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サボが外に飛び出した後、
サボのポケットの中で普段の服に着替えました。
貴族の服は動きにくいんです。ひらひらしてるし、スカートだしね?
めくれたら『キャッ』とか言っちゃいそうだから。
(たぶん言わないだろうけど…)
ゴア王国。ゴミ1つ落ちていない東の海で最も美しい国。それがこの国の誇り。
ゴミ1つ落ちていないだなんて、夢の国かな?
あれはね、大勢の清掃員の方々が一生懸命働いているから可能な事なんだよ?
この国がそれと同じになれるなんて…そんな事があるわけがない。
この国が今まさにやろうとしていること。それこそが、この国がいつか辿る末路なんじゃないだろうか?
因果応報。そんな言葉が脳裏にちらつく。
この国の事を知らなければ、お前らがやった事がそのままお前らに返っただけだ。と、因果応報の一言で片づけられるだろう。けれど、私はここに住む人たちを知っている。
高町に住む王族・貴族の連中がこの事を画策し、それを実施する事を知っている。
高町以外に住む人が、貴族がそんなことをしたなどとは夢にも思っていない事も知っている。
『無知は罪だ。』これは事実。
『知らないほうが幸せな事もある』これも事実。
この国が未来に本当に滅んだとして、私はその時、はたしてそれを因果応報と言えるんだろうか?
~ ~ ~ ~ ~
高町に住む人々はグレイターミナルが燃やされるのを『可燃ゴミの日』と言って気にも留めていない。
そこに人が居る事など忘れているかのように…
「狂っている……」
原作で読んだ。知っていた。それでも、実際にソレを目の当たりにすれば衝撃を受ける。
私でさえそうなのだから、この町で生まれたサボにはより以上だろう。真っ青になって震えている。
とはいえ、あんな飛び出し方をしたんだ。家出少年として捜索されるのもむべなるかな。
落ち着いて考えを纏めたくても状況がそれを許してくれない。
「いたぞ、あの子だ!」
町を彷徨っていれば発見もされてしまう。
「サボ、ちょっと人通りの無さそうな道に入って」
「? 人込みに紛れた方がいいんじゃないか?」
「普通ならね。でも、私の能力を使えば隠れるのは簡単よ」
小さくなれば、普通なら到底隠れられない物蔭にだって隠れられる。
サボも納得したらしく、すぐにわき道に逸れてくれた。
自画自賛しちゃいますけど、さすがに私が長年鍛えて来ただけあって、3人の身体能力は一般成人男性に比べても格段に高い。すこしギアを上げるだけで大人でも着いてくることは不可能に近い。だから街中で追われたとしても撒く程度の事は簡単なのだ。
小さくなった私たちはその後見つかることはなかった。
もっとも、小さくなったら別の意味で移動に苦労する。例えばたかが50mの距離も1/50サイズにまで小さくなれば単純計算で2.5kmに感じられてしまう。
だけど、高町を出て中心街まで行ってしまえば元の大きさに戻っても特に問題はない。中心街と高町の間の壁は高く厚いし検問は厳しいけれど、まさか門がちょっと開いたスキにちっこいのがコッソリ移動してるだなんて、知ってなきゃバレっこない。
結果、捜索は高町内に留まり中心街では普通に行動できた。それでも高町をでるまでに多くの時間を費やしてしまい、端町の壁に辿り着けたのは夜になってから。そう、既に火の手が上がってからだった。
消火活動は我々にお任せを!とか言ってる兵士がいたけど、彼らがしているのは避難誘導のみ。火を消す気が無いのがバレバレだった。上からの指示なんだろうからどうしようもないとはいえ、扉も開かずに何が消火活動だ!って感じ。
「開けてくれよ!」
グレイターミナルへと行くための門を開けてくれ、と必死で食い下がるサボ。その一方で、この火事はブルージャム一味の仕業らしい、と避難していく人たちが口々に噂していく兵士達。
確かにそれは間違っていない。実行犯はあいつ等だし、それで嵌められようが結果として焼き殺されようが自業自得だ。少なくともあいつ等に関しては。
そもそも、バカじゃないのか? って思う。
この国の王族・貴族はグレイターミナルに住む人々を生ゴミと呼んで憚らない。そんな連中にとってみれば海賊だって生ゴミっていう認識だろうと、解りそうなものだろうに。そして生ゴミとの約束なんてそもそも約束ですら無いという事に…
それはそれとして、あまりにも話が伝わるのが早すぎる。ブルージャムは貴族になれると思っていたのだからこの事を言いふらすはずはないし、自分たちがやったとバレるようなこともしないはず。
それなのに、門が閉じられた状態で、これだけ早く話が伝わるっていうのは情報操作以外のなにものでもないだろう。この火事はあくまでも海賊による不慮の事態だ、と。
真実は闇の中ってか。
「邪魔だ、あっちに行ってろ!!」
そんなことを考えてる間に、ドン、とサボが突き飛ばされた。
「サボ!」
倒れこんだサボに駆け寄ろうとした時、それより前にサボに近付いた人影があった。
顔にイレズミが目立つ男。あのイレズミの模様からして間違いない。
「大丈夫か?」
サボに掛ける声音は優しい。
何が、『世界最悪の犯罪者』だ。あの兵士どもや、今高町で高みの見物を決め込んでいるヤツらより、よっぽどマシだろうよ。
私はサボの背中を擦った。サボが泣いていたから。
「おっさん、この火事の黒幕は、本当はこの国の貴族たちなんだ!」
この人に言ったからといって何がどうなるわけでもない。それでもサボは誰かに聞いてもらいたかったんだろう。サボの叫びも涙も止まらなかった。
「おれは貴族の生まれなんだ。でも、この町はゴミ山よりもっ酷い、腐った人間の匂いがする。 おれは…貴族に生まれて恥ずかしい!」
恥ずかしい。そう思えることこそが、サボがまともである証拠だと思う。この国の貴族がみんなサボのようだったらいいのに。そう思えてならない。
「…わかるとも…おれもこの国で生まれた…!!」
革命家、モンキー・D・ドラゴンは静かに語った。今の自分ではまだ力が足りない、ということを…
力が足りない…ねぇ…
革命軍のやろうとしている事は理解できるんだよ。理解は出来るんだけどね。
原作を読んで思ったこと。
もしも世界政府を打倒できたとして、その
もっとこう、打倒したあとのコンセプトとかビジョンとかをさぁ、ちゃんと見せてほしいわけよ。
一時の感情でワーッと世界政府を打倒したら、その後に来るのはカオスな世界だぞ?
それこそ今以上の戦乱の世になるぞ?わかってる?
力ってのは何も武力じゃないんだよ。世界政府を打倒するためにまとまる力も必要だけど、その後に訪れる『世界政府の無い世界』をまとめあげる力こそが重要なんだよ。
まぁここで言っても意味が無い事もわかってるけどね。
なんかなぁ…そのうちバルティゴにでも行ってみようかな?
そうこうしてる間に、新たな人物が現れた。
「ドラゴン!準備が出来ティブルわよ!」
この口調は、と思い私は声のした方を見て、…固まった。
「顔でっか!?」
思わず口走ってしまい、視線が私に集中した。
あ~もう、ごめんなさいね!シリアスな空気をぶっ壊しちゃった!!
でも、それぐらいにインパクトに溢れた人がそこにいた。
そう、オカマ王、エンポリオ・イワンコフが。
うん、確かにこれなら、1度でも会ったことがあれば忘れないよね!頂上戦争でくまにキレても無理ないね!?
マジびっくり!本当に3頭身の人間なんているんだ。初めて見たわ!!
…って、そんなこと言ってる場合じゃないって!目的を果たさなきゃ、ここにいる意味がなくなる!
「今、ドラゴンって言った?」
私の問いかけにドラゴンは答えない。当然だわね。手配書や賞金額が一種のステータスになってる海賊とは違うんだから。
まだ力が足りない、というならば情報は出来るだけ伏せておきたいと思っているだろう。でも私には原作知識というカードがある。
「ドラゴンさんって、ルフィのお父さんの?」
「「!!?」」
その言葉には三者三様の反応があった。共通してるのはそれが驚きという感情だということ。
サボは、この人がルフィの父さんか、と。
イワンコフは、ドラゴンに家族…子供がいたのか、という驚きだろう。
そりゃそうだ、原作でも革命軍メンバーはドラゴンの素性をまったく知らなかったんだから。
ドラゴンのは多分、私がそれを何で知っているのか? って驚き。でもこのままじゃ口きいてもらえなそうだから何で知ってるのかは伝えないとね?
「ルフィのお爺さんに聞いたの!あなたの事!!」
お爺さんっていうのはガープの事よ?あんまり名前は出さないほうがいいわよね?あいつ有名だし。
「…君は?」
「失礼しました。私、イオリと言います。先日、ルフィの義姉になりました。以後お見知りおきを!こちらはサボ。私の義兄になります。もう一人エースという義兄が居ます。同じく以後お見知りおきを!!」
「…」
「って、そんな事を言ってる場合じゃなくて!準備って、さっきこの人が言ってたわよね?ひょっとしてこの火事何とかできるの?」
予想外の展開に呆然としていたらしいサボとイワンコフも、私の言葉で現実に戻ってきた。
特にサボは、グレイターミナルの人が助けられるのか、と焦り顔だ。
ドラゴンから返ってきたのは小さな苦笑だった。
「この火事はどうにもならん。火の勢いが強すぎる。」
だよねェ~。壁の内側からでも、外は火の海だって解るような勢いなんだから。
「だが、人は可能な限り救うつもりだ」
力強い宣言に、サボは明らかに安堵したような様子だった。
私は、もう1声かけておこうかな。
「あそこに、エースとルフィが!私たちの兄弟がいるかもしれないの!」
とは言ってみたものの、既にグレイターミナルから二人の気配は消えている。少し前にはダダンの気配も感じていたけど、二人といっしょに既に火事からは脱出しているみたい。ナイフを武器として使っていないかどうかはわからないけど、とにかく無事でよかった。
ドラゴンはルフィの名に少し反応したけれど、それはごく小さなものだったから、おそらく2人は気付いてないだろう。
「ルフィをよろしくたのむ…」
私にだけ聞こえる程度の小さな声でそう言うと、ドラゴンはイワンコフと共にどこかへと向かっていった。
イワンコフは少し私の方を気にしていたみたいだけど、すぐに気持ちを切り替えたらしい。
あるいは、今は火事の方を優先するべきと割り切ったのかもしれない。
彼?彼女?の記憶に残ってたらいいなと思いながら私は二人を見送った。
後は人助けに専念してもらいたい。
「イオリ…」
サボが少し言いにくそうに話しかけてきた。さっきの話に驚いたせいか、涙はもう止まっていた。
「さっきの人、本当にルフィの…?」
「そうみたいね。」
ものすごく微妙な表情を浮かべてるサボの思いはきっと私と同じだろう。
そう、つまり。
「「全っ然似てない!!」」
同様にハモってしまったことに、私たちは顔を見合わせ小さく吹き出してしまった。
ようやく、火事のせいで張り詰めていた気が、少し緩んでくれたような、そんな気がした。