イムの娘(いむのこ)   作:槙 秀人

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02-66話:麦わら帽子

 場所はわかっているけれど、案内してくれるというので案内してもらう事にした。

 という事で、ジョニーの案内に従って航海すること約2日。

 私たちはバラティエへと辿り着いた。

 

 ちなみにゾロは、ほとんどミニ化して修練場で過ごしていたみたい。

 途中何度か見に行った際に、武装色について聞かれて見てやると、刀の武装硬化に成功していた。

 こいつ……

 ほんとにハンパないわね。才能というべきか、それとも素質というべきか…

 おそらく両方なのだろう。きっと、コウシロウさんは楽しかったろうねェ…。

 完全とは言えないし、すぐに解除されてしまうけど、刀の強化は出来ている。

 

「ダメか?」

「ダメじゃないわ。びっくりしただけ。こんなに早く武装硬化が出来るようになるとは思わなかったわ。」

 まさかのミホーク戦前とはね。もっとも付け焼刃感は否めないけど…

 

 ・

 ・

 ・

 

 バラティエは魚の形を模した船。そのフォルムは面白いけど、これって遠くから見たら、レストランっていうより遊覧船に見えてしまう気がする。

 それだと、知らない人はレストランだと気付かずに、食べに来ないんじゃ?

 まぁ、そんな感想はどうでもいいか。

 

 想定通り、店の近くで海軍船とニアミスした。たぶん海軍本部大尉『鉄拳』のフルボディの旗艦なんだと思うけど、メリー号は海賊旗を掲げていないので、攻撃されることなく店に入れた。

 なので自然的に、バラティエ破損&ゼフ負傷フラグも折れた。

 はずだったんだけど…

 

 バラティエに到着し、コックを勧誘する前にまず食事をしようということになった。

 その際、何故かヨサクとジョニーも一緒にレストランに入っていった。

 さりげなくたかられた?

 まぁ、2人分の1食ぐらい、大したことないから別にいいんだけど。

 

 ちなみに、この際の決定権は私にあった。

 どうやら、財布の紐はナミではなく私が握ることになっているらしい。

 まぁ、当然と言えば当然ね。

 本人談だけど、ナミはまだ正式に仲間になっていないし、お宝もお金も、私が小さくしてから収納貝に入れているので、他の人が持ってても使えない。必然的に私が財布の紐を握っていたわけだ。

 

 で、私は食事前にちょっと、お手洗いに行ったのです。だから、1人だけちょっと遅れて中に入ったんだけど…。

 中に入ってみたら店が無茶苦茶になっていた。そしてそこで仁王立ちしているルフィと、ぶっ倒れている男が一人…

 

 意味がわからん…

 

「ルフィ…。あんた何してんの?」

 怪訝な顔で、私はルフィに聞いてみた。

 

「あいつ、おれの帽子をバカにした!」

 話によると、あの男はルフィの麦わら帽子を『古ぼけた薄汚い帽子』と称し、『レストランに相応しくない』と、勝手に取り上げようとしたらしい。

 確かに、ドレスコードに則っているとは言えないけれど、どう見てもあの男は店員じゃないだろうし、単なる言いがかりだと思う。

 

「フルボディさん、しっかり!!」

 ドレス姿のおねーさんが男を揺り起こそうとしている。アイツがフルボディか…

 しかし、からかっただけだったんだろうけど、ルフィの帽子に手を出そうとするなんて、なんてバカなヤツだろう。

 それはルフィもか…。

 

「このバカたれ!」

 スパン、と私はルフィの頭をひっぱたいた。

 

「何すんだよ!」

 突っ掛かられた方であるルフィは不満そうだけど、もっと周りを見なさいよ!

 

「やるなら海にでも叩き落せばいいでしょう?店に迷惑掛けてんじゃないの!」

「あ」

 

 壊れたテーブルとイス。フルボディが激突したのだろう壁は貫通している。お客さんも殆どが遠巻きに戦々恐々としている。

 全く動じてないのはゾロだけみたい。

 そしてふと、背後に怒気を感じて振り返ると。

 

「おれの店を壊しやがったのは誰だ?」

 迫力満点に凄む義足のおっさんがいた。

 

 ~ ~ ~ ~ ~

 

「長すぎます。もっと短くしてください!!」

 店を壊したことでルフィは義足のおっさん、ゼフに1ヶ月の雑用を命じられた。

 原作では1年だったと思うから、短くなったと思うけど、私からするとそれでも長い。これを受け入れたら店が潰れる!!だから、私はゼフにそう言った。

 

「ふざけんじゃねェ。許す許さないはおれが決めることだ。1ヶ月! きっちり働いてもらうぞ! それかちゃんと弁償するんだな!」

 ゼフの答えは実にキッパリしたものだった。

 

「そうじゃないんです!」

 私は食い下がった。

 

「働かせるのはかまいません。可能(・・)なら、しばらく『こき使って』ほしいくらいです!!」

「イオリ!?」

 ルフィは『裏切られた!』、と言わんばかりのガーンという表情だ。

 でも本当、あんたは1度”ちゃんと”働かされてみればいいと思う。

 まぁね。コイツにいろいろ教えたけれど、家事に関しては何一つ身につかず、なおかつ酷いものだったので、私は匙を投げましたがね。

 だから、ルフィにレストランでの雑用をさせるなんて勇気は持てない。

 むしろ、雑用を押し付けるゼフが勇者に見えるくらいだ。

 

「断言しますけど、ルフィを1ヶ月も働かせたら、この店が潰れますよ?」

 いや、マジで…

 こいつのおかげで時間操作は結構慣れた。

 結果として実害はなかったものの、コイツに何かを手伝ってもらうと、かえって手間が増えるのだ。日常生活において、ルフィは全くと言っていいほど役に立たないのです。

 なんだかルフィの将来が不安になるけど、それは今、考える事じゃない。

 

 私の発言に、ゼフは微妙な表情になった。

 とりあえず、少し働かせてみて決める、という結論に至ったのだった。

 

 ルフィがゼフに引き摺られていくのを見送って、私は店に戻った。

 

 店ではもう混乱も収まり、客が食事を楽しんでいた。

 ルフィにぶっ飛ばされたフルボディもだ。尤も、時折クスクス笑われているからか、随分と顔を歪めてるが。

 

「よう。どうだった?」

 みんなもう、テーブルに着いてメシを食べ始めていた。酒を飲みながら聞いてきたゾロに、私は肩を竦める。

 

「弁償することになったわ。雑用1ヶ月ですって…。どうして止めてくれなかったの?」

 

「止める間も無かったんだよ」

 

 ウソップが料理を口に運ぶのも止めずにそう言った。

 

「突然のことだったからなァ。アイツ、そんなにあの帽子大事にしてんだな」

 

「宝物だって言ってたわね、そういえば」

 

 そういえばよくよく考えてみたら、ルフィの帽子への思い入れを知っているのはナミと私ぐらいか。

 バギーの時、ゾロは寝てたし。

 

「友だちから受け取った誓いの証、だったっけ? どうして帽子になんて誓うんだか知らないけど」

 

 別に、話しちゃっても問題ないよね?

 ルフィから何度も聞いてるし、別に人に知られたくない話、って事でもないだろう。

 私は食事の合い間を縫って、ルフィが10年前に経験したことを話した。

 

「左腕を犠牲に、か。原因はそれだったのか」

 

 話し終えると、ゾロが納得顔で頷いていた。私の疑問顔に気付いたのか、今度はゾロが説明しだした。

 

「おれの夢は世界一の大剣豪になることだ。そのために『鷹の目』の男を探してる。そいつを倒すためにな。そしてかつて『鷹の目』と『赤髪』が決着の付くことのない決闘の日々を送ってたってのは今じゃ伝説になってる。10年前に『赤髪』が利き腕を失うまで続いてたらしい。その失った腕の原因がルフィだったとは、驚いたぜ」

 

 確かに、東の海にも噂は聞こえていたけど、ゾロはやっぱり知ってたか。

 まぁ、『鷹の目』は、一番名の通っている剣士だものね。

 納得した私の隣では、ウソップが首を捻っている。

 

「でもその話し振りからするとよ、お前は『赤髪』と会ったこと無ェのか? ルフィから聞いた話って言ったよな?」

 シャンクスが腕を失った時はその場に居なかったからね。

 それにあんまりその時の話はしたくないのよね…。

 

 見聞色持ちが3人も居たのに、なんでヒグマをすぐに見つけられなかったか?

 ベックマンさんからその時の事を聞いた。

 

 それは、私が訓練してたからなんだって。

 シャンクス達が島に帰って来た時、大きな二つの気配がぶつかっていた。

 ― これはイオリか? ―

 軽く混乱したらしい。

 分身の事は教えてないけど、気づかれてるかも?

 

 ヒグマが煙幕で逃げる前から、私は分身して訓練してた。

 3人とも私の気配に気づいてたけど、大きすぎる気配に小さな気配が隠れてしまったらしい。ルフィの気配はおろかヒグマの気配を探すのが難しかったんだって…

 

 え~!!もっと見聞色鍛えろや!!と、思ったのは内緒の話…。

 

 私の気配がいつものように消えた後、ルフィの一番近くに居た見聞色持ちはシャンクスで、結果としてシャンクスがルフィを助けた。

 もっとも…

 腕を失ったのはギリギリだったからとかそういう事ではないと思うけどね。

 

「『赤髪』とは何度か会った事はあるわよ?腕を失った後にも会ったけど、特に彼からはその話は聞かなかったわね。一応、ルフィを助けてもらったお礼は言ったけど…。」

 

「何で礼なんて言ったんだ?」

 そうか、ウソップには言ってなかったわね。ってナミにも言ってないわ。

 

「私はルフィの姉なのよ。だから弟の命の恩人に礼を言ったわけ。」

 ウソップとナミが驚いた顔を見せる。似てねぇとか言われたけれど、そうだろうね。

 

 さて、みんなの疑問には一通り答えられたかな?もう質問は無さそうだ。

 食事も一通り進んで一息ついていたら、イヤな声が聞こえてきた。

 

「おいおい、この店は虫入りのスープを客に出すのか!?」

 フルボディである。懲りない男ね。

 そういえばさっき私がルフィの過去話をしてるとき、ワインのうんちくを語っていた気がする。

 

 フルボディの対応をするのは、サンジだ。一目でわかる。金髪でぐるぐる眉毛だから。

 

 この虫は何だ、と言われて昆虫には詳しくないので解りません、という切り返しは見事だと思う。

 当たり障りの無い対応をしていたサンジだったけど、フルボディがテーブルごとスープ皿を壊したことで、切れた。

 皿ではなく、スープを粗末にしたことに。

 

 フルボディはサンジに手も足も出ずにフルボッコにされた。

 しかしなんだね。原作では入店時に賞金稼ぎを撃退していたので、ある程度の強さを見せていたフルボディだけど、ルフィとサンジにボコボコにされて、全く良い所のないフルボディはちょっと哀れに思えてしまう。

 まぁ別に、私としてはどうでもいいので引き続き食事を楽しんでいた。酒を飲むゾロもきっとそうなんだろう。

 反対にナミとウソップ、ヨサクとジョニーは混乱していたみたいだけど…

 

「海でコックに逆らうってのは、自殺に等しい行為だってことをよく覚えておけ」

 もう碌に動けないくらいになっているフルボディに、そう凄むサンジは、結構カッコよく見えた。

 

 

 

 

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