イムの娘(いむのこ)   作:槙 秀人

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02-77話:幹部戦

「下等な人間が……同胞たちに……何をしたァ!!」

 アーロン切れてる。

 まぁ、この状況を見たらそうなるよね?

 最初の嵐脚でやっつけた奴らはともかく、私が指銃で撃ちぬいた奴らはもうね…。

 けっこう固まっていたので、一人一人の血の量はそうでもないと思うけど、血の海に倒れているように見えるもの。

 ロビン風に言えば、『ひどいことするわ』ってな感じ?

 

 でも、何をしたかと聞かれると、

 

「雑魚散らし?」

 としか、答えようがない。

 

 私の答えに、”プチ”っとアーロンの血管が切れた音がした気がした。

 アーロンの、こういった所だけは嫌いじゃない。仲間思いという点だけは、ルフィに通じるところがあると思う。もしも改心したならば、かなりの戦力になるかもね?

 

「この……下等種族がァ!!」

 怒りのままに私に襲い掛かろうとしたアーロンを、幹部3人が引き止める。

 

「アーロンさん、あんたは大人しくしててくれ」

「あんたに怒りのままに暴れられちゃ、このアーロンパークが崩壊しちまうッチュ♥」

 

 チュウって、そっち系だったっけ? ちがうか…

 

「ん~~~~~~!!」

 とか何とかやってる間に、ハチが何かしようとしてる。

 

「たこはちブラーック!!」

「蛸墨だ!」

 けど全員かわしました。だって遅いし、ルフィの足も埋まってないし。

 

「出番の終わったお二人さんには、下がってもらおうかな?」

 

 私とベルメールの前にサッと人影が現れる。サンジだった。

 

「後はおれたちのエモノ…だろ?」

「まぁ、そうね。」

 元々そのつもりだったしね。

 

「私たちは見物させてもらう事にするわ。後はよろしく!!」

 ちょっと下がって、大きめの瓦礫の上に腰を下ろす。

 え?略奪しないのかって? 流石にここではしないわよ。

 ここにある金品はこの島のものだし。後々復興資金として使うでしょ?

 

「了解!  レディーを泣かせるようなクソ野郎どもは、おれがオロしてやるよ」

 

「剣士ってなァどいつだ?」

 

「だが! どうしてもというなら手伝わせてやってもいい!」

 

「…あんたねェ……策があるんじゃなかったの?」

 

 最後の最後、ウソップだけちょっと不安を覚えたけど、まぁ大丈夫でしょう。

 そしてまず、火蓋を切って落としたのは、そのウソップだった。

 

「必殺・鉛星!」

 自分が狙うべき相手、チュウに挑発の一撃をかましたのだ。

 当然、ただのパチンコが魚人にダメージを与えるわけがない。けれど…

 

「テメェ……殺されたいらしいなァ!!」

 元々(私のせいで)苛立っていたチュウは、あっさりとその挑発に乗った。

 ウソップは踵を返すと、ルフィが開けた壁の穴から走り去る。

 

 万一のことを考えると、ウソップの戦法は周囲に他の者がいない方がいいと思う。一般クルーは殲滅済なので、誰かに邪魔をされる事もないだろう。

 チュウはそのままウソップを追いかけていった。

 

 そしてふと気付いてみれば、いつの間にかココヤシ村の人たちが外に集まっていた。ゲンさんやノジコもいるけど、ナミの姿は見えない。まだちょっと落ち着いてないんだろうか?

 

 ヨサクとジョニーがちゃんと押し留めてくれているらしくて中には入ってこない。

 外から見ている分には一向に構わない。むしろ見届人としていてもらった方がいいかも。

 ベルメールはノジコの所へ行って抱き合っているのが見える。彼女も少しは気が晴れただろうか?

 

 さて、各々の仕合は、どうなるかしらね?

 

 私としてはとりあえず、大怪我を負って間もないゾロは、さっさと終わらせて欲しいと思うんだけど…。

 

 ~ ~ ~ ~ ~

 

 ウソップは走っていた。

 追って来るのは魚人海賊団の幹部、キスの魚人のチュウ。今回ウソップが倒すべき敵だ。

 本当は、幹部との1対1なんて冗談じゃないと思っていた。

 もっと言うなら、誰か…特に、幹部との戦いを控えていない、イオリあたりにさり気なく手伝ってもらおうと思っていた。

 けれど、掘り起こしたナミの宝を見た時に、その考えを改めた。

 ボロボロになった宝。

 紙幣に付いていた血は、全部とは言わないまでも殆どがナミのものだろう。

《あいつはずっと1人で戦ってきたんだ! おれだって、勇敢なる海の戦士になるために海賊になった! 戦わなきゃいけない時には戦う!どんな手を使ってでも!》

 

 自分だけ、みっともない真似は出来ない。そう思った。

 それに、さっき見たイオリの姿。正直に言えばとても怖かった。

 終わった後、本人はケロッとしていたが、戦闘中のイオリはまるで獣が暴れているように見えた。

 それは、海賊同士の戦いが、喧嘩なんて生易しいものでは済まないという事を、見せ付けられた気がした。

 

《海賊なんだ。敗ければ死ぬ! 『海賊ごっこ』は、もう…終わったんだ!》

 

 出来るだけのこともせず、すぐに諦めるようなことは出来ない。そう思った。

 

 事前に相手の情報を得られたのは幸いだった。お陰で、じっくり作戦を立てる事が出来た。

 確かに足は竦むが、走っている間にだいぶ落ち着いてきた。

 

《策は立ててある! 大丈夫だ、おれなら出来る! おれは『狙い』は外さねェ!》

 

 ウソップの海賊としての初めての戦いが、その幕を開けようとしていた。

 

 ~ ~ ~ ~ ~

 

 ゾロは六刀流の剣士だというハチと対峙していた。

 イオリに言われた事もあり、戦闘時間は極力短くしたいと思っている。剣士との戦いを逃すつもりはないが、『鷹の目』にやられた傷は精神的にゾロの負担となったいた。

 早期治療と、不本意な強制的な安静(ゾロは踵落としを覚えていた)のお陰かはわからないが、なぜだか、傷に対する不安は感じられない。

 

「おれは魚人島では、1人を除けばNO1だった剣士『六刀流のハチ』! 人間には決して越えられない壁というものを見せてやる!」

 

「……要は、小さな島のNO2ってことだろうが! この最弱の東の海のNO1とどっちが上か……試してみるか?」

 

 そうは言っても、相手の自己申告がウソでないのなら、決して弱い相手ではないのだろう。

 下手を打てば、傷が開く可能性がある。

 

 だがしかし…。

 

《それでもおれは負けられねェ……普通は死ぬような怪我でも、おれは死ねねェ。普通じゃない『鷹の目』のヤツに勝つには、普通でいちゃいけねェんだ!》

 

 あるいはこの戦い、ゾロにとっての敵は己自身なのかもしれない。

 

 ~ ~ ~ ~ ~

 

「覚悟は出来てんだろうな、このクソ魚野郎」

 

「覚悟? それは貴様の方だろう」

 

 こちらはサンジVSクロオビ。

 

 サンジは燃えていた。

 ナミが受けてきた仕打ち、先ほどのアーロンの口ぶり。そのどれもが彼の神経を逆撫でするものばかりだった。

 もしもイオリが先陣を切っていなければ、サンジの堪忍袋の緒も切れていたかもしれない。

 

 だが、少し時間を置いたことで冷静さを取り戻せた。

 海賊同士の戦いであるから、船長同士が戦うべき。それに関しては、不本意ながら納得した。

 しかし、アーロンの相手をすることを譲った事で、彼の怒りのボルテージは上がりに上がっていた。

 

「女を泣かせる者は許せない、と言っていたな? 海賊がそんな生ぬるい騎士道を振り翳すとはな…… 所詮そんな口先だけの騎士道では、誰1人守れん」

 

「……なら試してみるか、サカナマン」

 サンジは吸っていたタバコを吐き、踏んでその火を消した。

 

「おれは怒りでヒートアップするクチなんだよ……!!」

 逆鱗に触れる、とはこのことだろうか?

 

 ~ ~ ~ ~ ~

 

 暴れてくれるな、と言われても、人数の都合上アーロンも黙って座っているわけにはいかない。

 

「……おれとテメェの絶望的な違いは何だと思う?」

 アーロンはルフィに尋ねた。対するルフィの答えは実にシンプルだった。

 

「鼻」

 ……確かに全然違う。違うが、今そんなことをわざわざ聞くわけがない。

 アーロンは、目の前のこの少年を決して甘く見てはいなかった。先ほどの赤い髪のイオリという名の女の動き。

 あの女は間違いなくグランドラインで通用するレベルだった。それがクルーの船長である。弱いわけがないのだ。

 それを考えられるぐらいには、アーロンはリアリストだった。

 しかし同時に、レイシストでもある。

 

「あご? 水かき?」

「種族だ!!」

 所詮は人間。魚人である自分が本気になれば何とでもなる、と思うぐらいには。

 

 ルフィの答えが気に入らず、アーロンは自慢のキバとあごで思い切り噛み付こうとした。

 それはかわされたが、逸れたキバが石柱を噛み砕き、得意げになる。

 

「これが種族の差だ! 人間にはこれだけの力など無い! だから下等なのだ! 産まれた瞬間から次元が違う!」

 しかし、流石に思い知るだろうと思った相手は、それを全く歯牙にもかけていなかった。

 

「それがどうした」

 ドゴ、とアーロンが噛み砕いた石柱を殴りつけ、それを砕いた。

 

「別に噛み付かなくたって、石は割れるぞ!」

 ブチ、とアーロンの血管が再び切れた。

 

「屁理屈を!!」

 船長対決は、早々に開幕したのだった。

 

 

 

 

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