結局お昼頃までメシ屋で過ごし、私もナミも、もちろんルフィも昼食を頂いた。
久々に外で食べた気がする。しかも支払いは、ウソップのおごりときたもんだ。
別にゆすったりたかったりはしてないですよ?
「私も何か食べようかな?」
と言ったら、自分から『おごらせていただきます』って言ってくれたんだもの。
お言葉に甘えさせていただきました。
ウソップは支払いを済ませて、時間が来たからと店を出て行ってしまった。
そして、さっきから店の外からちらちらと中を覗き込む3つの気配。入って来るならさっさとどうぞ?
「「「ウソップ海賊団参上!」」」
そう言って、店に入って来たのは、明らかに緊張した面持ちの子ども3人組。海岸で逃げてった、ちっこい奴らだ。しかも、見事に頭が野菜型。名前を覚えるのが簡単そうね?
「おい、キャプテンがいないぞ……」
「まさか…やられちゃったのか?」
ウソップの姿が見えない事で、3人は何やら勘違いに走ったようだ。
「おい、海賊ども!」
「われらがキャプテンをどこにやった!」
「キャプテンを返せ!」
「……」
君たち、あのね?『海賊団参上』って名乗りを上げておきながら、私たちに『海賊ども』っておかしくない?
「あー、肉美味かった!」
ルフィがいいタイミングで、いい感じのセリフを吐いた。
「「「肉ーーーーー!?」」」
さすが、ウソップの弟子たちだ。なかなかに面白い!ナミも笑っているのが見える。
「お前らのキャプテンならな…」
「な、なんだ!!何をした!!」
「さっき……食っちまった」
ゾロは解ってて悪ノリしてるね。それじゃ、私も。
「そうね!あいつは自ら進んで、私たちの食いものになってくれたんだから。」
ウソではない。ウソップはバカ高い飲食代を奢ってくれた。私たちはその懐を食いものにさせて頂いたのだ。
「「「ぎゃ~~~~~~!!」」」
お子様3人組が涙目で驚愕している。
それにしても何でかね?
「「「鬼ババ~~~~~~!!」」」
「何で私を見てんのよ!!!」
なぜか、何も言っていないナミに、子供らの非難が集中していた。しかも、泡吹いて気絶しちゃったし。
「あんたらが変なこと言うからでしょ!」
笑ってたら、濡れ衣?を着せられたナミに怒られてしまった。
意識を取り戻した3人組に聞いたところ、ウソップは毎日同じ時間に屋敷に行き、
お嬢様を元気付けるためにウソを聞かせているのだという。
「それってウソっていうより、漫談みたいなものなんじゃない?」
ウソップは騙そうとしてるわけじゃないだろうし、お嬢様もその話を信じているわけでもないだろう。
面白い話を聞いて盛り上がって楽しんでいるだけなんだろうから。
ウソップのしている事は、ある意味カウンセリングに近いものなんじゃないかな?
病は気からと言うし、気持ちが晴れれば元気にだってなれる。
「あいつ、いいヤツじゃん」
ルフィも感心している。
「うん! おれはキャプテンのそんなお節介なところが好きなんだ!」
「おれは仕切りやな所!」
「ぼくは、ホラ吹きな所!」
たまねぎって確か、小説家志望だっけ? ホラ吹きな所…というのはたぶん、作り話がうまいって事だと思う。
言葉通りだとおかしいもんね。
原作ではそのホラが、次々と現実になっていくわけだけど…
シャーリー顔負けじゃないのかな?
それにしても、子供たちに慕われてるねェ…
「もしかして、もうお嬢様、具合いいのか?」
「「だいぶね!」」
両親を亡くした時から寝たきり状態って事は、体が弱いというよりも精神的な部分が大きいのだと思う。むしろ体が弱っているのは、寝たきりになっているからじゃないのかな?まさに、病は気から。だ。
「よし! じゃあやっぱり、お嬢様に船を貰いに行こう!」
ルフィが”どん”と宣言した。
「さっき諦めるって言ったじゃない!」
早すぎる前言撤回にナミが食い付いた。
でもね?
方針転換は早い方がいいのですよ。もっとも、方向転換ばっかりしてると信用を失いますけど…
「そのお嬢様の具合が悪くないなら、いいんじゃないの?ウソップがホラ話で元気付けてるって事なら、前の島の珍獣の話とかしたら面白がってくれるんじゃないのかな?」
遠目で見たけど、すっごく珍しい生き物ばかりだった。独自の進化にも程があると思う。
そうしてやってきた屋敷は、まさに豪邸だった。まぁね…カノンの住まいと比べちゃいかんよ。
「ごめんくださーい!船くださーい!」
屋敷の人どころか門番も居ないところで、この子は何を言っているんだろう?
マキノさんに習った挨拶も、こんな使い方では残念でしかない。
「さあ入ろう!」
「何やってんのよあんたは!!」
門をよじ登って入り込もうとしたルフィの足を掴んで、引っ張り下ろした。
「見てただろ?挨拶ならしたぞ!」
「誰によ?門に向かって挨拶しても意味ないでしょ?それに挨拶したからって、門をよじ登っていいという事にはなりません。」
ルフィが口を尖らせる。というか、ウソップはどうやって入ったのかしら?もしかして…よじ登ったのかな?
そもそもこの扉は、鍵がかかっているのかしら?
「ほら、開いたじゃない!」
門に鍵はかかっていなかった。勝手に開かないようにフックはかかっていたけれど、取っ手を回すと普通に開いた。
鍵がかかっていたら、念動力で開錠しようと思ったけど、必要なかった。夜なら鍵がかかってるかも知れないけど、ちょっと不用心じゃね?
私たちは門をくぐって屋敷へと入った。一応これも不法侵入には違いない。見つかれば追い出されても文句は言えない状態だ。
ウソップは、カヤに巨大金魚の話を聞かせている所だった。
巨大金魚…。島喰いの話だと思う。
カヤも楽しそうに聞いている。
「キャプテン!」
3人組の呼びかけに、ウソップは驚き顔で振り向いた。慌てているのは気恥ずかしさからだろうか?
「何でここに!?」
「この人が連れてけって」
そう言って指差されるルフィは、ムダに胸を張っている。
「お前がお嬢様か? 船くれ!」
コラ!
「あんがお!」
訳すれば、『何だよ!』だろう。言葉が変なふうになっているのは私がルフィの頬を引っ張っているからだ。
「まずは挨拶!!」
勝手に入って来たんだから、せめて名前と目的ぐらいはちゃんと言おうよ。
摘んでいた頬から手を離すと、ゴムの頬はビヨンと元に戻った。
「あなたは?」
あーあ、挨拶する前に聞かれちゃったじゃん!
「こいつらはおれの噂を聞いて、遥々ウソップ海賊団に入りに…」
「…何かな?」
「すいません」
ホラを吹こうとしたウソップをジト目で見ると、途中で言葉を切って謝ってきた。まだ怯えてますね。
ルフィはちょっと頬をさすっている。覇気は使っていないので、痛くはないはずなんだけどな?
「おれはルフィ! 海賊だ! おれたち、でっかい船が欲しくてさ」
「そこで何をしている! 困るね君たち!勝手に屋敷に入ってこられては!!」
ルフィの言葉を遮って、現れたメガネをかけた執事こと、クラハドールこと、クロ。
カヤが弁護してくれているけど、聞く耳は持っていないらしい。君は一応雇われの身のはずですが?
「さぁ、出て行ってくれ。それとも何か用があるのか?」
そのセリフに、ルフィは満面の笑みを浮かべた。
「おれたち、船が欲しいんだけど」
「ダメだ」
言い切る前にスッパリ断られた。まぁ、この場合はクロの返しは正しいだろう。
いきなり現れた初対面の人間に、無償で船をくれるようなお人よしの方はそうそういない。
ずーんと落ち込むルフィが面倒なので、私は干し肉を渡してあげた。
大抵の場合、これでルフィは機嫌を直してくれるから、常に携帯しているのです。実際今も、即座に復活している。
「!」
クロがウソップの姿に反応してみせた。
「君は、ウソップ君だね? 噂はよく聞いてるよ。村では評判だからね」
「…」
嫌味ったらしい言い方だ。冷静に言われると、なおさら
クロの嫌味にウソップは得意の軽口で対応していたけど、どうにもこうにも分が悪い。何せ相手は『百計』のクロだからね。
頭の回転や口の達者さで勝つのは至難の業だろう。ウソップは必至に問題は起こさないように注意して対応していた。
それでも…人にはどうしても、許せないというものがある。
例えばそれは、エースが父親の事を言われたり、ルフィが命の恩人のことを悪く言われたり…、私が女性蔑視の言葉を聞かされたりと、譲れないことというのは確かに存在する。
そして、ウソップの場合のそれは…
「所詮君は薄汚い海賊の息子だ」
「!!?」
父親への侮辱なんだと思う。