「スカッとする話」から、セリフをいただいています。
~ トイレ掃除 ~
部屋に通された5人の中の2人は見おぼえのある顔だった。つい先ほど会ったばかりなのだが気づいていないようだ。
「あら、あなた達。うちの会社希望だったの?」
「「!?」」
このビルには複数の企業が入っている。面接は、共用の会議室で行うようにしているので、このフロアを使う事が多い。
トイレの清掃はこのビルのオーナーである我が社の仕事。普段は業者の方にお願いしているが、面接のある日の朝は私が清掃を行っている。気持ちよく面接に参加してもらう為なのだが、今日のような事もたまにある。
― 回想 ―
「マジかぁ~、清掃中かよ!」
「清掃中ですけど、気にならなければ入っても大丈夫ですよ?」
入り口のほうから声が聞こえたので、声を返した。
面接時間の1時間前に来ているのは、殊勝な事だな。と思いながら。
「それじゃあ失礼しますよっと!」
入ってきたのは2人組だった。
「へぇ…こんな若い子が清掃してんだ。大変だねェ。」
「いえ、これも仕事ですので。」
「おれ、絶対無理だわ。こんなのが仕事なんて耐えらんねェ!!」
「…」
「おれも。って無理とかってレベルじゃねェだろ!トイレの掃除とかキモいって!!」
「とりあえずこうなったら人間のゴミだわ!(笑)」
「…」
怒りを通り越して呆れ果てていた。ため息もでませんわ。スルーして2人はいないものとして清掃を続けた。
おめぇらは、きったねえトイレで用を足して気持ちがいいのか?
誰かがしなきゃならない事なんだぞ?
嫌がる仕事をやってくれている人たちに対する、感謝は無いのか?
いろいろな言葉が、頭の中を巡ったけれど、最終的に頭の中に浮かんだ言葉は『かわいそうに…』だった。
それはもちろんいろんな意味で…。
今はまだ、そんな世の中ではないかもしれないけれど、感謝の気持ちを持たない者は、最終的に淘汰されていく…。
私の目指す場所はそこなのだ。だからこそ、まずは小さいながらも、私の会社はそういう場所にしたいと思う。
― 回想おわり ―
「こうすればわかるかしら?」
私は帽子をかぶって眼鏡をかけた。首から上が清掃していた時の姿になると、2人は驚いた顔をした後、自分たちが発した言葉を思い出したのだろう。顔を青くした。
「彼らも運がないな…」
面接官の一人がボソっと口にした。
《なんだと!?》
ここで声を荒げてはいけない。
会長職の者が声を荒げて、部下を威圧するなんて光景を、面接に来た若者たちに、見せるなんて事はしてはいけない。
言ってみればパワハラじゃんね?
一応、こっちの世界にもハラスメントの定義はあるのよね。
処罰があるわけじゃないから、女性蔑視のセクハラが、横行している世の中だけれど…。
《彼は確か…企画部の中堅だったかしら?》
”グラン・レー・トーマですね。少し前に承認した、商業エリアの活性化案は、彼の発案によるものです。”
そうだったわね。優秀だと聞いてもいるし、実際私もそう思うけれど…。そういう思考をお持ちなのかしら?
~ ~ ~ ~ ~
「あの…彼が何か?」
「ちょっと気になった事があるの。悪いけど昼休み明けに会長室に来させてちょうだい。」
呼び出した彼に、面接室での発言を問うた。
「そのままの意味ですよ。会長が掃除をしている時にたまたまトイレに入って、トイレ掃除がイヤだと言ったら不採用。運がないじゃないですか。」
「…彼らの言った言葉を教えてあげるわ」
そういって、彼らが発した言葉たちを彼に聞かせた。
「それは…不採用ですね。会長の判断は正しいと思います。不用意な発言でした。申し訳ありません。」
「よかった」
「えっ!?」
「あなたが彼ら側だったらどうしよう。って思っていたの。」
「違いますよ。清掃員の方たちがいるからオフィスもトイレもきれいな訳ですからね。彼らの事をゴミなどと思う気持ちはこれっぽっちもありません。むしろ人が嫌がる仕事をされている方たちには頭が下がります。まぁ、これからトイレ掃除だけをやと言われたら正直、転職考えますけどね。というかヤツ等こそゴミでしょ?」
「そこまでは言わないけどね。」
「すみません。熱くなっちゃいました。」
「フフ…あなたはあれね。もう少し言葉遣いを覚えた方がいいわね?この場はまぁ…、私が小娘だからしかたないけど、目上の者に対する言葉遣いは気を付けた方がいいわよ?気にする人は不快に思うから。」
「はい。気を付けます。」
「呼び出したりして悪かったわ。仕事、頑張ってね!」
~ ~ ~ ~ ~
「なんだお前、この間会長に呼び出されてから仕事バリバリじゃねェか?」
「そりゃぁ、あの人に笑顔で『仕事頑張ってね』とか言われちゃあよ」
「マジか!?うらやましいな!!ってかお前それ、あんまり言わない方がいいぞ?」
「なんで?」
「ファンクラブの奴らに殺されるぞ?」
「ファンクラブって…会長の?あれって非公認じゃなかったっけ?」
「非公認だけどバカに出来ねぇんだよ!会員は世界中に居て、会員数はビビ王女のファンクラブを超えてもうすぐ3桁だとよ。」
「100?」
「ばーか、桁がちげーよ。100万だ」
「マジで?」
「だってお前、あの天竜人にも多くの会員がいるって話なんだぜ」
「なんでそれで公認じゃないんだ?」
「会長が認めないって話だけどな。」
「それもすげぇ話だな。」
「ま、会長らしいけどな。」
「…おれも…会員になろうかな?」
「おれは会員だけどな!」
「えっ!?」
「だからこの会社にしたんだ!結構多いぜ、そういう連中。」
そんな会社でございます。