「下等な人間が……同胞たちに……何をしたァ!!」
アーロン切れてる。
まぁ、この状況を見たらそうなるよね?
最初の嵐脚でやっつけた奴らはともかく、私が指銃で撃ちぬいた奴らはもうね…。
けっこう固まっていたので、一人一人の血の量はそうでもないと思うけど、血の海に倒れているように見えるもの。
ロビン風に言えば、『ひどいことするわ』ってな感じ?
でも、何をしたかと聞かれると、
「雑魚散らし?」
としか、答えようがない。
私の答えに、”プチ”っとアーロンの血管が切れた音がした気がした。
アーロンの、こういった所だけは嫌いじゃない。仲間思いという点だけは、ルフィに通じるところがあると思う。もしも改心したならば、かなりの戦力になるかもね?
「この……下等種族がァ!!」
怒りのままに私に襲い掛かろうとしたアーロンを、幹部3人が引き止める。
「アーロンさん、あんたは大人しくしててくれ」
「あんたに怒りのままに暴れられちゃ、このアーロンパークが崩壊しちまうッチュ♥」
チュウって、そっち系だったっけ? ちがうか…
「ん~~~~~~!!」
とか何とかやってる間に、ハチが何かしようとしてる。
「たこはちブラーック!!」
「蛸墨だ!」
けど全員かわしました。だって遅いし、ルフィの足も埋まってないし。
「出番の終わったお二人さんには、下がってもらおうかな?」
私とベルメールの前にサッと人影が現れる。サンジだった。
「後はおれたちのエモノ…だろ?」
「まぁ、そうね。」
元々そのつもりだったしね。
「私たちは見物させてもらう事にするわ。後はよろしく!!」
ちょっと下がって、大きめの瓦礫の上に腰を下ろす。
え?略奪しないのかって? 流石にここではしないわよ。
ここにある金品はこの島のものだし。後々復興資金として使うでしょ?
「了解! レディーを泣かせるようなクソ野郎どもは、おれがオロしてやるよ」
「剣士ってなァどいつだ?」
「だが! どうしてもというなら手伝わせてやってもいい!」
「…あんたねェ……策があるんじゃなかったの?」
最後の最後、ウソップだけちょっと不安を覚えたけど、まぁ大丈夫でしょう。
そしてまず、火蓋を切って落としたのは、そのウソップだった。
「必殺・鉛星!」
自分が狙うべき相手、チュウに挑発の一撃をかましたのだ。
当然、ただのパチンコが魚人にダメージを与えるわけがない。けれど…
「テメェ……殺されたいらしいなァ!!」
元々(私のせいで)苛立っていたチュウは、あっさりとその挑発に乗った。
ウソップは踵を返すと、ルフィが開けた壁の穴から走り去る。
万一のことを考えると、ウソップの戦法は周囲に他の者がいない方がいいと思う。一般クルーは殲滅済なので、誰かに邪魔をされる事もないだろう。
チュウはそのままウソップを追いかけていった。
そしてふと気付いてみれば、いつの間にかココヤシ村の人たちが外に集まっていた。ゲンさんやノジコもいるけど、ナミの姿は見えない。まだちょっと落ち着いてないんだろうか?
ヨサクとジョニーがちゃんと押し留めてくれているらしくて中には入ってこない。
外から見ている分には一向に構わない。むしろ見届人としていてもらった方がいいかも。
ベルメールはノジコの所へ行って抱き合っているのが見える。彼女も少しは気が晴れただろうか?
さて、各々の仕合は、どうなるかしらね?
私としてはとりあえず、大怪我を負って間もないゾロは、さっさと終わらせて欲しいと思うんだけど…。
~ ~ ~ ~ ~
ウソップは走っていた。
追って来るのは魚人海賊団の幹部、キスの魚人のチュウ。今回ウソップが倒すべき敵だ。
本当は、幹部との1対1なんて冗談じゃないと思っていた。
もっと言うなら、誰か…特に、幹部との戦いを控えていない、イオリあたりにさり気なく手伝ってもらおうと思っていた。
けれど、掘り起こしたナミの宝を見た時に、その考えを改めた。
ボロボロになった宝。
紙幣に付いていた血は、全部とは言わないまでも殆どがナミのものだろう。
《あいつはずっと1人で戦ってきたんだ! おれだって、勇敢なる海の戦士になるために海賊になった! 戦わなきゃいけない時には戦う!どんな手を使ってでも!》
自分だけ、みっともない真似は出来ない。そう思った。
それに、さっき見たイオリの姿。正直に言えばとても怖かった。
終わった後、本人はケロッとしていたが、戦闘中のイオリはまるで獣が暴れているように見えた。
それは、海賊同士の戦いが、喧嘩なんて生易しいものでは済まないという事を、見せ付けられた気がした。
《海賊なんだ。敗ければ死ぬ! 『海賊ごっこ』は、もう…終わったんだ!》
出来るだけのこともせず、すぐに諦めるようなことは出来ない。そう思った。
事前に相手の情報を得られたのは幸いだった。お陰で、じっくり作戦を立てる事が出来た。
確かに足は竦むが、走っている間にだいぶ落ち着いてきた。
《策は立ててある! 大丈夫だ、おれなら出来る! おれは『狙い』は外さねェ!》
ウソップの海賊としての初めての戦いが、その幕を開けようとしていた。
~ ~ ~ ~ ~
ゾロは六刀流の剣士だというハチと対峙していた。
イオリに言われた事もあり、戦闘時間は極力短くしたいと思っている。剣士との戦いを逃すつもりはないが、『鷹の目』にやられた傷は精神的にゾロの負担となったいた。
早期治療と、不本意な強制的な安静(ゾロは踵落としを覚えていた)のお陰かはわからないが、なぜだか、傷に対する不安は感じられない。
「おれは魚人島では、1人を除けばNO1だった剣士『六刀流のハチ』! 人間には決して越えられない壁というものを見せてやる!」
「……要は、小さな島のNO2ってことだろうが! この最弱の東の海のNO1とどっちが上か……試してみるか?」
そうは言っても、相手の自己申告がウソでないのなら、決して弱い相手ではないのだろう。
下手を打てば、傷が開く可能性がある。
だがしかし…。
《それでもおれは負けられねェ……普通は死ぬような怪我でも、おれは死ねねェ。普通じゃない『鷹の目』のヤツに勝つには、普通でいちゃいけねェんだ!》
あるいはこの戦い、ゾロにとっての敵は己自身なのかもしれない。
~ ~ ~ ~ ~
「覚悟は出来てんだろうな、このクソ魚野郎」
「覚悟? それは貴様の方だろう」
こちらはサンジVSクロオビ。
サンジは燃えていた。
ナミが受けてきた仕打ち、先ほどのアーロンの口ぶり。そのどれもが彼の神経を逆撫でするものばかりだった。
もしもイオリが先陣を切っていなければ、サンジの堪忍袋の緒も切れていたかもしれない。
だが、少し時間を置いたことで冷静さを取り戻せた。
海賊同士の戦いであるから、船長同士が戦うべき。それに関しては、不本意ながら納得した。
しかし、アーロンの相手をすることを譲った事で、彼の怒りのボルテージは上がりに上がっていた。
「女を泣かせる者は許せない、と言っていたな? 海賊がそんな生ぬるい騎士道を振り翳すとはな…… 所詮そんな口先だけの騎士道では、誰1人守れん」
「……なら試してみるか、サカナマン」
サンジは吸っていたタバコを吐き、踏んでその火を消した。
「おれは怒りでヒートアップするクチなんだよ……!!」
逆鱗に触れる、とはこのことだろうか?
~ ~ ~ ~ ~
暴れてくれるな、と言われても、人数の都合上アーロンも黙って座っているわけにはいかない。
「……おれとテメェの絶望的な違いは何だと思う?」
アーロンはルフィに尋ねた。対するルフィの答えは実にシンプルだった。
「鼻」
……確かに全然違う。違うが、今そんなことをわざわざ聞くわけがない。
アーロンは、目の前のこの少年を決して甘く見てはいなかった。先ほどの赤い髪のイオリという名の女の動き。
あの女は間違いなくグランドラインで通用するレベルだった。それがクルーの船長である。弱いわけがないのだ。
それを考えられるぐらいには、アーロンはリアリストだった。
しかし同時に、レイシストでもある。
「あご? 水かき?」
「種族だ!!」
所詮は人間。魚人である自分が本気になれば何とでもなる、と思うぐらいには。
ルフィの答えが気に入らず、アーロンは自慢のキバとあごで思い切り噛み付こうとした。
それはかわされたが、逸れたキバが石柱を噛み砕き、得意げになる。
「これが種族の差だ! 人間にはこれだけの力など無い! だから下等なのだ! 産まれた瞬間から次元が違う!」
しかし、流石に思い知るだろうと思った相手は、それを全く歯牙にもかけていなかった。
「それがどうした」
ドゴ、とアーロンが噛み砕いた石柱を殴りつけ、それを砕いた。
「別に噛み付かなくたって、石は割れるぞ!」
ブチ、とアーロンの血管が再び切れた。
「屁理屈を!!」
船長対決は、早々に開幕したのだった。