イムの娘(いむのこ)   作:槙 秀人

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02-65話:伝家の宝刀

 船がドクロを掲げれば海賊船、カモメを掲げれば海軍船。

 原作W7の過去編で船大工トムが言っていたことだ。

 ゴーイング・メリー号も、ドクロの海賊旗を掲げて初めて海賊船となる。

 逆を言えば、海賊旗を掲げていない今はまだ、この船は海賊船ではなく、ただの船だ。

 

 これからこの船はバラティエに向かう事になる。まだ、決まってないけどそうさせる。

 そこには、休暇?の海軍船が来ているはずだ。そう、フルボディが居るはずなのだ。

 この船が海賊船でなければ、砲撃を受ける事はないだろう。

 

 ルフィはゴムゴムの風船で、狙いを定めて打ち返せるけれど、100%の命中率では無い。

 となれば、海賊船だった場合、原作と同じことが起こる可能性は非常に高い。

 なるべくなら避けたいもんだ。ルフィがこき使われるのはいいけど、相手が迷惑するからね。

 

「なぁイオリ、ペンキってねェのか?」

「買ってないわよ?そもそも、何に使うのよ?」

 

「マジか!?海賊旗書こうと思ってたのによ!」

 ちゃんとした船を手に入れたことで、前々から考えていたマークを描こう!

 と意気込んでいたルフィだけど、ゴメンなさいね。もう少し後にしてほしい。

 

「じゃあ、次の島で買っとこうか?」

「おう!頼んだ!!」

 ちなみにペンキも収納貝に入ってます。

 既にゾロやナミ、ウソップにも聞いていたのだろう。ルフィは案外あっさり諦めた。

 

「それより、何だか嬉しそうね?」

 ペンキが無くて沈んでしまうかと思いきや、ルフィが、何となく上機嫌だったので聞いてみた。

 そうだった、とルフィが笑顔になった。

 

「ウソップがスゲェんだぞ! 1発で的に大砲を当てたんだ!」

 あぁ、そういえばさっき大砲を撃った音がしてたわね。

 

「で、おれはあいつを狙撃手に決めた!」

 妥当な人選だと思う。

 あ~…、ってことは、もうしばらくするとここにヨサクとジョニーがやって来るわけだ。

 フルーツジュースでも用意しときますかね?

 ジュースはライムとレモン。それとガイモンからもらった各種フルーツを使ってミックスジュースもつくってある。

 飽きないようにね!

 

 私がキッチンで玉ネギを切っていたら、その背後のテーブルに腰掛けたウソップがルフィに、不甲斐無いことしてたら船長交代だ、と宣言していた。対するルフィは特に気にした様子も無い。

 

「それよりさ、おれ、グランドラインに行く前にもう1人、必要なポジションがあると思うんだ」

 ルフィが珍しく的を得た発言をしてる。けれど、私からすると考えている事は丸わかり。

 発言自体は的を得ていても、考えている事は的外れだから呆れるばかりだ。

 

 切り終えた玉ネギをひとまずボウルに除け、今度はニンジンに取り掛かる。さっきジャガイモとマッシュルームも切ったし、後はこれと鶏肉と……。

 

「必要なポジション? 何かあった?」

 ……あれ? 何でナミは不思議そうな顔してるんだろう?

 

「何言ってんだ、お前!海賊船にはやっぱり音楽家が必要だろ!海賊は歌うんだ!」

 やっぱり! ルフィの熱意は音楽家にのみ向けられていた!

 私は大きな溜息が漏れるのを止められなかった。

 

「ルフィ、音楽家はいったん忘れてくれない?」

 ニンジンを切り終えて、今度は肉。ルフィの要望により大量投入せねばならないから大変だ。

 

「でも、イオリだってほしいだろ音楽家?」

 なんでやねん?私がいつ、音楽家が欲しいって言った?

 そもそも私もいろいろ楽器を演奏できるし、楽器用の収納貝もあっていろいろ持ってるけど、そんなに何度もお前に要望されてないよね? それよりもっと他に肩代わりしてもらいたい役目があるんだよ!

 シェルズタウンで言ったじゃないさ!コックと船医!!

 

「それより、もっと大事なポジションがあるでしょう?」

「?何が必要なんだ?」

 ウソップまでもかい!何でお前までそんなこと言うんだよ?

 

 材料のカットが終わったから、次は炒めないとね。

 さて、さっき小麦粉もバターで炒めといたし、牛乳を入れてっと…。

 

「何って、コックよ、コック! 海のコック!」

 私の発言に、全員キョトン顔……何故に?

 

「メシならお前が作ってくれてるだろ?」

 えっ!?

 

 ゾロに言われて気づいたよ。

 要するに、私が料理に勤しんでるもんだから、みんなの頭からコックが抜け落ちたってわけか。

 ウソップには言ってないけど、ゾロにもナミにも、私はコック代理だって言ったはずなんだけどな?

 

 ちょっと大きなキッチンを手に入れて、人数も増えたから、気合を入れて料理に勤しんでしまったせいで勘違いされちゃった。 でもね? 今の私はまだ(・・)本職に遠く及ばないのよ。

 料理は好きだし、ストレス発散にもなるから作るのは別にいいんだけど、やっぱり本職にお願いすべきと思うんだよね。

 

「テメェら全員出て来ーーーい!! ぶっ殺してやるーーー!!」

 

 私がちょっとトリップしてたら、外から賑やかな声がしてきた。同時に、ドカッ、バキッという、何かを破壊するような音も一緒に…。

 どうやらジョニーが来たようだ。

 

「何だ!?」

 ルフィが驚いて立ち上がる。

 

「侵入者が1人・・・いや2人かな? 1人はずいぶんと弱ってるみたいね。」

 私が簡潔に伝えると、ルフィは1つ頷いて飛び出していった。

 私は行かない。ルフィ1人でも充分すぎるぐらいだろうし、私は今、鍋の前を離れるわけにはいかない。

 ホワイトソースが焦げてしまう。

 

「おい、何で人数まで解るんだよ」

 ウソップに聞かれ、私は手を離すことなくウソップの方を軽く見た。

 

「見聞色の覇気!」

 わけが解らない、という顔をされたから、私はゾロとナミにもまとめて覇気の説明をする事にした。

 

「前にナミとゾロには話した事があるけど、覇気っていうのは、言ってみれば誰でも持ってる潜在能力よ。それが引き出せるかどうかは個人差が大きいけどね。『気配』・『気合』・『威圧』の3種類があって、それぞれ見聞色・武装色・覇王色と呼ばれてる。私がさっき使ったのはこの内の1つ、見聞色……。詳しく言うと、相手の気配をより強く感じる力の事よ。これを高めれば視界に入らない敵の位置、その数… 更には次の瞬間に相手が何をしようとしているのかを読み取る事が出来る。」

「要するに、気配に敏感ってこと?」

「カンタンに言えばそういう事ね。」

 ナミは昔、思考を読まれたこともあってか、ある程度納得してくれた。

 ゾロは既に武装色を発現してるから、覇気の存在は信じてくれている。

 逆にウソップは半信半疑のようだ。まぁ、実際に見て納得していってもらうしかないだろうね。

 そんな話をしてる間に、外が静かになってた。どうやら終わったらしい。

 私を除く3人も様子を見に外へ出て行った。

 私も行こうかな、もちろんシチューの火は止めて。

 

 乗り込んできたのは、やっぱりジョニーだったらしい。

 ヨサクはというと、病に倒れていて起き上がることも出来ない様子。

 症状としては、失神、歯が抜ける、古傷が開く。典型的だよ。

 

 岩山で安静にしてたら、この船から砲弾が飛んできて被害にあったという事らしい。

 そりゃまあ怒るのも無理はないだろうけど、そもそもの話がねェ…

 ルフィとウソップがユニゾンしながら謝罪している。

 ジョニーが相棒の病を本気で心配しているのは解るけど…。

 

「バッカじゃないの!?」

 ナミの言葉に私はうなづいて見せた。海に出てるのに、こんな基本的な病気も知らないなんて……。

 

「あんた、おれの相棒の死を愚弄する気か!?」

「それはお前だ、バカ!」

 ボコン、と私はキッチンから持ってきたビンで軽くジョニーの頭をどついた。

 

「うっく……! どういうことだ、赤髪!」

 ……って、オイ!

 

「赤髪はヤメてくれない? 何か変な感じがするから!」

 いや、マジで… 一瞬鳥肌たったわよ。

 おいそこ、ルフィ!!おめェは何を目をキラキラさせとんじゃ!

 

「相棒なら、勝手に殺すんじゃないわよ!ミックスとライムとレモン、どれがいい?」

 手に持つ3種類のジュースを掲げて見せたけど、ジョニーは困惑顔だ。

 

「いっそ全部飲ませちゃいなさいよ」

 ナミが溜息混じりにアドバイスしてきた。なるほど、それも一理ある。

 私はヨサクの口にビンを押し付けて無理矢理飲ませた。

 ちょっと咽てたような気もするけど、まぁ大丈夫でしょ。

 

「お、おい! テメェ何をする!?」

「うるさいわね!これ飲めばその内、治るのよ!」

 治る、の言葉にジョニーは目に見えて表情を変えた。

 

「これは壊血病よ。ビタミンC欠乏が原因の疾患。要するに、野菜や果物食べて無かったせいってこと」

 私の発言にナミが頷き、補足した。

 

「一昔前までは船乗りにとっては絶望的な病気の1つだったわ。でも、原因は単なる栄養不足。手遅れじゃなきゃ数日で治るわよ」

「傷口が開いたって言ってたわよね? 後でそれも見てあげるわ。一応消毒ぐらいはしといた方がいいかもしれないし」

 感染症になったりしたら大変だからね。

 

「お前らスゲーな!」

 ルフィがキラッキラした目で見てくるけど…。

 

「あいつら、放っておいたらその内死ぬわね」

 ナミの発言は、とても正しいと思う。

 病気なんてほとんどしたことのないルフィでも、流石に栄養失調はどうにもならない。放っておいたら、肉しか食べないだろうし。

 そんなことを考えながらヨサクに持ってきたジュースを飲ませ終えると、ヨサクはすぐさま復活して踊りだした。

 

「そんなに早く治るか!」

 ナミのツッコミ通り、ヨサクはまたすぐに倒れたのだった。

 

 ヨサクは寝室に寝かせ、ジョニーがそれに付き合っている。私たちはというと、その上の部屋で食事中である。

 

「ね? 栄養管理は大事でしょ? 専門知識を持ったコックは必要だと思うんだけど?」

 私が言うけど、反応は薄い。

 

「そりゃ栄養の大切さは解ったけどよ。でもちゃんと美味くてバランス取れたメシが食えてるじゃねぇか」

 ウソップはシチューの皿を掲げて見せてきた。

 あ、美味かった?

 

「私の腕じゃ本職には及ばないし、凝った物は作れない。栄養についてだって、大雑把な知識しか持ってないのよ。」

 私じゃないけど、絶賛修行中ですがね…

 

「別に凝らなくてもいいだろ。レパートリーはそこそこあるみてぇだしな」

 ゾロ、あんたまで…。

 

 でもその通り、私のレパートリーはそこそこあります。なにしろ前世でもけっこう作ってたからね。だから献立が1週間でループするようなことはない。それにエイタもあるからレシピは無限なのです。

 けど、だからって、サンジを迎え入れない訳にはいかないのよね…。

 

「解ったわ」

 それなら、別の切り口で説得するとしましょうか。

 

「ウソップには言ってなかったわね。私は副船長で、兼任にコック代理と船医代理と音楽家代理とルフィのお守りをしてるの。」

 すこしウソップが面食らっている。私がそんなに兼任してるとは思ってなかったんだろう。

 ゾロとナミもそうだった!という感じの顔をしている。

 ひたすら食べているルフィは放っておくとして、

 じぃっ、とゾロ・ナミ・ウソップの3人を眺め回した。

 

「ルフィの面倒をあなた達で見てちょうだい。そしたら、コックは代理じゃなくて兼任しても大丈夫よ?」

 

「「「コックを探<すぞ><すわよ><します>」」」

 即答だった。伝家の宝刀、恐るべし。

 

 そんなに嫌かな?昔と比べればだいぶマシになったんだけど?

 って、3人は昔を知らないか…

 

「ん? ほうひた?」

 パンで口をリスのようにパンパンにさせながら不思議そうな顔をするルフィに、生暖かい視線が集中したのだった。

 

「海のコックを探すなら、うってつけの場所がありますぜ」

 自分とヨサクの分の食事を取りに来たジョニーが、そう提案してきた。どうやら話が聞こえていたらしい。

 そしてジョニーの口から出てきたのは、海上レストラン・バラティエの話。

 

「んじゃ、取り合えずそこに行ってみっか!」

 船長の決定により、メリー号はバラティエを目指す事になった。

 

「アニキが探してた、『鷹の目』の男もそこに現れたことがあるって噂ですぜ」

 ジョニーのもう1つの情報に、ゾロの目の色が変わった。

 まぁ、結局ジョニーのこの情報はガセなんだけど、それでも出会うって、どんな巡り合わせ?

 『鷹の目』のジュラキュール・ミホークと、この東の海で出くわすなん…て。

 

 ………アレ?

 

 ミホークと出くわす?

 

 私……

 なんかヤだな。

 

 バギーがあれでしょ?ってことは……

 

 ないないない! ミホークはバギーみたいなガキじゃない!

 大丈夫よきっと!! …たぶ…ん…?

 

 私がちょっとトリップしている間にも、メリー号は順調に海を行く。

 

 向かうは海上レストラン・バラティエだ!

 

 

 

 

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