いて解説してる。この島の雰囲気がそうさせるんだろうか?

 いつものルフィなら、大騒ぎしているところなんだけどね?

 

「よし……すまんがお前ら、立たせてくれ」

 

「「お前、自分で起きる気ねェだろ」」

 

 

「…いやいや、悪いな ……ハァ。乗れた…」

 本当に珍しい。2人が人に親切にするなんて…

 

「…おれは生まれつき体が弱いんだ……!! ハァ……ハァ…… さぁ…行こうストロンガー」

「ガフッ」

「「馬もかよッ!!」」

 馬が吐血し、2人がツッコンでいた。

 

 

「ああっ…お礼といっちゃ何だが…おひとつどうだい」

 体の弱いというおっちゃんが、りんごの入った籠をゾロに差し出す。

 

「怪しすぎだ。いらねェからさっさと行け。」

 ソロは丁重に断ったんだけどね。でも…

 

「お、りんごじゃん。いただきます」

「オイオイ、食うな、食うな!!」

「!!」

 ルフィは籠からりんごを取るとすぐさま被りついた。ゾロとナミが驚いてる。そして、次の瞬間…

 

 ― ドウン!! ―

 

「うわあああああっ」

「キャー」

「わー」

 爆音が響き、どこぞの酒場が崩れ落ち、喧騒が聞こえた。

 

「何だ何があった!!」

「それが…さっき妙な男からリンゴを受け取った奴らが…それを食って…!! 5人!!爆発した!!!」

 

「畜生、ムチャクチャやりやがる!!!」

「店の中は惨劇だぜ…!!!」

 騒動の間もルフィはりんごを食べてる…

 

「「………」」

「………!! そんな……!!!」

 

 にやり

 

「ルフィ!!?吐きなさい。今食べたリンゴすぐに!!!」

「うえっ!!うえげ!!も…もう飲んじまったよ!!」

 

「てめェ何のマネだァ!!!」

 

「……アハハ…ゴホ…いやあ大丈夫だ」

「!?」

 

「あいつらのは”ハズレ”だったんでしょ?」

 事も無げに言うと全員が揃って私を見た。なんだかセリフを奪ってしまったようだけど…

 

「…そうだ。”ハズレ”を引いたんなら一口目であの世へ行ってたさ…ハァ…ハァ…セーフだ…そいつは」

「ってか、ハズレのほうが多いでしょ!それ?」

 

「…まぁな……お前…アハハ……ゴホ…」

 

「?」

「運がいいな」

 ニヤっと笑って、男は去っていった。

 

「何なのよこの町っ!!」

「ま―荒れるなよナミ」

 

「あんたねェ!!今、意味なく殺されかけたのよっ!!?」

 

「そんな事もあるんだなァ」

「あってたまるかァ!異常よ!!こんな町でまともな情報なんて得られるのかしら」

 

「酒場に居る奴ら次第だろうけど、難しいと思うわよ? なにせ”夢をみない”って話だから、空島なんて信じてないんじゃないかしら。」

 

 

「オイ、またあいつがやらかしやがった!!」

「!」

 

「!!…あの格闘チャンピオンか…」

「これで犠牲者は何人目だ!?」

「別に名のある”賞金首”ってわけでもねェ。どこの誰なんだ一体………」

「関わらねェほうがいい…」

 

 屋根の上でガッツポーズを作りながら笑い、吼える男…

 

「ウィッハハハハハァ!!!」

 

「「チャンピオン!?」」

「何で張り合おうとしてんの!!?」

 チャンピオンという言葉に反応するルフィとゾロにナミが怒ってる。

 あれ?

 お前らの目指してるのってキングじゃねぇの?まぁどっちも王ではあるけれど…

 

 

「ここはどうだ……?」

「あんまり騒がしくねェみてェだ。―というより静かで」

 たぶん、この島を最初に見つけた時に見えたホテルじゃないかな?

 結構な広さなのに、客室?らしき場所に感じる気配は10名程。そういえば貸し切りだったっけ?

 

「……ここは素敵。ガラの悪い町だけどこんなとこもあるのね」

「海に別荘があるのか。海上のリゾートだな、まさに…」

 

「しかし、人がいねェな…うまそうな食い物の匂いすんだけどな………」

 

「お!!お…お客様っ!!お客様困ります!!勝手に入って頂いては…」

「ん?」

 

「と…当「トロピカルホテル」只今、ベラミー御一行様の貸し切りとなっておりますので」

 

「ホテル?ホテルなのかここは…」

「べ…ベラ…ベラミー様に見つかっては大変な事になりますので、どうかすぐにお引取りを」

「何だよ。いいじゃねェか入るくらい」

「誰よ、ベラミーって」

 

「こいつよ。懸賞金5500万」

 ベラミーの手配書をナミに見せる。

 

「なんだ。ルフィやイオリより低いじゃない。」

 

「オイどうした」

「ヒエ~~~!!!!」

 

「どこの馬の骨だ。その小汚ねェ奴らは…」

「サ…サーキース様。お帰りなさいませ。いえ、これは、その…」

「言い訳はいいから早く追い出して!いくら払ってココ、貸し切りにしたと思ってんの!?」

「その通りだ……オラ…帰れよクソガキ………!!」

「!」

 

「こいつはこれ。」

 サーキースの手配書を取り出す。懸賞金は3800万だ。

 

「なぁんだ。全然たいしたことないじゃない!」

 ナミも随分と気持ちが大きくなったもんだわ。

 

「オイ、こいつぶっ飛ばしていいか?」

「だめっ!!!」

 ルフィが言うのを、ナミが止めた。まぁ、相手は海賊なんだからぶん殴っても問題はないんだけどね?

 

「フン…ハハ!!面白ェ奴らだ。このおれをブッ飛ばす…!? …それにしても貧相なナリだな。ホラ、これで好きな服でも買うといい」

 チャリン、チャリン…!!と札と小銭を放るサーキース。

 

「!」

「サーキース、もったいないわよコイツらなんかに」

「ハハ…ケツでもふいた方が有効だったかな」

 ゾロとナミが険しい顔になる。

 

「え?いいのか?」

 ルフィは拾おうとするけど、ナミに抱えられて連れて行かれた。

 

「行くわよ!!不愉快っ」

「イーイージヴンで歩くかやよ」

 

「何だ…要らないのか?ハハハ」

 ゾロは頭を掻きながら後に続いた。

 

「ハハハハハッ!!!」

 

 私は少しだけとどまってサーキースに一言残した。

 

「……あんた、仲間に叱られるわよ?」

「あぁ?」

 

「アハハハ、ダッサイ何あれ!捨て台詞?」

 

 

「サ…サーキース、リリー! お…お前ら、誰をからかったかわかってんのかっ!!」

「ん? 何だそこにいたのか」

 

「あ、あいつら…ただもんじゃねェんだ。やべェぞ、ホラ」

 リヴァーズが青い顔をしながらルフィの手配書を差し出した。

 

「あの赤髪がたぶんこれだぜ? あいつら2人だけで億越えだ……」

「アンタやベラミーより高いんだよ!!」

 

「並のレベルじゃねェんだ。おまえら、怒らせてねェだろうな?おれたちを巻き添えにするなよ?」

 

「う…ウソだ。”7千万”だって?今のヘナチョコが……?」

 

「あの女が”6千500万”……何かの間違いじゃないの?」

 

「こんなのデタラメだ!!よ…よし!!こいつをベラミーに見せてみよう!!」

 

 

 

 

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