イムの娘(いむのこ)   作:槙 秀人

38 / 385
クラスター・ジャドウさん、 エクスプローラさん、誤字報告ありがとうございます。


-----------------------------



01-36話:私()最強?

 私の全速は音速を遥かに超える。制御できる速度であればボルサリーノにも勝てるだろう。

 1分もあれば楽に世界一周できると思う。

 覇気で全身を覆わなければ、焼けてしまうだろうけど。

 普通に抱えて運ぶのならば、一緒に移動する者は無事では済まない。それゆえ二人にはカプセルに入ってもらったわけだ。全速は出さないけどね。

 腕輪を外し、跳躍すると雲の上にいた。

 あらかじめ船の位置は確認しておいたので、すぐさまそちらに向かう。

 飛ぶように流れる景色に目を丸くする二人。

 

 ちなみに100kmほどであれば見聞色で細部まで見る事が出来る。

 個人を特定しないのであれば距離はもっと伸びる。

 四皇ともなれば漏れ出る気配で、かなり遠くからでも探す事は可能だ。

 もっとも私の場合、エイタを使えば正確な位置までとらえる事が出来るので、瞬間移動をつかえばすぐなのだけれど。

 

 目標に近づいたので、速度を通常の月歩まで落とした。眼下にはレッドフォース号が見える。

 ウタの目が船を捉えてその目に涙がたまる。

 

 デッキにも何人かいるようだけど、普通に降りても大丈夫かな?

 さすがに四皇海賊団が六式を知らないとも思えない。

 高度をある程度まで下げて、私はデッキの先端付近に降りた。知っている顔も何人かいる。

 さて、彼らは、私を覚えているかしらね?

 

「「!!?」」

 驚かれるのは、仕方がない。

 海の上で、突然デッキに女の子が現れたらそりゃ驚くのもムリは無い。

 でもね…、全員が全員、私の顔を見て固まるか?

 私が海兵だったらどうするの?デッキにいる全員やられちゃうわよ?

 えっ?これが四皇海賊団っすか?私の認識間違ってた?

 そりゃね。ロジャー海賊団にも弱いヤツは居たよ?

 たとえばバギーとか、バギーとか…。でもヤツは見習いだった。

 こいつら違うよね?私と比べても大人だよね?え~、なんかイメージと違う。

 いや、そんな事はどうでもいいんだよ!!

 

「もしかしておまえ…イオリ…か?フーシャ村で会った。」

 

 おぉ!!覚えててくれた人居た!!この人は確か…ライムジュース…さん?

”いえ、『ビルディング・スネイク』さんです。”

《…》

 

「シャンクスに会いに来たの。呼んでくれる?」

 スネイクさんが顎をしゃくると、デッキにいた一人が船内に走っていった。しばらくするとシャンクスを筆頭に幹部たちが出て来た。

 

「ずいぶんと久しぶりじゃねェか?何しにきたんだ?」

「言ったよね?『途中で放り出したりしたら許さない』って!」

「「!!?」」

 

「解除!!」

「「!!?」」

 二人をカプセルから出してデッキに置き、能力を解く。ウタとゴードンが元の大きさに戻り、そこに居る全員が驚いた顔を見せた。

 そういえば誰も私の能力の事は知らんか…

 

 ウタはシャンクスに向かって駆け出していた。

 

 「シャンクス!!」

 「…ウ…タ…!!?」

 

 驚愕に目を見開いたシャンクスは、それでも飛びついたウタを右手でしっかりと抱き留めた。

 ウタは大泣き状態である。大丈夫かな?

 

「シャンクス! シャンクスゥゥゥ! うわぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「…どうして…ウタが?それに…ゴードンまで!?」

 

 胸にしがみついて泣きじゃくるウタを抱いて、信じられないといった様子でシャンクスが呟く。

 それでもシャンクスは、ウタが泣き止むまでずっと抱きしめていた。

 ウタが落ちつくと、デッキが静まり返っていた。

 

 他の赤髪海賊団の連中も状況が分からない感じだった。でも、だからどうした?

 こいつらも同罪だ。ウタの苦しみなんて考えた事もないだろう!!でも…それは私も同じか…。

 

 少し、いやかなり。彼らへの怒りが静まっていくのを感じている。

 私には彼らに怒りを向ける資格はないのかもしれない。

 

 それでも…

 

 約束を破った事を許すことは出来ない。

 あんな約束一つで阻止できるなんて思ってなかったけど…

 

「赤髪のシャンクス!私との約束はどうなったのかしら?なんなのこれは?あなた達、ウタに何をしたのかわかってる?善意で泥をかぶったつもりなんだろうけど、それがウタにどれだけの悲しみと苦しみを与えたのかわかる?」

「「……」」

「ウタは真実を教えてもらいにここまで来たの。あなた達を嫌いになりたくないからだそうよ?さて、あなたはどうするのかしらね?」

「……」

 

「誰かが罪をかぶらなければならなかった。それはわかる。けれどウタをエレジアに残して立ち去った言い訳にはならないわね。確かに当時ウタは8歳だもの、現実を受け止めるのには幼かったかもしれない。けどね…、裏切られ、捨てられたって思わせる必要があったのかしら?」

 

「…辻褄が合わなくなる。ウタは頭がいいんだ。ウソがバレたら意味が無ェだろ!」

 

「ウソなんて言うからでしょう?」

「「!!?」」

 

「正直に言えばよかったのよ!今は話せないけどウタが大人になったら必ず真実を話すと言えば!ウタは頭がいいんでしょう?だったら大人になるまで我慢したでしょうよ!!あんまり私たちをバカにしないでほしいわね!!それから…、あなた達がウソを言ってたことはあなたの口からウタにも伝わった。ならば真実を話すのはあなた達の義務でしょうね?」

 

「おまえ…最初っからそのつもりで?」

 シャンクスとゴードンが非難の視線を私に向けた。次いで当惑するウタの視線を受けてその表情が苦しそうなものへと変化する。

 

「ウタ!シャンクスとゴードンの顔を見たならわかるでしょう?それでも知りたい?聞くつもりはある?」

 私は軽い調子で言葉をかけた。ウタの決心が鈍らないように…

 

「…知りたい!シャンクス、教えて!本当のことを。あの日の真実を…」

「ウタ…」

 

「たぶん、…私にとって辛いことなんだよね?二人の表情を見てたらわかる。だけど…知りたいの。だって私、シャンクスたちのこと、好きでいたいから!!」

 

「……大きくなったな、ウタ」

 ウタの思いが伝わったのだろう。シャンクスはゴードンと共にあの日の真実を語り始めた。赤髪海賊団の連中も神妙な顔をしてその話を聞いていた。

 

 エレジアが滅んだ日…ゴードンやエレジアの人々が開いたパーティで、ウタの歌声が太古に封印されていた呪われた楽譜を呼び覚ましてしまったらしい。

 ウタウタの実の力を持つ者がその楽譜『TotMusica』を歌う事で、魔王トットムジカがエレジアに顕現してしまい、エレジアに破滅をもたらした。

 シャンクスたちが立ち向かったが、トットムジカを倒す事は出来なかった。ウタの体力が切れてトットムジカが消える頃には、エレジアの国民はゴードンを除いて皆殺しとなり、国が滅んだ。

 シャンクスは、ウタの音楽の道が絶たれないようにと、ゴードンと話し合い、罪を全て引き受けたのだという。

 

「…そう…だったんだ。エレジアは…私のせいで…」

「違う!お前のせいじゃない!!俺がもっと強ければ、俺たちが、あの時にエレジアを守れていれば……」

「いや、そもそも、エレジアの国王だった私は、太古から国に伝わる『TotMusica』の存在を知っていた。それなのにそれを放置していた。罪があるというなら、それは私だ!」

 

 3者がそれぞれ自分が悪いという始末…なんだこれは?コントか何かか?

 擦り付け合いではないのがせめてもの救いかもしれないけど…。

 しかもそれをまだ、神妙な表情で聞いてる赤髪海賊団の面々。

 誰も反論はないのかい?このバカげた掛け合いに口を挟む者はいないのかい?

 

 あ~そうですか。いいですよ。私がガツンと言ってやりますとも。

 

「揃いも揃ってあんたらバカなの?バカらしくて聞いてられないわよ!エレジアを滅ぼしたのも、国民を皆殺しにしたのもトットムジカなんでしょう?なんでそんな魔王(やつ)の罪をあなたたちがこぞって引き受けようとするわけ?おかしいでしょうが!!」

 私が言うとポカンとした表情で3人揃ってこちらを向いた。気にせず、さらに言葉を続ける。

 

「ゴードンは音楽を愛するがゆえに楽譜を処分できなかっただけ。シャンクスは音楽の国であるエレジアにウタを連れて行ってあげただけ。ウタはそこで歌を歌っただけ。それの何が問題なのよ?あなたたちの誰かに責任なんてあるわけないじゃない!ほんと、ばっかじゃないの?」

 言い方は良くなかったかもしれないけれど、それが事実だ。

 ウタがトットムジカの存在を知っていて顕現させたというのならともかく、そうでないならこの3者に責任なんてあるわけない。

 それでもあえて誰かに罪を背負わせるとするならば、亡くなった人も含むすべての人々に罪があるという事になるだろう。

 なぜならこの世の全てのマイナスの感情が集まった存在がトットムジカなのだから…

 

「…すまなかった、ウタ。お前のためと思ってした事が、逆にお前を苦しめていたなんて…」

「ううん。いいの。ねぇ、シャンクス? いまでも、私のこと…その……」

「ああ、何年離れていようが変わらねェよ。ウタ、お前は俺の娘だ。」

「シャンクス!!」

 ウタが嬉しそうに涙を流す。泣きながら、それでも口元には笑みが浮かぶ。

 

 よかった。笑顔が戻って…

 

 シャンクスも、ゴードンも目に涙を浮かべていた。

 私には見られたくないだろうからと、しばらく海を見ている事にした。

 

 ~ ~ ~ ~ ~

 

「久しぶりにお前の歌を聞かせてくれないか?」

「うん!任せて!」

 シャンクスが言った。そして、ウタが答えた。

 

 まさか、ここでウタワールドに行けるとは思わなかったわ。これはちょっと楽しみね!

 

 ウタの体に活力が溢れる。7年前にはこの場所で良く歌を歌っていたに違いない。

 ウタウタの力でウタワールドを創り出すのはかなり体力がいると聞いた。気持ちは戻ったとしても、あのやつれた体では1曲歌うのが精いっぱいではなかろうか?

 ムリはしないでほしいな。

 それでも彼女は楽しそうに、大きく息を吸い込み歌い始めた。

 海岸で歌っていた曲。たしか『風のゆくえ』だ。

 

 

”ウタワールドへ招待されました。招待を受けますか?(Yes/No)”

「!!?」

 

 目を開けているにも関わらず、目の前に半透明のモニターが現れ、表示された文字が目に入る。

 これは、ウタウタの実の能力?

 

 普通であれば強制的にウタワールドに取り込まれるのだろう。たぶん私は眠りの一歩手前でエイタによって引き止められ、判断を仰がれたというわけだ。

 すごいなエイタ。これはつまり、私はウタウタの実の能力をキャンセルして、現実世界に留まる事ができるって事?

 

《マジで!?》

”マジです!!”

 

《キャンセル出来るの?》

”精神干渉ですから当然です。言わせてもらうなら、ペローナのホロホロでネガティブになる事も、シュガーのホビホビで記憶を無くす事も、プリンのメモメモで記憶を差し替えられる事もありません”

《!!?》

 なにそれ、すっげーじゃん!ってか反則じゃん!?

 いや、本来は逆か…。悪魔の実の能力の方が本来反則技なんだもんね。

 

 しかし…とんでもねェな。エイタ。

 

 とりあえず今回はYesとしましょうか。ウタワールドを体験しておきたいからね!!

 

 ってか、もしかして…

 

 私()最強!?

 

 

 

 

 

 




 ってかさ、そもそもあの国にウタを置いていくとかあり得ないんだけど?
 あそこにはまだ楽譜があるんでしょう?また同じことが起こったらどうすんだって話だよ!!

 言いたい事は、実はまだたくさんあったのでした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。