イムの娘(いむのこ)   作:槙 秀人

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クラスター・ジャドウさん、誤字報告ありがとうございます。


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02-73話:さらばバラティエ(4人目)

 翌日になって、ルフィはサンジを再勧誘すべくバラティエに向かった。

 ちなみに、クリーク海賊団を追い払ったことで雑用はチャラになったらしい。

 単に匙を投げられたとも言えなくもないけど、まぁ、それは言わんとこ。

 

 そして私もゼフと話をすべくバラティエへ。ルフィが店を壊した件の弁償についての交渉だ。

 ナミの貯めてるお金は、1億ベリーにもうすぐ手が届くという状態だから、ぶっちゃけ数千万払ったところで問題はないのだけれど、弁償額は少なければ少ないほどいいからね。

 けど、ゼフの提案は意外なものだった。

 

「ゼロ?弁償しなくていいってことですか?」

 そう、弁償はいらない、と言われたのだ。プライスレス(※1)かな?

 

 ※1:プライスレスとは >---------------<

   『お金では買えない値段の付けられない価値』

   という意味の言葉です。

   決して、無料(ただ)という意味ではありません。

 

   本文中の使い方は正しくありませんのでご注意ください。

 

   『いいもの見せてもらった』

   と、言う事ならば正しいかもだけど…

  >-------ー------------------<

 

「あいつにゃあ、ヒレも壊されてるしな……皿も大量にダメにされてるし、正直計算するのも面倒だ」

 ゼフの顔には、疲労の色が濃い。

 それにしても、ルフィのヤツ…ゼフにここまで言わせるなんて、逆にすごいわね。

 でも、これではっきりしたわ。あいつにキッチンをまかせてはいけないって事が!!

 

「ったく……嬉しそうな顔しやがって…」

 下の方を覗き込んでいるゼフの視線の先にいるのは、話し込んでいるルフィとサンジ。随分と白熱しているのか、微かにその声が聞こえてくる。

 

「オールブルー…か」

 4つの海の全ての魚が集まる海。元の世界の常識で考えればあり得ないけど、悪魔の実なんてふざけた物があるこの世界なら、きっとどこかに、オールブルーもあるんじゃないかな?

 今は無くても(消えてしまったとしても)現れるかもしれないし…。

 

 その後は船に戻って待つことにした。

 キッチンの主がサンジになるので、私が使ってたキッチン用品はひとまとめにしておく。

 サンジの道具が並ぶと思うからだけど、必要なら使ってもらっても構わない。場合によってはイチユリに打ってもらった包丁も使ってもらってもいいし…

 

 ゾロは寝てるし、ナミは色々緊張してるらしく女子部屋で1人になってる。

 そうそう、ゾロと言えば、重傷とも言える怪我したくせに、すぐに起きだして鍛練しようとしやがった。曰く。

『普通じゃないあいつに勝つためには、おれも普通でいちゃいけない』

 らしい。

 その心意気は天晴れだし、向上心は見習いたいとは思うけど、でもそれ以上に馬鹿かと思う。

 普通云々以前に、死ぬぞ?

 アーロン一味との戦いに出るつもりならそれまでに、少しでも回復させておかねばならない。

 なので、背後から後頭部に踵落としをくらわせて気絶させた。その上で麻酔を打って強制的に安静にさせている。

 その際、傍で見ていたウソップが何だか冷や汗を垂れ流していたけど気にしない。

 医術を学んだ身としては、そこを譲るつもりはありません。

 

 誰かな?『背後から後頭部に踵落とし』は医者としてどうなんだ?

 なんて言ってるのは?

 私が誰に学んだと思ってる? これは普通の事なのです。

 

「おい、お前ら!!」

 そんな事を考えていると、ルフィが満面の笑顔で船内に駆け込んできた。

 

「コックが加わるぞ!」

 本当に、嬉しそうな笑顔をする。こっちまでつられて笑顔になるわ。

 

 バラティエのコックたちが、食料を分けてくれると言っているとルフィに聞いたので、私が受け取りに行った。食料はたんまり買い込んであるけど、くれるというなら貰っておくに越したことはない。何しろ、うちの船には大食漢がいるんだから。

 収納貝があるので、運ぶ手間はほとんどない。だからこそ私1人でも大丈夫ってことで来たんけどね。

 

 そうそう、ゼフに収納貝を3つほど進呈したら、すっごく喜んでくれた。一生無料で食わせてやる的な事を言ってくれたけど、こちらとしては弁償の代わりと思っているからね。

 

 厨房から出て船に戻るために店の中を横切ろうとしたら、サンジが1人でタバコをふかしていた。物思いに浸っている所を邪魔するのも悪いかな?と思って別の道へ行こうとしたら、意外にも向こうから声を掛けられた。

 

「お~い、彼女ぉ!!」

 名前を言ってないから仕方ないのかもしれないけど、…なんか調子狂うわね。

 

「何?……自己紹介がまだだったわね。私はイオリ。”彼女ぉ”は止めて欲しいな?」

「イオリちゃんか…。おれの名はサンジ。怪我の治療は感謝してる。ありがと…嬉しかったよ。」

 なるほどね。声をかけてきたのは昨日のお礼の為か。

 

「別に大したことないわよ、慣れてるし。一応言っておくけど、私は船医じゃないからね?」

 言うとサンジは微妙な顔をした。

 

「えっ?船医じゃないの?なんだおれはてっきり…。怪我するのも悪くないって思ってたのにな…。じゃあ船医は?」

 

「いないわ。私が船医代理をやってるけどね。実は、今さっきまではコック代理も兼任してたの。だから、本職が来てくれて嬉しいわ。あぁ、そうそう。これ、受け取って」

 私は分けてもらった食糧を入れた収納貝を取り出し、サンジに投げて渡した。

 

「貝?」

「収納貝よ。冷蔵庫にそのまま入れていると、いつの間にか、つまみ食いをする『大食いゴム』が出てくるからね。食料はそれに入れておくようにしているの。それはコックが持っているべきものだと思うから、渡しておくわ。」

 買い物に行くときなどに持って行き、普段は食糧庫の棚に置いている。

 ルフィはこの事を知らない。私がポーチに入れて持ち歩いているものと思っているらしい。

 航海で、食料がどれほど大事なものか?についてはみんなにも船でコンコンと説明しているので、ルフィが私を襲う事は無い。

 もっとも、食料を奪おうと襲ってきたら、相手がたとえルフィでも、ただじゃおかないけどね。

 

 サンジに渡した収納貝の中身は縮小していない食材たちだ。要するに冷蔵庫の代わりである。

 私は買った事ないから知らなかったけど、実は、収納貝は冷蔵庫と比べてかなり高価なものらしく、サンジが驚いた顔を見せていた。

 聞くと、バラティエには無いらしい。

 なるほどね。だからゼフはあんなに喜んでくれたのか…。

 

「了解した。…悪かったね、時間を取らせて。これからよろしく!」

 こちらこそ。

 

 そして、出航の時はやってくる。

 サンジがこっちの船に着くまでに、パティやカルネの攻撃を受けたりしていたけど、まぁ実力が違うし、返り討ちにしてた。

 それよりも、ゼフの最後の一言の方が印象的だった。

 

「おいサンジ……風邪引くなよ」

 それによって、サンジの涙腺は決壊した。

 

「オーナーゼフ! 今まで長い間、くそお世話になりました! このご恩は一生! 忘れません!!」

 

 土下座でその意を伝えるサンジに、バラティエの面々も取り繕っていたすまし顔を崩し、泣き出した。ついさっき襲い掛かっていた2人もだ。

 感銘を受けているのか、ヨサクとジョニーも一緒になって号泣している。

 

「行くぞ!! 出航!!」

 ルフィの高らかな宣言と共に、メリー号はバラティエを離れ海に出た。

 

 次の目的地は決まってる。

 いざ、コノミ諸島へ。

 

 

 

 

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