コノミ諸島の南側にはいくつかの港がある。アーロンバーク、海軍支部、ココヤシ村、ゴザの村。そしてミカン畑、つまりナミの実家の近くである。
水深が浅い為、大型船はここには止められない。メリー号は大丈夫だけどね。
私たちは船を止め、ナミの実家へと向かった。
ナミだけはすぐにアーロンパークへ行った。アーロンに『1億ベリーが貯まったから取引したい』と言いに行ったわけだ。
その間に私たちは、ナミがこれまでに集めた金を掘り起こして数えることにした。どれだけ足せば1億ベリーになるか数えておくという事で。
それにもし、ネコババしようとかするヤツが現れた時には、見付からないように、私の能力で小さくして隠す。ということにもなっている。
アーロンの所に持って行くにしても、小さくしていたほうが楽だしね。
ナミの実家にて、私はノジコとの再会を果たした。やっぱり海賊になったんだ。って笑いながら言われた。サンジがメロリン状態になってたけど、それは想定内だ。
ベルメールさんは、ナミが帰って来たのでアーロンバークへ呼び出されている。基本的にナミがこの島に居る間は一緒にいる事になっているらしい。
「およそ8500万ベリーってところかな…」
ノジコ立会いの下、みかん畑から掘り起こした箱の中身は、金額換算するとそれぐらいだった。
「となると、後1500万ベリーか……クロネコから奪った分だけで足りるんじゃないかしら?」
たぶん1500万はあったと思う。足りなかったとしても微々たるものだ。
これもナミのモノだから事実上、ナミは一人で1億ベリーを貯めた事になる。
まぁ、ウチの資金も確実に1億超えたと思うけどね。
ナミの箱はルフィ、ウソップ、私で掘り起こした。サンジはノジコにメロリン状態になってて役に立たなかったし、ゾロはまだ休ませている。
この後すぐに海軍が来るだろうから、掘り出した場所にはバレないように、農作業用の道具箱を埋めて、蓋は地面より上に出しておく事にした。
その作業中に、ノジコが詳しい事情を話してくれた。
ルフィは、『ナミの過去になんて興味ねェ』って言って特に気にしてなかったけど、その他は耳を傾けていた。
アーロン一味がやってきて、支配されたのは原作通りだった。ただし、ベルメール家には貯えがあり、原作のタイミングでベルメールが殺される事はなかった。どちらかというと、ナミの才能がバレて連れていかれる時が一番ヤバかったらしい。
既にベルメールはアーロンに腕を折られて満身創痍の状態だったのだから…。
村人たちは、ナミが連れていかれないように必死に抵抗した。ベルメールも一緒に戦った。
けれど、魚人に勝てるはずもなく…
ナミは、もういいからやめてと泣いて訴えたが、
戦える者は、全員ボロボロにされてしまった。
そんな中、一人の魚人がベルメールの家で見つけた書類を、アーロンに渡す。
「アーロンさん。これを見てくれ」
「契約書?……こりゃあ……」
アーロンが見たその書類は、ベルメールとユナが交わした契約書。世界的に有名になった企業、F-RONPが、ここのミカンを買い取っているという事を示すものだった。
契約者が死ねば、あるいは企業が調査に乗り出す事もあるかもしれない。
それはすなわち海軍本部にココの事が漏れる危険が増す事になる。
「おい、ベルメール!おれはお前を雇う事にする。」
「「!!?」」
突然、アーロンがそう言った。
「お前にはナミの監視をしてもらう。ナミが海図を書く時は、常にお前が傍に居ろ!!その代わり、お前らの奉具はそのガキ(ノジコを指さし)一人分だけにしてやる!!」
「!!?」
「アーロンさん?」
『あの女が死ぬと厄介な事になりそうだからな。それに、あのガキに言う事を聞かせるのにも役に立つだろう。奉具の代わりに働かせると思えばいい事だ。』
「なるほど…」
~ ~ ~ ~ ~
「8年前のあの日から、あの子は決して泣かなくなったし、人に助けを求めることもしなくなった。もう誰も傷ついてほしくないから。わかる?10歳のあの子がどれだけ大変な決断をしたか。」
「…」
わかるわけがない。言ってるノジコだって、微妙なはずだ。
ベルメールさんが殺されなかったからといって、村人全員が人質に取られているという状況は変わらない。
アーロンとの取引について、ナミが教えたのはベルメールさんとノジコだけ。村人は知らない事になっている。
まぁ、ノジコだけならともかく、ベルメールさんが居るのにそんな訳はないのだけれど…。それに、口止めしたところで、8年も誰も気づかぬはずがない。
「……ボロボロだな」
私と一緒に箱を掘り出していたウソップが、中に入っていたお札を1枚摘んで呟いた。ウソップの言う通り、箱の中身はボロボロな物ばかりだった。血や泥で汚れた札束、キズの付いた宝石、端の欠けた装飾品……
見ただけでも、ナミがどれだけ大変だったか想像できる。
「海賊貯金を思い出すな」
ルフィが言うけど……。
「モノは似たようなものだけど…集めた人の思いは全然違うと思うわよ?」
確かに、海賊貯金も結構ボロボロだった。やってた事はナミとそう大差ない事だったからね。けど、ルフィ達は自分たちの夢のためにやっていた。だからだろう。ルフィの顔は楽しそうだ。
一方ナミは、これが唯一の手段だったのだろうから、楽しむ余裕なんてなかったと思う。
宝を小さくして待っていると、ナミが戻ってきた。
微妙な顔をしてるけど、何かあったんだろうか?
「ナミ、母さんは一緒じゃないの?」
ノジコの言葉に私は少し驚いた。原作で、『母親』とは言っていたけど、呼び名は『ベルメールさん』だった気がする。
ナミはなんて呼んでるんだろう?
「そこまで一緒に帰ってきたんだけど……イオリが来てるって言ったら、逃げちゃった…」
「?」
何で?
まったく、どこに逃げたのやら。もしかして、顔向けできないとか思ってるのかしら?
「それで、アーロンの反応はどうだった?」
聞くと、ナミは難しい顔をした。
「驚いてたわ。1億貯まるのはまだもう少し先だと思ってたみたい……書類とか用意するから少し待て、だって」
「明らかに……っていうか、あからさまに時間稼ぎね」
多分、今頃ネズミに連絡でも入れてるんだろう。
「だけど、村の売買の主導権がアーロンにあるわけだから、言われたとおりにするしかないか。はい、これ」
私がナミに渡したのは、掌で包み込めるサイズの小さな箱だ。
「また、随分と小さくしたわね」
ナミが若干呆れ気味な様子で言った。私は肩を竦めた。
「1/100サイズにまで小さくしといたわ。これなら、知らなきゃ誰にも解らないわよ。ポケットにでも入れとけば?」
ナミが頷いてそれを自分のズボンのポケットに仕舞っていると、
「ナミすわぁん♥、お姉さまに頂いたみかんを使ったゼリーを作りました!」
サンジが文字通り、踊りながらナミの家から出て来た。ちなみに、目が♥である。
そして、私にも♥の目を向け、ゼリーを渡してきた。
原作でも思ってた事だけど、なんで一人に絞らないかな?
まぁ別に、根がまじめな事は知ってるし、実害があるわけじゃないからいいんだけどね。
ネズミ大佐がゲンさんに連れられてやって来たのは、それからほんの2時間後のことだった。
その時、私はルフィ・ウソップと一緒にみかん畑でみかん狩りをしていた。
ちなみに、ゾロはまだ休んでる。サンジはメリー号にて昼食の準備中だ。
「!?」
やって来た集団を見て、ルフィが驚愕の顔で持っていたみかんを落とした。
「ルフィ!? 落ち着け、おれたちはまだ海軍に追われるようなことは……」
その驚きを、海軍の集団を見たせいだと思ったらしいウソップが宥めようとした。
けれど、それは勘違い。ルフィが驚いて見ていたものは…
「あのおっさん……何で頭に風車挿してんだ!? イカス!!」
帽子に風車をつけたゲンさんだった。
「そっちかよ!?」
イカスかどうかは知らんけど、ウソップのツッコミは今日も健在だった。
「チチチ……私は海軍第16支部大佐、ネズミだ。君かね、ナミという犯罪者は?」
卑しい笑みを浮かべながら、ネズミがナミに聞いた。
「ええ、そうよ。海賊だから犯罪者でしょうよ。それで、何? アーロンに何か言われて来たの?」
対するナミは挑戦的だ。言葉にも棘が満載だし。
ネズミは一瞬沈黙したが、すぐに言葉を続けた。
「アーロン氏に? はて、意味が解らないな……今日来たのは、君が泥棒だという情報が入ったからだ」
その情報の出所は何処だか言ってみなさいよ!アーロン一択じゃん?
「対象が海賊らしいな? まぁ、そうとなれば君を強く咎めるつもりは無いが……犯罪は犯罪だ。その盗品は、我々政府が押収させてもらう。今までに集めた金品を提出しろ!」
ぐ、とナミが言葉に詰る。その視線が不意に私の方へ向き、私の言った通りになった、という表情をした。
しかし、すぐに気を取り直したらしい。
「…こっちこそ、何のことだか解らないわ。盗品なんて無いわよ。何なら探してみれば? あぁ、みかん畑は無茶苦茶にしないでよね」
その強気な態度に、ネズミは面食らっている。
「チチチ……ならばそうさせてもらおう。探せ!」
号令と共に、ネズミが引き連れて来た海兵の一団が散って、捜索を開始する。
畑の捜索においては、みかん畑そのものには触られないように私たちで注意を払っておいた。
ついでに私は捜索する海兵たちの思考を読み取った。分かったこととしては、ここに来た奴らはみんな、賄賂の分け前をもらっている者たちだという事。
私が昔ここに来た時は、支部にいた海兵は全部で200名ほどだった。
ここに来たのは50名。
人数が変わっていないなら、およそ1/4が汚職に手を染めているという事になる。
なんだかなぁ…
「まだ見付からんのか!?」
目的の物が見付からず、またナミが全く動じないこともあって、ネズミは明らかに苛立っている。最初の余裕はどこへやら…焦り始めているようだ。
「米粒を探しているんじゃないんだぞ!? 1億ベリーだ、見付からねぇはずがあるまい!」
確かに米粒サイズまでは小さくしてはいないけど、1億ベリー(正確には、まだ8500万ベリー)は、小さくなってナミのポケットの中にある。私の能力を知らなければ、見つけられるわけがない。
「どうして1億ベリーなんて断言できるのよ」
しかも、その失言を聞き咎められてナミに詰められてるし。
「!? あぁ……まぁ、1億……それぐらいありそうな気がしたんだ」
ネズミ…しどろもどろだな。何気に立場も弱くなってる。
まぁ、証拠がないのだから、傍目にはナミに冤罪を被せようとしただけに見えるわけだし。
その一方で、とうとうナミが爆発した。
「いい加減なこと言わないで! アーロンがあんたたちをここへ寄越したんでしょ!? あんたたち海軍に助けを求めてる人はこの島には大勢いるのに、そんな人たちを素通りしてよくここまで来れたわね!」
「海軍が海賊の手下に成り下がるなんて……!!」
「何という腐ったやつらだ!」
ノジコとゲンさんも、溜め込んでいた怒りが出ている。
「ぐ……おい、さっさと見付けろ! 無いわけがねぇんだ! 見付けねぇと、報酬の3割が……っ!」
バカだろこいつ。あっさり自爆してやんの。もう完璧にバレてるんだから、さっさと撤退しなさいよ!!
「とうとう本性現したわね! あんたのようなやつが海兵だなんて!!」
「チチチ……煩い小娘だ!」
ネズミは開き直って、ホルスターから銃を取り出す。
「捜索の邪魔だ! 出て行グハッ!!」
ナミに銃口を向けようとしたネズミの横っ面に、拳が直撃した。
「ルフィィィィィィ!? 海軍に喧嘩を売る気か!?」
ルフィのゴムゴムの銃だった。
当然といえば当然だ。仲間に手を出そうとするヤツを放っておいたら、私がルフィをぶん殴ってるもの。
「知るか!海軍だろうと何だろうと、クズはクズだ!!」
ルフィは怒り心頭だった。ナミに銃を向けようとしたことでキレたみたい。
「そのとおりね。ところでウソップ? 仲間に手を出されそうになっても、ただ見ているのが”勇敢なる海の戦士”なわけ?」
「! んなわけあるかっ!!ルフィ!!よくやった!!」
さっきと言ってる事が180度違うけど?
これはウソップを操るワードになりそうな気がする。
「き、貴様ら!」
あら、もうネズミが復活した? ルフィの
「おれが誰だか解っているのか!? おれは…グホッ!!」
ネズミが飛ばされ壁に激突した。
ヘルメッポの時と同じく、私がネズミの顔面を蹴り抜いたからだ。
「知るかボケ!!」
私もムカついてるんで、一発入れといた。
「何処の誰だろうが関係ないわ!仲間を貶め、なおかつ攻撃しようとしたヤツを許すわけがないでしょう?」
海兵たちに私は微笑みを向けた。私の目を見て、近くの奴らは顔を青くしている。
何でか知らんがルフィまで?
「貴様ら…、一体何者だ?」
ネズミが地に伏した体勢で聞いた。
そんな問いを投げられたら、うちには応えずにはいられないヤツがいる。
「おれは、モンキー・D・ルフィ!海賊だ!!」
「海賊だと?」
おや?周囲の海兵が色めき立ってる?
「貴様ら、本当に海賊なのか!?」
「おう! おれは海賊王になる男だからな!」
ルフィが、胸を張って答えている。
「捕縛しろ!!」
たとえネズミがこの場での最高位の海兵でなくても、こいつらは汚職に加担している連中だ。命令には素直に従うだろうことは言うまでもない。
ジリジリと、海兵たちは私たちを取り囲む。
「どうせならアーロンに対しても『捕縛しろ』とか言えばいいのにね?」
まぁ、汚職まみれの連中に、そんな気概は無いだろうけど。
「準備運動には丁度良さそうだな!」
「そうね。」
ルフィと私には、全くと言っていい程緊張感が無かった。
まぁ、海軍支部の50人程度なら、ルフィ一人でも楽勝だろうからね。
終わってみれば、殲滅するのに5分と掛からなかった。
「おばえら……このおでに手ェ出じて、ただでずむとおぼうなよ……。」
ネズミ……なにげに丈夫だな。
けど、まぁ。
「うっさい!!」
これ以上、声も聴きたくないので、踵落としを食らわせて、完全に意識を奪ってやった。
~ ~ ~ ~ ~
「そんなことがあったのか……」
海兵たちもほうぼうの体で逃げ出した。(ネズミもちゃんと持ってった。)
想定通りになったので、私はメリー号にいた2人を呼んできた。
ついでにヨサクとジョニーも一緒にね。
「……バッカみたい」
肩を落として蹲り、ナミがつぶやく。
「8年よ? ずっと、信じてたのに……アーロンは、金の上での約束は、それだけは守るって。もうすぐ、村も解放されるって思ってたのに……私、何してたんだろ……」
可能性を考えてはいても、実際に突き付けられればショックはデカい。ナミの肩は震えている。耐えて来た日々を想い、いろいろな感情が渦巻いているのだろう。
「……知っていたよ」
ゲンさんの静かな言葉に、ナミがパッと顔を上げた。
「ナミ、お前が村のために頑張っていたことは、村の全員が知っている……ベルメールに聞いた。だが、知っていると言えば、我々の期待が、お前があの一味を抜けたいと思ったときに足枷になると思い…知らぬフリをしてきた」
「そんな……」
ナミは目を瞠っている。
その一方。
「うし! 行くか!」
ルフィがやる気充分に私たちに声を掛けてきた。その言葉に、ナミはハッとしてこっちを見た。
「ほ、本当に行くの!?」
「当たり前だろ? 何言ってんだ、今更」
ルフィは心底不思議そうな顔をしている。
「あんたたちは……この島とは関係無いじゃない!」
「ああ、無ェよ」
「殺されるかもしれないのよ!」
「死なねェよ。おれは海賊王になるんだからな!」
ルフィは実にあっけらかんとしたものだ。
「確かにこの島『は』関係無いわね。私たちが関係あるのは、ナミだから!」
私の場合、ノジコとベルメールも含めてだけどね。
「この前だって言った。おれたち、仲間だろ?」
この前……クリーク一味との戦いの直後の、あの時のことだろう。
そしてあの時、ルフィが言ったことはもう1つある。
「……ルフィ」
― 何でおれたちを頼らねェんだよ ―
…ルフィはそう言ったのだ。
ルフィとナミが出会ってからは、まだ数日しか経ってない。けれど…
それでも二人の間には、確かな信頼関係が生まれていると私は思う。
「助けて……」
8年間。その間でナミが人に助けを求めたのは、多分これが初めてなんだろう。
その言葉にルフィはナミの所まで歩いて行き、その頭に自分の被っていた麦わら帽子を乗せた。
そして、大きく息を吸い込み……。
「当たり前だァ!!!」
腹の底からの叫びに、空気が震えた。
その言葉に、仲間の誰もが頷いて見せた。
さあ、アーロン討伐だ!!