念のためにフード付きのトレーナーに着替え、私はオレンジの町へと足を踏み入れた。
何でフード付きかと言うと、万一バギーと会うことになったら、フードで顔を隠そうと思っているからだ。無駄な混乱?は避けた方がいい。気づかれないならそれに越したことは無い。めんどくさいのは、ルフィのお守りだけで十分です。
ルフィたちの気配に向かって歩いていると、第一町民と遭遇した。
「誰じゃ、そこの
町長のブードルさんに呼び止められた。多分、シュシュへのエサやりに行く途中なんだろう。
一応、挨拶しておこうかな?
「こんにちは、私はイオリといいます。ついさっきこの島に着いたんですが、仲間がこの先に居るはずなんです。」
「わしはこの町の長、さながら町長のブードルという。悪いことは言わん、すぐに出て行った方がいい。今この町には海賊が居座っておる」
知ってます。その海賊船から略奪してきたばかりだし…
凄く悔しそうな顔をしながらも、見知らぬ者に忠告してくれるのは、人のいい証だね。
「忠告ありがとうございます。仲間と合流してから、今後の事を決めたいと思います。」
現在、私はブードルさんと一緒に町を歩いている。なぜか成り行きでそうなった。
ルフィたちは原作通りにペットフード店付近にいるみたい。なんで店の前だとわかるかと言えば、ルフィ達以外に小さな気配があるからだ。おそらくこれがシュシュの気配だろう。
しばらく歩くと、檻に入れられたルフィが見えて来た。
「犬~! お前今飲んだの吐けー!!」
ルフィは顔が四角い犬、シュシュの首を絞めていた。その近くでへたりこんでいるゾロと、呆然としているオレンジ髪の女の子……ナミだ。
飲まれたんだな、鍵。そしてゾロ、お前は結局負傷したんかい!
ゾロは腹部から、かなりの出血をしていた。
「小童ども! シュシュを苛めるんじゃねぇ!!」
バン、とブードルさんがルフィたちに怒鳴った。
「シュシュ? あーっ! イオリー!!」
ルフィがシュシュから手を離して満面の笑顔でブンブンと私に手を振ってきた。
ナミは、なんだか驚いている感じ?
「ルフィ、お前バカ?」
いや、聞くまでも無くバカには違いないけど。私の呆れたような声に、ルフィが膨れた。
「失敬だぞ、お前!」
何が失敬だ!!鳥に攫われて、見付けたら檻の中って…バカとしか言い様がないよ。
「お前何してたんだよ! お前がいれば、おれ、こんな檻なんてすぐ出られたのに!」
いやいや、そもそも出れるでしょ?
「道に迷ってたのか? ダメだぞ、あちこちふらふらしてちゃ!」
あ゛?
「お前…しばらく檻の中で反省してろ!」
「えーーーー!?」
私の言葉にルフィはショックを受けていた。言ってみればガーン状態だ。
思いっきりポカをかましたヤツが何を言うか!!私は迷子になった事なんて一度もないわよ!!
「それよりゾロ、やられたの?」
ここから出せ、と言わんばかりに鋼鉄の檻をガシガシと噛むルフィはほっといて、私はゾロの腹巻を捲って傷口を見た。
あら~、けっこう、グッサリいってるねぇ。
「………油断…しちまった…」
もの凄くバツが悪そうに視線を合わせてくれないのは、私からバギーの能力について聞いていたからだろう。事前情報を生かせなかったわけだからね。
「ブードルさん」
私は後ろでナミとルフィに自己紹介していたブードルさんに声を掛けた。
「すみませんけど、一応コレの応急処置をしておきたいので、どこか場所をお借りしたいのですが?」
コレ、のところでゾロの腹の傷を指すと、ブードルさんはあっさりとペットショップの隣にある自宅に入れてくれた。
「あ~あ」
服を捲ってよく見てみると、傷は見事に脇腹を貫通していた。
「局部麻酔するわよ。痛かったらごめんなさいね?」
「誰に言ってやがる」
おめぇにだよ!原作じゃ、チョッパーが入るまで碌に治療してなかったよね?よく無事だったわね。って、もしかして、それで回復力が上がったとか? それはないか…。
医療器具用の収納貝を取り出し、タオルで血を拭き取り、傷口の周りをアルコール消毒した後、5,6ヶ所に局部麻酔を打つ。5分ほど待って、感覚が鈍った事を確認してから傷口を縫っていく。腹側と背中側、両方を縫い終わると、再度アルコール消毒をして、大きな絆創膏を貼ってその上から包帯を巻く。透視で確認したけど、とりあえず内臓には損傷がなかったのは幸いだった。内臓がやられてたら手術になってたところだよ。まぁ、ゾロならほっといても治るのかもしれないけどね?
「取りあえずこれでいいかな。ずいぶんと血を流したみたいだけど、血液が無いから輸血はできないわ。暫く大人しくしときなさい。あと、コレ飲んで!」
私は薬とコップ一杯の水を差し出した。
「痛み止めと抗生剤よ。」
ゾロは案外素直に受け取ってくれた。
「おおげさなんだよ。こんな傷、寝てりゃ治るんだ」
まぁ、ゾロならそうだろうね。原作では、勝手に治ってたし…
「私はルフィたちのところに行ってるから、ゾロは取り合えず寝ときなさいよ。寝れば治るんでしょ?」
「……もう」
私が立ち上がり、部屋の扉を開けた時、微かにゾロの声が聞こえた。
「もう、油断はしねぇ」
キッパリとした宣言に、私は小さく微笑んだ。たぶん、ゾロはもう油断しなくなるんだろう。
これで迷子癖?が無ければなぁ~…
「きっとこの店はシュシュにとって『宝』なんじゃ」
私が外に出ると、丁度ブードルさんが語っているところだった。
「あ、イオリ!」
私に真っ先に気付いたのはルフィだった。
「いい加減出してくれよ!」
ガタガタと格子を揺するルフィ。まるで駄々っ子だ。そうね、確かにそろそろ出した方がいいかも。
「おれ、腹減ったんだよ! アイツらの宴会もただ見てただけだったし! 肉食いたい! 鳥肉!」
あ゛!?
「反省が足りないようね?檻の中で猛省してろ!!」
「えーーーー!?」
お前は、何でその中に居るんだ?まぁ、檻の中に居るのはナミに騙されたからだろうけど、そもそもこの島に先に来たのは、おめーが食いたいって言った鳥肉獲ろうとしたからだろうが!!
再びガーン状態になったルフィは無視し、私はナミに視線を向けた。
「久しぶりね。」
「やっぱり、そうよね?人違いかと思ったわ。」
「なんだイオリ?お前、ウチの航海士の事知ってんのか?」
「!!? ナミ、あなた!ウチの航海士になってくれるの?」
私は思わずナミの両肩を掴んで詰め寄った。ナミが驚いた顔を見せる。
しまった!!私今、メッチャ切迫した感じで言っちゃったわ。
「も、もしかして…コイツがイオリの
「一応ね。」
「ふ~ん、海賊になったんだ。」
「成り行きでね。私はこの子のお守りなのよ。」
「あ~なるほど。なんとなくわかるわ。」
ルフィをちらりと見ながらナミが答える。この子は分かりやすいから、短時間でも理解できちゃうのよね。
「失敬だぞ、お前ら!!」
檻の中でルフィがのたまう。
鍵をシュシュが呑み込んで出られないと言って、ずっと執拗に私に出してくれと言ってますけど?
はい!ここで質問!!
この檻は原作でリッチーが破壊した。ルフィはそれで出られた訳なんだけどね。
その後、リッチーにぶん殴られて飛んでくけど、それは問題ではないのです。
リッチーが破壊できるんだよ?バギー一味の副船長の飼いライオンが噛み砕けるんだよ?
ルフィに破壊出来ないわけがないじゃない!ゾロは無理でもルフィならぶん殴れば砕けると思うんだけどな?
それにだね、この檻に海楼石は使われていない。
格子の間には手を出せるどころか頭がギリギリ通らないくらいの隙間が開いている。
って事は…だ。
ルフィ、お前…普通に出れんじゃね~の?
出れないと思っているから出れないだけで、ルフィは出ようと思えばいつでも出れた訳だよ。
先入観って怖いわ~。
普通の人なら出れないだろうけど、お前はゴムだよ?
格子を曲げようとか壊そうとかする前に、グッと力を入れて抜け出ようとしてみなよ。
簡単に抜け出れるから!!
「グオオオオォォォォォォォ!!」
くだらない事?を考えていたら、猛獣の雄たけびが聞こえた。
敵の副船長が来たみたい?
「も、『猛獣使い』のモージじゃ!」
ブードルさんの悲鳴にナミも反応し、2人は早々に逃げてしまった。
物陰からこちらを窺ってるのがよく解る。
「なぁ、出してくれよイオリ!!何か来ちまったよ」
そうだね、そうしたらアイツら瞬殺でシュシュの『宝』も守られるわけだ。
「動物が来たみたいだしな! 久し振りに肉獲るぞ!」
…うん?
「お前、一生
「えーーーーー!?」
お前の頭にはソレしかないのか!?
もうちょっとルフィには飲食以外にも考えを向けて欲しい。
いいや、もう。
私は、ルフィが檻から出れることを教えてやった。
ルフィが檻から抜け出ると、モージーが近くまで来ていた。抜け出た瞬間は見られてないので、ルフィがゴムだという事はバレていない。
「ほんとだ出れた。なっはっは!!」
ルフィはうれしそうに、胸を張って笑いやがった。
お前もっとちゃんとまわりを見ろや!!リッチーが前足振りかぶっとるやんけ!!
原作とは多少異なるシチュエーションだけど、ルフィはリッチーにぶん殴られて飛んでった。
家1軒を貫通して、隣の通りまで飛ばされたようだ。
あ~あ、無駄に建物壊しやがって…。
噛まれたり、爪で切り裂かれたわけではないのでルフィにダメージは無い。気配でわかる。
原作と変わらない感じだけど、ルフィを助けに行った二人(村長とナミ)は心配というより戸惑いの方が大きい感じだった。
という事で、私が闘る事になるわけだ。
VSリッチーはなんて事はない。
原作でのルフィの立ち位置になった私は、モージーからゾロは何処だと問われたけれど、そんな事を敵に教えてやる筋合いは無いので突っぱねた。
怒ったモージーはリッチーに私を襲わせようとしたけれど、リッチーは、私の近くに来た途端におとなしくなった。 野生の本能だろうか?
ふせをした状態で、体を小刻みに震わせている。シュシュは何ともないのにね?
頭に手を置いたらビクっとしたけれど、そのまま黙って目を閉じた。
死を覚悟したようにも見える。
モージーは何が起こったのか全く理解できず、リッチーをたきつけようとして近づいてきた。
無防備のまま近くに来た敵を、放っておくほど私は甘くない。モージーは私の回し蹴りであっさり沈んだ。
ルフィが戻ってきて、リッチーに殴りかかろうとしたけど止めさせてもらった。
猛獣とはいえ、既に戦意がない動物を虐待しようとするんじゃねェ!!
「こいつに殴られたんだぞ!!一発殴らせろ!!」
「ダメージねェだろお前!!そもそも殴られたのはお前が油断したからだっつうの!!それに、命令したのは
すまなそうに頭を下げるリッチーを指さして、
「ほら、この子は謝ってるみたいよ?」
と言うと、ルフィは
「謝ったなら許す」
とリッチーを許した。気絶してるモージーには一発入れてたけどね。
う~ん…どうなのそれは?
気絶したヤツに追い打ちかけるって、それはちょっと無いんじゃない?と言ったら、
「だって…悪いのコイツじゃんか!!」
と、ルフィは口を尖らせてながら言っていた。
しかたがないので今度から、気絶したヤツを殴るときは手加減してやれ!と伝えておいた。