「クラハドール! 私の財産が欲しいなら全部あげる! だからこの村から出て行って!!」
剣や拳を交えるだけが戦いではない。そういう意味では、カヤは己に出来る限り全力で戦っていた。病弱な、か弱い女の子がこんなに頑張ってるっていうのに……。
「何で
「ごめんなさい」
ルフィは正座しながらうなだれている。
うん。正座はまた今度じっくりしてもらうとして、今は敵と向かい合ってくれ。それに、謝る相手は私じゃないでしょうが!
「後でゾロと、ウソップにもちゃんと謝りなさいよ?」
ゾロとウソップはお前が寝てる間も戦ってたんだから!
クロネコ海賊団から宝をせしめるタイミングが後でもよければ後にしたけど、ルフィが勝ったらすぐに退散するじゃない?
今しかなかったのよ。
まぁ、ナミに任せておけばよかったのかも知れんけど、ほら、他にも敵がいたかも知れないじゃん?
誰かな? 見聞色で誰もいないのわかってただろ?とか言ってんの!?
……すみません。私も悪かったです。 後でルフィと一緒に二人に謝ります。
一方クロは、自分が欲しいのは金だけではない・平穏もだと言っているけれど、3年間静かに暮らしていても、戦いを忘れられていない男が平穏を手に入れたところで、長続きするとは思えない。
「逃げろカヤ、そいつは本気だ! お前の知っている執事と思うな!」
ウソップのパチンコはクロを捉えている……が、クロは特に気にしていないみたいだ。
撃たれても避けれる自信があるのだろう。
しかしカヤは逃げなかった。銃を構えてクロに向ける。
「村から出て行って!」
カヤは本気だ。目を見れば解る。それでもクロが余裕を崩さないのは、自信があるからだろう。カヤに撃たせない自信が。
「憶えていますか? 3年間、色んなことがありましたね。」
クロは思い出語りを始めた。こうして思い出話をすることで情に訴えるというなら、カヤには救いだったかもしれない。
しかし…
「全ては貴様を殺す今日この日のため!!」
突き付けられたのは、楽しかった思い出の全否定。
涙を流して震えるカヤの心情は、察して余りある。カヤの両親がヤツの手にかかっていたなら、彼らも同じ思いをさせられていたかも知れない。
「かつてはキャプテン・クロと呼ばれたおれが、小娘に付き合ってご機嫌を取りながら過ごす日々……解るか、この屈辱が!」
名を捨てたと言いながら、しっかりと拘っているあたり、平穏に暮らすなんて事は無理だと言っているようなもんだ。
3年も寝食を共にして、情のひとつもわかないようじゃ、この件がうまくいったとしても先が知れてる。 それがわからないとは… 『百計』の名が泣くぞ?
悲しみのあまり、とうとうカヤは、持っていた銃を取り落とした。
「クロォォォォォォォ!!」
ウソップが激昂して殴りかかったけど、あっさりかわされた。パチンコではなく拳が出た辺り、ウソップの怒り具合が見て取れる。
「ウソップ君……君には関わりのない話だ」
クロはさして興味も無さそうにウソップに猫の手を振るう。だけど、その刃がウソップに届くことは無かった。
「鉄塊」
私は剃で2人の間に入り込み、それを受け止めた。
”ガキン”と金属同士がぶつかった音が響く。
私の姿を確認して、クロの表情が歪んだ。
「貴様……確か、おれを思いっきり蹴ってくれたヤツだな」
その顔には、強い屈辱が刻まれていた。
しかしなんだね。
私が気配を抑えているとはいえ、自分の方が上だと判断しているのは何故だろう?
そもそもコイツは覇気が使えないんだから、相手の強さを判断するのは速さと力と技でしょう?今の状態でも、その全てにおいて、私はクロを上回っていると思うんだけど?
相手の強さを測れないのであれば、それは”弱い”と言わざるを得ない。
それとも、怒りに我を忘れているだけかしら?
でもねぇ…
「お前に腹を立ててるのは、ウソップと私だけだと思わないほうがいいわよ?」
言い終わるとほぼ同時に、クロは吹き飛んだ。
「ぐっ!」
流石にあれだけ距離のある相手には注意を払っていなかったからか、クロは碌に受け身も取れずに吹っ飛ばされた。
「手ェ出されんのがそんなに嫌なら、あと100発ぶち込んでやる!!」
クロをぶっ飛ばすために伸ばされていた腕を引き戻したルフィが、そう宣言した。
「カヤさん、行きましょう!」
「あの羊に説得は通じません!」
「ここは、キャプテンたちに任せて!」
お子様3人組が、カヤを引っ張っていこうとしていた。
与えられた任務、『カヤを守れ』を全うしようとしているんだろう。
「でも……!」
ウソップのことを気にしているのだろう。カヤがまだ迷っている間に、クロが起き上がる。
その視線の先にいるのは、ルフィ。あれれ、私への怒りはどこいった?
「少々効いた。妙なことをする……貴様、悪魔の実の能力者か」
グランドラインではない、この東の海ですぐさまそれに思い至って動揺も見せない辺り、クロもそれなりに肝が据わっている。
「おれはゴムゴムの実を食ったゴム人間だ!」
「何ィ、悪魔の実!?」
「本当にあったのか!?」
「それで手や足が伸びたのか!」
モブたちが慌てふためいている。ウザいので黙っててほしいんだけどな?
「ジャンゴ!」
クロは坂の下のジャンゴを呼んだ。
「この場はおれがやる!お前は計画通りカヤお嬢様に遺書を書かせて殺せ!」
この場は、って……ルフィにゾロに私……ウソップもかな? を、1人で相手する気なの?
いくら懸賞金額が1600万ベリーだからって、自信過剰がすぎるんじゃない?
「カヤ! 早く行け!」
ウソップの呼びかけに、カヤが漸く動きだす。お子様3人組に連れられて、後方の林へと逃げ込んで行った。
「テメェは!」
ウソップの怒りは随分と大きいようだ……当然だろうけど。
「3年も一緒にいて! 何とも思わねぇのかよ!」
「思わんな。」
逆にクロの答えには迷いも戸惑いも無かった。いっそ清々しいほどに…
「カヤはおれが欲しいものを手に入れるための駒……死んで初めて感謝しよう」
「! 何だと!」
「そんな問答をしてる場合じゃないみたいよ」
カヤを追おうとしているのはあくまでもジャンゴ。そしてそのジャンゴは、今まさに坂を登ろうとしている。
滑る油も飛び越えるとは……流石に、それなりの身体能力はあるんだな。
「止まれ。この坂を通すわけにはいかねぇ」
ゾロが刀でその行く手を遮った……!
「ゾロ、後ろ!」
「!」
ジャンゴと向き合っていたゾロの背後から、抜き足でも使ったのだろう、クロが突如斬りかかった。
ゾロは受け止めたけど、その隙にジャンゴはゾロの横を通過する。一方でクロも、ゾロから離れた。
やるか……
と構えようとしたけど、私よりもウソップが動く方が早かった。
「止まれ!」
パチンコをジャンゴに向けて威嚇するウソップ。それに対してチャクラムを構えるジャンゴ。
「無駄なことを……お前じゃおれには敵わねぇよ」
「敵わなくても守るんだ!」
パチンコを構えるウソップの手足は震えていた。
「おれはウソップ海賊団のキャプテンで!勇敢なる海の戦士なんだ! あいつらはおれが守る!村にだって手出しはさせねぇ!」
決めるところは決めるじゃない。
『おれが守る』と言うならば、本命はウソップにまかせようかな?
「ウソップ」
私は視線をジャンゴに固定したまま、極小さな声で囁いた。
「私が隙を作るわ。後はあんたに任せるから、一発で仕留めなさいよ!」
私の言葉に、ウソップは小さく頷いた。
「言うのは簡単だ。が、実力の差ってモンがある」
実力をわかってないのはどっちかしらね?
「嵐脚・線!」
「!? どわっ!」
完全にウソップに注目していて私の存在を気にしてなかったんだろう。ジャンゴは慌てて斬撃を避けた。
「必殺……」
ウソップが狙いを付けているのにも気付いているだろうけど、咄嗟の事態にジャンゴは反応しきれていない。余裕をかましすぎた結果の、自業自得だ。
「火薬星!!」
「ブバァ!!」
小さな爆弾が正確にジャンゴの顔面で炸裂した。
いくら小さいと言っても、あんなモンが顔面で破裂すればそのダメージはでかい。ジャンゴはそのまま意識を飛ばして倒れた。
その様子を見ていたクロの額に、青筋が浮かんでいる。そりゃそうだろう、クロの作戦には最低でもジャンゴは不可欠だ。
いくら後で始末するつもりとはいえ、カヤに遺書を書かせる前にジャンゴが脱落するのは許せることじゃないのだろう。
「貴様ら……死ぬ覚悟は出来ているだろうな……!」
多分今ヤツの考えでは、さっさと私たちを始末してジャンゴを叩き起こし、カヤを追いかけようって算段だろう。
既にクロの立てた計画に支障は出ているが、それが叶えば修復は可能だろう。まだ狂ってはいない。それがギリギリの所でクロを抑えているのかもしれない。
「死なねぇよ!」
凄んでいたクロの眼前に、またしてもルフィの腕が伸びてきていた。クロは抜き足でそれを避け、ルフィに向き直る。
「戦う前に1つ聞いておく。何故よそ者の貴様らがしゃしゃり出てくるんだ。」
一瞬、ルフィはキョトンとした顔になった。が、すぐにニッと笑った。
「死なせたくない
その答えに、ウソップがちょっと驚いた顔になってる。お前のことだよ、お前の!
反応を見るに、わかってるだろうけどね。
「それが貴様の死ぬ理由か」
「死なねぇって言ってんだろ!」
臨戦態勢に入っている2人の船長(まぁ、クロは『元』船長だけど、今回の事件の黒幕なんだからそう呼んでもいいだろう)に、他の者は下がった。ゾロも、既に刀を鞘に納めている。私も今は、傍観体勢である。
「おれはあいつらを追いかけるぞ!」
ウソップの関心はあくまでもカヤとお子様3人組にあるんだろう。
少し慌てた様子で林へと走っていった。決して、この場から逃げたわけではない。あくまでも大事な者たちを心配しての行動だ。
追っ手がいないとはいえ、カヤの身体が弱いのは本当だしね。途中で動けなくなってやしないか、と心配するのは当然だろう。
そして、ついに最終局面へと突入した。
ルフィVSクロの戦いが始まり…
そして、すぐに終わった。