お風呂から上がって、私たちは女部屋へと移動した。
まずは状況を確認したいと言って、コノミ諸島の状況についてナミに聞く。
その後、私はユナに連絡するからと言って部屋を出た。
10分ほどで部屋に戻って、情報を共有する。
「許せない!海軍が…そんな事をしてたなんて!!」
海軍が、支払いの一部をピンハネしている事を知り、ナミが憤慨する。
「同感ね。被害額はなんとかしたいわね…。たぶん、ベルメールさんの所にはきちんと書類があるだろうから、海軍が偽造した書類とかF-RONPが発行した書類が出てくればいいんだけど…」
「何言ってんの?そんなの無理に決まってるじゃない!!あいつらが素直に出してくれるわけない。書類だって処分されちゃてるわよ。」
「それは無いわね。海軍だって書類の保管期限っていうのがあるのよ?民間にも同じような決まりがあるの。取引の書類は確か、15年の保管義務があるはずだから、F-RONPから問い合わせがあった時の為に、書類は保管しているはず。通常の保管場所とはちがうから、問い合わせの応対に時間がかかるんでしょうね?」
「…」
ナミが驚いたような顔で私を見た。
「どうしたの?」
「イオリってさ…なんか、経営知識とかもあるみたい?」
「まぁね。ユナと友達やらせてもらって、いろいろ聞いてるからね。なんなら会社の一つや二つ、経営出来るだけの知識はあるわよ?」
「そうだったわね。いいなぁ~」
いやいや、話の流れ的にうらやましがるとこちゃうやん!
さて、ここからが大事だ。アーロン一味を私たちが退治するって話しにもっていかないと…
「それじゃあ、次の目的地はコノミ諸島にしましょうか。ナミのためなんだから、ルフィも賛同してくれるわ。」
提案自体は意外でもなんでもないのだろうけど、こんなにあっさりと決まってしまったからだろうか?ナミが少し不安な顔で私を見た。
いや、不安なのは私たちを心配してのことかな?
「クロネコから奪った宝でほぼ1億に届くくらいまで貯まったんでしょ?足りない分は、うちから出せばいいんだし。それでナミは目的が果たせるなら問題ないわ。そもそもあれはこの海賊団の活動資金なんだから、仲間のために使うのは当たり前。今回のルフィの弁償代もここから出すんだし。」
ルフィのあれは完全に個人の責任だから、分け前の際に天引きするけどね。
「私は・・・」
「今更、手を組んだだけだなんて言わないでよ?船長のルフィは、ナミの事を仲間と認定してる!なら、私たちにとってもナミは仲間よ。」
海賊船の掟とも言える、絶対的な原則だ。それに…
「それに、ナミは私の大事な友達なんだからね!あり得ない事だけど、もしもルフィがダメだと言っても、私はナミを助けるつもりだから!」
短期的に希望が見えたからだろう、ナミの表情が少し明るくなった。これでココヤシ村を救える、と。
でも、これじゃダメなのよ。1億あれば事が済む…という事じゃないのよね。
「けどね。こう言っちゃ何だけど、それじゃ何の解決にもならないと思うわよ?」
「? どういう意味?」
思いもよらない私の言葉に、ナミは困惑顔になった。
「あえて厳しく言わせて貰うけど、ハッキリ言って、ナミの努力は徒労に終わる可能性が高いと思う。」
カッと、ナミの頬に朱がさした。
「何よそれ!!私の8年間の努力が徒労に終わる!?いくらイオリだって許さないわよ!!」
8年間…。そう、その年数が厄介だ。それだけ意地にもなるし、視野も狭まる。
「落ち着いてよナミ!言い方が悪かったなら謝るわ。でもね、ナミはナミが持ってる才能でアーロン一味に引き込まれたんでしょう?」
ナミは答えない。私が何を云うのか思案顔だ。
「今までの話しを良く考えてみてよ。アーロンが人間を見下してるのは、ナミもわかってるはずよね? そのアーロンが人間のナミを一味に引き入れたって事はナミと同じことが出来る奴がアーロン一味に居ないってことでしょう?」
「…そうよ。私はこの8年間、一味の測量士としてアーロンに海図を書かされてきたわ」
ナミの夢を考えれば、ある意味やってることはその一部のような気もするけど、それは言わないでおこうと思う。
そもそも『書かされてる』って時点で嫌だ!
「だったらそんな優秀な人材を、奴らが手放すはずがないじゃない!奴らはピースメインじゃないんだから、そんな甘い考えは通用しないわ。」
「アーロンは、金の上での約束は守るヤツよ! 今までだってそうだった……私の住む村、いえ島を管轄している海軍支部の将校だって、アーロンに買収されてる!」
それこそ肝だと思うんだけど?
私は小さく溜息を吐いた。
「確かに、ビジネスは1度でも反故にすれば信頼を失う。けど、それが一見アーロンの仕業じゃなかったら?」
私の真意を図りかねているのか、ナミは探るような視線を向けてきた。
「ナミの集めた金は相手が海賊とはいえ盗品よね? 盗品ならそれは、海軍に押収する権限が発生する。海軍支部がアーロンに買収されてるって今、ナミが自分で言ったばかりじゃない!」
ハッと、ナミは息を呑んだ。
「海軍支部が買収されている以上、ナミが1億ベリーを集めても、アーロンは海軍を使ってそれを奪い取ると思う。そうすればアーロンは約束を破ってはいないことになる。モーガニアって海賊はさ、欲しい物のためなら何でもするようなヤツらなのよ。……尤も、これはあくまで可能性の話。本当にアーロンが取引に応じる可能性も無いわけじゃないけど…」
けれど、私の話は筋が通っていると思う。実際そうなるわけだし。
出ている情報から考えても矛盾も無い。
ナミも思い当たるフシがあるんだろう。顔色が悪い。
それに…
アーロンが取引に応じたとしても結果は同じ。もう一度、村を襲って支配下に治めるだけの話だ。
そしてそれは何度でも繰り返される。結局のところ、取引自体が意味の無いモノだと思い知らされるだけだろう。
「だから、コノミ諸島に着いたら…私たちがアーロン一味を潰そうと思う」
ナミは目を見開いた。
「もちろん、ナミが金銭の取引を優先したいというなら、それはそれで構わない。でもそれがダメになった場合は……私たちがアーロンと戦う。」
「ふざけないで!!」
ナミは立ち上がった。
「さっきも言ったわ!この東の海でアーロンに敵うヤツなんていないのよ!」
「それがなに?」
激昂するナミに、私は出来る限り冷静に言葉を返した。
「私たちにとってナミはもう仲間なの。仲間が困っていたら、助けるのが当たり前でしょ?確かにまだルフィに話してないけど、あの子の考えは大体わかる。ルフィにとって仲間はとても大事なの。例え敵わなくても、やれることがあるなら何でもやるわ。」
というか、知ったら、ルフィはすぐにアーロンの元へと向かうと思う。
「ナミの村……ココヤシ村には迷惑は掛けないわ。仮に、私たちが負けたとしてもそれは、アーロンに挑んで名を上げようとした海賊がやられただけって話にすればいいんだし…。私たちの事が心配だって言うなら、本当にヤバくなったらどんな手を使ってでも逃げるって約束する。ルフィたちが納得しなくても、私が引き摺ってでも連れて逃げる。」
「でも……!」
ナミは言葉に詰っている。私たちを止めたいけれど、どう止めていいのか解らないのだろう。
事情が知れてしまった以上、例えナミが逃げても私たちは止まらない。
これまでの航海でルフィの性格も解っているだろうから。
それでも不安はなくならず、止めたいと思っているのだろう。
それならば…もう1つ、提案してみるか。
「じゃあ、これならどう? ナミはアーロンに1億ベリーを払う。それで解決するならそれで良し。ダメなら、私たちが戦う。勝てばそれでアーロンの『支配』は終わり。私たちが負けた時は……海軍にアーロンの始末をつけてもらう。」
本来ならば、初めから海軍に始末つけさせればいい気もするけどね。1億ベリーを払う必要性も無いし。
何故ならその『支配』自体不当なんだから。
「イオリ…。あなた今までの話しちゃんと理解してる? 海軍はアーロンに買収されてるのよ?そうでなければ、潰されている。いったい海軍に何が出来るっていうのよ」
「それは、海軍『支部』の話でしょ?助けに来てくれた海軍がやられちゃったって言ってたけど、それらも全て海軍『支部』の部隊だと思う。まさかとは思うけど、ナミはアーロンがこの世界で最強だと思ってないわよね?」
ナミは少し困惑した顔を見せた。話の先が見えないからだろう。
「かつてアーロンが所属した魚人海賊団の長。今は七武海の1人でもある『海侠』のジンベエ。あるいは、世界最強と言われる四皇の1人、『白ひげ』エドワード・ニューゲート。あるいは、過去の人物だけど『海賊王』ゴールド・ロジャー。そういった者たちより、アーロンの方が強いと思う?」
私の出した例に、ナミは呆れ返った視線を向けてきた。
「それはもう、次元の違う話でしょ? 私は、この東の海にはアーロンに敵うヤツはいないって言ってんのよ」
ナミ自身、流石にそういった者たちよりもアーロンの方が上だとは思ってないらしい。それはそうだろう。もしそれより上なら、こんな東の海の片隅でコソコソしてるわけがない。
私は大仰に頷いて見せた。
「そう。そしてそんな次元の違う大物たちと真っ向やりあってきたのが、海軍『本部』の海兵たち。つまり彼らも次元の違うレベルの者たちで、アーロンを何とかするぐらいわけないと思わない?そもそも、アーロンが海軍支部を買収している最大の目的は、本部へ連絡させないためだろうからね。」
ベルメールさんの復帰をネズミが認めなかったのも、それを阻止する為だろう。
人間を見下しているアーロンも、流石に海軍本部を舐めてはいない。何しろヤツ自身、黄猿が中将だった頃に一度捕まったことがあるはずだ。
「だとしても、どうにもならないわよ。海軍本部があるのはグランドライン、ここは東の海よ?連絡を取ろうにも、支部が買収されてるんだから取り合ってもらえないわ」
実際に試してみたけどダメだったみたいね。それで、自分たちで何とかしなきゃいけないと諦めた。そんな感じかな?
でもね…私には
「ところでナミは、ガープって海兵を知ってる?」
ニッコリ、と私はいっそ無邪気にも見えるだろう笑顔で尋ねた。唐突な質問に、ナミは虚を突かれたような顔をした。
「知ってるも何も……海軍の英雄じゃない。かつてゴールド・ロジャーを何度も追い詰めたっていう」
名前が売れてるってすごいわね。
「そう。海軍の英雄、『拳骨』のガープ。今尚現役の海兵で、海軍本部中将をやってるんだけど、その人(ルフィの)祖父なのよ」
※()の中は言ってません。
「…………は?」
「だ・か・ら。。。ガープ中将は(ルフィの)祖父なのよ。グランドファザー。ジジイ。お祖父ちゃん!!フルネームはモンキー・D・ガープだしね!」
シェルズタウンでヘルメッポの七光り具合を見て思ったのよね。
あれ? ルフィって、もの凄いコネ持ってるんじゃ? って。
普段のガープが無茶苦茶なせいで、そんな事はまったく考えたこともなかったけどね。
「つまり私は、ナミの言う『次元の違う人』に直接連絡を取る術を持ってるってこと」
はい。教えてもらってました連絡先。しかも本人直通です。『何か用があれば連絡しろ』とまで言われてる。つながるかどうか、一回確認したきり使った事ないけどね。
パッカリと口を開けて呆然としていたナミだけど、言ってる内容が頭に入って来たのか、やがて猛然と抗議してきた。
「な、何よそれ! わたしそんな話、一度も聞いた事ないわよ!?」
そりゃそうでしょ。私だって、誰かに教えるのは初めてだもん。
「(ルフィの)祖父としては(エースもサボも)私もルフィも海軍に入れたかったみたいよ?」
マジでヤバかったもんなあ…
「とにかく、私たちには、海軍本部の上層部と直接連絡を取る術がある。彼らなら、アーロンぐらいどうとでも出来るのは、ナミだって解るでしょ?」
「……海賊が海軍を利用する気?」
その問いには、苦笑するしかない。
「海賊だもの、使えるモノはなんでも使うわよ。必要とあれば卑怯な手だってね。そうは言っても、(ルフィの)家族に迷惑をかけたいとは思わないから、最終手段として提示したのよ。本当なら、今すぐにでも連絡すべき事だし、グランドラインから東の海へ来るにはそれなりの時間が必要だけど、そうすればわざわざ1億ベリーを用意する必要は無くなるんだもの。私たちが戦う必要も無い。だけどね。それでも、私はアーロン一味と戦いたいの。」
私は真っ直ぐナミを見た。
「少しでも早く、ナミの重荷を取り除いてあげたいから!」
「…………」
「どうかしら?どう転んだとしてもナミの村は助けられると思うんだけど……?」
1億ベリーは貯まる。金を払えばそれで済むかもしれない。
私たちが戦って勝てば、それで『支配』は終わる。
負けたとしても、海軍本部の『英雄』に繋ぎを取れば、アーロンは終わる。
「本当に……危なくなったら、逃げてくれるのよね?」
暫くの逡巡の後に出されたナミのその答えは、遠回しな戦いの承諾とも言える。
取り合えずこの場は、それで構わない。
私は笑顔で頷いたのだった。
結局、ひとまずは1億ベリーを用意してみる。ということになった。
8年間という時間は重いね。
目標を達成しかけている所で急な方向転換は難しいだろう。
私が示唆したのはあくまでも可能性でしかないわけだし。
まぁアーロンが1億ベリー受け取ったとしても、どのみち戦うけどね!
ガープの名が効いたのだろう。ナミは心持表情が明るくなってる。
何にしても、最終的に村を救える目処は立ったわけだからね。
スゴイなガープ。
私は今、初めてガープを尊敬してるよ。
尊敬する機会なんか、今まで全くなかったもの。
さて、ナミの件をルフィに話そうと思ってたんだけど、夜になってもなぜか帰ってこなかった。
どうせ何かやらかしてるんだろう。
仕方がないので、ナミの件についてはイベントが全て終わってからになりそうだ。
決定権を持つ船長がいないので、ゾロにもウソップにも次の行き先をコノミ諸島にしたいと考えている程度の話ししかしていない。
ウソップは、なにか不穏な空気を感じ取っているようで、落ち着かないみたいだけど、ゾロは楽しそうだ。
でも、なんであいつは帰ってこないんだろ?
船がすぐ隣にあるんだから、住み込みで働く必要ないのにな?
後で聞いた話によると、つまみ食いしてたらしい。えっ? 一晩中?
理由は、めしが足りなかったからだと…
しかも私が小さくしてくれないのが悪いんだと文句まで言われた。
ルフィ、お前一生こき使われてればいいよ。
いやダメだ。そんな事したらバラティエが潰れてしまう。。。
あれ~?ルフィって、こんなんだっけ?
原作より酷くなってる……
なんて事はないわよね?