「オイ、何のつもりだよそりゃあ」
「おれはうさぎを狩るのに全力を出すようなケモノとは違う。多少名を上げた剣士がいたところで、ここは”赤い土の大陸”と”偉大なる航路”により四つに区分される海の中でも最弱の海『イースト・ブルー』。あいにくこれ以下の刃物は持ち合わせていないのだ」
ミホークが取り出したのは、原作通りのおもちゃの剣だった。
「てめェ…人をバカにすんのもたいがいにしろよ!!」
ズズズ…
「!!?」
ソロの持つ、3本の刀が黒刀の如く黒くなっていく…
それを見て、さすがのミホークもゾロに関心を示した。
「まだ未熟とはいえ…。まさか、東の海で覇気を使う者と出会うとはな。」
「へっ!やっとやる気になったかよ!!」
「さすがにオモチャではキツそうだ。」
と、言いながらミホークがオモチャの代わりに抜いたのはナイフというか短刀だった。
原作と状況が違うとはいえ、見下す者に『夜』は抜かないと言う事か…。
「武装硬化は覚えたとはいえ、付け焼刃だものね。」
それにしても、訓練ではちゃんと出来てなかったのに、本番で3本とも武装硬化するとは恐れ入る。 …気合だってか?
「ふざけやがって!!」
「世の中の広さを知るがいい!!」
ミホークの言葉に気圧されながら、ゾロは必殺の一撃を構える。
「三刀流…鬼斬り!!」
― ガキィッ!! ―
「!!?」
ゾロの驚愕の表情がハンパない。
刀身で受け止められたなら、まだ納得できただろう。
けど、まさか、切っ先の1点であの技を受け止めるなんて…
どんな動体視力をしているのやら。
やれと言われれば私も出来ると思うけど、3回に1回くらい失敗するんじゃないかな?
それよりも…覇気だけでなく、力もミホークのほうが上みたい。
力も技も、そして覇気までも上回る相手に勝つ事は……
無理ね。
さすがは七武海。だけど、現れた時ほどの大きな気配は感じない。
今の気配の大きさは、出航時のエースくらいだと思う。
意識してやっているかは知らんけど、たぶん抑えているのだろう。
エースと言えば、ジンベエに勝ったらしい。
さらに白ひげにも小さいながらキズを負わせたらしく、息子達からすげーすげーと声をかけられたとか。
白ひげからも、めちゃくちゃ褒められて、毒気を抜かれてしまったらしい。
ジンベエとも、とても仲良くなったとの事。
要するに思いっきり喧嘩したら仲良くなった的な?
白ひげも含め、あの海賊団は男の子の集まりみたいな、そんな印象を持ってしまった。
(情報は全てカザマからもたらされたものです。)
私がゾロなら、あの状態から蹴り技を出すけど、それだと剣士と言えなくなっちゃうか…
ゾロが大剣豪を目指す以上、剣士相手に邪道な技を使うはずもなし。
ならば、結果はもう見るまでもない。
私はその戦いに背を向けた。
「イオリ?」
私が立ち上がってその戦いから背を向けた事に、驚いたナミが声をかける。
「治療の準備をしておくわ。もう、結果は見えたから。」
「えっ!?」
ゾロは負けると結論付けて、私は治療の準備に取り掛かる。
さて、まずは…。
ここにゾロを連れてくるんだから、言葉をルフィに届くようにしておかないと…
スピーカーをゾロとミホークが居る辺りに向け、声を拾う為の電伝虫を用意する。
それと、こっちが本命。治療の準備だ。
デッキの上にコンロを出して、巨大な鍋に水を入れ、それを小さくして火にかける。
すぐさま沸騰する鍋を、元の大きさにもどして弱火にかけたままにする。
煮沸消毒用のお湯はこれでOK。
麻酔もあるし、縫合用の針も糸もある。この日の為に?培った医療技術を使うのだ。
ミホークの事だ。切り口はとてもきれいなはず。
すぐさま縫合すれば、おそらくキレイにくっつくのでは?と思っている。
野営で手術を行う為のテントと簡易ベットも用意した。
「うわあああああああ」
「ゾロ!!!」
「アニキー!!!」
ルフィ、ウソップ、ヨサク達の声が聞こえる。どうやら決着が着いたようだ。
見ると、斬られたゾロが気を失って海に落ちようとしていた。
おいおいおい…
おめェが今、口から離した刀はくいなの形見じゃねェのかよ?
私は剃刀でゾロの所まで飛ぶと、和道一文字とゾロの手を掴み、反転してメリー号のデッキまで戻った。
一瞬、ミホークと目が合った気がしたけど、なんか驚愕してなかったかしら?
ちなみにルフィはミホークに体当たりをかまして躱されていた。うん。原作通り。
ゾロはデッキに置いたタンカの上に乗せた。すぐさま治療に移るのではなく、この後の小イベントの為にこのままにする。
「ナミ、悪いんだけど、人手を確保するからゾロを見といて!!」
「え、うん!わかった!!」
私はウソップとヨサクとジョニーの所まで行って、3人を小さくしてメリー号のデッキへ運んだ。
運んだ3人は元の大きさに戻すと、すぐさまゾロに駆け寄った。
「ゾロ!!」
「アニキ!!返事してくれ!!」
「イオリ!!ゾロは無事か!!?」
ルフィの声が聞こえた。
「大丈夫よ!気を失ってるだけ!!少し弱っているけど命に別状はないわ!!」
「ほんとかよ!ほんとに大丈夫なんだろうな?」
ウソップが私に怒鳴ってるけど?
「私はちゃんと医師から医術を学んだの!!大丈夫。心配ないわ!!」
すると、目を覚ましたゾロが空に刀の切っ先を向けた。
私はゾロの口元に電伝虫を近づける。
「…ル…ルフィ?…聞こえる…か?」
「ああ!!」
「不安にさせたかよ…おれが…世界一の…剣豪くらいならねェと…お前が…困るんだよな…!!ガフッ!!」
「アニキ!!もうしゃべらねぇでくれ!!」
「アニキ!!」
「おれは、もう!!二度と敗けねェから!!!あいつに勝って大剣豪になる日まで!絶対にもう、おれは敗けねェ!!!文句あるか、海賊王!!」
「しししし!!ない!!」
「ゾロ、気は済んだ?」
「これは…おれの声が…ルフィに届くように…か?」
ゾロが電伝虫を見て言った。
「負けは見えてたからね?」
「おめェは……先読みしすぎだろ?」
― パン!! ―
私は手を叩いた。
「はい、じゃあ、治療の準備するわよ!!」
「イオリ!おれはなにすりゃいいんだ!!?」
「倉庫に新しいタオルがあるから、あるだけ運んで!!運んだら半分くらいをそこの鍋で煮て頂戴!!」
「わ、わかった!!」
ウソップが倉庫に駆けていく。
「ヨサクとジョニーはゾロをあのテントに運んで!!私とナミで船を戦闘の余波が来ないところまで動かすから!!治療している最中は、敵が乗り込んできた時の対処をお願いね!!」
「「了解です、
なんで、姉さんやねん?
「ナミ、すこし船を動かわよ!!」
「わかった!!」
バラティエから少し離れたところへ船を移動して、私は治療にとりかかる。
アルコール度数の高いお酒ではなく、ちゃんと医療用のアルコールを準備した。
まずは麻酔ね。一応、全身麻酔をしておくか。
ゾロなら麻酔無しでも大丈夫な気もするけど、一応ね?
海に落ちていないので、原作よりは感染症の危険も少ないと思う。
煮沸消毒したタオルで血を拭き取り、アルコールをしみこませたガーゼで手早く消毒する。
見ると、やはりとてもきれいな切り口だった。これならうまくやればくっつくかも?
どちらかというと、刺し傷のほうが怖いんだけど?
これはもしかして…ゾロが逃げずに口から血を吹いた場面のあれか?
しかもこれ…
オモチャの剣の方が良かったんじゃねェの?
これは本当にダメなヤツだよ。もうちょっとで心臓じゃん?
ってか、すこし切っ先刺さってません?
あぶなっ!マジあぶなっ!!
これは私が、武装色を教えたタイミングがまずかった?
もしかして、もっと後にしとけばよかったかしら…
とりあえず、
えっ?何で全部、献ポポ使って直さないのかって?
それを言ったら仙豆使えばいいんじゃね?って話になるじゃんさ。
持ってる量に限りがある以上、無駄な消費はしないのです。
ぶっちゃけ、うちの一味の男どもに使う事は、ほぼ無いと思ってますけど?なにか?
縫合が終わり、消毒をして包帯を巻く。鎮痛剤と抗生剤の点滴と、せっせと貯えておいたゾロ自身の血液を輸血する。
海賊稼業にはケガはつきもの。なので毎日、みんなから、200~400mlずつ血液を採取していたのです。
収納貝に入れておけば長期保存が出来る。自分の血液があれば一番安心だからね?
よし、終わった!
見ると、ヨサクとジョニーが、結構活躍してくれていた。
やはり、最強ではなく最大だな。彼らが永く、賞金稼ぎをやっているからとはいえ、複数人で襲い掛かってやられてしまう海賊も情けない。
強いのは幹部連中だけないんじゃないの?まあ、強いと言ってもたかが知れているけど。
それよりも…
何で”鷹の目・ミホーク”がメリーのデッキにいるのかしら?
「…」
「…」
おいこら!…ちょっと待ってよ!何で私を見ているの?
しかもその手が、背負う『夜』に伸びてない?
って、まさか!!?
「っ!!武装硬化!解除っ!」
私は咄嗟に、小さくして持ち歩いている刀に武装硬化を施して、縮小を解除した後抜きました。
― ガキンッ!! ―
普通に斬りかかられましたぁ!!
てめぇ、このやろ!いきなりかよ!!
止めたけどね!
ちゃんと見えてたからしっかり受け止めたけどね?
それでも、すっごい心臓に悪いじゃん!
目の前だよ? 剣が折れてたら私真っ二つじゃんよ!!
「何でいきなり斬りかかってくんのよ!!」
私は剣をはじいてミホークから充分に距離を取ってから問い詰めた。けど……それに対するヤツの答えは。
「つい」
「つい!?」
何それ!?そんなん理由になるか!!
「…まさかとは思うけど…『赤髪』に似てるからとか言わないよね?」
「よくわかったな。貴様がヤツに似ていたものでな。」
バカ野郎!!そんな理由で斬りかかってくんじゃねェよ!!
普通死ぬぞ?そこに真っ二つになって転がってんぞ!!
しかもおめェ今、武装色使ってやがったじゃんか!!
「どうだ?一つ手合わせしてみるか?」
「しないわよ!!」
私が手合わせを承諾するものと思っていたのだろうか?ミホークは少し驚いた顔を見せた。
「…なんだ、つまらん。聞くが、ロロノアを鍛えたのはお前か?ヤツの覇気は付け焼刃のように感じたが、貴様のそれは洗礼されていた。」
「…ゾロを育てたのは別の人よ。私はここ数日、彼に覇気を教えただけ…」
基礎練も教えたけどね。まぁ教わったものをそのままだけど…
「ほう…2,3日で武装色を発現したと?」
「たぶん、以前から気づかず使っていたとは思うけどね…」
「なるほどな…。その刀、かなりの業物と見た。が…お前は剣士では無いのだろう?」
生粋の剣士から見たら、私が剣士でない事はバレバレらしい。そしてその見解は正しい。
そもそも私がいろいろ武術を学んでいるのは、それらと相対する際の方法を身に着けるためだからね。
「私は基本、徒手空拳だからね。」
「それでもかまわんぞ?」
何をニヤニヤしとんじゃコラ!!
「いや、だから…手合わせなんかしないってば!!」
ミホークは酷く落胆したような表情を見せた。
さっきも断ったじゃん!!そんな残念そう顔してもダメです!!
「そうか…。邪魔したな。ロロノアの成長を楽しみにしてるぞ!」
つまり、私に鍛えろと? まぁそのつもりですけどね。
ミホークは踵を返して船から降りていった。多分、横に棺船でも停泊させてあるんだろう。
「…」
良かったよ。下手な対応してたら船を真っ二つ…なんて事にもなりかねないもんね。
ってか、とっとと帰って昼寝の続きでもしなさいよ!!
まったく…
棺船が離れていくのを見送って、私はようやく安堵の息を吐いたのだった。