エースはなぜ、ロジャーを恨んでいたのか?
それは『鬼の子と言われ、世界中が自分の存在を否定している。』と思っていたから。
世界中って? 誰が言ったのそんな事?
えっ?私…否定してないけど? サボもガープもしてないよ?
ダダンも口では『鬼の子』って言うけどさ、あれは自己防衛の為であってエースを否定しているわけではないよ?
ほら!少なくとも4人は違う。世界中じゃないじゃん!!
タイミング良くというかなんというか、ガープがドーン島にやって来た。
ちょくちょく来るよね?まぁ故郷なんだし孫も居るし、おかしなことではないんだけど。たぶん仕事と称して来ている気はする。センゴクさんが知ったら怒るんだろうなとは思うけど、今回に限っていえばちょうど来てくれてよかったと思う。
別にエースに話を聞いてほしいなんて言わない。私は待つだけ。
エースが話を聞いてもらおうとするか、ガープが話を聞こうとするかはわかならい。でもたぶん前者だと思う。だってガープは空気なんて読まないからだ。そう思ってたんだけど…
エースの様子が明らかにいつもと違うとガープが、いえ、ガープさんがエースを森の中に連れ出しました!
私、今…すっごく感動してます。ちょっと尊敬して”さん”付けしちゃってます。うん。たぶん今だけだと思うけどね?
で、私は今、エースとガープさんが二人で話しているのを、その近くの木の陰に隠れて聞いていた。
ガープさんは真面目に何かあったか?と聞いていた。エースもポツポツとだけれどわりと素直に話してた。
この間何があったのかってのについては、簡単な話だった。簡単だったけどなんというか…
あの日、私とサボを先に逃がしたエースは、追いかけてきたレストラン店員を引き付けながら逃げて頃合いを見計らって撒き、私たちと合流すべくグレイターミナルを目指していた。そのときにたまたま通りかかった裏道のパブで、ある話を聞いたらしい。
ある話。かの海賊王・ゴールド・ロジャーの話を。
私が思った通りの事だった。そうアレだ。原作でもあったあの言葉たち。
『ゴールド・ロジャーにもし子供がいたらァ?』
『そりゃあ“打ち首”だ!』
『世界中の人間のロジャーへの恨みの数だけ、針を刺すってのはどうだ?』
『火炙りにしてよ! 死ぬ寸前のその姿を、世界中の笑い者にするんだ!』
『みんなが言うぞ!? 【ザマアみろ】って、ぎゃはははは!』
『遺言はこう言い残して欲しいねェ、【生まれてきてすいませんゴミなのに】』
そして、エースは頭に血が上ってソイツらをボコったというわけだ。でも相手も人数が多かったからエースも多少怪我を負う羽目になってしまったらしい。
なんてムカつく話だろう。
多分エースは、今までにも似たようなことを言われてるはずだ。存在を知られてはいないだろうから間接的にという感じではあるけどね。そりゃ6歳であれだけコンプレックスを抱くだろうさ。(私と友達になった時はおいといて…)
酔った席での戯言だ。言った当人達はロジャーの子供が実在するなんて微塵も思っていないに違いない。だからといって気にするななんて事は所詮他人事だから言えることで、当人からしてみれば心を抉る言葉なんだよ。黙って聞き流せるほど大人でもない。エースが傷つくのも怒るのもあたりまえだと思う。
「ジジイ……」
私が変わらず木の陰で立ち聞きしていると、神妙なエースの声がした。
「おれは…産まれてきてもよかったのかな…」
刺さるよね。胸にグサッと…
この言葉に返す言葉は「いいに決まってる」という存在自体の肯定なのだと思う。けれどたぶん、言ったところで今のエースの心に響くことはないだろう。なぜなら言われ続けた時間と言葉の数だけ。いいえ、それ以上に深く心に傷を負っているから。
もしも周りがエースを癒せる事があるとすれば、それは同じ数の言葉と時間をかけて癒していくという方法しかないのでは?と思う。でも…それは断言します。不可能です。
一時的には立ち直る事はあるでしょうけど、これは自分で答えを見つけないとダメなんです。子供に言うのは酷だけどね。
ガープさんにもどうにもできないだろうと思う。
かといって、このまま放っておくことも出来ないのよね。
だから私は感情のままに行動する事にした。
~ ~ ~ ~ ~
「本当にどうしようもないわね!」
木の陰から現れた私に、ガープさんは驚き、エースは動揺した。でもさすがはエース。情けない姿をさらすものかとすかさず言い返してきた。
「イオリお前、聞いてやがったのか!!」
「聞いたわよ!情けない声だしてバカみたいな事を言ったの全部聞いてやったわ!!エースあんたねェ!ムカついて暴れといて結局そいつらのいう事が正しいってか?バカじゃないの?」
「お前、何が言いたいんだよ! おれがバカだと!?」
「バカじゃない!自分がボコボコにした奴らの言ってる事を真に受けてるんだから!!」
「お、お前は違うだろ!?鬼の子じゃねぇだろ!?お前に解るのかよ、ただアイツの血を引いてるってだけで世界中から否定されるってのがどういうことか!」
う~ん、それはどうなんだろう?私の生い立ちからすると、立ち位置的にはエースと真逆なんじゃないのかな?最終的に世界中から否定される的な?そしたら私もエースみたいに思っちゃうのかしらね?今考える事じゃないか…。
「わかんないわよ!!」
「!!?」
涙があふれ出ていた。エースが驚いた顔をしているのが見える。たぶん初めてだと思う。涙を見せるのは…
私は世界中から否定された経験なんて無い(たぶん…)。けれど、そういう風に思った事はある。
病んでいたのかもしれないけれど…
この身で経験した事では無いけれど、誰も信じられず自分は独りぼっちだと思い込み過ごした日々が確かに存在した。
だからと言って、エースの状況を『わかる』と軽々しくは言えない。
それでも、エースの感じる孤独と恐怖を多少なりとも理解する事は出来る。
「わかんないわよ…わかんなけいど!!世界中があなたを否定したって私は味方だから!!私は!エースの味方だから!!」
「!!」
私はエースをまっすぐ見つめて叫んでいた。
あれ?
これってもしかして…?
サボが私に言った言葉と同じじゃないの?
あらやだ、恥ずかしい。使いまわしじゃんね?
でも、たぶん。きっと気持ちは一緒!うん、問題ない!!
「だからもう『生まれてきても良かったのか』なんて口にしないで!!もしまたそんな風に思う事があったなら、その時は思い出してちょうだい!!私は、エースが居てくれて良かったと思ってる。サボだって、ガープさんだってそうよ!わかりづらいかもしれないけど、ダダン達だってきっとそう。これからだって、きっとあなたの事を大事に思ってくれる人たちがたくさん出来る!!」
サボや私(?)のように、秘密を共有できる者は少ないと思う。孤独だろうし、秘密が公になってしまったら?という恐怖はこれからもずっとつきまとう。それほどに海賊王の名は重い。
調べて分かった事だけど、海賊王に関わったとして罪に問われた者は何も船大工のトムだけではない。全員ではないけれど、ロジャー海賊団に関わる武器、道具を作った者、酒や食糧を売った者などの多くの人が、過去にさかのぼってまで処断されていた。やるなら徹底的に…!それが世界政府だと言わんばかりに…。
だから私はエースに気にするな。だなんて無責任に言う事は出来ない。それでもあえて、私はエースにこの言葉を送ろうと思う。
「エース!産まれてきてくれてありがとう!!」
これは、嘘偽りない私の気持ち。いつも私を気遣ってくれてありがとう。いつも一緒にいてくれてありがとう。
もうじきルフィがやって来る。そしたらきっと、私以上にそう思うんだろうな。
ちなみに、完全に忘れてましたけど…
私とエースが話しているのを近くでガープさんも聞いていた。
エースは(も?)気にしてなかったみたいだけど、
号泣しとりましたね…
~ ~ ~ ~ ~
ひと段落して、私はエースを夕飯に招待した。
エースはなんだかぎこちない。原因はさっきの事だと思うけどね。
とりあえず言う事言っとかないと…
「ねぇエース?」
「…」
「さっきの事なんだけど、サボには黙っててね?」
「な、なんだよさっきのことって…」
「いやほら、私…泣いちゃったじゃない?あれはちょっと恥ずかしい事になっちゃったかなぁって…」
「…おれは嬉しかったけどな」
「えっ!?」
「な、なんでもねーよ。わかった。黙っててやるけど、おれのも黙っとけよな!!」
「情けなかった事?」
「お、おう」
「うん。わかった。」
ご飯を食べて少し話をした
「じゃあおれ、帰るわ」
「明日もグレイターミナルに行くんでしょ?泊ってったら?」
「!!?」
いや、なんでそんなに驚く?
「ば、バカおめェ…間違いでも起こったらどうすんだよ!!」
「はあ?」
なに言ってんの?どこで覚えたそんなこと? ん?
「もしかして、そんな感じの本とか読んだ?」
「おめぇがどれでも持ってっていいって言うからだろ!そもそもあの本、おめぇが書いたやつじゃねえか!!」
官能小説だった。
最初に読んだのはサボみたい。これすげーぞ!と言われエースも読んだらしい。
私がちょっとおもしろいなぁと思っていると、エースが私の顔を見てギョっとした。そうかと思うとホッとしたような顔になった。
なに今の?意味わかんないんだけど?